「この世界は僕にとって、(物理的に)眩しすぎたんだ」   作:羽虫の唄

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6話目。アホみたいに長ったらしくなってしまった。

※主人公が今回の話で使うデッキは、火属性と闇属性を混ぜたデッキです。

※本編が分かり難いと思うのでここでこの作品のTCGルールをざっくり説明すると、5マナ貯めると超次元ゾーンから覚醒リンク済みのガロウズデビルや、龍解済みのガイギンガを直接呼び出せるデュエマです。


ブルーライトカットやサングラスは必需品。

 ミステリオマキアのカードは、火や風、光や闇と言った具合に、幾つかの属性に分けることが可能だ。そして、各属性ごとに特定の能力に優れていることが多い。

 例えば火属性ならば──

 

 

「──呪文〈焦撃の熱波〉を発動!相手のユニットを疲弊状態にする! 」

 

 

 吹き荒れた朱色の旋風によって、相手のバトルゾーンに居たユニットたちが、隙を晒した状態──疲弊状態となる。

 

 

「続けて、呪文〈霊樹の薪木〉を発動。自分の火属性ユニットを1体破壊することで、デッキの上から2枚をドローする。……ごめん、〈フリア〉」

 

『ワタシが出来ることは少ないわ。──だったらそれを、全力で!』

 

 

 明るいオレンジ色の髪を持つ、少女の姿をしたユニット〈火の魔人 フリア〉を墓地へと送ることで、僕はカードを2枚引く。

 今し方発動したのは、ユニットを1体、コストとして支払うことで、手札を増やすタイプの呪文だ。ドローし終えた今、言うまでもなく呪文の効果はここで終了したが、まだまだコンボは続けていく。

 

 

「破壊されたことで〈フリア〉の【▼】(破壊時)効果を発動。僕のコアエネルギーを1点回復する。更に──」

 

『お前の犠牲を、無駄にはしない…。小さな火は集い、いずれ大きな炎となる!』

 

「──更に、〈烈火の戦士 アカツキ〉の【◆】(永続)効果! 自分の火属性ユニットが場を離れた時、そのユニットの戦力分、〈アカツキ〉の戦力はこのターン中、上昇する! …これで戦力は5000/2だ。〈アカツキ〉でコアにアタック!」

 

 

 ──と言った具合で。

 

 火属性のカードは相手ユニットを疲弊させることから始まり、自身のコアエネルギーの回復や、同じ火属性ユニットの強化を得意としている。全体的に、持久戦に優れた属性と言えるだろう。

 

 ……それはさておき、今は、『組織』のボスたる青年とのファイトだ。開戦してから既に数ターン目。コアエネルギーの差では微々たる物だが、僕の方が僅かに劣勢、と言ったところか。

 なので、敵の攻撃を防ぐ〝防衛〟持ちのユニット含め、相手ユニットが全て疲弊状態となった今、ここは果敢に攻める──っ!

 

 

「──その攻撃は防がせていただきましょうかねぇッ! 呪文〈影の取引〉を発動ッ! 私のユニットを1体墓地へ送ることで、君の〈烈火の戦士 アカツキ〉を破壊する!!」

 

『な、なにっ!?』

 

 ──瞬間、どこからともなく現れた、影で作られた無数の手が〈アカツキ〉へと殺到した。そのまま、影の手は獲物を影の中へ引き摺り込もうとするが……。

 

 

「〈赤鬼教官 ザディス〉の【◀︎】(特殊)効果を発動。〈ザディス〉を身代わりにして、〈アカツキ〉の破壊を防ぐ…!」

 

『馬鹿者が…! 貴様が倒れるのは、ここではないだろう……!』

 

 

 軍服姿の赤鬼の女性が口汚く罵りながら、攻撃途中であった〈アカツキ〉の代わりに場を離れる。

 

 火属性ユニットは味方の戦力を強化する能力に長けている。それは言い換えれば、素のステータス自体は低いということだ。

 である為、味方ユニットが倒れる度に強化される〈アカツキ〉は、貴重なアタッカーである。僕としては、何としても守りたいところだ。

 

 

