Q.法衣男さん他の神に喧嘩売りすぎだろ!イツ様も自分を神の中でも一番みたいなこと言ってるけど流石に怒るんじゃ?
A.特に気にしない。信者同士がいがみ合っても神様同士の仲はこじれない。なんなら他の神の信者だってやべー奴はいっぱいいる。ノイエル聖夜祭のジュア様信者を見てください。他の神の信者をサンドバッグにつるしてるんですよ?彼のヘイトスピーチ位どうってことありません。
元のアウラなら考えつかなかったであろう神の信仰。他の魔族が聞けば、信仰とはなんなのだ?女神の魔法が使えるようになったのか?使えるのなら人間の聖職者を効率的に殺すために分析できないか?などの質問の嵐が待っているだろう。
「おお…ここに新たなイツパロトル様の信徒が誕生しました!彼女の門出に祝福を!」
説法をしている彼もまた神の電波を受信可能な装備を常に身に付けている。至高の神からの電波によって目の前の少女が信仰を同じくする同志となったこと、そして彼女の素性もいくつか聞いた彼は感涙した。
「彼女、アウラはノースティリスでもサウスティリスでも、はたまたイルヴァですらないはるか遠くの世界からやってきたのです。その世界で彼女は魔族と呼ばれていました。魔族は一つの魔法を極め、人間を捕食する種族。
死というものがイルヴァよりとても重い、這い上がることなどできない世界で魔族は疎まれていました。あろうことか邪悪なる女神の信者たる人間たちに!なんと嘆かわしい!やはり女神はすべて生かしておけません!
…コホン。とにかく彼女は神という存在に隔意があったのです。イツパロトル様の威光に触れるその時まで。この異界からの来訪者にイツパロトル様の信徒、その先輩と言える我々がすべきことは何か!それは彼女にこの世界について、そして邪神など恐れるに足らない存在であると知らしめることなのです!」
熱く語る法衣男に沸き立つ聴衆。アウラは素性が全て暴露されたあたりで冷や汗を流したが、やはり周りの人間やその他の種族が敵対的な行動をとらなかった。なぜ彼が魔族についてなどを疑問に思ったがイツパロトル神が魂を見たとかで”服従させる魔法”の詳細まで語ったのだから神に話を聞いたのか、あるいはこの男もそういった能力があるのか。それよりも気になることがあったので思考は頭の隅においやられたが。
(異界?どういう事?)
ここは以前いた場所とは違う世界らしい。人間たちが魔族の存在を知らなかったり魔族のアウラをもってしておかしい行動をとる者がいたのでとても遠い場所へやってきてしまったという考えはあったがこれは予想外である。
いずれ不死の軍勢を再び作り出し憎き怨敵であるフリーレンを殺すことを目標としていたアウラだったがかなりややこしいことになってきた。目を覚ました時には人間の言う天国とやらに来たのかとも考えたがちゃんと生きている。どうにかしてグラナト伯爵領に戻らなければと考えたが難しいようだ。最初に出合った男の話が正しかったと言えるだろう。
(私は…この世界で生きていくの?)
アウラは500年以上生きた大魔族だ。元の世界では敵う存在が数える程度しかいなかった。同格とそれ以上は同僚である七崩賢と上司だった魔王、敵では勇者ヒンメルを筆頭とした人類側の強者。かなりの…いや、有数の強者だったのだ。
だがこの世界ではどうだろう。最初に出合った男や街のガード、かつての部下に似た冒険者の少女、目の前にいる法衣の男とその他大勢。自分より上か、同格の実力を持った存在はたくさんいるのだ。この世界の換算ではせいぜい中堅以上、上級未満と言った位。”服従させる魔法”の効果も相まって以前のようなドヤ顔ができないのだ。なんなら狩られる対象にさえなるかもしれない。
魔族は皆所謂死んだ目、光のない目をしているとされているが、この時のアウラは普段以上の目の死にっぷりであった。そんな同胞の暗い感情を感じ取ったのか法衣男が声をかける。
「早速ですがあなたにお教えしたいことがあります。それはこの世界において死というものは終わりではないということ。死は通過点、成長へのバネと捉える者もいるくらいです。
あなたは非業の死を遂げこのノースティリスにたどり着いたとか。ですが大丈夫ですよ。安心してください。ここにはあなたたち魔族を迫害する人間も邪神もいません」
イツパロトル神から魔族が同情などの感情を持ち合わせていない種族だと説明されていない法衣男は、迫害される哀れな種族の少女という前提で話した。まあ魔族の詳細が語られても女神の信者に迫害されたという事実だけで彼はアウラを哀れんだだろう。
