「この世界は僕にとって、(物理的に)眩しすぎたんだ」   作:羽虫の唄

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4話目。次で一旦、区切りが付きそう。

評価、感想、登録。重ねてありがとう。


バファ◯ンは確かに効くんだけど胃が凄いことになる。

 ヤイト。ハバタ。ヒトミ。ヒカリ。

 ──そしてユーキ。

 

 具体的な時分(じぶん)や理由は覚えていない。

 気付けば5人で遊んでいて、その関係は時が経っても続いて行って。

 それが、いつの間に当たり前となっていた。

 

 …今は1人だけ欠けてしまっているけれど。

 いずれは元に戻って、かつてのあの頃みたいに、またみんなで楽しく毎日を過ごすのだと。

 

 漠然と。

 そう、思っていた。

 

 

「…どうしテ」

 

 

 呆然と、ヤイトと同じく隣で立ち尽くしていたヒカリが声を溢す。

 

 彼らの目前には、1人の少年が居た。

 日が沈み暗くなった辺りに溶け込んでしまいそうな、黒を基調とした服装。……そして頭に被った、材質不明なヘルメットに似た装備。

 

 その被り物は、()()()()()()()()()()()()()カードショップ・トレディアンで遭遇した、『鎧の男』の姿を、2人に想起させた。

 

 

「──やあ! ヤイトくんにヒカリちゃん!」

 

 

 極めて明るく朗らかな、よく聞き慣れた──知らない声で、少年が言う。

 

 ヘルメットによってその顔を窺い知ることは出来ないが、学校で目にした、生気の感じられないあの姿とは、余りにも掛け離れたその様子に、ヒカリが「ひッ」と僅かに後ずさった。

 

 親友だと信じ、疑ったことも無い存在が、どうして『奴』と同じ格好をしているのか。同じと言うことは、目前の少年も、あんな風にどこかで誰かを傷付けたりしたのか。一体、なんの目的で。

 

 なぜ、なぜ、なぜ。

 

 混乱、当惑、茫然。様々な疑問の声が、ヤイトの内で渦を巻いていった。

 

 

「──なんでなんだ、ユーキ。……答えろ!!」

 

 

 ──そうしてそれは、怒りという形で発露する。

 

 ヤイトの突然の怒号に、こちらに歩み寄って来ていたユーキが、ピタリと動きを止めた。

 彼我の距離は、おおよそ2m前後。彼は小首を傾げて言う。

 

 

「えーと、どうしてって言うのは──」

 

「とぼけんじゃねえッ!!」

 

 

 ……幼い頃からの付き合いの中で。それは、初めての経験であった。

 

 親友に、こんなにも怒りを覚えたのは。

 こんなにも絶望をしたのは。

 …こんなにも、悲しみを覚えたのは。

 

 

「…ヒカリ、ごめん。助けを呼ぶの…。任せてもいいかな。……ここからなら、義正(ヨシマサ)さんの所まで、そう遠くはない筈だから…」

 

 

 とあることをきっかけに知り合いとなった、警察組織の男性の名をヤイトは口に出す。

『鎧の男』によって植え付けられていた恐怖心が、怒りによって僅かに揺らいだことで、冷静さを取り戻せたらしい。それを聞いて、弱々しくヒカリが「ヤイトくン」と声を漏らした。

 

 

「ああ、分かってる。今こうしている間にも、ハバタやヒトミ。それにイソヤス店長が『アイツ』の所為で危険だって言うのは分かってる。…でも、ここだけは。ここだけは! 退いちゃ駄目なんだよ!!」

 

 

 言って、ヤイトはデッキを取り出す。暫くの間を置いてから、同様に、ユーキもデッキを取り出した。

 その様子を見て、ヒカリは意を決したらしい。苦渋の表情を浮かべた彼女は、それでも懸命に走り出してみせた。

 

 

「ヤイトくン…──無事でいて下さイっ」

 

 

 雫を溢しながら、駆けて行くヒカリ。自身の傍を走り抜ける少女の姿を、ぬらりとした暗いヘルメットの表面が、静かに追う。

 

 

「アウェイク。──これが終わったら。全部、全部。話してもらうぞ、ユーキ!」

 

「──アウェイク」

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 そうして始められた、ヤイトとユーキによるファイト。

 その内容は──

 

 

