「この世界は僕にとって、(物理的に)眩しすぎたんだ」   作:羽虫の唄

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5話目。全然一区切り付かなかった…。


人生初の閃輝暗点はもうただのホラー展開。

 日は沈み、夜の帳が下り切った頃。

 

 僕。

 僕に背負われた意識を失っているヤイトくん。

 そして、不気味な様相の『鎧の男』。

 

 人気(ひとけ)の失せた夜の街中を進む僕たち3人が、そうして辿り着いたのは、廃れ寂れた工場跡──とかではなく。

 

 

(…──マジかよ、クソだなおい…)

 

 

 思わず、心の中で悪態を吐いてしまう。

 

 僕の目前を歩く『鎧の男』の後を追う形で辿り着いたのは、規模・目的全てが不明な、『組織』の拠点。

 しかしそこは僕の予想とは異なり、謎の科学技術を用いて隠匿された近未来的建造物などでは無かった。

 

 ──八間札()()()

 なんなら、片頭痛持ちと言う体質上、僕自身も何度か通ったことのある、この街の住民にとっては、随分と見慣れた建物が眼前に座している。

 

 既に営業時間外である為、診療所内に、明かりの類は灯ってはいない。離れた場所に立つ、駐車スペースに備えられた街灯からの光を頼りに、薄暗闇(うすくらやみ)の中を僕たち3人は歩き、診療所の裏手側へと訪れた。

 

 

「──降りるぞ。付いて来い」

 

 

 ズズズ…ッ、と。僅かな地響きと共に地面の一角が開き、地下へと続く階段が現れる。

 

 まるで獲物を誘い込む、巨大な怪物の口である。

 生唾を密かに飲み込んでから、僕は男の後に続いた。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 コンクリートにも鉄にも大理石にも感じられる、床・壁・天井、その全てが材質不明なナニカで構成された、不思議な通路を進むこと、暫く。

 

 

「──おい、ドクター! 連れて来たぞ。『装置』の準備は出来ているんだろうな」

 

 

 少々、力任せに感じられる動作で、『鎧の男』が、通路を進んだ先で辿り着いた部屋の扉を開け放った。

 男に呼ばれた……ドクターとやらは、白衣を纏った初老の男性である。

 ……と言うか、この診療所に務める『先生』であり、僕も何度か診察を受けた経験があった。なんとも言い難い暗い感情が、僕の胸中で鎌首をもたげ始めた。

 

 そこそこ広めの室内には、床いっぱいにケーブルが広がっていたり、それらが集結する直立した酸素カプセルじみた、謎の機械が幾つか鎮座している。アレがきっと、今し方『鎧の男』が言った、装置とやらなのだろう。

 

 

「騒々しいぞ、静かにしてくれ。私の様な老人が、こんな遅くまで起きているのは少々堪えるんだ…」

 

「ふん。現場に赴くことなく、四六時中拠点で研究三昧な科学研究員サマには、現場を駆け回るこちらの苦労は分からないらしいな」

 

「我々の作戦を遂行する為には、ただただ肉体を酷使しあちこち出歩いておけば良いとでも思っているのかね? ああいや。表向きに経営している診療所を使い、常日頃からファイターたちの様々なデータを集め、解析・研究を繰り返す苦労を理解するには、君の様な凡夫の頭脳では、少々、難しいかな?」

 

「良く口の回ることだ、ドクター。そもそも貴様らが──」

 

「それを言うならば君たちこそが──」

 

 

 互いに険悪な雰囲気を隠そうともせず、両者は言い合いを続けていった。

 

 彼らの言葉を右から左へ受け流しつつ、僕は装置の『中身』に意識を注ぐ。

 装置は全部で5機。内2つは、僅かに緑がかった透明な半円筒型の扉が開いており、空だ。他の3つは──

 

 

「よいしょ……っと」

 

 

