パルミアへ歩みを進めながら男の動向をうかがうべく振り返る。
男は去っておらず、なぜかこちらを凝視している。もしや今までの話は全て演技で魔族を知っていて、王都の衛兵と挟み撃ちにでもする気なのだろうか
強さと言い行動をといい今まで遭遇したどの人間とも違う。本当に何を考えているかわからない。男の話では自分に匹敵するような冒険者はそういないだろう、とのことだ。他にいないわけではないというのは気になるし怖い話だがそう簡単には鉢合わせないだろう。話を信じるのなら王都にいる人間は男より確実に弱い。多分。弱いことが確定すれば片っ端から”服従させる魔法”を使い不死の軍勢を再び作り出すのもいいかもしれない。そしてどうにかして元の土地に戻りあの憎き敵である魔法使いフリーレンを殺すのだ。
思いを新たにするアウラだったが男は相変わらず先ほどの場所でこちらを眺めている。目つきは柔らかくなったが。それどころか手まで振っている。
(早くどこか行きなさいよ!)
パルミアに近づくにつれ歩幅を狭め歩く速度を落としたアウラだったが、だんだんと門に近づいてしまっている。確かに都の人間を支配しようか考えたが無策で突撃するつもりはない。本当に早くどっか行ってくれ。
「おーい どうしたんだ嬢ちゃん?」
難しい表情で少しづつ歩くアウラの姿に
もしかするとあの衛兵も男と同じく魔族を知らず敵対しないかもしれない。そんな望みを託しパルミアへ歩いて行った。
「この辺りでは見たことない出で立ちだからな。気になって来たんだ。いったいどうしたんだ?顔真っ青だぞ?」
王都に単独でやってくる存在は大抵は冒険者だ。商隊、王侯貴族なら護衛がいる。そしてこの冒険者という輩は善良な者から、街中に凶悪な分裂系モンスターやエイリアンを解き放ったり核爆弾で王都そのものを吹き飛ばすという最悪な手合いまで多岐にわたる。
そういった招かれざる客を王都に入れないようにするのが仕事である歴戦のガードがアウラに声をかけた。
(あの男嘘ついたの…?この衛兵も大概じゃない!)
アウラから見た衛兵の練度はあの男よりかは確実に弱い。しかし彼と戦闘が成立するであろう力量である。つまりアウラに勝ち目はない相手だ。
(勇者とか将軍とかそういう立ち位置の人間が持つ力じゃないの!)
装備も雰囲気も一般兵のそれである。以前アウラが”服従させる魔法”で支配したただの取るに足らない騎士と大差ない。だが魔力量などからはそんな軟弱な存在だとは思わせなかった。
ふと男の言葉を思い出す。自分に匹敵するような冒険者はそういないだろう。
冒険者”は”
早速例外を引いてしまい憤慨するアウラだったが、今の衛兵の態度から一つの考えが浮かんだ。
(人間は集団で行動し連携するために考えを共有する。特に騎士団といったものは連携を重視している…つまり魔族の私を見ても特に態度を変えないということは、この王都の衛兵は魔族に対して邪魔をするものはいない?)
以前見た人間の衛兵と言えば、こちらを視認するなり「魔族が来たぞ!」「皮だけ人に似せた畜生め!」「迎撃準備!急げ!」と憎悪や恐怖、あるいは戦意を向けてきた。
しかしこの衛兵からはそれがない。力の差を理解しているのかそうでないのか。
「最近は特にバカな冒険者が多くてな…毎度毎度核で街を壊滅させられては困るから検問みたいなことをしてたんだが、まあ嬢ちゃんはそういうやつじゃなさそうだ。用があるんだろ?案内するからついてきてくれ」
「ええ…わかったわ」
王都へ入ることが決定事項となっている。計画変更を余儀なくされた原因である男を動向を伺おうと振り返れば、すでに男の姿はなかった。
(本当になんだったのよ…あの男…)
門をくぐるとそこには王都の名に恥じぬ栄えた街が広がっていた。住人や冒険者が語り合い、吟遊詩人が詩を歌い、商人は活発に商いを行っている。
「ようこそ、王都パルミアへ。嬢ちゃんは遠くからきた旅の魔法使いとかか?まあいずれにせよ、俺たちガードの仕事を増やす真似だけはしてくれるなよ」
そう言って衛兵、ガードは去っていった。
だがアウラの意識は話の途中から別の物へと向けられていた。それは、
(なにあれ?魔物よね?)
