ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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夏という言葉を聞いて次に思いつく物と言えば何だろうか?

海…向日葵…暑い……

色々と思い浮かぶかも知れないが、私は真っ先に自分の名前の由来である百合の花を思い出してしまう。あの花も夏に咲く花だ。

 

「……」

 

そして百合と言えばもう一人、ある人物がいる。

 

『お姉ちゃん!!』

 

私に残った唯一の肉親。守るべき妹。

 

私と同じ容姿で、特徴的な青い目が特徴の妹。

 

私の赤い目と違って、その目は海のように澄んでいて。とても明るかった。

 

今は離れているけど、何処かにきっと……。

 

 

 

ーー次に会ったときは……。

 

 

 

 

 

「大尉?」

「?」

 

そこで大淀の声が聞こえ、黒岩の意識はグンと引き戻される。どうやら居眠りをしてしまったようだ。

まもなく山郷提督が受けた練習試合、相手は佐伯湾泊地所属の艦隊。戦艦もいると考慮して編成を組まなければならない。艤装の調整も完璧にしておかなければならず、少々無茶をしたようだ。

 

「どうかした?」

「あっ、いえ。こんな場所で寝ていらしたので、もっと安全な場所に移動させようかと思いまして」

 

そう言い、大淀は工廠の作業台で居眠りをしていた黒岩を起こすと。彼女は設計図を軽く片付ける。

 

「大丈夫ですか?」

「?」

 

そこで大淀は不安げな様子を見せる。

 

「さっき寝言でうなされていたみたいでしたから」

「ああ、大丈夫ですよ。少し疲れただけです」

「あまり無理はしないでくださいね」

「ええ、大丈夫です」

 

昼は加賀達の艤装の改修、夜はヤオビクニの研究と寝る時間があるのかと思うほどの忙しさだ。おまけに彼女は山郷から艦隊指揮の座学すら教わっている現状。いつ寝ているのだろうかと首を傾げたくなるほどだ。

適当なブラック企業よりも過労な気がする最近の生活に大淀は一抹の不安を覚えた。

 

「うなされていた時に()()()って言ってましたけど、大丈夫です?」

「…ええ、大丈夫です」

 

そこで少し間が空いて答えると、大淀は首を傾げてしまった。すると黒岩は大淀に教えた。

 

「小百合は私の双子の妹です」

「妹さんがいらしたのですか……!?」

 

そこで大淀はやや驚いた様子を浮かべる。今まで彼女に妹がいたなど初めて聞いたから当たり前だ。

 

「まあ、失踪宣告がされてしまいましたけどね」

「っ!!」

 

失踪宣告、すなわち死亡したのだと見做されたと言うことになる。

 

「もう十年が立ちます。戦争が始まる直前にね……」

「それは……」

 

申し訳ないことを聞いたと大淀は思ってしまった。すると黒岩は軽く首を振った後に大淀に言う。

 

「いえ、まだ何処かで妹は生きているんじゃ無いかって……時々思いますよ」

「……」

 

藁をも縋る……と言うより、何処か確信している。暗示しているように言う彼女に少し大淀は恐怖を覚えた。なんと言うか、彼女は失踪宣告がされたにも関わらずそれを受け入れられていないような気がしてならなかった。

 

「あの……」

「ん?」

 

そこである不安を覚えた大淀は思わず黒岩に聞いてしまう。

 

「お部屋、大丈夫ですか?」

「……え?」

 

 

 

 

 

「どうぞ、何も無い部屋ですけど……」

 

そう言い黒岩は大淀を部屋に通す。元々士官用宿舎のこの部屋は最低限の設備を備えており、一部の部屋は黒岩の研究室に改造されていた。

 

「すみまさん、色々と気になってしまって」

「ああ、いいですよ。もともと荷物は少ない方ですから」

 

彼女はそう答えると、大淀の前に昆布茶を出す。そして大淀はお茶を飲みながら部屋を軽く見回すと、そこで思った事。

 