可哀そうに思われるということがアウラにはわからなかったが、とにかく前の世界のようなノリで実力が勝るような人間が殺しにかかってこないことが分かって一安心である。
彼もまたアウラを人間の少女と同じような存在と認識しているようだが特に否定するメリットがないのでそこについては何も言わない。
それでも死が終わりではないとは何なのだろう。話の内容を聞くに生き返れるということなのだろうか。
「死が終わりじゃないってどういう事よ」
ティリスの住人が這い上がると呼ぶ行為を知らないアウラ。そんな実力だけならそこそこの少女が常識を知らない姿に微笑ましさを覚えたのか周りの人間たちはニヤリと笑った。
「ええ、お教えしますとも。死んだとしても生きる意志さえあれば誰でも生き返れるのですよ。何か特別な素質や魔法、技能は要りません。必要なのは生きる意志です。
生き返って相手に復讐するでも、次はこんなミスをしないと誓うのも、病気にかかって面倒だから死んで生き返って治すかというものも、全て生きる意志、目的なのです。アウラさん。あなたには何か目的はありますか?あるのならそれが生きる意志となってくれるでしょう」
生きる意志、目的。アウラにとっての目的は一つしかなかった。
「必ず元の世界に戻ってフリーレンを殺す」
解放された魔力量は大きな差がついていたとはいえ、不死の軍勢に対しては対処にいちいち専用の魔法を使うまで重要視していたフリーレンに最初から慢心せず手駒たちによって消耗させ、”人を殺す魔法”などでアウラ自らも削りに参加する。そしてイツパロトル神から得た魔力回復技能を使い”服従させる魔法”で確実に殺す。アウラはそんな計画を立てた。
「それがあなたの目的ですね?いいでしょう。フリーレンという人物は私の見立てではアウラさんの元居た世界の住人。復讐に協力することは難しいでしょう。いや、仮に手伝えたとしても手を貸さない方が良いでしょうね。生きる意志となるほどのモノは自分でけじめをつけるべきだ」
法衣男の他の神と信者をこき下ろす時とは別人を疑うレベルの豹変をみせているが、むしろこれが彼の素である。説法や他の神の信者を前にしたときなどにいささかハイテンションになるだけで、普段は穏やかな人物なのだ。
そしてアウラは今この状況が図らずとも情報収集ができる状態であるということに気が付いた。これが人間たちの言う神の恩恵というやつなのだろうか。
「さっきの話の通り、私は違う世界から来たわ。この世界について教えてほしいの」
冒険者やってんのなら俺が教えるぜ!と豪快に笑う
「まあまあ皆さん落ち着いて。いくらアウラさんが情報を求めているとしても一度にたくさん話されれば理解するのは難しいでしょう。まず代表としてこの私が基本的なことをお教えする。その後細かいことや専門分野は詳しい方にお任せするというのが良いかと思います」
先ほどに続き法衣男が場をまとめるように言った。この中で
「まずこの都、パルミア周辺のことについてにしましょうか。この辺りの都市では、いや私の知るほとんどの街が殺人は無罪か軽犯罪です。しかし、ガードに目を付けられたくないのなら悪評が広まるような相手は殺すべきではないでしょう。人肉を好むというのなら殺す相手は選んだ方がいいですね。ネフィアに住むならず者なら何も問題はないでしょう。後、モノの窃盗は重罪です。絶対しないようにしましょう。犯罪者としてガードのブラックリスト登録されるかもしれません」
ガードに目を付けられるという言葉に恐怖するアウラ。だが今のところ既に聞いた話ばかりだ。窃盗はもしかしたら、人間の持ち物なんてどうだっていいじゃない、と言って盗る可能性があったので危なかった。
「そしてこの地にまっとうに生きるのであれば必要不可欠なのは税金です。金を稼げる最低限以上の技量がある者に毎月一日に自宅へ送られてくる請求書と額面通りの金貨をパルミア大使館にある納税箱に納めなければなりません」
通貨、金貨という人間たちが使う存在は知っていた。しかし、他者と交流しなければ必要な物品が得られないということは魔族の間ではなかったので興味はなく、この時のアウラには、私も人間たちの言う通貨を使わなくてはならないのね、と考えた。
「税金を無視したらどうなるの?」
「税金滞納が続けば犯罪者として国に訴えられ、犯罪者としての身分になってしまいます。各地のガードに追われますし、凶悪な存在と思われれば冒険者へ討伐依頼の対象になることもあるでしょう」
ここでアウラが規則に従って納税をすることが確定した。ガードに追われるだけでも嫌なのに討伐以来として冒険者が送り込まれるなんて絶対に避けたかった。
しかしそこで問題が出てくる。アウラはこのノースティリスに自分の住居などないのだ。