語り合っている集団の中には人間やエルフにドワーフがいる。エルフだと思っている種族はエレアと呼ぶらしいがそこはどうでもいい。アウラが知る人間の定義を外れた存在が平気で人間の集団に混じっているのだ。同じ言語を介して楽しく談笑している。
羽の生えた小さな人間から巨大なゴーレム、ベースは人型だが体の部位が複数個ある
強さはピンからキリまで様々だ。最初出会った男の話は正しいのか、推定冒険者とみられる彼らはあそこまでの絶望的な魔力量は感じない。それでもアウラに迫る実力を持つ者も少なからずいるようだ。
目が覚めてから度重なる意味不明な展開にさすがの大魔族も困惑である。たまらず頭を押さえた。
(…もうなんでもいいわ)
全てを諦めた表情を浮かべるアウラ。やはりというべきか、こちらを認識しても敵対行動をとらない人間と人間?たちにこの街の人間が作り出した魔法でも見てやろう。人間が怒り出すようなことをしなければあのガードたちに襲われることはないはずだ、と街の散策を決めた。
街の物色を始めたアウラは人間たちから好奇の目に晒されていた。アウラは、いやほとんどの魔族は見た目が整った人間の姿をしている。パルミアの人々からすればアウラは大きな角を生やし、露出の多い服を着た人間の美少女だ。
――なんだあの子?すげえ美人だな
――大きな角。頭装備とかできないんじゃないか?
――外見年齢の割にかなり魔力量多いな…見た目通りの年齢じゃないのか?
――ロリババアは最高でおじゃるな!
いろいろ好き放題言われているがアウラは目障りな虫か何かの鳴き声だと思うことにした。奇しくも魔族を憎む者たちが魔族の話す言語へ抱くイメージと同じである。
街を歩くうちにいくつかの魔法を行使している場面に遭遇した。
なんだかんだでパルミア観光を満喫していたアウラ。人間を殺すなどの他の人間を怒らせる行為をすればガードが飛んできて殺されるだろうからそれらの行為を自粛していたため、特に何か問題は起きていなかった。
そう、いなかった、だ。
「こんにちは~ 少しいいかな?」
薄い笑みを浮かべた金髪の男。服装と帯剣しているのを見るに冒険者だろう。力量はそこそこ、アウラには敵わない。話のネタにする者はいたが、こちらに関わってくる者はいなかったため対応に困る。
「何の用?」
面倒だし早くどっかいけ。見たこともない魔法を多数見て少しだけテンションが上がっていたアウラは水を差されあまりいい気分ではなかった。
「いや~キョロキョロ辺りを見回していたから気になってね。初めてパルミアに来たんでしょ?どう?良ければ案内するけど」
いい店も知ってるよ、と笑う金髪男に絡まれるアウラ。周りの女性からアウラに同情的な視線を向けられていた。この金髪、パルミアで有名なナンパ師で、女性冒険者からは一部を除き目の敵にされている。男性冒険者からはモテる男への嫉妬と憎悪の対象とされている。ちなみに港町にいる女たらしのろくでなしに弟子入りしているとの噂もあるそうだ。
「必要ない。結構よ」
本当に面倒で殺してやろうか考えたが、あのガードたちが向かってくることを考えたらやめておいた方が賢明だろう。本当に人間の敷いた法や規則といったものは鬱陶しい。
「街の構造知らないまま歩くの苦労するよ~?何か探すなら一人よりも二人、それも街をちゃんと知ってる人がいたほうがいいでしょ」
そう言って肩に手をのせてきた。気持ち悪い。触らないでほしい。そしてこの金髪には店か、なにか物品を探しているように見えるようだ。実際は見たこともない魔法を探しているのだが。代わりにコイツに何か魔法を見せてもらおうかと考えるも、金髪の魔力は魔法使いの魔力の形ではなかった。恐らく魔法を一切使わず腰に下げる剣のみで戦うようだ。何か知らない魔法を見せてくれるならまだコイツにも有用性が生まれたのだが。
「本当に必要ないの。目障りだから消えて」
「おおっと、辛辣だね。案内は本当に必要ないと?」
「そう言ってるでしょ」
しつこい。この一言に尽きる。”服従させる魔法”を使って支配しどこかに行かせるべきだろうか。”服従させる魔法”で命令することが人間たちにとってまずいことかもしれないので効果を説明し、離れるように言うのだ。こんな使い方などしたくないが仕方あるまい。