「──僕は手札から〈悪平等の裁定者〉を召喚する。このユニットが【◆】(場にいる限り)ヤイトくんが手札を捨てる度、僕は山札から同じ枚数のカードをドロー出来る!」

『フェアに戦ろう!』

 

 

 ──よく知る親友が繰り出す、知らないユニットたち。

 

 

「その攻撃は通さない! 呪文〈反骨の精神〉を発動! 効果で〈害骨兵士〉を特殊召喚、そして破壊! 【▼】(破壊された時の効果)でグレード3以下の相手ユニットを破壊する!」

『肉を切らせて……骨で断ァつ!』

 

 

 ──発動される、知らない呪文。知らない効果。

 

 

「──フルチャージ完了。僕は〝ミステリアゾーン〟から〈死遊童者(リトルシスター) ヘル・アンサス〉を召喚。【▲】(召喚時)【▶︎】(攻撃時)に、それぞれ〈誘う宵闇の仔〉と〈恨み募る暗闇の屍〉を墓地へ送ることで、戦力(ステータス)を13000/6に強化! これで──終わりだ!!」

『「χ!(とっても)」「◎♡(たのしかったです)」、「(また)」「★♪(あそんでね)」!』

 

 

 最後の一撃が繰り出され、ヤイトのコアエネルギーがゼロとなる。

 

 

「う、ぐ。…うあああああ──ァッ!!!」

 

 

 黒に。影に。夜に。──闇に。

 少年の視界が、一切の隙間無く、全て呑み込まれる。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「──どうしてだ。どうして、お前が……! 闇の、力を……!」

 

 

 2人の少年が居た。

 片方は地に伏せ、片方は凛然(りんぜん)と立っている。

 

 ようやっとの思いで、呻く様に吐き出されたその問いかけに。

 返されたのは、鈴を転がした様な。

 …そんな、笑い声だった。

 

 

「簡単なことだよ。──この世界は僕にとって、眩しすぎたんだ」

 

(…──ちく、しょ──)

 

 

 その言葉を最後に、ヤイトは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 やあ、こんにちは。…ああいや、時間的にはもうこんばんはか。

 

 僕の名前は病村 ユーキ。

 ついさっき、邪神ことドルムから譲り受けた不思議ヘルメットを被り、自宅をすぐ出た所の街灯を試しに直視してなんの問題も無かった喜ばしさからテンションがおかしくなってしまい、「これが、これが! 闇の力かァ!!」と叫んでいたところを通りすがりの幼馴染2人に目撃され、恥ずかしさで死にそうになっているだけの、どこにでも居る普通の中学生だ。

 

 

「(Heyドルム。闇の力で上手い具合にインターセプトをコンサルティングしてちょーだいっ)」

 

『(落ち着け。頭の悪過ぎることになっているから)』

 

 

 ヘルメットの中で顔を茹で蛸の様にしている僕は、こそっと足元のドルム──正確に言えば、僕の『影』と同化しているドルムに助けを求める。

 さも当然の如く超常現象を引き起こしているが、流石は邪神。能力系漫画の様だ。

 

 ちなみに影に潜っているのは、〝幻影〟の維持自体は別に疲れたりしないものの、外に出ることで人に見られた際、何かしらのトラブルになることを考慮してとのことらしい。

 

 闇の力で片頭痛の原因を抑えるだけでなく、TPOにも気を配れるとは……さすドル。*1

 

 

「──やあ! ヤイトくんにヒカリちゃん!」

 

 

 取り敢えず、僕は努めて明るく元気な声を、2人にお届けする。こうすることで、先ほどのことは特段気にする様なことではないとヤイトくんたちに勘違いしてもらう為だ。

 

 はいそうです。開き直りです。

 

 

「──なんでなんだ、ユーキ。……答えろ!!」

 

 

 …さて。そんな僕に返ってきたのは、ヤイトくんの怒鳴り声だった。

 

 えーと? 突然、どうしたんだろうか。

 …いやまぁ、確かに。最近遊べてなかったとは言え、幼馴染が人気の少ない夜道で不審な行動をしていたら、その理由を問いたくなるのは当然か。それにしては、ちょっと様子がおかしい気もするけれど…。

 

 僕のことを睨み付けるヤイトくんと、その隣で、呆然としているヒカリちゃん。

 2人の様子が、どこかおかしいことを察した僕は、先のヤイトくんの発言の真意を確かめることも合わせて訊ねる。

 

 

「えーと、どうしてって言うのは──」

 

「とぼけんじゃねえッ!!」

 

 

 ブチギレだとう……!?

