ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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哨戒中に敵と遭遇し、相手の編成を聞いた山郷は直ちに司令官室にあった救援用のボタンを押す。

元々前線部隊の泊地はあくまでも哨戒と軽装甲の敵艦隊の迎撃を主な任務としており、現在の競合海域の安定を目的としていた。

大規模な奪還作戦が行われていない現状、鎮守府には多くの戦力が蓄えられていた。

 

「今回の接敵はだいぶ不味いですね」

 

大淀が戦力を見ながらそう溢すと、山郷は椅子に深く座り直してパソコンを広げた。

 

「……あまり気乗りはしないが…」

「呉の提督は軍艦派でしたね……」

「ああ、苦手な人間だよ」

 

そう言い山郷が作戦海域の状況を見ていると、司令官室に黒岩が飛び込んできた。

 

「今の音なんですか!?」

 

彼女はツナギに白衣を着ており、頭にはゴーグルを付けていた。

それを見て山郷はついでだからと彼女を軽く手招きした。

 

「丁度良い所に来た。ついでに見て行くといい」

「?」

 

そう言われ、黒岩は山郷の見るパソコンの画面を見る。画面にはビーコンと、彼女らが今いる海域を表す現在位置の情報が記されていた。

 

「これは……」

「彼女達の居場所と、通信装置に取り付けられているガンカメラの映像だ。……大淀」

「はい」

「プロジェクターに映してくれ」

「分かりました」

 

彼女はそう答えると司令官室からプロジェクターの装備を取り出すと、そのまま純白の壁に映す準備をした。

 

「手伝いましょうか?」

「はい、お願いします」

 

大淀がそう答えると黒岩は簡単にプロジェクターを準備し、大淀はカーテンを閉め、壁に映像が映し出された。

 

「これは……」

「っ……!!」

 

その映像を見た山郷達は思わず驚いた表情を隠しきれなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、洋上にて敵艦隊と接敵した加賀達は適度な距離をとりながら深海棲艦の艦隊の動向を監視していた。

 

「方位十一時、徐々に近づいてきている」

「あらあら、これはバレてしまいましたかね?」

「総員、対水上戦闘用意」

 

足柄がそう溢し、加賀は指示を出すとそのまま弓を大きく引いて流星改と天山一二型を発艦させる。そして護衛として零戦五二型を発艦させる。

 

「帰ったら艦載機を変えて貰う必要がありそうね」

「ええ、是非ともその時は晴嵐か瑞雲を乗せてきてもらいたいわ」

 

加賀はそう溢すと、発艦した戦闘機が深海棲艦の戦闘機と交戦に入った報告が入った。

 

「不知火」

「分かっています」

 

そう答え、時折り活気盛んになる不知火が飛び出さないように注意を入れるとそこで羽黒が提案する。

 

「このまま遠距離から攻撃を加えるのはどうですか?」

 

しかしその提案に足柄が否定する。

 

「確かに敵を撹乱するにはいいかもしれないけど、今は昼間。おまけに今から二式水戦を飛ばしても海域に着く頃には既に戦闘状態でしょうね」

「しかし援護は欲しい。二式水戦も飛ばしてくれ」

「…了解、支援するわ」

 

加賀の要請に答えると、そこで足柄はカタパルトから艦載機の二式水戦を飛ばすと、羽黒も同様に二式水戦を飛ばし始める。

 

「これからどうする?」

「このままゆっくり接近し、撃てる距離になれば順次発砲。呉の艦隊がいる海域に誘引する」

『『『了解!』』』

 

救援を呼んだから、時間的に今は豊後水道を抜けた辺りだろう。

 

「撃てっ!」

「発射!」

 

足柄達が発砲し、発射された20.3cm砲弾はそのまま艦隊の周囲に着弾し、艦隊のル級から砲撃が帰ってくる。

 

「流石は戦艦、この距離で撃ち返してくるとはね」

「しかし当たらなければ意味はない」

 

そう言い飛んできた砲弾を回避しながら秋月達はお返しとして長10センチ連装砲を発射する。すると数発が駆逐艦に命中し、二射目で駆逐艦に足柄達の砲弾が当たる。

 

「戦艦が邪魔ね」

「砲撃、来るぞ!」

 

その瞬間、戦艦からの砲撃が飛び。加賀達の周囲に着弾する。

 

「くっ!」

 

そこで一発の砲弾が足柄の艤装をかすめた。

 

「やったわね!」

「足柄、無茶をするな!」

 

その瞬間、足柄は応戦で第四砲塔以外の全てを発泡するとその砲弾は軽巡と駆逐艦に命中する。それをみて足柄は加賀に言う。

 

「私が頭に血が昇っていると思って?」

「……」

「生憎と勝利を望むだけで無闇に突っ込んだりは致しませんわ」

 

 

 

それが彼女達の目的なのだから。

 

 

 

言葉には出さなかったが、自分達の家での約束をしっかりと守っていると目で訴えると加賀もやや安堵して遠くに映る深海棲艦の艦隊を見る。

 

「更に近づいてきているわね……」

「回頭、一六〇度。最大船速」

『『『宜候!』』』

 

そう言い、回頭した瞬間。艦隊から砲撃が加わり、涼月が一発被弾した。

 

「きゃっ!」

「涼月!」

 

咄嗟に秋月が聞くと、彼女は足元を見ながら答えた。

 

「大丈夫よ、ただ……」

 

そこで彼女は足のブーツが少し破損したのを見た。

 

「足が少しイカれたわ。速度が落ちるわね」

「……」

 

この状況で速度低下はまずいと全員が思った。このまま泊地に帰還するにも敵艦隊の攻撃を避けなければならない。

事実、涼月の速度は大幅に落ちており。全速で向かってくる敵艦隊を見て加賀は指示を出す。

 

