その日、東京の防衛省では四宮が頭を抱えていた。
「南方のタイ方面海軍が壊滅的被害か……」
そこで読んだ報告を見て横で大和も同じく渋い表情を浮かべる。
「担当海域にて、強力な重巡棲姫を確認ですか……」
現在、フィリピンとの接続が満足ではない東南アジア地域の海防は新たに東南アジア連合海軍なる軍事組織が組織され。それぞれ担当海域が割り当てられていた。
これは東南アジア地域での円滑な艦娘運用の為にASEANを中心とした各国海軍が検討した結果だった。オセアニア地域のオーストラリアなども加わり。東南アジア・オセアニア地域での深海棲艦の攻撃に対する対策であり、国土防衛の為の必須条件であった。
すでにインドネシアの島嶼地域やミクロネシア連邦などが壊滅した今。これらは深海棲艦に対する絶対的戦力として重宝されていた。それなのに……。
「単艦で一個艦隊を制する重巡棲姫だと?」
「火力で言えば従順と同じトンブリ級が大破に持ち込まれています。そのほかメクロン級も攻撃を受け損傷。タイ海軍は大きな損害を受けています」
「……深刻だな」
現状、南シナ海の安全が取れない今。救援艦隊を送るにも遅れない状況が続いていた。
「その重巡棲姫は最後に北上したと報告が上がっています」
「……他の発見報告は?」
「今の所ありません」
そう答えると、次に四宮はバインダーに挟まれた新たな作戦書を見た。
「今度の作戦に割り込んでこなければ良いが……」
バインダーには『第四次種子島宇宙センター発射計画書』と記されていた。
「今度の作戦。提督が作戦の責任者でしたね?」
「ああ、この新型重巡棲姫の情報を聞いた軍艦派連中が軍人派の私に恥をかかせるために押し付けたのさ」
「相変わらずですね」
大和が嫌味を漏らしながら口を開くと、四宮は諦めも混ざった声色で答える。
「仕方あるまい。これも、軍人派の音頭取りを請け負った私の宿命だよ」
そう言い彼は先代の意思を引く者としての自覚を改めて認識する。
「神尾先生が引退した今、私のバックにいる人間は少ない。深海棲艦と艦娘との戦闘は情報統制の影響で民間にはそれほど知れ渡っていない。もし情報を流せば、情報保護法の観点でしょっ引かれる」
そう言うと彼はバインダーをテーブルの上に置きながら思わず呟く。
「戦場より地獄だよ。この国は」
思わずそう溢してしまうと、大和も思わず苦笑してしまった。
「……今度の作戦。君が指揮をとってくれ」
「はっ!」
「今回の作戦は今後の作戦の足掛かりとしても重要な戦略物資を積んでいる」
「ですね、まあ新型通信用衛星を打ち上げるのですから。相当の激戦が予想できます」
そう言い大和は今回打ち上げるロケットの衛星の種類を呟く。
現在、世界各地で行われている通信網強化のための衛星打ち上げ後の奪還作戦を視野に入れたものであり、海底ケーブルが切断されている今。世界を情報で繋ぐのは衛星が頼りだった。
内陸にあるバイコヌール宇宙基地などは世界で最も安全な発射場としてそう言った通信衛星が発射されていた。
そして、今回打ち出される通信用衛星は戦時下の物資不足の中で作られた希少な衛星であり、これを落とされれば日本は他国の回線を借りる事となってしまう。
通信を他国に頼らざるを得ないと言うことにいつのも政治家のメンツというのが幅を利かせ、こんな無茶な作戦が立案されてしまった。
「何も無理をして打ち上げなくたって」
「既にロケットまで準備した以上、引くに引けないのでしょう」
「飛んだコンコルド効果だよ」
そう言い四宮は苦笑してしまうと、大和はそこで書類を軽く叩いてまとめると呟いた。
「政治というのは難しいですね」
「仕方あるまい。駆け引きの攻防、面子。外国との調整を行わなければならない。まあ、はっきり言って地獄のような環境だな」
「おまけに国内経済も疲弊していますからね」
そう話すと部屋のテレビが流す映像の中に北陸地方復興の映像が流れていた。
「北陸復興で国内の建築会社は大盛り上がりだな」
「始まりの地ですか……」
「ああ、深海棲艦が初めて確認された事案だな」
十年前、突如舞鶴との通信が途絶え。その後に発生した敦賀を中心とした街という街が謎の砲撃を受けた事件だった。当時の混乱から深海棲艦の仕業という所までしか今でも分かっていなかった。
「初めての攻撃で北陸地方の殆どが壊滅的被害を受け、その復興が十年経って行われるとはね……」
「お陰で国内の失業者はこぞって北陸に移動しているとか」
「ああ、こんな大規模な需要。なかなか生まれないからな」