「破壊を避けたことで、〈アカツキ〉の攻撃はまだ継続中だ。更に〈ザディス〉の戦力がプラスされて、〈アカツキ〉の今の戦力は8000/3だ!」

 

「おやおや。中々どうして、巧いプレイングですねぇ…。残念ながら、その攻撃を防ぐ手立てはありません──が」

 

 

 瞬間、分かりやすく、青年が口の端を歪めて見せる。裂けた様な、或いは溶けた様な。薄く引き伸ばされたいやらしい笑みに、僕の背骨が凍りつく。

 

 

「〈影の取引〉の特殊効果ァ! 墓地に送ったのが闇属性のユニットであった場合、墓地に送った後、そのユニットはバトルゾーンに復帰する!」

 

「なんだって!?」

 

 

 青年の言葉に、僕は驚愕の声を上げてしまった。

 くそ。記憶が正しければ、さっき墓地に送られたのは……!

 

 

「さあ、再び現れろ闇の竜よ! 〈光喰らう真淵竜〉をバトルゾーンへ。そして【△】(場に出た時の)効果で、君の手札を3枚破壊だぁ──ッ!」

 

『グォ──ゥッ!』

 

 

 目前に現れた、巨大な竜の顎がこちらに向かって襲いかかる。バギリッ、と鈍い音が発せられると、僕の手札が数枚、消失してしまう。

 

 

「更に更にィ! グレード4の闇のユニットが場に出たことで、〈追従の呪影〉と〈狂気の信徒〉の効果発動ォ! 君のデッキを、上から4枚墓地に送り、私はデッキから2枚ドローした後、手札を1枚捨てます──おや? これはいいカードを引きましたねぇ…。……手札から〈暗き怨念〉を墓地へ。効果で、相手の手札をランダムに1枚墓地へ!!」

 

 

 一瞬で、デッキと手札を4枚ずつ破壊されてしまった。

 

 ──闇属性。それは、とことんまで破壊に長けた属性である。手札、デッキ、場のユニット。その全てを消し去り、相手に思いどおりのプレイングをさせない、妨害に特化した属性──!

 

 

「ぐ…っ。これで、ターンエンド……」

 

「おやおやおやァ。私としたことが、コアエネルギーを3点も減らされてしまうとは……くくっ」

 

 

 …青年の言うとおり、僕はコアエネルギーを3点削ることが出来た。しかし、7枚あった手札は一瞬で3枚まで減らされてしまい、数枚とは言え、デッキ破壊まで許してしまった。

 

 ……苦しい。

 

 単純な、ファイターとしての腕前はもちろん。数時間前に齧った程度の僕とは比べ物にならない、闇属性のカードの扱いの巧さ。

 それに、なんとしても勝つと誓った筈の僕の決心は、容易く揺らいでしまっていた。

 

 

「私のターン、ドロー。…──いやはや。褒めて上げますよぉ? ええ、本当に。私から君への、素直な賞賛です。子供と言って差し支えない年齢にも関わらず、この場所に立ち、私を相手にここまで粘って見せたのですからねぇ……」

 

 

 ですがそれもここまで。

 

 そう呟いた青年は、手札から1枚を、自身のチャージゾーンへと置いた。これで、彼のチャージゾーンのカードは5枚。

 ──それが指すのは、フルチャージを終え、今までミステリアゾーンで眠っていた、虎の子たるグレード5のユニットたちを召喚可能になったと言うこと。

 

 

「ええ、ええ! よくぞここまで耐えたものですッ! さぁ、刮目しなさい。特別に君には、闇の力の真髄を見せて差し上げましょう──」

 

 

 ──言いながら、青年は大きく両手を広げた。すると、彼のミステリアゾーンに置かれていたカードが1枚。ひとりでに宙へと浮き始める。

 カードの色は黒。ただし、それは闇属性と言うだけでなく、もっと何か、()()()()()()……。

 

 

「ミステリオマキア──()()()()()()()()()()()()。現代科学で再現された技術・魔法を用いた、カードを使った競技……」

 

 

 ズズズ、と。青年の頭上へ移動したカードを起点に、辺りに『闇』が現れ始める。

 

 