 

 いくらなんでもそいつは理不尽すぎやしないかマイベストフレンド!?

 どうして彼はこんなにも(いか)っているんだ。ちょっ、ヒカリちゃんヘルプ──

 

 

(な、泣いてる──ッ!!?)

 

 

 な、なにゆえ!? 怒涛の展開に僕は全くついていけないよ! 誰か、誰か説明を!!

 

 しかし助けを求めたところで誰かがそれに応えてくれることも無く。

 そのまま、よく分からないままヒカリちゃんはどこかへと走って行ってしまい。残された僕たちはよく分からないままファイトを行うこととなり……。

 

 

『(……ふむ。何やら様子がおかしいな)』

 

「(あ、ドルムもそう思う? 良かった、僕が何かやらかした訳ではなさそう…)」

 

 

 ファイトが始まるその瞬間。足元からのドルムの言葉に、ホッと息を吐く。主観だけだときちんと事実を知ることは出来ないからね。こういう時、第三者の存在は有難い。

 

 

『(手早くファイトを済ませろ、ユーキ。あの者の先の言葉、少々気になることがあった)』

 

「(それは僕も気になってたよ。よく分からないけど、ハバタくんやヒトミちゃん、イソヤス店長も……『アイツ』? だとかの所為で、なんだか拙いらしい)」

 

 

 なんだか、得体の知れない不安が僕の胸中に渦巻いている。

 未だ分からないことだらけだが、早急にファイトを終わらせた方が得策なのは確かだろう。

 

 ──そうして始まった、僕とヤイトくんとの、随分と久しぶりとなるファイト。これまで僕が愛用していた属性とは異なる、闇属性のカードを多く使ったことで、ヤイトくんはペースを崩した様だ。その結果、危なげなく僕は勝利を手にすることが出来た。

 出来たんだけど──

 

 

「──どうしてだ。どうして、お前が……! 闇の、力を……!」

 

 

 ──なんでファイトに負けたヤイトくんが吹き飛んでボロボロになってるんです???

 

 いや確かにあるよ? 負けた側に爆風とかが発生する演出(ファイト・エフェクト)は。でもそれはあくまで()()の範疇だし、爆風と言っても実際に襲いかかるのは、ちょっと強めの扇風機からの送風程度だ。

 間違っても、今のヤイトくんの様に大怪我を負う、なんてことはありえない。

 

 

「簡単なことだよ。──この世界は僕にとって、(物理的に)眩しすぎたんだ」

 

 

 いやもう、こんなの笑うしかないよ。

 巻き起こる、意味不明な展開の数々に、恐怖から引き攣った笑いを混ぜながら僕が言えば、ヤイトくんは意識を手放したらしく、力無く地に伏してしまった。

 ……大丈夫? これ、大丈夫なやつ…!?

 

 

「これが──闇の力か」

 

『おい待て。我も知らねーぞこんなの』

 

「嘘を吐くなぁ! 今までこんなこと1回も起こったことないのに、闇のカード使った途端、こうなったんだぞ! 原因はどう考えても1つしかないでしょーがぁ! いや、寧ろそうだと言ってェ──!!」

 

『ちょちょ、分かったから落ち着かぬか! 原因不明とは言え、幸いにも気を失っただけの様だ。吹き飛んだ際にも頭部をどこかに打ち付けた様子は見られなかった。取り敢えず、どこか医療機関へと運ぶぞ!』

 

 

 ドルムに促され、地面に倒れ伏したヤイトくんを──ぐおぉ、重いっ! くそ、片頭痛だからと運動を避けて来たツケがこんなところで…!──運ぶ。

 

 その時だった。

 

 

「──む?」

「──え?」

 

 

 ズチャッ、と。厚い靴底で地面と音を鳴らしながら、曲がり角から大きな背丈の人物が現れた。

 

 分厚く、服というより『鎧』と呼んだ方が適切かと勘違いしてしまいそうな格好。『鎧』と同じく、黒一色で染め上げられた、兜に似たヘルメット。

 多種多様なファッションセンス溢れる昨今に()いて見ても、普通とは大きくかけ離れているであろう出立ちをした人物の出現に、僕は──

 

 

「(──へ、変質者だ……!?)」

 

『(……我が言うのもあれだが。今の貴様の格好も、似た様な物だと思うぞ)』

 

 

 ドルムが何か言った気がするが、僕はそれどころではない。

 こんなにもはっきりと変質者然とした変質者との邂逅に、思考は体と共に完全にストップしてしまった。

 な、何者なんだこいつは……!?