 背負っていた、未だ意識の戻らないヤイトくんを、近くの壁にもたれかからせる形で座らせる。ドクターはそんな僕に気付いたらしく、ヒートアップし始めていた会話を中断して、声の勢いそのままでこちらを向いた。

 

 

「──おい、そんなところに被検体を置くんじゃない! さっさと洗脳装置に仕舞い込め! 全く。どいつもこいつも役に立たない──っ!」

 

 

 その言葉を聞いた僕がとった行動は、至ってシンプルだ。

 まぁ、つまり。

 

 

「──アウェイクッッ!!!」

 

 

 ……デッキを取り出し、怒りのままに叫ぶ。

 

 突然の僕の行動を前にドクターは呆け、一方で『鎧の男』は素早くデッキを構えていた。

 

 

「…クソが。こうなる可能性があるから、構成員の管理態勢を厳重化しろと……!」

 

 

 何か言っている様だが。

 生憎と、今の僕にそれを聞くだけの余裕は無い。

 

 彼らの背後に置かれた……ドクターの言葉をそのまま借りれば、幾つかの洗脳装置。その内の3つに納められている、僕のよく知る人たち。

 

 

(ハバタくん、ヒトミちゃん、イソヤスさん──っ)

 

 

 ぐったりと。装置の中で動かない彼らは共通して、その纏う衣服を汚しており、見える肌のあちらこちらに青痣や切り傷を作り出していた。

 

 …『組織』の内情や目的を知るには、このまま構成員のフリをして、潜伏したままの方が得策なのは分かっている。

 だけど、だ。残念ながら、苦痛に歪んだ表情を浮かべている3人を前に知らんふりを出来るほど、僕は賢くは無い!

 

 絶対に──救い出すッ!!

 

 

『──まあ待てユーキよ。…その怒りは、今は抑えておけ』

 

 

 …──そうして僕が聞いたのは。ある意味で名ばかりの邪神、ドルムハーオスの、そんな声だった。

 

 僕と『鎧の男』を魔法陣(フィールド)が飲み込むよりも早く。ずるり、と言った具合に、僕の影から現れたドルムを見て、「なっ」と驚愕の声を上げたのは、果たしてドクターと『鎧の男』、どちらだったろうか。

 

 

『恐らく、あの装置とやらの中に居るのは、お前の友たちなのだろう。ならばその怒りは、至極当然。しかし、だ。刹那の激情に身を任せるのは簡単ではあるが、きちんと相手を見定めるのも時には重要なのだ』

 

 

 ドルムはそこで、一呼吸挟む。

 

 

『……この様な救いようの無い愚か者どもの相手をすれば、それだけで、貴様の魂が穢れてしまうだろう。…こいつらの様な存在は、我に任せておけば良い──!』

 

 

 そう言うと、ドルムは即座に駆け──否。()け出した。

 狙いは言うまでもなく、『鎧の男』たち──

 

 

「むゥッ!?」

 

 

 人間を悠々見下ろせる全長の体躯を持つドルムの突進は、それだけで脅威である。ドクターは兎も角、何とかドルムの巨体を避けようとした『鎧の男』だったが、直前にドルムが全身から噴出した闇により視界を遮られ、それは叶わなかった。

 

 

邪神式(ダークネス)……鉄山靠(てつざんこう)ッ!!!』

 

 

 ──まるで(いわお)の様な肉体が、男たちの体を吹き飛ばす。紙切れか、はたまた、不出来な竹とんぼの様に吹き飛んだ2人は、そのまま背後にあった装置を巻き込み、薙ぎ倒していった。

 

 

「っ、皆!」

 

 

 装置から投げ出された3人を受け止めようと、飛び出す僕。

 それよりも早く、蛇の下半身を器用に駆使したドルムによって、皆の身体はこれ以上の怪我を負うことなく、無事に受け止められた。

 

 

『ふんッ。他愛も無い』

 

「──ありがとう、ドルム」

 

 

 ぐったりとしたまま動かなくなるドクターたちを見て、ドルムが吐き捨てる様に言う。

 …その姿を見て、僕は素直に、ドルムへと頭を下げた。

 

 さっきまでの僕は、殆ど怒りに飲まれていた。あんな状態でファイトに臨んだところで、勝てるとは到底思えないし、もし仮に勝てたとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを予知し、ドルムはあの様な行動に移った……いや、移ってくれたのだろう。

 

 …本当に、頭が上がらない。

 ──()()()()()()()()()()…!