「こんな話を聞いたことはありませんか? ミステリオマキアとは一種の儀式的側面を持ち合わせている。ファイトとは演舞や祭事であり、それを供物として、封じられた神をこの世に呼び出す秘術であると──!」

 

 

 黒が。影が。夜が。──闇が。

 フィールドを、世界を包んでいく。その様は、正しく世界の終焉。全てが闇に飲み込まれる、悪夢じみた、だけどそれよりも恐ろしい事象。

 

 

「こんなことを話されたところで、ただの巫山戯(ふざけ)た都市伝説の類いだと笑うでしょうねぇ。…ですが、あえて言いましょう。()()()()()()()()()。……魔法、()()()()。それを使えば、科学に縛られたこの世の法則を捻じ曲げることで、異なる世界の神たる上位存在を、この世に呼び込むことが可能──ッ!!!」

 

 

 ──この様にね。

 青年が、そう言った。その直後。

 

 暗闇に包まれていた世界に、亀裂が走る。次元が裂け、『向こう側』から、何かが現れる。凶悪な爪を携えた腕が亀裂を広げ、遂に、その全身が露わとなった。

 

 

(な、んだ──これ…)

 

 

 凝縮された闇で形成された巨大な体。

 全身から放たれる、他者を寄せ付けない禍々しいオーラ。

 

 見た瞬間、理解する。()()()()()()、と。

 これは、コイツは。息をする様にして命を奪い、当然の如く世界を滅ぼす存在だ。もしこいつがここを離れて外に出たら。思いのまま、世界を自由に練り歩いてしまったら。

 

 本当に、世界が終わる。

 それだけは、確かだ。

 

 

「──ドルムッ!」

 

 

 叫ぶ。

 震える身体を黙らせる様に。

 竦む脚を騙す様に。

 

 

「今僕は、メチャクチャビビってる。なんで僕がこんな目に遭わなくちゃならないんだって、世界の理不尽さに絶望もしてる!」

 

 

 一呼吸挟む。

 

 

「でもそれ以上に、()()()()()()()()()()()()()! こいつを、こいつらを! 好きにさせたら、きっと世界はメチャクチャになる!」

 

 

 ヤイトくん、ハバタくん、ヒトミちゃん、ヒカリちゃん。

 イソヤス店長や、学校のみんな。

 近所のおっちゃんに、商店街のおばさんたち。

 

 みんなみんな、僕にとって大切な人たちだ。僕はみんなを。みんなが暮らすこの世界を、護りたいんだ!

 

 

「頼む、力を貸してくれ──!」

 

 

 …僕のその言葉に、声に。

 ファイトの最中も、ただ静かに隣で佇み、成り行きを静観していたドルムは──

 

 

『──よくぞ。…よぉくぞ言ったぞ、ユーキよぉ!!』

 

 

 それは心からの歓喜。最早、狂喜に近い感情の籠められた声だ。

 

 

『なんと言う勇気だ、なんと言う決意だ! 絶望を前にしても、臆することなくその様な言葉を言ってのけるとは……!』

 

「ははっ! カッコつけって笑うかい!?」

 

『否ッ! 笑うかよ、笑うものかよ!! 立場や地位など関係なく、己の意思で立ち上がったのだ。その様な者の覚悟、我は決して笑わないし、笑わせぬ!! ゆくぞユーキよ。他ならぬ我らで、圧倒的な大団円(ハッピーエンド)を世界に齎してやろうではないかッッ!!!』

 

「ああ──やってやろう!!」

 

 

 ……気付けば僕の体はもう、震えてなどいなかった。

 

 黒淵邪神(こくえんじゃしん) ドルムハーオス。

 そのおかしな出会いはほんの数時間前のことで。だけれど、今となってはとっても素敵な思い出で。

 

 …ああ。こんなにも頼もしい相棒(バディ)が居てくれるんだ。だったら、こんな状況。どうってことはない!!!

