魔力が一気にゼロになり魔族として寒気を覚える経験をしたアウラだったが、この出来事はより一層元の世界に帰る決意を強くすることとなった。魔力量が全てである魔族にとって、自分が消えていくような感覚に陥ったのだ。二度と味わいたくない。
そんなノースティリスの駆け出し冒険者として活動しだしたアウラは3つの目標を掲げた。
1つは元の世界に帰る魔法の開発だ。だがこれは最終目標なので一度置いておく。テレポート系の魔法の原理を理解すれば術式の一部として利用できるだろうが、直接発動する様子を見てわかるレベルの術式ではない。そのため魔法書を読む必要があるが、魔力を吸い取られたことが早くもトラウマとなりはじめているので今はあまり触りたくない。
2つ目は角をどうするかである。首無しの剣で切断することも考えたが却下した。魔族がいないこの世界において、この角は目立つ要素であると同時にアウラのアイデンティティの象徴でもあるのだ。角を削って人間の少女のような見た目になれば目立たなくなるだろうが、それは狂った世界の一部として順応しているような気がするのでなしである。やはり早急に角を隠す魔法を開発すべきだろう。
最後の3つ目は神の信仰を深めることである。法衣男の見せた魔力を回復させる技能、マナの抽出。その存在を思い出したアウラは枯渇した魔力を戻すべく早速マナの抽出を使用してみたのだが、これが本当にカスみたいな量しか回復しなかったのだ。信仰を深めれば回復量が変わるようだが、ここまでとは思わなかった。そのため信仰を深める、つまり神への捧げものが必要なのだ。捧げるためには祭壇が必要らしいがそんな物は持っていなかった。パーティを出たタイミングで法衣男が
「時間ができればあなたの自宅に赴いて祭壇をお渡しします。出来るならあなたについて行って、できたばかりの家に祭壇を設置したのですが…申し訳ありません。今日は予定があるのでそれは叶いませんね」
と言っていた。まだ彼はアウラに祭壇を届けるべくやってきていないが、どうやって自宅の位置を特定するのだろうか。実はつけられていたということもないだろうし、彼の所在もわからない。だが法衣男がどういう訳か言葉を交わしていないのにイツパロトル神を信仰していないことを看破し、宗教勧誘を行ってきたことを思い出した。どうせ何かしらの方法で自宅の位置を把握して来訪してくると思われる。つまり祭壇は後々入手できるだろう。
捧げものは魔道具の杖と死体らしい。どちらも調達は容易だろう。杖は税金の金額が確定し、金に余裕ができれば魔法店で購入するのもいいし、ネフィアに潜ってあさるのもいいだろう。死体は殺してもいい人間や魔物の死体など多くの候補がある。信仰に関しては祭壇待ちといった所だろう。
この3つの目標の内、元の世界に帰りたいというのは第一に来る願望だが、どうせこの世界で過ごすなら少しでも利益というか成果というものを得てからこの世界を去りたいのだ。そのために知らない魔法を覚え、魔力を即時回復できるマナの抽出の練度を上げる必要がある。
金貨は自分の命を守るものと認識したアウラだったが魔法店には興味を持っており、金貨を使ってもいいと考えていた。魔族だからと攻撃されないこの世界でなら利用しない手はないだろう。捧げものと新たな魔法を習得する為の魔法書が得られるはずだ。
そんな感じで今日もアウラは一般的な冒険者と同じような生活を送ることになる。昨日の魔力吸収事件があったせいでできなかった実験を予定しているが。
自宅を出てパルミアに向かうアウラ。家の中に日の光が入らない構造に早くも時間感覚を狂わされているのでそこもどうにかしたいと思っている。物理的に穴をあけることも考えたが、この世界の住人のことなので、空いた穴からいつの間にか侵入しているということも考えられるためやめることにした。
そして、昨日は行き帰り共に誰とも出会わなかったが今日はそういうわけにもいかなかったようだ。パルミアへの道中にて遠くからアウラに手を振りながらやってくる一団があったのだ。
「やあやあそこの冒険者のお嬢さん。私は旅の商人でして。普通の店じゃ扱っていないような貴重なエンチャントが施された装備品の数々を取り扱っております。冒険は何があるかわかりませんからねぇ。質のいい装備は冒険での様々な場面で役に立ちます。是非とも私の自慢の商品の数々を見ていってくださいな」
アウラが何か反応を返す前に行商人は営業を始めた。そのまま聞いてもいないのに装備品の説明をする始末。昨日は依頼人と事務的なやり取りしかしていなかったので困惑する。だがそれ以上に気になっていることがあった。
「…あの、周りの人間たちは何なのかしら?」
魔法を付与した装備品については以前の世界ではそこまで興味はなかったが、今は命を失う危険が常にあるため生存や魔法に関係するエンチャントなら欲しい。だがアウラの意識は行商人を守るように布陣する男女に向いていた。一対一なら順当に勝てるだろうが集団となるとわからないだろう。
「ん?ああ、彼らでしたら雇った護衛ですよ。ごろつきを追い払えるぐらい強くないと、店主は務まらない…しかし私は武芸には自信がないのです。商品はどれも一級品ですので、もしものことがあったらこまりますからねぇ」