「(思ってたより部屋は綺麗なんですね……)」

 

そこで棚や壁に置かれた図面と思わしき筒紙や大きな黒い筒。

 

「この筒は何なんですか?」

 

そこで大淀は着任した時から大切に持っていた黒い筒について聞く。初めて着任した時に転けた時も真っ先に確認していたと思うと、彼女は納得した上でその筒を取り出すと中身を見せた。

 

「あまり他所には言わないでくださいね?」

 

彼女はそう言うと、黒筒の中身を取り出す。中身は長い鞘が特徴の大太刀であった。

 

「おお……」

「昔、私を引き取った老師から受け継いだものです。剣も教えてくれました」

「剣ですか……」

 

特徴的な白い鞘が特徴的なその大太刀な大淀も思わず息を呑んでしまうと、彼女はその大太刀を仕舞いながら話す。

 

「ええ、その老師が亡くなる時、書類と共に置いて行ったんです。元々身寄りの無い人でしたからね。変に出回るよりは良かったのかもしれませんが……」

 

彼女はそう言い、大太刀をしまうとさらに続けて話す。

 

「剣以外にも生活方法とか、あとは艦娘の話とか……私の薬学の才も見つけ出してくれた人なんです」

「へぇ……」

 

彼女はそう言うとその引き取った老師から教わった話をする。

 

「『ここに居ない人でも、何処かでは生きている。大切なのは忘れない事だ』……ってね」

「……」

 

彼女はそう言うと、大太刀の入った黒筒を壁に立てかける。

 

「あの大太刀を振るうときは誰かの為に振るって決めているんです」

「鍛錬とかしているんですか?」

「いえ、最近は忙しくてそれ程は……」

 

そう答えた時、部屋に数人の妖精さんが飛んできて入ってきた。

 

「たいい!たいい!」

「あのあまいのもらいにきました!」

 

そう言い入ってきた妖精さん達に黒岩は少し笑いながら振り向いた。

 

「はいはい、いつものでいい?」

 

彼女はそう言うと大淀が首を傾げた。

 

「いつもの?」

 

すると大淀があることに気づいた妖精さん達は猫がきゅうりを見たときのような驚き方をしていた。

 

「うわああっ!?ぼすだっ!!」

「ボスって何ですかっ!!」

「なんでここにいるんだ!?」

 

大淀の反論に妖精さん達が驚いていると、黒岩は棚からある瓶を取り出すとそれを妖精さんに渡していた。

 

「はい、今日の分ね」

「わーい!」

「ありがとう!」

「また来ますね」

 

そう言い妖精さんたちは瓶を持ったまま部屋を後にすると、そこで大淀が聞いてきた。

 

「あの中身はなんなんです?」

 

そう聞くと、黒岩は答えた。

 

「薬の研究で産まれた副産物ですよ。妖精さん達がうっかり舐めちゃって、でも安全ですし……」

「ちょ、ちょっと待ってください!?」

 

思わず大淀はそこでツッコミを掛けて慌てた頭を回転させる。

 

黒岩の研究→ヤオビクニの対抗薬開発→その副産物→妖精さんに大人気→おくすり最高状態

 

「何とんでもないもの流しているんですかぁっ!!」

「え?」

 

そこで思考が落ち着いた大淀は盛大に怒鳴り散らすと、そこで慌てて先ほど出て行った妖精さん達を追いかけて行った。

 

 

 

 

 

黒岩の研究であるヤオビクニの対抗薬の研究の副産物で生まれた甘い液体は艦娘にも人気であり、なんと加賀達も貰っていた事が判明。安全性は問題ないが、中毒性のある甘さゆえに大問題になっていた。

それを知った山郷は『安全なら俺にも欲しい』と言って思い切り大淀に殴られていた。

 

