「この世界は僕にとって、(物理的に)眩しすぎたんだ」   作:羽虫の唄

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2話目でもカードゲーム要素は薄い。


ゲームで1番力を入れるのは輝度調整。

「──ぜェ、はァ。よ、ようやく静かになりやがったなてめえ……おぇっ」

 

『はぁ、はぁ。ふ、ふん。初めから我を手にしていれば、こんなことにはならずに済んだのだ。愚か者めが……ゲホッ』

 

 

 僕の名前は病村(やみむら) 幽忌(ユーキ)。片頭痛持ちであることを除けば、特にこれと言った特徴を持たない、どこにでもいる普通の中学生だ。

 

 そんな僕は先程まで、喋って宙に浮いて騒ぎ立てる、摩訶不思議なカードと奮闘を繰り広げていたりする。

 事態が収まる頃には、僕たちはお互いに疲労困憊と言った様子で息を整えていた。闇のカードは実に頭に来る発言をするが、それに反応する余裕は、僕には残っていない。

 

 ううっ。大声を出して暴れたせいで、片頭痛が悪化してしまった……。

 

 

『げほっ、ごほっ。──ふう。それで、家に招き入れたと言うことは。我の話を聞く。と、言うことで良いんだな?』

 

「……話を聞くだけさ。聞いて、お前がしようとしていることが怪しかったり、到底受け入れられるものじゃなかったら──その時は、即刻ここから叩き出させてもらう」

 

『…ああ、分かった。それで構わない』

 

 

 氷嚢(ひょうのう)を痛む箇所に当て、頭痛薬を水で流し込んでから僕は言う。

 ……本当なら。家の前で騒がれようと、知らん振りを決め込み、我関せずを貫き通したかったのが本音だ。でも、このカードの──「誰からも受け入れられなかった」と言う言葉を聞いて。僕は、ほんの少しだけ……憐憫の情を感じてしまった。

 

 …我ながら、なんて流されやすいんだ、とは。思う。

 

 もしかしたら、その感情を自身に向けさせることこそが、このカードの目的なのかもしれない。同情を誘うことで、自身を手に取らせる。そう言った可能性も十二分に考えられた。

 だから、ここからされる話では、一切の気が抜けない。油断せず、その一挙手一投足──いや相手はカードなんだけど──見逃さない様にしなければ。

 

 

『ふむ。では先ずは、自己紹介からだな……』

 

 

 言うと、カードを中心にして闇が漏れ出始める。暗い靄はまるで生き物の様に蠢き、集まり、形を成していった。

 

 

「これは──〝幻影(シャドウ)〟?」

 

 

 〝幻影〟。

 

 一部のカード……具体的に言えば、長年苦楽を共にして来た相棒(バディカード)だけが可能とされる、ミステリオマキアのファイト中に使われる投影技術などを用いずに、自身の姿を世界に出現させる特殊な能力である。その能力の詳細は今を持ってして不明であり、有力な候補としては、ファイターとカードとの間に、特別な絆が結ばれることで発現するとかしないとか…。

 

 言わずもがな、僕とこのカード間に相棒と呼ぶべき繋がりは存在しない。であるならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()存在と言うことか…?

 

 僕の前で、凝固していく闇──。

 そうして形作られたのは、分厚い肉体と荒々しい鱗を全身に備えた、蛇の下半身と人型の上半身、そして、竜に似た頭部を持つ、ユニット(モンスター)の姿だった。

 

 その姿に、その大きさに。

 圧倒され、気圧される。

 放たれるオーラから解る、圧倒的な上位存在の気配。

 

 ……僕は思わず、呼吸すら忘れて。

 その姿に、見入ってしまっていた。

 

 

『心して聞くが良い。──我が名は〝ドルムハーオス〟。〝黒淵邪神(こくえんじゃしん) ドルムハーオス〟であ──』

 

「今邪神って言った!! 今邪神って言った!?」

 

 

 だーめだコイツ完全にクロだよ! あっぶねぇ、完全に油断してた! このまま雰囲気に呑まれてたらどうなっていたことか…!!

 即刻、我が家から立ち去れィ!!