 

 

『なぁに、気にするなユーキ。言った筈だぞ。貴様と我は、今や同志だ。…その同志が目前で道を踏み外し兼ねない事態に陥ったのだ。それを易々、見過ごす様な我では──』

 

「あ、あのさドルム!」

 

 

 目が覚めても問題無いよう、ドクターたちを、引き千切ったケーブルで拘束した後、ヒトミちゃんたちをヤイトくんの様に壁にもたれかからせたドルムが何かを語ろうとするが、僕はそれを遮り──

 

 

『む。どうしたのだユーキよ。そんなに慌てて』

 

「本当、ありがとう。いや、本当に感謝はしてるんだ!けどさ、僕も詳しくは知らないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんじゃない? アレだけ派手に壊したりしちゃうと色々マズイ気が──!」

 

 

 僕の言葉に、ドルムが固まって動きを止めるのとほぼ同時。

 けたたましい警報の音が、辺りに木霊(こだま)した。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「──ほう? よもや、この場所まで辿り着くとは。いやはや……駒たちの役立たなさを嘆くべきか、それとも。君がそれだけの実力を備えていることを驚くべきか……」

 

 

 ──そこは、巨大な球形状の空間だった。

 

 入り口から中央まで、真っ直ぐに伸びる足場以外は全てコンピューター群であり、辺りは一面、大小様々なそれらが積み重なることでこの空間を創り上げている。

 淡い緑色の光彩に包まれた広大な空間に、存在する人影は、全部で2つ。

 

 空間の中央、伸びた足場の先。濃い銀髪を(たてがみ)の様に逆立たせた、背の高い青年。灰色のスーツを身に付けた彼は、精悍な顔に、しかしそれを台無しにする邪悪な笑みを貼り付けている。

 

 

「いやはや。我々『組織』の拠点を突き止めるだけに留まらず。こうして私の前に立つのが、君の様な子供だとは。些か、予想外でしたよ」

 

 

 青年が口の端を歪に歪めて、くつくつと笑う。

 

 ──がつん、と。

 その神経を逆撫でする笑い声を遮る様にして鳴り響いたのは、青年と相対する人物が、一歩。力強く踏み出したことで、靴底と足場がぶつかった音だ。

 

 

「──褒めて差し上げますよ。私の前に立ちはだかったことを。まあ、君はここで終了(ゲームオーバー)なのですがねぇ──ッ!!」

 

 

 言って。青年が、デッキを構える。それはドス黒く、禍々しいオーラを纏った闇のカードの集まり。

 

 

「アウェイク。……さあ、君も宣言を。本気の私と戦えることを光栄に思い、そして果てると良いですよっ!! …くっく、あーっはっはっは!」

 

 

 耳障りな高笑いを発する青年の言葉に、黒いヘルメットを被るその人物は、何かを返したりはしない。ただ静かに、デッキを構える。

 そして、言った。

 

 

「あ、アウェ──あぅえ、げぇっほごぼっ!あゔぇっぐぇべへ、……おえ!」

 

「………、先ずは呼吸を整えなさい」

 

 

 別に、少年はこの場所に辿り着くのに圧倒的な強さ(ファイト)で『組織』の構成員を薙ぎ倒して来たとか、そんなことは無く。

 休むことなく兎に角あちこち走り回ってきたのだろう、今にもぶっ倒れそうな様子で咳き込み続けた。

 