 

 

「あーっはっはっは!! 素晴らしい友情じゃあないですか。感動の場面を見せてくれたお礼に、苦しませずに終わらせてあげましょう──ッ!!」

 

 

 青年の高笑いが辺りに響いた。だけど、今の僕からすれば、それすら心地良いと思えてしょうがない。

 

 さあ。ここが分水嶺(ぶんすいれい)で正念場だ。

 覚悟はとうに済ませた。絶対に、勝利を掴み取って見せる──ッ!!

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 ──刹那。

 青年の声が、空間に響き渡った。

 

 

「さあ、やれ! 闇の化身にして、破壊の帝王! 愚かな彼らに、絶対的な終焉を与えてやりなさい!!

 

 

 

───黒淵邪神 ドルムハーオスよッ!!!

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 …ずっこけた。それはもう、ずっこけた。

 そしてこっちの事情を知らない敵が、それで止まってくれる筈もなく。

 

 

「ドルムハーオスの戦力は19000/7!! これで、終わりだあァ──ッ!!」

 

「ちょ、待──ふんぬおおおお!? ぎっ、〈銀の鉄槌〉ぃ!!」

 

 

 ごがんっ!! と。現れた銀の鎧を纏った巨大な拳が、相手のドルムハーオス()の目前に振り下ろされることで、その攻撃を中止させる。

 

 

「おやぁ? まだまだ抗うと言うのですかぁ? くくっ。抵抗すればそれだけ、苦しむ時間が長くなると言うのにィ!!」

 

 

 …『組織』のボスの青年が何か言っているのだが、こっちはもうそれどころではない。つい数分前は頼れる相棒と思えた邪神の胸倉を──ちくしょう、掴む胸倉が無ェッ!!

 

 

「おぃいいっ!!? 何が起こってるのねぇ! 今何が起こってるんですかこれぇ!?」

 

『ぷええぇ???』

 

「処理落ちしてんじゃねェええええっっ!!!!」

 

 

 最早、半泣きになりながら僕は叫んだ。

 

 聞き間違いじゃなかったらあの人ドルムハーオスって言いましたよ!? 一言一句違わず言いましたよ!? あれがドルムだったとしたらこっちのドルムは一体なんなの!!

 

 

「くっく、私はこれでターンエンドしてあげましょう。精々、足掻くといいですよぉ!」

 

 

 ほんとにもう……! ほんとにもう!!

 

 色々と問いただしたいところだが、当のドルムは、全体的に幼児が書いたクレヨンの絵みたいになってしまっているし、状況も普通にまずいことに変わりはない……!

 えぇい、やってやろうじゃねえかよこの野郎!

 

 

「ああそうだ。ドルムハーオスが場に居る限り、全てのファイターは闇属性以外のユニットを召喚することは不可能となるので、お気をつ」

 

「普通にクソ厄介な効果持ってんじゃねぇダボ!!」

 

「えっ。急に口悪ぅ……」

 

 

 闇属性以外召喚出来ないだとお、クソッタレがァ……!!

 

 忌々しげに、手札を見る。今僕が使っているデッキは、カードショップでも売られているスタンダードな火属性デッキを主軸に、ドルムから受け取った闇属性を織り交ぜた物となっていた。

 

 その内の幾つかは、この状況を打開することが出来そうではある。しかし、闇属性のカードの殆どは『組織』の青年によるデッキ破壊や手札破壊によって墓地へと送られてしまっており、非常に拙い状況だ。

 

 手札の2枚は、どちらも火属性のカード。

 ターン開始のドローで、闇属性の──それも、あのドルムハーオスを除去出来る逆転の1枚を引かなければ、僕は負けてしまう。

 

 た、頼む……!

 

 

「ドロー…っ!!」

 

 

 力無く祈りながら、僕はデッキからカードを引いた。

 恐る恐る、それを見て──

 

 

「……………あっ。勝てるな」

 

「な、なにい…?」

 

 

 思わず漏れ出てしまった僕の言葉に、青年が眉根を顰める。

 い、いやいや。油断はいけないぞ、僕。……いやでも、これは…うん。

 

 僕は一旦、整理する為に、お互いの状況を確認した。

 

 僕のコアエネルギーは残り7点。手札は今し方引いたものを合わせて3枚。場のユニットは、〈アカツキ〉と、もう1体低コストの防衛持ちユニット。

 

