バーに入店したアウラ。特に会話する気はない。ここにいる人間は今まで出会った人間たちとは返ってくる反応がまるで違うことから、どんな行動が人間を怒らせるか分からなかった。この街における人間の常識というモノを知る必要があったのだ。
普段のアウラなら、人間?あんな弱い生き物なんて知ったこっちゃないわ。と言っていたところだが、どういう訳か街のガードを筆頭にアウラ相手に普通に戦闘が成立、あるいは勝てないと感じさせるような存在までいるのだ。下手をすれば死ぬ可能性が十分にある。それだけでも生存を優先するアウラは情報収集の必要があると行動したのだ。と言ってもバーで騒ぐ冒険者などの会話を盗み聞くだけだが。
店員に促され席に着く。小さなテーブル席で対面には首無しが座った。
――最近どうだい?
――あまり良くないな。出費が多くて、金がない…
――エーテル抗体巻き上げてやるっつってカジノに消えたあいつはどうなった?
――さあ。ここにきて自慢してこないなら大負けして死んだんだろ
エーテル抗体というものは分からないが、特に気になる情報はない。
アウラは人がたくさんいるから、ガードに勧められたからといった理由でバーを訪れたが、こうした場所は大抵たわいもない会話を楽しむ場であるためアウラが望む情報は得られないだろう。わざわざ常識と言われることを話すことはない。なので話しかけに行った方がいいのだが何があるかわからないということがアウラの足を引き留めたのだ。
――ネフィアでいい武器拾ったんだ…なんか持ってると悪寒がするが、すごい切れ味なんだぜ?
――それ呪われてるだろ…解呪の巻物余ってるし、使ってくれよ
――いや、なんかこの感覚が何だか気持ちいいんだ…このままでいい…
――何恍惚としてんだコイツきっしょ!
ワイワイ、がやがや。騒がしく話す冒険者たちの話からはお目当ての情報は出てこない。折角来たのだがこれ以上は時間の無駄か。そう思えてきたアウラだったが、気になる単語を耳にした。
――前いた街で神が降臨して滅茶苦茶になったんだ…
神。アウラが知る単語の中でもいい印象はない。なぜなら、
(魔族には使えない女神の魔法を作り、人間の聖職者と呼ばれるものに魔法を与え、人間にあがめられる存在…)
魔族に敵対し戦闘を仕掛ける者の中で聖職者がいる。彼らは女神の魔法を使い攻撃や味方の治療まで行うのだ。攻撃系等のモノは術式が一般魔法や魔族の魔法と根本的に違うため対策が難しい。治癒は言わずもがな。殺しきらなければ戦線復帰されるのだ。厄介極まりない。今のアウラなら戦闘になる前に”服従させる魔法”でどうにでもなるが。
過去に聖職者を殺し、彼らの持つ聖典とやらを読んでみたが、解読はできず女神の魔法は人間側が使う面倒な魔法。そんな認識だった。
だが、この冒険者から何か有益な情報を聞けるかもしれない。
アウラは冒険者の話に耳を傾けた。
――今の仕事楽だわ、とか言って笑ってたのに一体何があったんだよ?
――聞いてくれよ…あれはルミエストに行った時のことだ…ノイエルから依頼の物品と交易品をルミエストに運んでいたんだ…いや、納品自体は問題は起きなかった。その後の出来事、あの宴会に出ないでさっさと荷物まとめて出発すればよかったのによ…
この男は冒険者となってそこそこ経っている。駆け出しを卒業した中堅、人によってはベテランと呼ばれるような年数活動している冒険者だ。だが、彼には戦闘の技能はそこまでなかった。魑魅魍魎が跋扈するティリスの地にて戦闘能力がないのは致命的な気がしなくもないが、逞しく生きていた。
そんな華やかとは言い難い冒険者稼業を続ける中、彼は偶然二つの強力な装備品を入手する。
それは、
戦闘はからっきしだが、それなりに足の速さには自信があった彼は、これら二つの装備品を使い配達依頼や交易品の取引によって稼ぐことにしたのだ。雷雨や雪に阻まれず必ず荷物を届ける彼は運び屋としての地位を確立していった。贅沢する余裕ができた彼は酒場などで気前良く振舞っていたので有名になっていたのだ。そんな矢先に事件は起きた。
配達と交易商との取引が終わり次の街に出発しようとした時に彼は男に声をかけられた。
「なあ運び屋さん。これから一杯どうだい?そこの酒場で宴会開くんだよ。調子いいそうじゃないか。参加しないかい?」
特に金は要らん。駄賃は肴になる面白い話で結構だ。そういう主催者の男の話に彼は乗った。
