ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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食堂にてヤオビクニの話しを終え、解散した後。一人司令官室に戻った山郷はそこで深く椅子に座り直すと。そこで写真を見る。

 

「摩耶…俺ぁ、また面倒事を押し付けられたようだ」

 

そこで彼は肩を組んで微笑み合う摩耶とかつての自分を見て、摩耶を指でなぞった。

 

「しかも今度は四宮からだ。前だったら想像もつかなかったよな……」

 

そこで彼は摩耶との最後の別れとなったあの無線を、何度も脳裏で繰り返してきたあの声をもう一度流していた。

 

『提督……私はあんたの元で働けて。こんなに満足した事はなかったぜ』

 

その言葉を最後に、永遠に摩耶と話す事はなかった。

その後、摩耶を含めた当時の部下の二十名全員は五個艦隊を相手に奮戦し。崩壊寸前だった東シナ海海域の艦隊に立て直す時間を与えた。

初めて彼女達が自分の命令を無視した日であった。戦闘後、わずかな遺品が自分の元に送られてきたが。その中に摩耶の物は無かった。

出張帰りの土産に渡したアズマギクの赤色いヘアピンも、彼女の艤装の欠片すらも。

 

「……」

 

大学校を卒業し、その時に知り合った仲だった。そこから永遠と続く関係だと思っていた。

 

「摩耶…お前は今どこにいる。俺はまだまだ忙しいよ……これもお前の仕業か?」

 

とにかく破天荒で、ちょくちょく問題行動を起こして司令官に叱られて、いつも振り回されたのは自分だった。

それでいてめっぽう強く、防空番長のあだ名がつくほど歴戦の猛者の航空機達を叩き落としていた。

今まで静かに過ごしていた罰なのかと疑いたくなるほど、今はやることが詰めまくりでパンクを起こしそうだった。

 

「これがお前の仕業だと言うなら、俺も真面目に働かなきゃならんな」

 

そこで山郷は軽く笑うと、そこで時計の時間を確認する。

 

「もうこんな時間か……」

 

時計の針は七を指し、海を見るとそこでは太陽が沈み始めていた。

 

「やれやれ、時が経つのは早いもんだ」

 

彼はそう溢すと、太陽はぐんぐん沈んで行き。そのまま世界は暗く染まりつつあった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

深夜、灯火管制の影響で灯りを付ける際は遮光カーテンなどで灯りを消す必要がある。

深海棲艦や艦娘は基本的に第二次世界大戦並みの技術力しかなく、現時点で判明しているのはイージス艦やミサイル艦などの第二次大戦以降の艦艇の建造は出来ないと言う事だった。

改装などにより、船体や各種諸元を強化する事は可能だが。そこに搭載できるのはあくまでもロケット弾などであり、最新の誘導兵器の類は搭載できなかった。

 

深海棲艦に奪われた海域は未だ数多く、むしろ日本海のような安全が保障された海域の方が少なかった。

東シナ海だって未だ安全に不安が残る部分であり。船団は必ず護衛を受けていた。

そして黒岩自身は自分の部屋で軽く息を整えていた。

 

「ふぅ……」

 

彼女はテーブルの上にある一本の薬瓶……ヤオビクニの原液を見ていた。

 

 

 

装備庁に運よく就職できた自分は、そこで艦娘の艤装に関する部署に配属されたは良いものの。肝心の学歴を聞かれた際に当時の上司から盛大に呆れられた後に、『艦娘の技能を底上げする薬剤を作る部署があるから』と言われて斡旋された部署で私は言われた通りに艦娘から貰った希少な血液を使って色々と研究をさせてもらった。

そこでは鹵獲した深海棲艦の姿もあり、彼らの血も使わせてもらった。自分は一人の薬学者として、一人の人間として、最大限人権を配慮したつもりだった。

そんな時、試作品止まりで簡単に深海棲艦の血液を遠心分離させた血清を部長であった後場五雄大佐が勝手に艦娘に対して実験を始めたのだ。もちろん、そんな危険なことに私は反対していた。だが、その時の大佐の顔と言葉は今でも忘れられない。

 

『君はなに戯言を言っているのだね?』

 

至って普通の顔で、当たり前のように出てきたその言葉に、私は戦慄と怒りと呆れを覚えてしまった。

 

「これだから人は嫌いだ……」

 

自分の為に、何かの為に、正義のためならば人をも殺す。弱者には何をしたって許される。

そんな世界が、私は嫌いだ。

 

「歴史とは勝者が作るものであり。勝者を裁くのは事実しか無い……か」

 

かつてベトナム戦争でアメリカが世界中から非難されたのはなぜか。それはそこに事実があったからだ。事実を映したカメラに勝るものなし、アメリカは歴史上初の敗北を喫した。

事実ほど強い武器はこの世に存在しない。そして、事実を知らぬ者は負けることになる。

 

「はっ、私はまた敗者ですか……」

 

自嘲して彼女はその魔の薬を手に取る。これ一本があれば一千本のヤオビクニの生産ができる。用済みとなった自分が追い出される際に、せめてもの抵抗として夜中の研究所に忍び込んで初期生産品であったこの原液を盗んで来ていた。

本来であれば褒められる事では無いだろう。むしろ私は懲戒免職になってもおかしく無い話だ。

 

「……」

 

しかし、仕事を首にならなかったのはなぜなのかが気になるところだ。

今の軍の主流である軍艦派は艦娘が沈む事を避ける為にあらゆる手を駆使する。その為に作られたのがヤオビクニなのだから。

 