 対して相手はコアエネルギー残り5点。手札はこちらと同じ3枚、場には(くだん)のドルムハーオスの他、〈光喰らう真淵竜〉と〈追従の呪影〉と〈狂気の信徒〉の、合計で4体。防衛持ちは〈狂気の信徒〉1体だけだ。

 

 ……うん、よし。

 

 

「──勝てるッ!!!」

 

「な、なにいィ……ッ!?」

 

 

 さっきとは違い、力強く僕が言ったことで、青年は今度こそ驚愕からその表情を崩した。

 

 

『──ユーキよ。もしや、()()をするのだな?』

 

 

 ──漸く立ち直ったらしい、調子を取り戻したドルムが僕に訊ねる。それに僕は、

 

 

「…あー。はい、うす。なんで、よろしくお願い……ッス」

 

『ねーぇーっ。他人行儀やめてよーう、我だってよく分かんないんだからさぁー!!』

 

 

 駄々を捏ねる子供の様に両腕を上下にブンブンと振るう邪神様なのだが……いやだって、ねぇ…?

 

 

「…──ふ、ふん! では、見せていただくとしましょうかあァ! この絶望的な状況を覆し、この私を打ち倒す、その顛末とやらをねえェ──ッ!」

 

 

 …僅かに怒りの混じった青年の声に引き戻される。

 ごほん、と。咳払いを挟んでから、僕は意識を切り替えた。

 

 

「言われなくとも、見せてやるよ! ──先ずはコストチャージ! 手札を1枚チャージゾーンに置いて、フルチャージ完了!!」

 

「ですが先も言ったとおり、私の場にドルムハーオスが存在する限り、闇以外のユニットを召喚することは不可能! 君も1体だけ闇のユニットをミステリアゾーンに控えさせている様ですが、その1体でこの状況をひっくり返すつもりですかぁ……?」

 

 

 青年の視線の先にあるのは、ここに来る前に行ったヤイトくんとのファイトでの決定打となった、〈死遊童者 ヘル・アンサス〉だ。

 しかし、ヘル・アンサスは味方ユニットを生贄にすることで得る高火力を売りとしたユニットであり、除去等の特殊な能力は有してはいない。

 

 この状況を打開する為に召喚する闇属性のユニット。それは、こいつだ──!

 

 

「僕が出すのはこいつだ。召喚っ、〈火狩(ひか)りの虚人(きょじん)〉!」

 

『デュア!』

 

 

 ──現れたのは、全身が影の様な何かで出来た、朧げな輪郭を持った、辛うじて人型をした小型ユニット。その戦力も1000/1と、ユニットとしては最低ランクも良いところだろう。

 

 

「は──ははは、あーっはっはっはァ!! な、何を出すかと思えば、なんて見窄らしい! そんなユニットを出して、一体何をしようと言うのですかぁ!?」

 

 

 嘲笑う、『組織』の青年。

 それに構わず、僕は効果処理へと移る。

 

 

「〈火狩りの虚人〉の【△】(場に出た時の)効果発動! 〈火狩りの虚人〉は場に出た時、他に火属性のユニットが居た場合、そのユニットとバトルする!」

 

「は、はぁ?」

 

 

 訝しげな表情を青年が見せた。やはり僕は、それに構わず続けていく。

 

 

「〈火狩りの虚人〉と、僕の場の火属性のユニット〈尽きぬ闘魂 レッドビースト〉をバトル! 〈火狩りの虚人〉は火属性ユニットとのバトル中に限り、戦力を+4000/+0される。〈レッドビースト〉の戦力は1000/1、バトルに負けた〈レッドビースト〉は破壊される!」

 

『──ジュワッ!』

 

『く、くそ…。こんなところで……!』

 

 

 一見すれば、僕の行為は、ただ無意味に自身のユニットを減らしてしまっただけの様に見えるだろう。

 だが、この()()()はここからだ──!