 

 

『でぇーい! 待てッ、落ち着け! 気持ちは分からんでも無いが邪神というのはあくまで他称だ! 我が好き好んで自ら名乗っているわけではなく、周りが勝手にそう呼んでいるに過ぎん! えぇい、やめんか! 我を家の外に押し出そうとするんじゃない!!』

 

「なーにが他称だ! そう呼ばれるってことは、それだけの理由があるってことでしょーが!!」

 

『ぬぐゥッ。そこを突かれるとなんとも言えん……!』

 

「そら見たことか! 僕は騙されないぞ。お前の話に流されて首を縦に振れば最後、世界征服とか地球の支配とか! 悪の手先として、なんかそんな邪悪な企ての手伝いをさせられるんだ……!!」

 

 

 そんなこと、許すわけがない。

 世界は、地球は! この僕が守ってみせる──ッ!

 

 

『こ、この…! ──ヒトの話は最後まで聞かぬかァッ!!』

 

「一本背負いッ!?」

 

 

 ビダァンっ!

 そんな音が似合う勢いで、僕はドルムハーオスに床へ叩き付けられた。

 

 ちくしょう、ここまでなのか。

 片頭痛でさえなければ全力を出せるのに……!

 

 

『えぇい、まったく…! ……名ばかりで他者を判断し、己はその者の本質を知ろうともしない。正しく、愚の骨頂。恥と知るがいいっ!』

 

「え、えぇ…っ? でも、邪神だよ…?」

 

 

 邪神。──邪悪な神。

 怒り心頭に発し僕を(なじ)ってくるドルムハーオスには悪いのだが、先程も言ったとおり、そんな呼び名を付けられるっていうのはそれだけの理由があるからなのではないだろうか?

 胡乱(うろん)に思いながら視線を向ける僕を、しかし、ドルムハーオスは一笑に付する。

 

 

『ふん。我の在り方は、確かに他者からすれば邪神と呼ぶべきものだったのだろう。だが、このドルムハーオス。己の行いに一切の恥は無く、確かな信念を持っていた!!』

 

 

 その言葉には、確かな思いが込められていた。

 ドルムハーオスは続ける。

 

 

『そして、我が在り方を周囲に強要したことも無いッ。──具体的には完全週休2日制を厳守し、福利厚生にも力を注いで来たッ!!!』

 

「邪神って自営業的なアレなの??」

 

 

 なんだろう。一気に目の前の存在に対する僕の中での認識が、大幅にランクダウンしてしまった。

 

 

『…──って、こんな話はどうでも良い。本題は、我が成そうとしていること。その具体的な目的だ』

 

「うーん、どうでも良くはないと思うんだけど…」

 

 

 言いながら、居住まいを正したドルムハーオス──長いな、ドルムでいいや──に倣い、僕も座り直す。

 

 …ああもう、暴れたからまた片頭痛が……吐き気も更に酷くなって来た…。

 死にそうな表情になりながらも、僕はドルムの話に耳を傾ける。そうして語られたのは──

 

 

『良いか、人よ。……今この世界は、貴様らが気付かぬ内に攻撃を受け、侵略を許してしまっている状況にある。我の目的とは、その攻撃を食い止め、悪しき侵略者共を撃退することなのだ』

 

「え、ええっ? そんな話、ニュースとかで見たことないけどなぁ…」

 

『それはそうだろう。むしろ、あらゆる情報媒体が今や()()の手に落ちてしまっている。最早、()()の傀儡として、その侵略の魔手を世界に広げている程だ……』

 

「そんな…」

 

 

 …ドルムの言葉を全面的に信じた訳ではない。

 

 ないのだが、ドルムの言葉には、確かな気迫があった。()()()()()()()()()()()()()()とかではなく、本気で現状に危機を覚え、なんとしても僕から協力を仰ごうとしている、そんな、『熱』とも呼べる思いが言葉に感じられるのだ。

 思わず、生唾を飲み込んでしまう。

 

 

「──そ、その。()()って言うのは…??」

 

 

 僕の質問に、ドルムは一度視線を落としてから──

 

 

『今まさに、世界を攻撃し続けている侵略者……()()とは、〈光〉だ』

 

「な、なんだって!?」

 

 

 その言葉に、僕は思わず、片頭痛で蝕まれていた吐き気も忘れ、身を乗り出す勢いで叫んでいた。

 

 〈光〉って──まさかっ、光属性のカードのことなのか!?