「今は依頼を受けてないから急ぎの用はない。参加するよ」
「お、いいねそう来なくっちゃ。会場はあそこの酒場だ、先に行っててくれ。俺はほかの参加者を誘うからよ」
そうしてたどり着いた宴会会場。すでに到着した冒険者で賑わっていた。
「おっ!運び屋!ちょうどお前の話をしてたとこだ。お前の異名と言えば万年新人とか駆け出し界のベテランとかだったが、出世したよなぁ。儲かってるんだろ?」
「おう、それはもう儲かってる。やっと俺の時代が来たってことだ。あと俺の異名どうにかなんないのかよ。正式なものがあるんだぜ?」
こうして彼も宴会に参加した。ほどなくして主催者が戻ってきて乾杯が行われ、盛り上がりはピークに達した。宴会芸の火吹き芸を披露する者や下手な演奏をした冒険者に集団で投石したり、入手したお宝を自慢したりなど和やかな雰囲気で会は進行した。そんなころには最初から飲んでいた参加者たちはだいぶ出来上がっており、酔ってほかの参加者に絡みだしたり、いびきをかいて寝だしたりなどしていた。そんな中一人の泥酔した女性冒険者が「うわーッみんなが私をいじめるんだー!私は鳥になりまーす!」そんな意味不明の言動をしたのち、酒場から飛び出した。
何言ってんだアイツと爆笑する者、何かしでかすだろうし見てやろうぜと面白がって女性についていく者など様々だ。
そして運び屋と呼ばれる男はついていくことを選択した。宴会芸よりも面白いものが見られるだろうと思ったのだ。
「あ゛ー叫びすぎてのど痛い…」
彼が一団に追いつく頃には、ひとしきり暴れた後なのかペースダウンした女性の姿があった。
「のど乾いた…何か飲み物を…」
そう言って女性はフラフラと街の噴水へ歩いていく。そして、水をがぶ飲みし始めたのだ。
「前俺も飲んだことあるが、エイリアンに寄生されて大変だったな…」
彼女を追ってきた一団のとある男が呟いた。周りの目が同情的になり硫酸入りの瓶を渡されるも
「大丈夫だ。だいぶ前に火炎瓶飲んで退治してる」
と返答した。皆一安心である。と、ここで一団はあることに気がついた。噴水の水をがぶ飲みしていた女性の動きが止まったのだ。この男のように何か悪いものでも飲んだか、それこそエイリアンに寄生されたのか。
一団に緊張が走る。固唾をのんで見守っていれば、――
冒険者は狂嬉して叫んだ「機械のマニ!!!」
「よくぞ呼んだ。私を崇め称える権利をやろう」
イルヴァの大地にて崇められる神々のうちの一柱、機械のマニが信徒の願いに応じ、降臨した。
「あれどういうことだ…?何が起きてんだだよ」
「アイツは恐らく願いのチャンスを引き当てたんだ…!」
願いとは井戸や噴水などの水を飲んだ時に極低確率で願いの女神との直通回線が繋がって好きなものを願えば叶うという夢のような代物。ただし確率が低く多くの冒険者は伝聞でしか存在を知らず、一部は与太話と思っているものもいるくらいだ。それに多くの井戸、噴水は水質汚染が深刻で先ほどの男のようなエイリアンに寄生されたりどこから飛び出してきたのかモンスターが出現したりなどあまり試したいと思えるものでもなかった。
「マニ様ぁ…捧げた料理…たべてくれてますかぁ?」
「ああ。機械の身にとって食事というものは必要ない機能だが、嗜好品としてお前の作った料理はなかなかに良いものだろう」
畏れ多くも微笑ましい神と信者の会話。料理スキルに一番の自信を持っていた信者の女性は至高の神からの賞賛の言葉に歓喜した。
この後も近況の報告であったり冒険に関する愚痴などおよそ神に対してする話ではなかったが、当人と当神が普通にしている以上問題はないのだろう。特別敬虔な信者なのだろうか。ここに神を崇め倒そうとする彼女以外のマニ信者はおらず、また自身の信仰する神以外の神の存在を認めない超が付くレベルの過激派と呼ばれるようなマニ以外の神の信者がいないことから、なんというか有名人と出会った一般人という空気感であった。
このまま神と信者の会話が緩やかになされていくと思われた矢先、早速雲行きが怪しくなる出来事が起きた。ペットの話題となったときである。
「友達が賜ったほかの神様の下僕が強いんですよぉ…私も賜ったアンドロイドもすごいって言おうとしたけどすぐにいいとこ挙げられなくてぇ…」