「これ以上関わってくるならあなたを殺すわ この”服従させる魔法”で」
嘘である。なぜなら殺したら最終的に自分が死ぬから。
「聞いたことない魔法だね。その天秤を使うのかい?」
「そうよ。あなたの魂と私の魂を天秤に載せ魔力がより多い方が少ない方を言いなりにできる」
「殺すってことは自殺でもさせると?へえ、面白い魔法だね」
それでも金髪野郎は引かなかった。アウラを外見通りの少女としか思っていないか、魔法は虚勢を張っていると思われているか。両方かもしれない。イライラが募る中、金髪はさらに打って出た。
「それにしても綺麗な天秤だね…アーティファクトかな?よく見せてくれないかい?」
そう言って金髪馬鹿は服従の天秤に触った。触ってしまった。魔族の誇りである魔法を象徴し行使するための道具であるモノにあろうことか人間、こちらをなめ腐っている存在が触り汚そうとしている。許してはおけなかった。
「
アウラは魔法を反射で使った。
ふよふよと両名の体から気体のようなものが飛び出てくる。
「これが…魂…すごいな」
まだ他人事のように振舞う愚か者。やがて飛び出した魂は天秤に載り、
*カチャリ*
アウラの魂を載せた方へと天秤が勢いよく傾いた。
「は?」
この馬鹿はアウラをなめていた。そこそこ名の売れている冒険者で女性にもモテていると考えており、この少女は冒険者になりたてか貴族か何かの令嬢で偶然入手したアーティファクトか何かだろう。仮に説明された効果が本物でも自分に勝てるわけがないと踏んでいた。魔法は使わないが
まあ実際はナンパした後またすぐにほかの女性を口説き始めるので女性からは基本的に目の敵にされている。今回の相手は魔法に長けた500年以上生きた存在なのだ。勝ち目はなかった。
「首を斬って自害なさい!」
魔法を使ったことが反射ならこれも反射、ルーティンと言えるだろう。手駒である不死の軍勢が壊滅させられた時にはまた手駒を増やすために、支配してすぐ首切って不死の軍勢の一員に、といったことをしていた。なので癖が出たというやつだ。
剣を抜き自らの首にあてがう金髪。「は?えっちょっ」と無様な醜態を晒していた。いい気味だ。
そして金髪の冒険者は首を斬って死んだ。だが、それと同時にアウラは正気に戻った。
首を切り落とし、地面に落ちるまでのほんの数秒。その瞬間に思い出してしまった。人間を殺した。つまり周りの人間も騒ぎ出し、やってきたガードに殺さ――
――よくやった!
――いいぞ!
――ブラボー!
――すげえ、ほんとに自分で首ちょんぱしたぜ
――あの浮気野郎、もう2,3回くらい死ねばいいのに
確かに周りの人間たちは騒ぎ出したが、予想していたものと違う。以前いたところでは目の前で自害させた場合、残った周りの人間は激昂するか許しを乞い始めていたが、こんな態度は初めてである。
唖然とするアウラだが、歓声を上げる冒険者を押しのけるようにやってきた人間に恐怖することになる。
「はい通してくれ、どうも。何の騒ぎだこりゃ」
ガード。パルミアを守る衛兵にしてアウラが勝てないと思わせる実力を持つ人間。
殺されたくないアウラがとる選択は一つだ。
「人間殺してごめんなさい!もうしないから許して!」
命乞い再び。もうしない気はないが、とりあえずガードに睨まれるパルミア内ではやることはないと誓えるだろう。余談だが、この時アウラが行っている姿勢は過去に彼女と対峙した人間が行った命乞いの姿勢、深い謝罪の意味もあるという伝統的なポーズDOGEZAである。
「ちょいちょい。流石に取って食おうとか思ってないって。決闘はじめたとかストリートパフォーマンスしてるわけでもなく盛り上がってるから、何か面倒ごとがないか様子を見に来ただけだ。あと冒険者同士のいざこざは俺らガードは不干渉だ」
「へ?」
「この街のルールでは…いや、実物見せた方が早いか。ついてこい」
「ええ…?」
いわれるがままガードについていけば、彼はある看板を指差していた。
「あれがここのルールだ。…字が読めないなら読み上げるが」
看板には知らない文字だらけだったが、どういう訳か内容は理解することができた。