 敵の攻撃を防ぐ〝防衛〟に優れ、〈ヒーローズ〉や〈星騎士〉なんかの種族を持つ、まさに正義然としたカードたちが、侵略者だって…!?

 

 いや、相手はたかがカードだろう。…どこか冷静にそう思う一方で、目前のドルムと言う存在もある。

 

 もしも彼らがドルムの様に、自らの意思で、自由自在にこの世界に顕現出来るとしたら?

 通常であれば、精々が自身の所有者であるファイターと僅かに触れ合うことが出来るだけの〝幻影〟が、もしも、先程僕を背負投げした様に、無制限に現実に干渉出来る代物だとしたら──??

 

 

「…──い、いやっ。そもそも! 侵略ってどういうことなんだ? なんでそんなことをしなくちゃ…」

 

『分かっている。こんな話を突然されたところで、混乱するのは当然だろう。……信じ難いだろうが、だがこれは事実なのだ』

 

 

 混乱極まる僕を前に、そう言ってからドルムはある行動に出た。

 長い蛇の半身を蜷局(とぐろ)状に巻き、棍棒じみた剛腕を床につけ。そのまま、竜の頭を……。

 

 

『──頼む、人よ。我に力を貸してくれ……!!』

 

 

 ……仮にもだ。神の名を冠している筈の、圧倒的上位の存在が。こんな何の取り柄もないただの中学生に、頭を下げて懇願をしたのだ。そこに、どれだけの思いがあるのだろう。

 

 ドルムは言っていた。僕と出会うまでに、こいつは1000人。10でも100でもなく、それだけの数の人間から拒絶されて来ている。()()()()()()()、協力者を求めてここまでやって来た。……並大抵の覚悟では、きっと、出来ないことだろう。

 

 様々な思考が僕の頭を駆け巡った。

 侵略者との戦い。僕はただの中学生。世界を守る。相手は邪神。所詮は子供。何も出来やしない──

 

 

「──病村 ユーキ。…僕の名前だ」

 

 

 ──そうして僕は。気付けばドルムに手を差し出し、名を告げていた。

 

 

『!! で、では…!!』

 

「勘違いするなよ? 僕はまだ、お前のこと全てを信用したわけじゃない。……でも、さっきの言葉に嘘偽りは感じられなかった…と、思うし、なにより。今まさに世界が危機に陥っていて、それで誰かが傷付いているのなら──ただの中学生だろうとしても。立ち上がらなくちゃいけないと思ったんだ」

 

 

 差し出した僕の手を、頭を上げたドルムが握り──ちょっ、力強い…いたたたっ!──返す。

 

 

「……ただのカッコつけ…って、笑う?」

 

『立場や地位など関係無く、己の意思で立ち上がったのだ。その様な者の覚悟を、笑うものか』

 

 

 その言葉を聞いて僕はフッと笑みを浮かべ、それを見たドルムも同様に、口の端を吊り上げた。

 

 

『敵は強大、その総数も分からん。……苦しい戦いを強いられるぞ』

 

「…上等じゃないか。もう覚悟は決めたんだ、今更ビビって引くような真似はしない……!」

 

 

 恐怖を感じていないと言えば嘘になるが、それでも。

 子供であろうとも僕の覚悟は本物だ。

 

 僕の言葉を聞いたドルムは、交わしていた手を離すと、近くにあった机の上空へと移動する。

 蛇の様な、竜の様な。どの様な力が作用しているのかは分からないが、その巨体が天井近くで渦を巻き、机の上に向け、靄の様な闇を降り注がせる。

 

 そうして現れたのは──

 

 

「これは……闇属性のカード?」

 

『我が権能により、闇に形を持たせた。巧く活用してくれ』

 

 

 机上に並べられた、幾つかの黒いカードたち。

 

 正直言って、闇属性のカードは殆ど使ったことが無いんだけど……(いや)

 覚悟は決めたはずだ。だったら、弱音を吐く暇も持たず、ひたすら前に進むのみ…!!

 

 

『──良い表情だ。…()くぞ、ユーキよ!今こそ奴らを討ち滅ぼし、世界を取り戻すのだ!』

 

「応!」

 

 

 正直、邪神なんて呼ばれてるドルムが「世界を取り戻す」とか言っても違和感が凄いが……兎に角!!