「私はその請求書というものが届く住処をもっていないのだけれど」
この場合税金免除なのだろうか。そうなればかなり都合がいい。
「いいえ。どんな状況であろうと送られてきますよ。…この世界にやって来たばかりとはいえ、確実にアウラさんは納税の義務が発生する力を持っていると判定されるはず。となれば請求書は発行されるはずです。自宅と給料箱、そして金貨の入手は急務ですねぇ…」
「金貨を得るにはどうすればいいの!?」
必死である。死んでも生き返ると知ってもまた死にたいわけがない。それどころかトラウマが掘り起こされるので絶対に死にたくなかった。
通貨という文化を使わない魔族アウラは金貨というものを「自分の身を守るために必要なもの」として認識した。
「手っ取り早く稼ぐならやはり依頼でしょう。アウラさんなら簡単にこなせるものもおおいはずです。討伐依頼か罠撤去が分かりやすいでしょうね。前者は指定された場所にいるモンスターを殲滅し、後者は依頼地域の罠を指定された数以上処理することです」
部下に命じていた雑用のようなことをすればよいのだろう。プライド云々はかなぐり捨てた。そもそも自分より強い存在に目を付けられたくないという行動原理なのでしょうがなかった。
「でも住処はどうするの?私は建物を建てるなんてしたことないわ」
制圧した人間の砦などを使った拠点は使ったことがあるが自分で作り出すなんてことはしなかった。後給料箱とかいう入れ物の箱の存在も気になった。
「フフフ…私はあなたの門出を祝福すると言ったでしょう?ずいぶん前に買った住み心地のいい家の権利書が余っています。それを差し上げましょう。野外で読めばそこがあなたの土地とし、建物が現れます」
これは異界から招かれたあなたへの贈り物です。と法衣男が差し出してきたのは一枚の分厚い紙。
「貰っておくわ」
その後も法衣男以外からの信者たち、人と人外からイツパロトル神を崇めるために必要な作法、捧げものは何か、人肉愛好家からは殺してもいい人間の判別方法など有益な情報を得られた。
「そうそう。これに写ってる冒険者は覚えておいたほうがいいぞ」
ある一人の冒険者から一冊の本が手渡された。そこまで分厚くはないようだがはて、なんなのだろうか。少なくとも魔導書ではないようだ。
「これは何の本なの?冒険者の情報が載っているけどこれがどうして覚える必要があるのかしら」
見てみれば本には
明らかに魔力が劣る相手であっても有益な情報をくれる相手なら是非もない。アウラは質問をした。
「これはな、ティリスにおいて随一の力を持つ冒険者のリストだよ。そして人物と一緒に載っている行動はそいつの地雷、まあやったら絶対執拗に追いかけてきて殺そうとしてくるレベルで怒り狂う条件だな。とりあえずそこに写ってる奴らに関わらないようにする、関わらなきゃいけない時は地雷を踏みぬかないようにする。それを覚えるだけでだいぶ死ぬ確率は減るだろうぜ」
何それ怖い。というか最初に出合った男と同等の存在が割とたくさんいることが確定した。絶対関わりたくない。
こうしてアウラはノースティリスの冒険者として新たな一歩を踏み出した。
全ては”元の世界に帰る魔法”を作り出しフリーレンを打倒するために。
《這い上がる》死んだときに出るコマンド。埋まるか這い上がるか選べる。這い上がると自宅から復活できるが、所持金を一定割合失ったり主能力低下、そして装備品をランダムで失うというかなりヤバめのデメリットがあるのでゲームでは基本埋まった方がいい。
Elonaplusでは新たに難易度という概念が登場した。その中では、死亡したら強制的に這い上がる、モノによってはデータ削除という難易度が存在する。
《税金》作中で説明した通り毎月一日に送られる悪魔の紙切れ。滞納を続けると脱税の罪で訴えれてカルマが大きく下がる。盗賊ギルドに入る条件で滞納をすることとあるが基本的に払った方がいい。
滞納を続けたら討伐依頼として冒険者が送り込まれるのはオリジナル設定。ElonaplusでバウンティハンターなるNPCが町に出現するのでそこと絡めました。
《罠撤去》Elonaplusで追加された依頼。購入した土地が地雷原だったから地雷撤去をお願いする、酔った母が庭に穴を掘りまくったからとか埋めなおしてくれとかいうなかなかにカオスな理由で依頼される。
設置される地雷と落とし穴の他に地雷系女子というモンスターが出現する。地雷系の服を着た女性ではなく地雷の女。瀕死になると自爆するので他の自爆系モンスターとは少し違う。派生として対戦車地雷系女子、指向性散弾地雷系女子とかがいる。