この街の消費税は0%だ。
この街では殺人が許される。
「…つまり人を殺しても私は殺されないのね?」
「そうだが…まあ許されるだけで推奨はしてないぞ。あと街に正式に登録されてる人間、つまり市民、店主、俺たちガード、あと国のお偉いさん方とか殺りまくったら流石に危険人物として指名手配されて、ガードのお世話になるかもな」
特定の人間以外なら殺しても問題なし、問題がある人間を避ければガードは敵にならない。このことが知れてアウラは安堵した。この場もとりあえず不問として殺されないようだ。あとガードは頼まれても攻撃しないだろう。
「そう…よかったわ」
「おう、…んで、その後ろに引き連れてる首無し野郎はなんだ?あんたのペットか?」
ガードに言われるまで気づかなかった。気にする余裕がなかったともいう。首をはねた冒険者がずっと一行の後をついてきていたのだ。
「ペットって何?」
「あー、まあいっぱい呼び名はあるが、仲間、下僕、部下、奴隷、とにかくコイツの命令権とか持ってるならコイツはあんたのペットってことになる」
「じゃあ私のペットね。これ」
「そうか。ペットの不始末は飼い主の不始末。コイツがなにか問題を起こしたらあんたの責任になるから注意しろよ。てかあんた結構この辺りのことあまり知らないようだな…ここで俺が全部説明するのも手間だし、ほかの仕事もある。バーでも行ってそこで他の冒険者に聞くなり情報を仕入れたらどうだ?」
ガードの言葉にアウラは納得せざるを得なかった。アウラが知る人間の習性についての知識とここの街の人間はどうにも違うものしかないように感じる。バーとやらで人間たちの話を聞くだけでも知識は増えるだろう。今は基本的にアウラにとって都合の良い規則が多いように見えるが、どこかで致命的なミスを犯しても遅い。情報収集は急務だろう。それに元の場所へ戻る手がかりも見つかるかもしれない。そもそもここがここがどこなのかすらもハッキリしてないのだ。
アウラはバーに向かうことにした。
「止まってください」
バーの建物入り口でアウラは足止めを食らっていた。給仕服を着た女性が入店を拒否したのである。
「なぜ入っちゃいけないのかしら」
あの後ガードにバーの位置を教えてもらい、あそこの店なら一見さんでも問題ない。とのことだ。一見さんがどういう意味か分からなかったがとりあえず入れるのだろうと来たらこれである。
「お連れの方。あなたのペットですか?首から血が滴ってます。血の清掃はとても面倒なのでちゃんと拭いて止血してからお越しください」
渡された雑巾をそのまま首なしに渡し、血を拭き取らせた。血はだいぶ前に止まっている。
「これでいい?」
「ええ。ようこそいらっしゃいませ」
店の中はなかなかに騒がしかった。
――おお!あんときの嬢ちゃんじゃねえか!本当に命令できるとはすげえな!
――首ないのに歩いてる…
――カオスシェイプとか遺伝子合成で頭が増えるのは見たことあるが、頭減らすって斬新だな!
――あの子かわいいよな…ツノ触らせてくれないかな
店の入店時こそアウラと首無しを注目したが、やがてすぐに興味を失って各々の会話へと戻っていった。
《ガード》みんなの頼れる衛兵。町に現れたモンスターや犯罪者をミンチにすべく勤務している。配達依頼では対象となる町の住人の大まかな位置を教えてくれる。死んでリスポーンするとレベルが上がる。激ヤバ冒険者との”遊び”によって本人の意思とは別に強くなってしまった。核一発では大した傷にならないほどに強くなったがそれはそれとして建物は消し飛ぶので核は嫌い。
《他の冒険者》Elonaではプレイヤー以外の冒険者も活動している。町で出会う、自宅に来訪するといった形で交流が可能。物々交換や護衛に雇うこともできる。交流を深めると仲間に誘える。
《町の人間》市街マップには住人などの友好的、中立的NPCが配置されている。話しかけれれる友好NPC(市民、ガード、店主、ネームドNPC)は攻撃するとカルマがマイナスされ、殺害するとさらにカルマがマイナスされる。
話しかけられない中立NPC(傭兵、乞食、吟遊詩人、町の子供等)は攻撃しても敵対はするがカルマ低下は起こらない。つまり殺しても無罪。