決意を新たにパーティ会場を後にするアウラ。パーティ開幕直後は皆バーの時と同じような話しかしていなかったので後悔したが、かつての部下似の少女とそのペットたちによる合唱に衝撃を受け、なによりイツパロトル神を崇める勧誘とこの世界の情報を教えてくれた集会に出会えることができたのだ。
多くの嫌になるような情報も知ってしまったが、逆に命に関わるミスは何かを知ることができたとしてプラスに捉えるしかないだろう。ちなみに途中で投石して殺した青年は頭から抜け落ちていた。
後にアウラはあの青年の死体を回収していれば捧げものとして利用できたのに、と悔やむことになる。
「では、私はここまでですね。できることなら家具納入などの手伝いをできればよかったのですが…」
そう言って涙を浮かべながらアウラを見送る法衣男。歩いているうちにパルミア西門へとたどり着いたのだ。
「雑用はすべてコイツにやらせるから必要ないわ」
そう言って一行についてきた存在をアウラは指差した。首無しである。アウラに喧嘩を売って”服従させる魔法”で支配された彼は、飼い主が縁を切る選択をしなければ這い上がってもずっとペットは飼い主の言いなりというこの世界の法則により、死んで体が朽ちても生き返って一生アウラの駒となることが確定したのだ。
そんな彼は今、イツパロトル信者たちから同志となったアウラに餞別として贈られた多くの品々を抱えていた。重量挙げは鍛えていたのだろう。荷物持ちとして非常に優秀だった。
「それと最後に聞きたいのだけれど、この紙を使えば本当に家が現れるのね?」
ペラりと一枚の紙を取り出す。法衣男の話では野外で使えばその土地の所有者となり、家が現れるとかいう代物。住み心地のいい家の権利書のことである。魔力を欠片も感じない紙では言われたようなことは起きないだろうと思ったのだ。
まあいろいろとおかしい異世界にアウラは頭の片隅では、どうせ理解できない力が働いて、家ができるんでしょ?という考えもあったが。
「そうですよ。読めばその場所にあなたの家が建ちます。ただし立地には注意を。引っ越しの権利書はまあまあ値が張りますから。そして給料箱はあなたのペットに持たせました。玄関にでも置いておけば毎月1日と15日には給料として金貨と物品が送られます。1日には忌々しい請求書も送られてきますが…」
渡された多くの品に、抱えているというよりは荷車のように載せているという表現が正しい首無しの持つ荷物の中に大きめの箱があるのが見えた。恐らくあれが給料箱だろう。
「それじゃあ、私は行くわ」
パルミアを発つことを決めたアウラ。依頼を受けて金貨を稼がないのかと思われるが、正直死んで生き返ってからというものあまりにも濃い経験をしすぎて疲れたのだ。拠点ができるのならそこで休んでからのほうが効率がよくなるだろう。
しっかりとした足取りでアウラはパルミアを後にした。日はすでに落ちており、都の灯りのない草原へと歩いていく。もう戻ってきたくない土地だが、金稼ぎの必要がある以上また近いうちに訪れることとなるだろう。
自宅を建てる候補地探しの道すがら聞いた情報を整理していく。とりあえずパルミアから離れた場所にすることにしたのだ。依頼を受けるのに不便だろうが、それ以上に街の近くにいた方が被る可能性のあるデメリットのほうが大きいと判断した。
(定期的に滅ぼされるってどういうことよ…)
そこそこの頻度で街に核という道具を使いパルミアを破壊しようとする蛮族がいるらしいのだ。
核については「アウラちゃんなら恐らく余裕で耐えられるだろうが周りの建物が消えるあの感じはなんとも言えないものがあるぜ?」と聞きたくもない爆破を間近で受けた者の感想を聞いてしまって嫌になっていた。
頭のおかしい街の住人と冒険者たちの戯言だと思いたかったが、やけに克明に破壊された街の惨状について説明をする彼らから嘘はないと感じたのだ。そんな状態から何度も復興しているというのも割と頭が痛くなる話だが。
――最近は特にバカな冒険者が多くてな…毎度毎度核で街を壊滅させられては困る
ここでアウラは最初に出会ったガードが言っていた話を思い出した。本当に困る話である。あの手この手を使って王都に潜入し爆破しようとするボマーに悩まされるガードに対し、アウラは心底そんな手合いと関わりたくないという思いを強くした。
アウラは気を取り直して貰った本、冒険者たちによれば廃人名鑑と呼ばれるその本に写ったろくでなしどもの顔と地雷行動を把握することにした。
(信仰している神を侮辱する、ぼっちだと煽る、髪型を馬鹿にする…関わらないのが一番だけれどそうはいかないという直感があるわ…覚えないと)
