「彼女たち」の宇宙船が着陸した場所の近くに、政府は突貫工事で特別な建物を建設した。建物は調査とコミュニケーションのための専用施設であり、「彼女たち」を受け入れるための準備が整えられていた。また、宇宙船自体は、外部からの視線や干渉を避けるために工事用の養生シートで覆われていた。
建物内の施設は高度なセキュリティを備え、「彼女たち」が安全に滞在できるように設計されていた。内部には、日本側の研究室や会議室、「彼女たち」のために休息ができる居住スペースも用意されている。さらに、「彼女たち」が地球の文明を体験しやすいように、日常的な設備も整えられていた。
専用施設の周りには陸上自衛隊が配備され、厳重な警備体制を敷いている。宇宙船と施設の周囲を何重にも鉄柵と鉄条網で覆い、入口にはチェックポイントが設置され、出入りする全ての人々が厳重に確認される。見回りも含めた見張りは24時間体制で警戒を続け、日本国民が異星からの訪問者である「彼女たち」と接触することによるリスクを最低限に抑えるように尽力されていた。
施設の周囲には連日多くのマスコミが集まっている。マスコミは自衛隊の警戒区域のギリギリに陣取り、カメラマンは望遠レンズを使って施設の隅から隅までを撮影して様子をうかがっていた。政府が「彼女たち」の情報を統制していることでマスコミはあらゆる手段で情報を得ようと躍起になっているのだ。
一方、施設の内部では「彼女たち」との交流が着実に進んでいた。宇宙船の到来から数週間が経ち、「彼女たち」がその高い言語習得能力によって日本語を日常会話程度にはマスターしたことで、対話はよりスムーズになっていた。
対話は「彼女たち」の代表的な人物と目されるアリシアという女性体を中心として行なわれている。アリシアは長い銀髪を持ち、瞳は深い青色だ。その姿はまるで人間のようだが、どこか異星のオーラを感じさせる美しさがあった。彼女の容姿は優雅でありながらも、知的な雰囲気を醸し出している。
アリシアと主に対話を行なっているのは、「彼女たち」と初めて接触した調査チームのリーダーであった佐藤一郎だ。佐藤は、東京大学で宇宙生物学を専攻し、異星の生命体に関する研究を続けている人物だ。異星生命体との接触に備えるための特別プロジェクトにも参加した実績があり、地球外生命体の生物学的リスク評価の専門家としても活動していた。
佐藤は、「彼女たち」の宇宙船の到来により急きょ作られた総務省の緊急対策室の室長として任命され、「彼女たち」と初めて接触を果たした。さらに、そこで握手を交わしたことで「彼女たち」からも友好的な存在として認められており、「彼女たち」から指名されるかたちで対話を行なっている。
専用施設内の研究室。その一角に設けられた会議スペースで、佐藤一郎と「彼女たち」のアリシアは向かい合って座っていた。テーブルの上には、佐藤たち日本側がこれまでに集めたデータと解析結果が並べられている。
「アリシアさん、今日もお時間をいただきありがとうございます」
佐藤は礼儀正しく頭を下げて挨拶をした。
「どういたしまして、佐藤さん」
アリシアもまた微笑みながら答える。彼女の声は柔らかく、しかしその中には強い意志を感じさせる響きがあった。
佐藤とアリシアはすでに何度も対話を重ねており、気まずさのようなものは少ない。佐藤は各所からの報告書の1つを手に取り、アリシアの目を見ながら質問を行う。
「僕たちは、あなた方の技術についてもっと知りたいと考えています。ですが、その多くが失われた技術、ロストテクノロジーであると聞きました。具体的にはどういうことなのでしょうか?」
佐藤の問いにアリシアは少し悲しげな表情を浮かべる。
「そうですね。私たちの宇宙船の多くの技術は、私たちの祖先が作り上げたものです。私たちの世代ではその技術を完全に理解することはできず、部分的にしか使用することはできません。そのため、詳細な説明ができない部分も多いのです」
「なるほど」
佐藤は頷き、言葉を続ける。
「それでも、あなた方が持っている知識は僕たちにとって非常に価値があります。例えば、あなた方の医療技術についてもっと教えていただけますか?」
アリシアは宇宙船から持ち出した端末のスクリーンを操作し、「彼女たち」が使っている医療装置の図面を表示する。
「これは私たちの医療装置の一例です。この装置は、非常に短時間で傷や病気を治療することができます。しかし、この技術もまた完全には理解しているわけではありません。基本的な原理については共有できると思いますが、詳細な再現は難しいかもしれません」
佐藤はそのアリシアの言葉を一語一句逃さぬようにメモを取りながら熱心に聞く。報告書に記載することはもちろんだが、彼の知的好奇心がそうさせているのだ。
「アリシアさんたちの協力が得られるだけでも大きな一歩です。僕たちがこの技術を学び、応用するためにはアリシアさんたちの協力が必要です。ありがとうございます、アリシアさん」
「お互いに協力することが、共存のために必要な鍵だと私たちは信じていますから。私たちもあなた方の文化や技術についてもっと知りたいです」
その後も佐藤とアリシアの対話は続き、お互いの文化や技術について深く語り合う。2人の間には短い期間ながら信頼が芽生えており、未来に向けての協力と共存の第一歩が踏み出されていることを確信させていた。