 

 

「破壊された〈レッドビースト〉の【▼】(破壊時)効果を発動! バトルに負けたことで破壊された時に限り、〈レッドビースト〉は疲弊状態で場に戻ることが可能だ!」

 

「──馬鹿が! 言ったはずですよぉ、ドルムハーオスがいる限り、闇属性以外のユニットは召喚出来ないと──!」

 

「出来ないのはあくまで『召喚』だ! 効果や能力による()()()()()は問題無く行える! 戻れ、〈レッドビースト〉!」

 

『まだだ…! まだ俺は終わっちゃいねえ!』

 

 

 バトルゾーンに再び現れる、赤い体毛の獣人型ユニット。

 に、

 

 

『デュア!』

 

 

 容赦無く〈火狩りの虚人〉が襲いかかる。

 

 

「〈火狩りの虚人〉の【◆】(永続)効果……。火属性ユニットが場に出た時、このユニットはそのユニットとバトル出来る…」

 

「むうっ!? まさか……」

 

「ああそうだ。この効果を、僕は任意の回数繰り返す」

 

 

 〈尽きぬ闘魂 レッドビースト〉や〈火狩りの虚人〉以外に、僕の場にはもう1体。自分の火属性ユニットが破壊される度、その戦力分強化される〈烈火の戦士 アカツキ〉が居る。

 最初は4000/1だった、決して高いとは言えないその戦力も、あっという間に15000/12。実に恐ろしい数値と化していた。

 

 

「ふん! 強化された〈アカツキ〉で私のコアエネルギーをゼロにする算段なのでしょうが、私の〈狂気の信徒〉は防衛持ちだ! 如何に高い戦力となろうと、攻撃が通らなければ意味が──」

 

 

 ……と。

 そこまで言って、青年は気付いたらしい。超高火力となった〈アカツキ〉と、僕の残り1枚となった手札を見て、どんどんとその顔から血の気を失わせていく。

 

 

「戦力、15000の火属性のユニット……まさか!?」

 

「そのまさかだよ。…呪文〈クリムゾン・インパクト〉を発動する!」

 

 

 呪文〈クリムゾン・インパクト〉。自分の場に戦力15000以上の火属性のユニットが居る場合に限り発動出来る呪文であり、その効果は至ってシンプルだ。

 その効果は──

 

 

「──火属性のユニット以外を、全て破壊だ!!」

 

 

 直後、紅蓮のエネルギーが吹き荒れ、全てを吹き飛ばした。

 残ったのは、超パワーとなった〈アカツキ〉と、疲弊状態の〈レッドビースト〉のみ。

 相手のユニットは一掃された。このまま〈アカツキ〉でコアエネルギーへ攻撃すれば、僕の勝ち……なのだが。

 

 

「──呪文〈死神の大鎌〉ッ。〈烈火の戦士 アカツキ〉を破壊する……ッ!」

 

 

 ズバッ、とアカツキの身体が切り裂かれ、あんなにも高い戦力を手にしていたにも関わらず、呆気なく火の戦士は墓地へと送られてしまう。

 

 

「はあ、はあ。…ええ、ええ。認めましょう。確かに君は私を追い詰めました。ですがそれだけです、それだけだ! 頼みの綱は失われ、手札もゼロ! 虎の子のミステリアゾーンのユニットたちの戦力では、どれも、この私のコアエネルギー5点を削り切ることは不可能だ!!」

 

「……ミステリアゾーンから、〈火砕竜(かさいりゅう)ボルカニクス〉を召喚する」

 

 

 あれだけ存在感を放っていた邪神を除去されたことで、青年も流石に焦りを覚えたのだろう。やたらと豪華絢爛なハンカチで、額に浮き出た汗を拭いながら叫ぶ青年に対し、僕は静かに、ミステリアゾーンから、1体のモンスターを召喚した。

 

 現れる、火山を背負った四足の竜。周囲の景色を陽炎で歪める〈ボルカニクス〉は、その巨躯も含めて頼もしい姿をしているが、実際の戦力は10000/4。

 

 僅かに1点、届かない。

 

 

『──ならば強化を施すまでよ』

 

 

 …と、そこでドルムが唐突に声を発した。

 宙を泳ぐ様にして移動すると、今し方召喚した〈ボルカニクス〉に向けて問いかける。

 

 

『──竜よ。力が、欲しいか…?』

 

 