どういう訳か理解できる文字を読み、顔と地雷行動を一致させ覚えていく。この本に載っているような奴らはプッツンさせた場合同格以下ならとりあえず死が確定し、怒らせた内容によっては地の果てまで追ってきて完全なる死、埋まる選択をするまで執拗に殺してくるのだ。絶対に避けたかった。
ちなみに最初に出合った男の地雷行動はペットの妹猫に危害を加える、泣かせること、らしい。彼は出会ったときは何も連れてなかったが、出会う前に妹猫とやらに遭遇し殺していたらまずかっただろう。
(あら?コイツは地雷行動ってのがないみたいね)
そうしてアウラの目に留まったのは一人の女性冒険者。彼女は可憐な妖精であり、廃人級の中では温厚な存在として有名らしいのだ。説明欄にも、非礼を尽くして是が非でも怒らせてやろうとしなければ彼女は激昂するような事態にはならないだろうとのことだった。こうした存在はありがたい、そうして彼女のページを読み飛ばそうとした時、備考欄に目が行った。
備考:彼女はこの大陸でも有名な博物館の館長でもある。つまり剥製マニアでもあるわけだ。珍しい種族の冒険者、ペットを連れている者は注意されたし。
「君珍しい見た目してるわね!君のはく製を展示したいから殺すわ!」と満面の笑みで襲われている冒険者を複数名が目撃している。
過去に著者が彼女にはく製が欲しいのならバイオプリンターでいいのでは?と聞いてみたところ「あんなものに頼るなんて邪道よ、邪道!はく製には私の冒険、思い出が詰まってるの。そんな大切なものを簡単に機械で入手するなんていけないわ!」と憤っていた。
やっぱりろくでもないじゃないか。アウラはパルミアで一般的な魔族の特徴である、人型で角がある種族を見ていなかった。つまりこのはく製マニアの妖精に標的にされる可能性が十分あるのだ。「その大きな角本物!?すごいわ!あなたをはく製にしたいのだけど、協力してくださる?」という高度な幻覚まで見えた。
げっそりするアウラだったが、彼女が怖くて王都に赴かなければ犯罪者となってしまい、この本に載ってるような相手が懸賞金目当てで大手を振ってやってくることを考えればまだマシであると自己暗示を施した。
うんうん唸り本を読みながら歩く少女の姿はとても目立つ。それに後ろには首無しの人間が大量の荷物を抱えているのだ。それはもう目立っていた。そんな注目を集める2人の後をつける集団がいたことにアウラは気づかなかった。
「おまえさん、ついてないでござるな。拙者たちは泣く子も黙る冷血な盗賊団。命が惜しければ、おとなしくその男が抱えている荷物と有り金を全て渡すがよかろう」
突然何を言われたかと言えば全財産渡せときたか。今のアウラは廃人名鑑を読み進めこれだけのキチガイ級の存在と出くわさないように、出くわした場合の対処法を考えていたのだ。ストレスはこの世界にやってきてからたまりっぱなしであった。そこに全財産渡せとはひどい話だ。
(魔力はどれもゴミね。どうやらこの世界では魔力を隠すとかいう奴はいないようだし、この愚か者どもは殺すか)
冷静に相手を分析するアウラ。余裕がない状態なら発狂して襲い掛かっただろうが、まだ精神的に余裕はある。手駒にしても大して使えないような人間たちなのでさっさと殺そうと決めた。
「嫌よ」
「いい度胸でござる。…しかし、賢い判断とは言えないでござるな。ここがおまえさんの墓場でござる!」
この辺りで見かけたことないから弱そうとかいう極めて雑な理由で襲い掛かった盗賊団とアウラとの戦闘が始まった。
戦闘とは言ったが終始一方的な展開であった。飛行魔法で空を飛び”人を殺す魔法”で狙撃するだけの簡単なお仕事である。先頭に立つ盗賊団の頭領が黒いレーザーによって胴体に風穴を開けられた所で盗賊たちの士気は一気に低下。散り散りに逃げていこうとする盗賊団員の頭や胴体と言った致命の位置に正確に”人を殺す魔法”を撃ち込んでいく。制圧には3分もかからなかった。
ひいいい、たちけて、命だけは!盗賊たちの悲鳴があちらこちらから聞こえてくる。
「ぎゃあああ!!」
最後の一人が死んだ。以前の世界ではアウラたち魔族がよく目にしたような人間を蹂躙する光景。この世界ではこうなることは少なくなるだろう。物言わぬ死体と化した盗賊たちの金品を戦利品として入手し、アウラは平原を後にした。
そうしてアウラとそのペットの首無しがやってきたのはパルミアから出て北東にある場所である。もう少し行けば雪原も見えて来るといった具合のまあ辺鄙な場所だ。だが拠点はここに置くことに決めた。
「これを読めばいいのね?」
住み心地のいい家の権利書を取り出し読んだ。すると音もなく少し大きいかと言えるくらいの家が出現した。やはり魔法の痕跡は見えない。出現する原理について理解を諦めたアウラは首無しに貰った各種インテリアを家に置くように命令した。