この場にほかのマニ信者がいなくてよかったと確信できる話である。普通の信徒なら頭をひっぱたいて謝罪させていた。狂信者なら殺して黙らせていただろう。
早くも不穏な空気を漂わせ始めた神と信者の会話に一部の冒険者は逃げ出した。のちの展開を知っている者からすればとても賢い判断だと言えるだろう。
「あと最近ネフィアに行かないから使えるようになったマニ分解術が使えないんですぅ…友達が使うスキルはどこでも使えて羨ましいんですよぉ…」
やりやがったコイツ。ついにほぼ直接的な侮辱をしたのだ。まあ当人は神の恩恵であるスキルを使えなくて信徒として寂しい、とかなのだろうが、言い方が悪すぎた。他の冒険者との会話なら、アハハ…そうかそうか…なら、私の信ずる神に改宗しないかい?と同情からナチュラルに勧誘に入るだろう。
酔いが回り醜態を見せる女性にマニ神は、
「少し頭を冷やせ。お前がいずれ機械の体を得るときには酒に酔わないように調整してやる」
そう言って姿を消した。
まあそうなるわなという不敬な言動だった。神が天に還る程とは。泣き出した女性をよそに流石にまずいだろう、自分の信仰する神に対してだったらちょっと正気が保てたか怪しいとかいろいろ議論する一団であったが、エイリアンに寄生されていたという男が空を指差して口を開いた。
「なんだあれ…?」
それは天から降り注ぐ眩い光線。機械のマニによる
こうして不心得者とその場に居合わせた者たちは消し飛んだ。
「ごめんなさい!マニ様ぁ!」
「なんじゃぁぁぁ!」
「焼け死ぬぅぅ!」
「うわあ綺麗」
どれも消し飛んだ者たちの遺言だ。冒険者たちの間では語り継がれるレベルの出来事となった。
「全く。ほかの奴らにとっちゃ笑い話かもしれないが、俺はやっと日の目を見始めた冒険者人生で、これからやってくぞ!ってなってた時に起きたからそれはもう荒れたぜ…俺はいつも調子に乗り始めるとすぐ痛い目見るんだ…」
ある者は神の恐ろしくも偉大な力を語る教訓として、ある者は馬鹿な冒険者を笑う話の鉄板ネタとてして、ある者は天から降り注ぐ光の雨の美しさを伝えたりといった様々な方向性で伝説となった一件である。
そんな神とその信者という人間の話にアウラは、
(神もそれを崇める人間もろくでもないわ…)
そんな感想を抱いた。話の途中からアウラの知る女神という存在とは別モノであると感じたがそれでもただ神の裁きとやらは絶対に食らいたくないと思わせたのだった。
なお、この事件の後マニを信仰する者が使えるようになる技能が変更され、下僕のアンドロイドにはアップデートが施された。
《配達依頼》指定された日時までに別の町にいる住人へ荷物を届ける依頼。戦闘は野外で襲撃されない限り起きないので駆け出しの段階で手を出したくなるがこれは罠。突然の豪雨や雪はフィールド上の移動速度を低下させ、豪雨に至ってはランダムで盲目どこを歩いているかわからない、となって指定した方向に移動できないなどのアクシデント、そもそもほかの街の地理が分からないなど初心者向きではない。間に合わなかった場合、物品横領としてカルマが大きくマイナスされる。窃盗は殺人より重い罪なのでしょうがない。
《異名》プレイヤーの冒険者もNPCの冒険者も異名を持っている。特にステータスに影響はないため雰囲気だけ。
《願い》井戸、噴水、トイレの水を飲むと低確率で発動。入力フォームが現れ、入力した願いが叶う。叶う願いは、アイテム、ステータスの上昇、神の降臨など様々。一部を除き★付アーティファクトは願えない。
《機械のマニ》機械の神様。癖の強い神々の中では常識的な神。本家Elonaでは信仰した際に習得する技能はよほどマテリアルが必要でもない限りいらないし、賜る下僕も荷物持ちや仲間の蘇生、エンチャント付与などの特徴を持つほかの神の下僕と比べて特筆すべき能力を持たない。不遇な神様。
Elonaplusではバランス調整の一環で強化され、技能が物理ダメージアップと汎用性の高いものに、下僕はダメージ軽減能力を取得、銃器主体のプレイヤーキャラを守る前衛を張ることも可能に。信仰を深めた時にもらえる宝玉の効果はMAP全域を攻撃する強力なスキルに変更。衛星軌道からビームを撃っているらしい。作中で登場した神の裁きはこれ。
あと、今回の話アウラがほとんど動いてないじゃないか(憤怒)と思った方は申し訳ございません…次話ではめっちゃ動かす予定ですので…