 それは、悪魔の甘言。

 誘い、捉え、堕落させ、破滅へ導く、魔の者の言葉──そう言ったものからは遠く離れた、善性を持った問いかけ。

 

 

『ああ……力が欲しい。アイツは、オレのトモダチ(ユーキ)のトモダチを傷付けた奴の、親玉なんだろ? …だったら、力が欲しい。アイツをぶっ飛ばせるだけの力が!』

 

『よかろう。ならばくれてやる…!!』

 

 

 ドルムがその腕を掲げ、拳をゆっくりと握る。…変化は直ぐに現れた。靄の様な暗い闇が生み出され、〈ボルカニクス〉の周囲を取り囲む。やがてそれはその身体を完全に飲み込んだ。

 

 

『──〝闇に堕ちろ(オルタグロウ)〟!』

 

 

 ──弾ける様にして、闇が晴れる。

 現れたのは、暗い色の結晶を身体の至る所から生やし、背中の火山から吹き出す黒煙と雷雲により、フィールドに擬似的に夜を作り出す、四足の竜。全体的な色調も、溶岩をモチーフとした赤色から、薄暗い、黒や鈍色に変換されていた。

 

 

『は──ははは。分かる、分かるぞ。これが、闇の力かァ!』

 

 

 姿形の変容した〈ボルカニクス〉の声が辺りに響く。

 ──ユニットがファイトの最中、変化する。普通ではあり得ないその現象を前にして、青年は、ただ呆然と呟いた。

 

 

「──ありえない」

 

 

 …刹那、激情に呑まれた怒号が響く。

 

 

「ありえない、ありえなァい! な、なんだそれは。なんだその力は!! や、()()()()()()()()()だと!? そんな筈はない。闇とは! 全てを呑み込み、破壊する力だ。絶対的な支配だ!! そんなっ、こんなことが……!?」

 

 

 今し方、ドルムの権能によって文字通り生まれ変わった〈ボルカニクス〉…改め、〈禍災竜(かさいりゅう)ボルカニュクス〉。その属性は、元々の火属性に闇が加わった、複合属性。現在のミステリオマキアのカード群には存在しない、新たな概念だ。

 

 

『…──闇が脅威であり、恐怖を内包した領域として存在していることは否定せん』

 

 

 青年の糾弾じみた悲鳴にドルムは、しかし静かに受け止める。ドルム自身、闇を操る──もしかすれば()()()()()()()()なのかもしれないのに、それでも青年のその言葉を否定することはなかった。

 

 一呼吸挟み、続ける。

 

 

『だがそれでも。闇とは世界に安寧を齎すものなのだ。生命に寄り添う揺籠であるのも、また事実だ!』

 

「──〈ボルカニュクス〉でコアエネルギーにアタック! 【▶︎】(攻撃時)効果、自分の墓地にあるカードを3枚まで、デッキのボトムにランダムな順番で戻す。こうして戻した火属性のカード1枚につき、戦力を+2000/+1分、上昇させる。…これで十分に、射程圏内だ!」

 

「ぐっ、くそ……!? だ、だが私にはまだ手札が残っている。どうとでも──」

 

「──そして、デッキに戻したカードが闇属性だった場合。戻した枚数分、ランダムに相手の手札を破壊する!」

 

 

 は、と。今度こそ、青年の呼吸が止まる。

 デッキに戻した闇属性のカードは、合計で2枚。自身が握っていた何かしらの対処手段を失ったことで、彼は、だらりと全身から力を失った。

 

 

「馬鹿な……こんなことが…」

 

『──愚かしくも1つの側面しか見ず、それで全てを知ったつもりとなり。闇を、我らを。破壊と支配の力としてのみ扱った時点で、貴様は負けていたのだ。──ユーキ!』

 

「ああ──これで、終わらせる! 頼んだよ、〈ボルカニュクス〉! いっけェ──ッ!」

 

『必殺! ボルケィノ・スマ──ァッシュ!!』

 

「この私が……この、私がぁああああああっ!!」

 

 

 巨竜の一撃が炸裂する。

 勝敗は、ここに決した。




ちゃんとTCGっぽくできただろうか。
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