後にこの事が原因で妖精さんが研究室に入る時は大淀の監視が定期的に入ることとなってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日後、宿毛湾泊地に豊後水道の方角から六人の艦娘とその後ろを進む一隻の内火艇が姿を現した。

 

「佐伯湾泊地所属の篠海あおは海軍准将です」

「宿毛湾泊地の山郷だ。宜しく篠海准将」

「はっ!」

 

その内火艇から降りてきた一人の女性軍人は黒岩と別ベクトルで……いや、全く違う印象を与えた。

女性にしては筋肉質で、ナイフのように鋭い目線。軍人としてはピカイチの才能を秘めているのは指揮を見なくても分かる話だ。何より、この年て准将という上に上り詰めているのだからとんでもなく優秀だ。

 

「「「「……」」」」

 

その衝撃たるは彼女から発せられる謎圧で足柄の後ろに隠れるように立つ黒岩は顔が青くなり、足がブルブル震えていた。

言うならば蛇に睨まれた蛙状態だ。彼女から溢れる闘争心は彼女の部下にも影響しているのだろう。

 

「よう!今日はよろしく頼むぜ!」

 

そう言い、羽黒に挨拶をするのは天龍だった。そして次に彼女に似た格好の女性が挨拶をする。

 

「妹の龍田です。今日はよろしくね」

 

そう言い、他の艦娘達もそれぞれ挨拶を終えると。最後に篠海はこのまま隠れてやり過ごそうとしていた黒岩を見る。

 

「お初にお目にかかります。黒岩百合技術大尉」

「え、あ、はいっ!!」

 

名乗っていないのになぜ知っているのかと首を傾げそうになると、篠海は言った。

 

「数の少ない宿毛湾泊地艦隊を影から支える優れた技術者であり、大学は薬学系を出ている偏屈者ですからね。話題にならない訳がないでしょう」

 

彼女はそう答えると、黒岩も少し気まずそうに、そして恥ずかしそうにしていた。

 

「そんな噂の技術大尉の改造がどれほどのものなのか。よく見させていただきます」

「っ!!」

 

途端に技術者の責任が重く伸し掛かった瞬間だった。

 

 

 

 

 

篠海准将は軍人派の人間である。それゆえに好成績を残していても佐伯湾泊地という偏屈な場所に配属だ。

今の主要鎮守府を納めているのは軍艦派の人間であり、未だ軍人派は狭い思いをしていた。

 

今日の練習試合は佐伯湾泊地と宿毛湾泊地の艦隊の同数非対称戦であった。

 

宿毛湾艦隊

加賀

足柄

羽黒

不知火

秋月

涼月

 

佐伯湾艦隊

扶桑

大鳳

天龍

龍田

天霧

 

向こうには戦艦がおり、篠海准将は今日の訓練の為に張り切ったそうだ。

 

「行ける?」

「ええ、問題ありません」

 

工廠で最後の確認をしていると、加賀達は頷く。

 

「今回はいつもの深海棲艦よりも警戒した方が良さそうね」

「え?」

「確かに、経験豊富そうで厄介だわ」

「警戒した事に越したことはないわね」

 

足柄や涼月がそう溢すと、加賀は改めて自分の艦載機を確認する。

 

「今回は開発の終わった烈風を搭載しました。爆撃機も変更し、彗星を搭載しました。対空砲には秋月達と同じ長10センチ連装高角砲を搭載しました」

「ええ、ありがとう。感謝するわ」

「しかし、渡韓でしたので練度はあまり高くはありませんが……」

「いいわ、性能の高い機体が来るだけでも今は十分」

 

そう言い、黒岩は次に羽黒達を見た。

 

「そっちの装備はどう?」

「ええ、問題ないわ」

「準備完了です」

 

二人は自身ありげに答えると、黒岩は軽く息を吐いた後に一言彼女達に向けて言った。

 

「今日の演習、頑張ってね」

 

彼女がそう言うと、加賀達も少しだけ微笑んだ後に艤装を付けて離岸して行った。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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