 僕たちの戦いは、ここから始まるんだ──!

 

 

『今の我は、独りでは無い。幼なくともその心に正義の炎を燃やす、熱き同志(とも)を得た! 精々、待っているがいい。ここから先、貴様らが手にする物は何1つとして無い!

 

 

 

 ──我らが宿敵、LEDライト共よ!!

 

 

 

「………………………………、おん?」

 

 トントン、と。

 僕は静かに、ドルムが生み出したカードたちを束ねる。そして(たず)ねた。

 

 

「ごめん、ドルム…。確認なんだけど、もしかして〈光〉って、ブルーライトのこと言ってる??」

 

『無論、そのとおりだ。照明、テレビ、携帯端末。今や奴らは世界中で過剰に増え、我らが闇の領域を不必要に照し、侵している。齎した恩恵は確かに存在するだろうが、ブルーライトによる健康被害は、到底、無視出来る物ではない。……一刻を争う事態だ、ユーキ。恥ずかしい限りだが、我独りだけでは奴らを屠ることは出来ん。貴様の力がたよ』

 

「うッシゃァ───ッ!!!」

 

『おぉイッ!!?』

 

 

 ドルムの発言を聞いた僕は窓を開け放ち、力の限り、手に持っていた闇属性のカードたちを放り投げた。夕闇に染まり始めた景色の彼方へすっ飛んでいくカードの束の後を、慌てた様子で邪神が追っかけて行く。

 

 

『──ゼェ、ハァッ。ききき、きっさまァ!? 仮にもファイターならば、例え愛着が無かろうとカードならば差別無く丁重に扱わぬか、愚か者めがァ!!』

 

「愚か者はお前の方だこのクソ邪神がぁ! 返せ! 中学生なりに世界の危機に立ち向かうことを誓った僕の覚悟を返せ──う、ぐぅっ!」

 

 

 息を切らせながら、自身が生み出したカードを抱えて戻って来たドルムが怒号を発するが、それ以上の怒鳴り声を僕は出す──出そうとして、とうとう限界が来てしまった。ズキリッ、と一際大きく走った頭痛に呻き声を発し、その場に膝を落として手を突いてしまう。

 

 うぐぐぐ……っ。こんな時、いつもなら頭痛薬を飲んでそのまま大人しくしているのに、今日はドルムと出会ったことで、何度も大声で叫んだり、過剰に体を動かしたりを繰り返してしまっている。これまでに経験した中でも、トップクラスの痛みと吐き気に襲われてしまい、立つことすらままならなくなってしまった…。

 

 おっふ。閃輝暗点まで出て来やがった。

 

 

『お、おい? 一体どうした、ユーキ。──そう言えば先程から氷嚢を宛てがっているが、もしや。調子が優れぬのか?』

 

「はあ、はぁ……。うぶっ。…ぼ、僕は片頭痛持ちなんだ。さっきから頭痛と吐き気が凄いんだよ……」

 

 

 息も絶え絶え。僕の言葉に、ドルムは『なっ』と驚愕から来たであろう声を漏らした。

 

 

『へっ、片頭痛だと!? 何故それを早く言わんのだ! く、くそっ。我ともあろう者が、目前で苦しむ無辜の民を前に、なんと言う為体(ていたらく)……情け無い!』

 

「ちょ、あんまり大きな声出さないで……はぁ、はぁ…」

 

 

 嘆くドルムはその逞しい双腕を使い僕の体を抱き抱えると、近くにあったクッションをその蛇の身体を器用に動かすことで並べ、出来上がった簡易的なベッド、その上に寝かしつかせる。

 

 

『もう大丈夫だ、ユーキよ。我が闇の力を用い、貴様の苦しみを取り除いてやる……ッ!』

 

「は、はぁ。よく分からないけど、楽にしてくれるなら助か──」

 

『良い。無理をして喋るな。このまま意識があっても辛かろう……一先ず、締め落としてその意識を刈り取るとする』

 

「えっ」

 

 

 何かしらの反応を見せるよりも早く。巻き付いてきた蛇の尾が、きゅっ、と僕の首を縛り上げた。

 

 予想を遥かに上回るパワープレイにより、僕の意識は容易く暗闇へと落ちて行く。

 




頭が痛む。つまり、雨が降る。
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