前の世界なら英雄と言われるような人間がごろごろいることにはもはや慣れてきたが、これはやはり死んでも生き返ることが容易いこの世界だからこそと言えるだろう。どんな非才の身でも何度も何度も繰り返し鍛錬し続けることで強者と言える存在になることができるのだ。そして自称武芸には自信がない店主も、護衛ほどではないがそれなりに強そうなのもおかしな話である。
「では商品の紹介に戻らせていただきます…これは私イチオシの商品でして、このスティールスピードリングはなんと速度を25も上げることができる優れもの!ここまでの数値を出す品はそうありませんよ!」
他にも燃えて消失しないだとか手触りがいいとかいろいろセールスポイントを話し続ける行商人。今なら耐酸性コーティング液のおまけ付きだとも言っていた。装着すれば素早くなるかなり有用そうな装備だが、肝心の値段を聞いていなかったので聞くことにした。税金分を残して支払える額なら買おうと考えながら。
「で、値段はいくら?」
「そうでした。お値段は多少かかりますが…こちらになります」
そう言って商品の説明書と値札を手渡してきた。アウラは財布を開いてがっかりした…
先ほどの行商人の商品は2つほど興味をそそられる品があったのだが、値段、そして装備可能部位の問題で見送った。
一つはスピードリング。素早い動きができるのはどんな時であろうと良い結果につながるだろう。戦闘なら手数が増えるし非戦闘時でも移動が速くなる。だが値段が高すぎた。駆け出し冒険者のアウラにとっても、熟練の冒険者であっても即決で払える値段ではないだろう。
もう一つは強力なエンチャントが付与された品である。
それはより高度な詠唱を可能にする
それは魔法への耐性を授ける
それは電撃への耐性を授ける
それは魔力を4上げる
それは透明な存在を見ることを可能にする
わりかし有用なエンチャントがついていて魔力も上がるのはとても良い品と言えるだろう。だがしかし、この装備品は兜であった。アウラは角によって装備できないし、首無しは魔法職ではないため装備する利点はないが、そもそも首から上がないので装備できないだろう。
あと普通に金が足らなかった。税金分を無視して全財産を払っても買えない代物である。店主を殺して奪うことも考えたが、窃盗は重大な犯罪なので悪評が広まってガードに目を付けられたくないからやめておくことにした。傭兵たちが怖かったともいう。
そうしてパルミアにやってきたのだが、アウラは適当な討伐依頼をこなした後さっさと王都を離れていた。予定していた実験、不死の軍勢に関する実験である。
アウラの異名、断頭台の元となる首無しの騎士たち、不死の軍勢の強みとはなにか。圧倒的な数による制圧力だろうか。支配した騎士たちの剣技だろうか。どちらも正解だが、こと対人間となると発揮する大きな利点がある。それは首を斬られた同族の姿を目にして起こる精神的動揺である。
不死の軍勢を目の前にして冷静に普段通りの戦い方ができる者はそう多くはない。ある者は友人、同僚の変わり果てた姿に激昂、あるいは錯乱し、またある者はおぞましい死者たちに恐怖した。
(この世界の人間たち相手に不死の軍勢がどれほど効果を持つか調べる必要がある…街の人間の反応を見るに予想はつくけど…)
例えどんなに弱い個体でも手駒に加えれば人間の動揺を誘うことができた。特につがいの片割れを支配してやれば、面白いように残った方が発狂するのだ。そのまま支配するか殺すかは自由。あとはアウラのおもちゃです。
しかしパルミアでの人々の反応を見るに、注目こそすれど前の世界のような運用はできない可能性が高い。首無しを見ても、ちょっと珍しいモノを見たな、くらいにしか思っていないのだ。軍勢と言える量の手駒がいないのもあるがこの世界における”服従させる魔法”の運用方法について考える必要がある。
アウラは実験のためにパルミアと自宅の中間あたりの場所、街道から離れたとある平原にやってきていた。まずは不死の軍勢がこの世界では通用するのかという実験である。ほぼ結果が分かる実験だが、多くの手駒を見せたわけではないので一応検証することにする。
実験の内容はこうだ。
前の世界であれば、何だこいつら!? 新しい魔物か? いや…これは、断頭台のアウラが使役する不死の軍勢だ! などと騒ぐだろう。さて、どうなるか。
実験の対象となったのは駆け出し冒険者の少年。自分の技量にあったネフィアを見つけ、攻略すべく念入りな準備を整えてやってきたのだ。ネフィアに向かう道中、彼は不死の軍勢に襲撃された。
「首がない!なんだこれ!?…あー、普通に襲ってくるのか。なら首がないだけでいつもと変わんないか。なーんだ」
そういって少年は首のない軍勢を倒してしまった。支配した人間たちはかなり弱い個体だったが、あのような少年にも倒されてしまうとは。質のいい装備を使っているのか、または幼い人間でもあのような強さを得られるこの世界の法則に呆れればいいか、そもそも支配した人間たちの弱さに驚愕するべきか。とにかく不死の軍勢に相対した時の精神的動揺は期待できないだろう。この後も何度か実験してみたが、
――首ないのにどうやって狙いつけてんだ?