「暇ね」
荷物運びに関してはやる気がないしすべて首無しにやらせた方が効率がいいだろう。かといって何もしないのは損をした気分になるし、廃人名鑑はある程度読みこんでしまった。
「この世界の魔法を試してみましょうか」
折角だからと空き時間を活用することにしたアウラ。目覚めたネフィアにて出会った魔物が使ったり街で見かけた知らない魔法が多くある。
”人を殺す魔法”は他の追随を許さないレベルで有用な魔法だがこの世界では目立つだろうと予想したのだ。先ほどの盗賊たちに放った際、「なんだこの魔法!?」「ゲロビかよ!」「うお…ギリギリ見えそうで見えない!」という反応を返した。3人目は飛行しているアウラの下半身を凝視していて不快だったので頭と胴体両方に”人を殺す魔法”を撃ち込んだ。
とにかく元の世界の魔法は目立つと判断したアウラはこの世界の魔法を学ぶことを決めたのだ。”服従させる魔法”に関しては使える相手がこの世界では限られるうえに不死の軍勢の優位性も落ちているとみている。”服従させる魔法”に関する実験もしたいが、まずはこの世界の魔法の練習をすることにした。
幸い多くの魔法は術式はそこまで難しくないので再現は簡単だろう。
アウラは
魔法は発動しなかった。
もう一度使う。
発動しなかった。
術式は合っている自信があるしイメージもできていた。魔法はイメージであるというのがアウラの以前いた世界における人魔問わない魔法使いの認識である。
だが魔法は発動しない。正確にイメージし、術式も完璧なのに
パーティで出会った冒険者たちはストックという概念についてアウラに説明していなかったのだ。地理や常識と言ったものは地域ごとに変わるだろうが魔法の原理は変わらないだろうと頭から抜け落ちていたのである。
試しに術式を再現することを捨ててイメージしてみれば魔法は発動し空中を赤い稲妻が走った。これはこれで使えそうなので今後使っていくことにした。
そして大分便利な魔法とわかる
つまりアウラが作り出したこの魔法は虚空からものを取り出す魔法改め、虚空にものを捨てる魔法である。産廃性能にも程がある。曰くつきの物品処理には使えるかもしれないが大切な物をしまったが最後もう二度とそのものを取り出せないのだ。
次の魔法の再現に移ろうとしていたアウラに荷物が無くなって身軽になった首無しがやってきた。
「運び終えたのね」
家具納入が終わっていた。玄関横には給料箱が設置され、内装はイスとテーブル、ソファーにベッドと調理台が置かれていた。ごく一般的な住居となっているだろう。調理器具の使い方は分からないが。
「まるで人間の暮らし方みたいね」
自嘲するように笑う。フリーレンに自分の魔法を利用され自害させられたと思いきや見知らぬ異世界で目覚め、その世界でアウラは大した強者でもなかったのだ。この世界においてアウラでは自分の道理を押し付けられずルールに従うしかない。その事実が突きつけられている気がした。
「絶対に元の世界に戻ってやる…」
呪詛を吐きながらアウラはベッドに横になった。明日からは依頼漬けの毎日、ノースティリスの冒険者としての日々が待っているのだ。
《引っ越しの権利書》Elonaplusで登場。自宅の内装、規模をそのままに引っ越せる。ただし割と高額。と言っても古城、追加される宮殿の権利書よりはずっと安い。
ノースティリス以外の広域MAPが追加されたので内装変えることなく引っ越すことに需要が増えた。なお自宅以外の施設の引っ越しは施設移転の権利書ででき、こちらはかなり安い。
《核》みんな大好きとても危険な爆弾。使用すると10のカウントの後大爆発を起こし固定ダメージと建造物を破壊する。起爆するとカルマが下がり、市街マップならもっと下がる。
Elonaplusで追加された敵はほとんどが2部以降の敵なので奴ら相手だと核単品じゃ大したダメージにならないことが多い。本当にただの整地アイテムと化した。
王都パルミアに核を仕掛け起爆するというトチ狂ったサブクエストがあるが、これは本家Elonaから存在する。
《バイオプリンター》Elonaplusで登場。使用すると対象を殺すことなくはく製を入手できる。ただしカルマが下がるし対象NPCから敵対される。
《盗賊団》ゲーム中では荷車に載せる荷物を持っていると広域MAPで確率で襲われる。荷物と金貨を支払えば解放されるが、殺して黙らせることも可能。返り討ちにする選択をして野外マップを出れば逃げ切ることもできる。Elonaplusでは盗賊団のメンバーは支配不可になり、同じようなイベントで過激派エレア集団にも襲われるようになる。