かつて起こった大震災級の被害とその復興だ。日本海は世界でも珍しい安全が確認された海であり、東シナ海も完璧では無いとはいえ比較的安全な地となった。それで最も得をしたのが朝鮮だった。ただ、それ故に彼の国は戦力の抽出を圧力されると言う事態になっているわけなのだが……。
「種子島での作戦が終了すれば今度は北方だ」
「千島列島ですか……」
大和は地図を見ながらそう溢すと、四宮は頷く。
「ああ、ロシアも欧州方面で痛手を負っている。択捉島含めたオホーツク沿岸地域に人は居ないとよ」
「それだけ、住民の生存は絶望的と言う事ですか……」
少しだけ表情が暗くなる大和だが、そこで四宮は言う。
「戦前は北方領土問題で揉めていた地域が、今やロシアにとっては足枷になっている。なんとも皮肉な話だ」
「ナポレオンやヒトラーを押し返した広大な大地が、まさか自分の首を絞める事になるとは誰が思ったでしょうか」
戦前から問題視されていた地球温暖化の影響で北極海航路が開通していた為にロシアの沿岸全域に深海棲艦の攻撃が及び、その広大な大地の沿岸部は軒並み攻撃を受けていた。その為、ロシアの艦娘は薄い防衛戦を全土に敷くしかなく、また一部は海軍を無理に陸軍に動員して居ると言う始末だった。
「まあ、我々も太平洋側の安全は保証されている訳では無いから恵まれているわけでも無いがね」
何処の国も何かしらの代償を払わされていることに変わりはないのだから。
その頃、宿毛湾泊地では静かな空間が広がっていた。
「……」
そして山郷は海辺で竿を置いて釣りをしていた。
海では鴎が鳴き、軍事施設のこの泊地も人が少ないせいか静かなものだった。
「提督」
そんな静かに過ごしていると、山郷は後ろから大淀に声をかけられた。
「どうした?」
「本部から連絡です」
「ん?」
そこで渡された紙を軽く通しで読んだ山郷はため息を吐いた。
「種子島か……」
「通信用衛星を打ち上げるそうですね」
「ああ、今世界中で行われている物さ。全く、わざわざ危険な種子島で打ち上げなくても良いだろう……」
そう言い山郷はため息を漏らすと、そこで大淀が聞いた。
「我々も作戦参加要請がありますが……」
「ああ分かっている。とりあえず準備をしといてくれ。黒岩にも同じように伝えてくれ」
「分かりました」
大淀がそう答えると、そのまま岸壁を去っていく。残った山郷は再び視線を太平洋に戻す。
「今度の大きな作戦は北だろうな」
その為の前哨戦が今回の種子島宇宙センター防衛戦だ。通信網を強化し、その上で艦隊を千島列島、ベーリング海に向ける。そうすれば日本は列島沿いにカムチャッカ半島を抜け、アメリカへと到達できる。
そして海域を奪還した後は在日米軍を送り返す算段だろう。
日本外人部隊である元在日米軍の一五万の将兵は大きな戦力ではあるが、同時にお荷物であり、物資の少ない日本ではこれ以上面倒見きれんといった状態なのだろう。ロシアとしても北極海航路を寸断できることから今回の作戦には参加するだろう。
「やれやれ、強力な深海棲艦もいると言うのに……」
未確定情報…と言うか写真がないが被害が尋常じゃ無い深海棲艦がいる報告は山郷も受けていた。
なんでも、かの重巡棲姫は艦娘を大破に持ち込むだけで撃沈はせず。それでいて火力は戦艦並みにあると言う。
「特異的事象と言うべきか……?」
通常、深海棲艦は何かを破壊する衝動に駆られている。それがなんであれ、海から訪れる怪物は今まで何度も街という街を破壊して来ていた。
それは初めて砲撃を受けた北陸の惨状を見れば一目瞭然だった。
しかしそんな深海棲艦が艦娘を大破まで持ち込んだというのにトドメを刺さないのは不可解な点だ。
この世には何にでも例外があるように、その深海棲艦もその例外なのかと勝手な憶測をしていた。
「ああ、勝手な憶測は思考を凝り固める……だったか」
そこで山郷は軽く首を振って考えることをやめた。
それはかつて自分の師から教わった教義だった。初めて艦娘を率いて日本海を奪還したその男はその後退官して消息を絶っていた。
年齢的にも亡くなっていてもおかしく無い歳ではあった。
しかしその絶大な戦果から今でも伝説級の提督として扱われていた。
「今はどうしているかねぇ……」
死して尚どこかで暴れている気がする昔の上官を思い返しながら山郷は一向に釣れない竿を待ち続けていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。