――ゾンビってわけじゃない動きだし、弱すぎる。新種かな?
――はく製落とさないかな~あの人に高額で売り付けられるのに
と気が抜けるような反応しか示さなかった。ここで判明したのは、以前の世界のように適当にどんな相手でも支配すればいいというわけではないということだ。弱い個体がいても時間稼ぎにすらならず、連携を乱す邪魔にしかならないだろう。つまり、これからはちゃんと強い個体を厳選して支配する必要がある。
そして、はく製という言葉が気になった。この言葉から思い出されるのは廃人名鑑に載っていたはく製マニアの妖精。パーティで聞いた話の中にこの世界の生物は死ぬと一定の確率ではく製とカードというアイテムを落とすということを聞いていたが、ここで支配した軍勢が妙なはく製を落とした場合、例の妖精が出所を探り、最終的にアウラの元へとやってくるような予感がしたのだ。
(絶対に落とすな!絶対に落とすな!絶対に落とすな!!!)
魔族アウラが初めて祈るという行為をした瞬間である。祈りが通じたのか、相手の幸運値が低かったのか、とにかくはく製は落ちなかった。
この世界にきてからというもの、アウラは常にこのイルヴァの常識、法則に頭を悩ませていた。死んでも生き返れるというのは一番の衝撃だったが、その中でも魔物、モンスターの死体が残るというのも気になっていた。前の世界と別の種族と言えばそれまでだが、それでも死体が残るということは
(”服従させる魔法”で支配することができる…?)
あいにくモンスターと遭遇することなく自宅に到着してしまった。実験に用いる人間を支配するのに時間をかけてしまったためもう夕暮れである。今日の所は帰宅し、明日はネフィアにでも入ってモンスターに”服従させる魔法”を使うことにしよう。
着実に一般的なノースティリスの冒険者に近づいているアウラであった。
実験後、支配した方たちは最初のチャラ男君以外殺して埋めたり、美味しく頂きました。Elona的に言えば死んだあとに縁を切ったので、バーテンに話しかけて復活させてもらうこともできません。ペット枠永久離脱です。
《行商人》広域MAPを歩いているとたまに遭遇する。作中の説明の通りエンチャントのついた装備品を扱っている。商品が商品なのでモノによっては金貨7桁超えの商品もある。襲撃して店主を殺害しバッグを強奪すれば全ての商品をパクることも可能。カルマは下がる。ただし護衛の傭兵たちは店の規模に応じたレベルとなるため、それなりに強くならないとすぐに返り討ちにあう。
《敗残兵 大道芸人 パンク》適当な野外マップ、低レベルネフィアに生息する弱い人間。この中で大道芸人だけは敵対NPC。残りの二人は中立で、攻撃するまでは敵対せず、他の敵対NPCを倒す手伝いをしてくれる。武器を所持しているので同レベル帯NPCの中ではちょっとだけ強い。プレイヤーキャラの種族などにもよるが、10レベルにもなるころには片手間にミンチに出来るようになる。つまりクッソ弱い。
Elonaplusでは捧げものがいろいろ変更されています。イツ様は武器のほうの杖ではなく魔法が使用される方の杖に変更され、ジュア様は鉱石から花系に変更されました。エへ様にたらばがにを捧げると信仰ボーナスと特殊メッセージが見れます。たらばがに!