演習後、ペイントまみれになった双方の艦隊の洗浄と艤装の修復が終わり、宿毛湾泊地ではささやかな宴会が行われていた。
「いやぁ、やられたやられた」
そこで天龍がそう溢すと、扶桑は片手に飲み物を持って加賀と話していた。
「まさか最後に瑞雲が現れるとは思っていなかったわ」
扶桑がそう溢すと、天龍が気になった様子で聞いてきた。
「そうそれ!あれはどこから出てきたんだ?」
彼女がそう聞くと、横にいた足柄が答えた。
「あれは私たちから飛ばしたのよ」
「えっ!!」
「はい、飛ばした後。指揮権を加賀さんに任せたんです」
「な、なるほど……?」
「でも瑞雲って水上偵察機じゃないの?」
そこで話を聞いていた龍田が話に割り込んで聞いてくると、そこで羽黒が答えた。
「確かに、瑞雲は水上偵察機ですけど。急降下爆撃もできるんですよ」
「え?そうなの?」
「はい、瑞雲は珍しいですけどね」
羽黒がそう答えると、扶桑達も感心した様子で頷いていた。
「うわっ、なんだこの電探?!」
「普通の二二号じゃないわよね?」
天霧と曙が秋月や不知火の艤装を見ながら思わずそう溢す。それもそのはずだ、彼女達の艤装に付いている電探は大幅な改造が加えられており、もはや原型をとどめていないからだ。
「ええ、この改造は大尉が勝手にした改造ね」
「大尉って……あの技術士官か?」
「そうよ、あの人。あんな見た目だけど腕前は確かだから」
秋月がそう言うと、二人の脳裏には初めて会った時に篠海に怯え切って萎縮していたあの若い新人尉官の景色が蘇る。
「見た目に反して有能な人なんだな」
「ええ、ちょっと予想外だわ」
思わず見た目とのギャップに天霧と曙は感心と驚きが混ざっていた。
「じゃああの馬鹿げた速度も?」
「はい、大尉が初めて此処を訪れた時に……私の艤装は特段上げられましたから」
不知火がそう答えると、その横で秋月が口を挟んだ。
「ちなみに本気を出すともっと早くなるわよ」
「「えっ?」」
そんな秋月の言葉に軽くため息を漏らしながら軽く頷く。
「そうですね。出力を最大に上げて航行すると爆発する代物ですし……」
「「え?」」
「いつもと同じ調子でぶっ飛ばすとさらにすごい水飛沫が飛んだわね」
「「はい?」」
もはや未知の領域に達している気がするその話に天霧達は首を傾げる。
「ええ、今はリミッターを大尉にかけてもらっている状態なので。よっぽどな限り使いませんがね」
彼女はそう言うと、天霧達は演習での不知火のあり得ない高速機動を思い返しながらさらにその上があることに恐れを抱いた。
「他にも、大尉は工廠に溜まっていた使わない装備品を分解して、それを私たちのものと組み合わせて改造をしていますからね」
「さすがは艤装技師と言ったところね。普通そんな事しないもの」
「「どこだってそんな事しないわよ(しねえよ)」」
そこで思わず天霧達がツッコミをかけてしまった。
「水上偵察機で急降下爆撃できるからって、普通そんな用途で使わないわよ……」
宴会場で扶桑が半分呆れた様子で足柄達に言う。
「だな、普通瑞雲は偵察でしか使わないイメージなんだが……」
横で天龍も同じ感想を溢すと、加賀が言う。
「これも大尉の意見だな」
「少しでも火力を上げるために攻撃のできる水上機を乗せる。私たちには必須の提案ね」
足柄がそう言うと、扶桑達は感心した様子で辺りを見回すとそこに黒岩の姿はなかった。
「あれ、噂の大尉は?」
「ああ、あの人ならおそらく……」
そこで羽黒は士官用の宿舎を見る。
「多分、部屋にこもっているんじゃないでしょうか?」
「あの人、人の多いところ苦手だもの」
「人見知りですか?」
「いや、あれはどっちかと言うと……」
そこで加賀達の意見が見事に合わさる。
「「「根っからの引きこもりだから」」」
「「「……」」」
まさかの理由に扶桑達は絶句してしまった。食堂で宴会をしていると言うのに出てくる気配がない限り、おそらく本気で引きこもりなのだろう。
「泊地の外に出たことがありませんからね」
涼月がそう言うと、天龍が思わず溢してしまう。
「なんか…可哀想っすね」
「こらっ、姉さん」
そんな天龍に思っていても口に出すなと龍田は軽く注意を入れてしまった。
そんな食堂の一角で山郷と篠海は直接話していた。