 

 

「──ふむ。()()()()()、俺と同じく『組織』の者か。ああ、丁度その小僧を追っていたんだ。……お前が無力化したのか? もう1人、同じ服装の女は居なかったか?」

 

 

 低い声が、目前の『鎧』から発せられる。

 そ、『組織』? 追っていた…?? 何を、訳の分からないことを──

 

 

──「ああ、分かってる。今こうしている間にも、ハバタやヒトミ。それにイソヤス店長が『アイツ』の所為で危険だって言うのは分かってる。…でも、ここだけは。ここだけは! 退いちゃ駄目なんだよ!!」

 

 

 ──刹那。思い出される、先程ヤイトくんが言っていた、何某(なにがし)かの言葉。その彼が言った、謎の存在たる『アイツ』。そしてその存在の所為で、僕の親友たちや、見知ったカードショップの店長が危ないと言うこと。

 そして目の前に現れた、ヤイトくんを追っていたと言う、この男。

 

 そこから導き出されるのは……。

 

 

「──おい、聞いているのか?」

 

「──うす! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()!」

 

 

 ──『鎧の男』からの質問に、僕は急いで答えた。

 

 どういうわけか僕を、自分と同じで『組織』とやらに所属していると勘違いしたこの男。その勘違いを利用して、僕は彼を、目上の存在の様に扱った。

 

 十中八九、この男はヤイトくんの発言の中に出てきた存在と見て、間違い無いだろう。そうするとこの『鎧の男』はハバタくんたちに何かしらの危害を加えている可能性が高く、そしてヤイトくんと仲間であると知られた場合、僕も危険に晒される可能性がある。

 

 ……目前の、『鎧の男』。こいつが身に纏うオーラは、間違いなく強者のそれだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この男からヤイトくんと共に逃げられるとは、到底思えない。

 なので、一か八かであるが、賭けに出る。僕たちの身を守りつつ、先に逃げていたヒカリちゃんの安全も確保を──

 

 

「そうか、ご苦労。所属と割り当てられたコードナンバーは幾つだ?」

 

 

 瞬間、僕の喉が干上がる。

 ……が、

 

 

「…すす、すみません! 末端も末端でして、そう言った諸々を済ませる前に兎に角仕事をと言われて……っ!」

 

 

 口から飛び出してきたのは、出まかせも良いところだ。

 くそっ、流石にこれは厳しすぎるか…!?

 

 

「……チッ」

 

 

 と、『鎧の男』が発した舌打ちに、僕の心臓は跳ね上がる。

 

 

「全く。人手が足りないのは分かるが、杜撰が過ぎる。上ももう少し、現場に耳を傾けるべきだ……」

 

 

 僕の言葉を聞き、男は何事かを呟き始めた。

 これは……大丈夫、か?

 

 

「──女の方はこの際捨て置く。おい、付いてこい。その小僧を拠点に運ぶぞ」

 

「……ハッ! 了解です!」

 

 

『鎧の男』に促され、気を失っているヤイトくんを背負い直し、僕はその後を付いていく。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

『(……案ずるな、ユーキ。何があろうと我が付いている)』

 

「(……ああ。もしもの時は、悪いけど頼んだよ、ドルム)」

 

 

 ──構成人数もその目的も一切不明な『組織』とやらに属している、恐らくはハバタくんたちに危害を加えたであろう、僕たちの前を歩く男。こんな危険な存在に着いて行くなど、とてもではないが、まともな人間がする思考ではない。

 

 だがしかし。こちらには、頼もしい邪神が居る。……それに、もしドルムの存在がなかろうと、僕はこの男に着いて行ったと断言できる。

 

 

(──僕の大切な人たちに手を出した。…絶対に後悔させてやる)

 

 

 胸中で、静かに燃える怒りの炎に薪を焚べながら、僕は歩みを進めて行った。

*1
さすがはドルムハーオス様




予想以上に、感想欄が同志たちで溢れてしまった。みんな、頑張っていこう……。
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