 その様子を見て、さしもの『組織』のボスたる青年も、少年の呼吸が落ち着くまで、待つことにした様である。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「──それで? もうそろそろ、呼吸の方も落ち着いて来た頃合いで──」

 

「おお゛うえ゛えええ゛ぇぇぇ!!!」

 

「ぎぃやぁああああ!!? お、お前ぇ! この場所でなんてことををををッ!!?」

 

 

 ぜぇ、はぁ。

 ふ、ふぅ。胃液を吐き出したら、多少は楽になったぞ…。

 

 …──さて、ドルムがやらかしてしまったあの後。

 

 詳細に言えば、捕らえたドクターたちを通路に放り捨てた後、ヤイトくんたちが居る部屋の扉を、簡単に開かない様にドルムに良い感じに破壊してもらってからすぐの事。

 警報を聞いて、あちこちからワラワラ湧き出て来た、『組織』の構成員たちから逃げ回り続け、そうして辿り着いた、()()()()()空間。

 

『組織』のボスらしき青年は、吐瀉物を撒き散らしてしまった僕を信じられないと言った様子で睨み付けてきているが、全然、知ったことではない。

 

 

「うう、頭が痛いよう。気持ち悪いよう…」

 

『うーん。そのヘルメットが抑えられるのは、あくまで光彩に()る物だけだからなぁ。急激な運動等で引き起こされるのはどうにも……すまないな、ユーキよ』

 

 

 実体化したドルムに背中を摩られながら、頭の痛さに嘆く僕。

 くそう、日頃の運動不足が祟ったか…。

 

 

「う、うぶ…っ。……えぇい、ふざけた真似を…! さぁ。もういいでしょう。そのふざけ切った君の態度、完膚なきまでに叩き潰して差し上げるとしましょうかねぇ……!」

 

 

 その身に纏う高級そうなスーツと同じく、やたらと絢爛豪華なハンカチで口元を覆いながら、青年が言う。

 …こちらを忌々しげに睨みながら、怒り心頭に発した様子だが、それはこちらとて同じこと。

 

 僕の大切な人たちに、あれだけのことをしたのだ。

 覚悟しろ。叩き潰されるのは、お前の方だ……!

 

 

「アウェイク……ッ」

「──アウェイク!」

 

 

 デッキを構え直した僕たちは、改めてファイト・コマンドを口に出す。僕たちの足元に出現した法陣が、回転しながらその大きさを広げ、ファイト用に整えられた魔法空間を、瞬時に生成する。

 

 淡い輝きを放つ光の線が幾重にも走り、僕と『組織』のボスである青年の目前に、ファイターにとって見慣れた盤面を作り上げた。

 

 山札や墓地と言った基本的なカードの置き場から始まり、ユニットを召喚するバトルゾーン。カードを置くことでコストを発生させるチャージゾーンが続き、最後に、切り札や虎の子と呼ぶべき最強のユニットたちが控える、ミステリアゾーンが形成され──僕たちの手から自然と離れたデッキが、自動的に配置される。

 

 山札がシャッフルされ、上から5枚が手札へ。

 次いで、自動的にミステリアゾーンへ、計5枚のユニットカードが。

 

 これで、ミステリオマキアを行う為の準備は整った。

 ルーレットが開始され、完全ランダムに先攻・後攻が決定される。

 

 

「先攻はこの私です。精々、呪うことですよぉ。深く考えもせずにこの場に現れ、この私とファイトを行うこととなった、己の運命をねぇ──ッ!! …ドロー!!」

 

 

 青年が、力強い掛け声と共に山札からカードを引く。

 

 戦いの火蓋は切られた。

 …後は、全力を尽くすだけだ……!

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「──うぷっ」

 

「!? おい、流石にもうやめろよ、おい!!!」




雨が降っている。つまり、頭が痛い。
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