「どうして私、クビにならなかったんだろう……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「中将閣下」

 

その日、東京では四宮がとある人物と面会をしていた。やはりかと言った様子で四宮もその人物を通していた。

 

「あの女を庇おうのはなぜか、お伺いしたい」

「……戦の大義に反すると思いませんか?」

 

四宮がそう答えると、面会を希望したその男は首を傾げた。

 

「どう言う事です?」

 

落ちた人間はとことん落ち続けるのかと内心呆れながら四宮はその男を見た。

 

「後場大佐、人道から外れた品を正式に採用する事は。あまり好ましく無いかと思われるが?」

 

そう言い、彼は反対側に座る一人の冷めた目をしている男を見ていた。彼は現在の装備庁の長官を務める後場五雄技術大佐だ。

生粋の軍艦派であり、艦娘の人体実験に心が痛まない人の皮を被った悪魔。かつては山郷や四宮達の一つ下の士官であり、嘗ては良き部下であったが、深海棲艦との戦争が始まってから彼は大きく変わってしまった。

その代わりぶりとその後の冷徹さから山郷も彼との折り合いが非常に悪くなってしまった。

 

「我々の敵は人ではありません。海より飛来した怪物です」

「それと艦娘に何の関係があると言うのですか?」

「艦娘もまた得体の知れない存在であると言う事です」

「……」

 

後場はそう言うと四宮は少しだけ視線が鋭くなる。

 

「貴方ならお分かりかもしれませんが、艦娘は深海棲艦が世界の海を奪い。我々人類が存亡の危機に立たされた時に突如として現れました。

まるで『自分達が救ってやる』と言わんばかりに」

 

それを聞き、思わず四宮は言葉を返す。

 

「それは軍艦派の主張であって、疑心に駆られているだけでは無いのでは無いか?」

 

四宮が聞くと、後場はすぐに答えた。

 

「いえ、私自身もそう思っておりますので」

「……」

「ましてや、私は艦娘に頼り切りの現在の国防状況に大きな不安を抱えていますので」

 

ごもっともな話かもしれない。しかしそれはかつて艦娘を率いて深海棲艦の攻撃を初めて退いた先人の意思を否定する事となる。

 

「君は神尾閣下の意思を否定すると言うのか?」

「否定ではありません。私はあくまでも現状を鑑みての結論です」

 

後場はそう答えると、そこで四宮に改めて聞いた。

 

「四宮参謀、彼女は国防の今後の要ともなる物資の盗難を行いました。これば重罪です。それをなぜ庇い、そして艤装技師として斡旋したのですか?」

「相手が誰であろうと、常軌を逸した行動から外れた道を走るくらいであれば……」

 

そこで後場は四宮の言葉を軽く鼻で笑った。

 

「何を言っているんですか。今の戦いは人類が生きるか死ぬかの生存戦争です。

既に米国、露国、英国、印国は深海棲艦を対処するために核兵器を使いました。しかしそれではあまりにも被害が結果に見合わないからと使っていないだけで、その代替として艦娘を運用している。核兵器を使用した時点で、すでにこの戦いは常軌を逸している」

 

そう言うと彼は席を立ち上がる。

 

「貴方がこれ以上動く気がないようであれば、私も個人で動かさせてもらいます。彼女の才能をこれ以上無駄に使わせるわけにはいきませんからね」

「……自分の職場を追い出したのにか?」

 

四宮がそう問いかけると、後場は振り向きざまに言った。

 

「研究室から大尉を追い出したのは無能な部下の判断です。彼女の才能を殺すのは国益にもならないですからね」

 

その言葉の意味はつまり、黒岩を別の場所で働かせると言う意味だった。

 

「彼女は才能がある。それを殺しては、かつての日本と同じ愚行をくりかえす事となる。同じ間違いを二度繰り替えすのは愚者の行いです。では、私はこれで」

 

そう言うと彼は部屋を後にした。後場の抗議を聞き、四宮は改めて面倒な事になったと感じざるを得なかった。

 

「不味いな……」

 

口うるさい彼女を研究所から追い出し、その隙に四宮の内輪の中に取り込めたは良いものの、後場はそうは行かなかった。

 

「山郷が頼みの綱だな……」

 

おそらく、あらゆる手で軍艦派……特に後場などの国益を考える純国主義の人間は国益となる黒岩を奪還しかかるだろう。既にヤビオクニは軍艦派の提督の元に先行量産品が届けられ、その効果は戦場で発揮しつつあった。

 

「せめて対抗薬ができるまで、持ち堪えてもらわなければな……」

 

四宮はそう溢すと、そこで大和が部屋に入ってきた。

 

「提督、お電話です」

「?」

 

こんな時間に誰だと思っていると、大和が電話をかけて来た人物を伝えた。

 

「息子さんからです」

「ああ、そうか…繋げてくれ」

「はい」

 

そこで四宮は受話器を手に持つと、そこで電話の向こうから若い男の声がした。

 

『ああ、親父?』

「どうした、裕翔」

 

はじめにそう言うと、そこで電話の向こうでその青年は四宮に聞いた。

 

『いや、今から赤坂に来れるか聞きたくてね』

「ああ、そうだな。……今日の二二時でどうだ?」

『分かった。その時間に会おう』

 

そう言うと電話が切れ、その後に四宮は少し疲れた表情で大きく息をついていた。




改めて高雄型を見ると艦橋の形が今のイージス艦に見える辺り、かなり先進的な設計だったのかなと思ってしまうこの頃。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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