「いやぁ、こんな若くて有能な子が生まれるのはいい事だ」
「いえ、私はまだまだです」
山郷は片手にビール、篠海は麦茶を飲んでいると。彼女は少し驚きながら山郷に話しかける。
「しかしよろしいのですか?」
「ん?」
「こんな時に飲酒なんて……」
そう聞くと、彼は軽く首を横に振って答えた。
「いいのさ、多少酔ってもあいつらが片付けてくれる。それに俺は元々酒には強いんだ」
そう言い山郷は加賀達を見る。それを見て、篠海はそれほどの絶対的な信頼を艦娘においている山郷を見て自分はまだまだだと改めて実感していた。
「(私はまだ心のどこかで不安を抱えていると言う事でしょうね……)」
そう思うと、そこで篠海は麦茶を一口飲む。するとそこで山郷は続けて言う。
「それに何か問題が起こっても俺には部下がいるからな」
「それは…大淀ですか?」
山郷の今の秘書艦の大淀なのかと聞くと、山郷は首を振った後に答えた。
「いや、黒岩の方だ」
「……えっ?!」
思わぬ返答に篠海は驚いていると、山郷はその理由を篠海に言う。
「君が思うようにあいつは技術大尉だ。だが、彼奴の技術力は目を張るものがある」
「ええ、普通は数年かかる明石の艤装技師の免許を一年で。それも本職の仕事をしながらの免許取得です」
篠海がそう言うと、山郷も頷く。
「ああ、それだけ優秀なやつだ。ただの技術屋かと思ったら痛い目を見るぞ」
「……どう言う事ですか?」
そこで篠海が聞くと、山郷も疑問に思っている様子で答える。
「俺も分からんが、彼奴は兵棋演習をよく理解していた。艦隊行動の陣形も、丁字戦法もな」
「それは提督が教えたのでは?」
「いや、俺が教えるまでもなく彼女は艦隊運用戦術を知っていた。腕はそれほどでもないが、初日で兵棋演習で満足に艦隊を動かしていた」
「……」
何も教えずとも兵棋演習をこなしていたと言う事実に篠海はやや驚いていると、山郷は確信した様子で言う。
「おそらく彼奴は過去に誰かから艦隊運用の戦闘教義を教わっている」
「誰からでしょうか?」
「さあな、物好きの親が教えたのかもしれんな」
山郷はそう答えると、そこでふと篠海はその話の種となっている黒岩の姿がないことに気づいた。
「あの…黒岩技術大尉は今どこに?」
そう聞くと、山郷は答える。
「ああ、黒岩なら自分の部屋に引きこもっているだろうな。今頃は研究でもしているだろう」
「研究?」
「ああ、ある研究をな……」
そこで山郷は今までの酔っていた雰囲気から一転。真剣な眼差しで篠海を見る。
「篠海准将、君はヤオビクニの話題は聞いているかい?」
「……ええ、嫌と言うほどに」
その名前を聞き、篠海や少し顔を顰めて頷く。それを見て山郷は少しの安堵を浮かべると、そこで篠海は恨めしく溢す。
「あんな狂った薬物を使うなんて言語道断です。薬に頼るような軟弱者は軍に必要ありません」
「ああ、そうだな。君の言うとおりだ」
力強く答える篠海に山郷は頷くと、そこで彼女を見て言う。
「深海棲艦の血清を用いて作られた艦娘専用強化薬『ヤオビクニ』…その解毒薬を開発していると聞いたら?」
そう聞くと、そこで篠海は即答した。
「無論、応援しますよ。佐伯湾泊地は全力を持ってその研究を援助します」
その答えを聞き、山郷は事前情報と合わせて口は硬いと判断した。
「君は確か、軍人派の人間だったかな?」
「ええ、艦娘にも人権はあると考えています。ましてや実験対象にするなど言語道断です」
彼女はそう言うと、山郷は篠海を見て話した。
「君とは仲良くなれそうだ。今後もよろしく頼むよ」
「はい、こちらこそ」
そう言い、篠海は頭を下げると。山郷はそんな彼女に言う。
「帰りにうちの工廠から黒岩印の装備をいくらか渡そう。友好の証としてな」
「よ、よろしいのですか?」
そこで思わず篠海が聞き返すと、山郷は頷いた。
「ああ、ウチじゃあ手に余る装備もあってね。戦艦がいないここじゃあなんだ。持っていってくれ」
「しかし……」
「いいんだよ、どうせ俺の泊地に戦艦は来ないからな」
そう言い、山郷は少し笑った。それを見て篠海はどこかやるせ無い気持ちが渦巻いていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。