「全員!主砲発射ーー……」

 

その瞬間、突如艦隊に無数の砲弾が着弾した。

 

「っ!!」

 

その砲撃が飛んできた方角を見ると、そこには複数の戦艦と巡洋艦。駆逐艦や空母の艦娘が輪陣形で向かって来ていた。

 

「あれは……」

「呉の艦隊ね」

「……」

 

すると救援に駆けつけた本隊の旗艦である霧島から通信が入った。

 

『宿毛湾泊地艦隊はそのまま撤退せよ。後の処理は任されたし』

 

そう通信を受け取った加賀達はその彼の艦隊の無機質な雰囲気に気味の悪さを感じながらそのまま撤退を開始する。

 

「……?」

 

しかしその撤退中、不知火が違和感を感じた。

 

「あれ?呉の艦隊ってあんなに早かったですか?」

「え?」

「あぁ……」

「何だか、早いですね」

「ええ、おまけに何か変ね……」

 

そう言い彼女達は救援に駆けつけた艦隊の練度の高さに違和感を感じていた。

 

「呉の艦隊ってこんな能力が高かったんですか?」

「そんな筈ないでしょう?大尉が来る直前に練習試合で叩きのめしたじゃないの」

「と言うより、何だか不気味じゃありません?」

 

羽黒がそう溢しながら最後の戦艦に集中砲火を加える呉の艦隊を遠くで見ていると、そこで無線が入った。

 

『お前ら、無事か?』

「提督……」

 

そこですかさず山郷は加賀達に指示を出す。

 

『お前達はすぐに戻れ』

「はい」

 

そして最後に山郷は加賀達に言う。

 

『色々と聞きたい事があるだろう?』

「……」

 

山郷は何か事情を知っているのかと少し驚きと疑問が浮かんでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

宿毛湾泊地に帰還した加賀達はそこで涼月の軽傷を療養しながら食堂にて山郷からヤオビクニの話を聞いた。開発経緯から現在の状況まで。それを聞いた加賀達は顔を俯かせながら一言、

 

「狂ってる」

 

と溢した。そうだ、普通では考えられない事だ。

 

 

そう、普通ならば。

 

 

「元々軍艦派の連中はお前達を人と思う事を拒否している連中だ。心が鬼となって久しい連中に、人と同じ事をしろと言うのは酷だ」

「だとしてもです!これはあまりにもひど過ぎます……!!」

「深海棲艦の血ですよ?!何が起こるかわかったものじゃない!」

 

不知火と羽黒が珍しく声を荒げて叫ぶと、山郷はそこで二人の意見をしかと受け止めながらも現状のヤオビクニの状況を話す。

 

「すでに政府は他に代替手段のない薬剤という事で、戦時下における特例事項としてヤオビクニを特例承認する事が決まった」

「すでに生産体制は整えられつつあります。悔しいですが、ヤオビクニは国家存亡の掛かる現状では生産を止められる事はないでしょう」

 

表向き、艦娘は人としての尊厳が守られている軍部ではあるが。それはあくまでも鎮守府や泊地内などのごく限られた空間に押し留めているだけで、偽りの安全でしかない。少し変装さえすれば泊地から出られるここが現状では異常と言われてしまう状態なのだ。

 

「そこで現在、開発者であり。現在は俺たちの泊地で艤装技師として働いている黒岩がその対抗薬を作っている」

「……」

 

全員が口には出さなかったが、それでも思う所はあった。いくら試作品を軍艦派が勝手に持ち出したとは言え、それを作ってしまった責任はある。それを贖罪しなければならないと思っていた。

 

「お前達、よく聞くんだ」

 

そこで山郷が口を挟む、あえて厳しい口調で。

 

「お前達が思っている感情は理解しているつもりだ。だがな、そこで彼女に罪を押し付けるのであればそこいらの軍艦派と同じだ。作ったのが悪いと言って責任を押し付けるのはクズと同じだという事を忘れるな!」

 

彼はそう言うと、そこで加賀達は一瞬だけ顔が上がった。

 

「アイツがここに着任した時点で俺の部下であり、守るべき存在だ。その事を胸に刻んでおけ」

 

そう言い放つと、そこで山郷は新たな指令を黒岩がいないこの場で彼女達に伝えた。

 

「多くの艦娘を未知の恐怖から救う為に、俺たちの上司でもある四宮南部方面艦隊参謀より直々の命令だ。『黒岩大尉が対抗薬を完成させるまで、彼女を軍艦派の妨害から守るように』だ」

『『『っ!!』』』

 

そこで彼女達はその命を聞き、顔が本格的に上がる。

 

「彼女の性格はお前達も知っている事だろう。その為、あくまでも()()()()()()()()()()で守る。通常業務をこなした状態でな」

「それは……」

「ああ、無茶なのは分かっている。おまけに彼女には俺からも多くの仕事を施さなければならない事もな」

 

山郷は横で苦い表情を見せる大淀に静かに答える。

 

「現時点でこの泊地で行う任務、やる事は山積みだ。おまけに、敵は内外に有している。はっきり言って厳しい現状だ」

 

彼はそう言うと、そこで指を二本出す。

 

「お前達の任務は二つ、『夜間の黒岩の護衛』と『深海棲艦の攻勢を防ぐ事』だ。昼間は黒岩は工廠に詰めているから妖精さんの護衛があるから心配しなくていい」

「提督は?」

「ん?俺の事か?心配すんな。伊達に今まで生き残っていねえよ」

 

彼はそう答えて笑うと、そこで近くにいた不知火の頭を軽く叩いて撫でた。

 

「今最も重要なのは、俺たち宿毛湾泊地はこれから大忙しになると言うことだ」

 

彼はそう言うと、食堂に集まった彼女達を解散させていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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