ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

17 / 60
Page.17

七月下旬

鹿児島県鹿屋市 日本空軍 鹿屋航空基地

 

『Taxi to holding point B1.RWY01(ランウェイワンゼロ)

RWY01(ランウェイワンゼロ).Cleared for take-off』

 

無線で通信を行うと、基地所属のF/A-18Eが爆装した状態で離陸していく。この機体は外人部隊となった元在日米軍の装備であった機体をライセンス生産すると共に接収した機体であった。

本当はF-35もいるが、戦争勃発やそこまでの性能を必要としない高級機ゆえに第五世代戦闘機は内地の安全な場所に格納されており、滅多に飛ぶこともなかった。

現在の空軍の主力はF-2やF-15J。そしてこのF/A-18E/Fなどであった。

そしてこの日、鹿屋基地には他にもP-1やQ-1などの哨戒機や無人攻撃機も集まっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そしてその基地の会議室には複数の軍人が集まり、その中には山郷やこの前演習を行った篠海の姿もあった。

 

「四宮司令官閣下、入ります」

 

一人の下士官がそう言うと、雑多な方向を向いていた軍人達は一斉に部屋に入ってくる一人の軍人に目を向けた。

そして入ってきた四宮はそのまま会議室の上座に座ると、他の軍人達も一斉に席に座った。

 

「上山海軍大将より作戦実施が下命された。艦隊は本日一二〇〇(ヒトフタマルマル)に出航。作戦海域に展開し、速やかに作戦を初めたまえ」

 

そう言うと、横に座る今回の副司令に任命された島雄介少将が言う。

 

「了解、種子島沖五十キロを防衛ラインと想定した作戦。『タ四号作戦』を開始せよ」

『『『了解』』』

 

そこで軍人達は答えると、作戦行動を開始した。

 

 

 

 

 

同じ頃、指宿市の港湾施設では大勢の艦娘が出撃準備を整えていた。

その中の一角、今回出動要請を受けて出撃した加賀達七人は改装を重ねた艤装を見ていた。

今回の任務は種子島宇宙センターより発射されるH3ロケットを深海棲艦の攻撃から防衛することだ。搭載されているのは通信衛星、物資不足のこの国が唯一製造した人工衛星だ。すでに諸外国でも同様に新型の通信衛星を搭載したロケットが発射されており、同時にその中には軍事衛星も混ざっていた。

 

今回、指宿から種子島沖までの移動は海軍のドック型揚陸輸送艦の『くにさき』が担当する。艦娘は基本的に艤装をつけた状態で陸上を歩くと本体の性能から大幅に能力が落ちてしまう。正確に言うと、足が極端に遅くなるのだ。ずっしりと来る艤装の重量は戦艦級になればなるほど移動速度は低下するばかりだった。

 

「艤装の準備完了ですね」

 

そこで今回の旗艦となる大淀が自分の艤装を見て確認を終える。

 

「今日は久しぶりに前線に出るのね」

 

後ろで足柄がそう話すと、大淀は頷く。

 

「ええ、大尉に頼んで通信設備を強化してもらいましたからね」

 

そう言い、彼女は黒岩の手で改装を施された自分の艤装を見る。普段はヘルパーとして滅多に前線に上がることなく泊地で書類仕事の山に埋もれている彼女だが、今日に限っては艤装をつけて海に出る事となっていた。彼女がここまで来たのには理由があった。

 

「大尉が来れない以上、艤装の点検は私も頑張らないといけませんからね」

 

大淀はそう言うと、足柄も納得した表情を浮かべていた。

黒岩は、当初は艤装の調整を行うためについていくと意気込んでいたが、軍艦派の攻撃を懸念した山郷達の意見で黒岩は宿毛湾にお留守番となったのだ。

数日は帰還が困難な上に、泊地や彼女の安全面からその方が妥当だと大淀達も進言し、彼女は渋々といった様子で泊地に残っていた。

 

「軍艦派に思い切り喧嘩売っているの、分かっているのかしら?」

「ははは……でも、大尉が突貫でも艤装改修をしてくれたのはありがたい話です」

 

そう言い彼女は足柄や羽黒と同じ20.3cm(3号)連装砲を搭載した自分の主砲を見る。少し無理をしてだが武装を強化し、ついでに彼女の艤装はバルジも追加されており。通信機能を強化した際のトップヘビー問題をこれで解決していた。

 

「おまけに対空もバッチリね」

 

そう言い足柄は大淀に搭載されているBofors 40mm四連装機関砲を見た。これは言わずもがな傑作対空機関砲であり、これは足柄達にも搭載されていた。

 

「あの短期間でここまでの改造ができたのって、何気にすごいわよね」

「ええ、大尉が寝る間も惜しんで改装してくれた甲斐があります」

 

大淀はそう言い、色々と手を加えてくれた黒岩に感謝をしていると。そんな大淀に一人が声をかけた。

 

「大淀」

「あっ!大和さん」

 

声を掛けてきたのは大和だった。彼女は今回の陣頭指揮を取る旗艦なので、そこに居るだけで他の艦娘達の視線を集めていた。

 

「今日はよろしく頼むわね」

「はい、こちらこそ。よろしくお願いします」

 

大淀はそう答えると、大和は彼女の後ろにある艤装に目がいった。

 

「大部改造されているのね」

 

思わず大和がそう溢すほどに彼女の艤装は改造が加えられていた。

 

「ええ、黒岩技術大尉がここに来るまでに改造を加えてくれたんですよ」

「へぇ……」

 

大淀がそう話すと、大和はさらに興味深く見ていた。

この後、作戦に参加する艦娘は洋上にて『くにさき』に乗艦する。大淀達宿毛湾泊地艦隊は今回、大和指揮下に入って直掩艦隊となって行動することになっている。

 

「すみませんね。私自身、自分の艦隊が居ないもので」

「いえいえ、大和さんと行動できるだけで儲け物です」

 

四宮の秘書艦として長年渡り歩いてきた影響か、普通の大和よりも幾分精神力に長けている彼女はそんな大淀の駆け引きのない純粋な反応に嬉しげに浮かべる。

四宮の秘書艦として防衛省で彼の手伝いをしていた彼女は指揮下の艦隊が居らず。かつて有していた艦隊も今では解散してしまっていた。おかげで通常業務をしているのに陰口を叩かれたこともあったが、そこは演習場で単艦で艦隊を潰すことで黙らせてきていた。

 

「ではそろそろ行きませんと。一二〇〇に出航ですから」

「わかりました」

 

そう答え、大和と同スケールの通信設備を備える大淀はそのまま艤装を装着して海に出る。

海に出る直前、大和は大淀に聞いた。

 

「大淀さん」

「?」

「黒岩大尉は四宮提督に対して何か話していましたか?」

 

大和にそう聞かれた大淀は少し考えた後に彼女に答えた。

 

「え?えっと……特にそういった話はありませんね。ただ、研究員から今の場所に斡旋して貰ったと言うことくらいしか……」

「そうですか……」

 

そう聞き、大和は少し考える仕草をとっていた。

 

「あの……何かありましたか?」

「いえ、なんでもありません。すみません、出撃前に変なことを聞いてしまって」

 

その光景に思わず大淀はまずい事でも言ったかと思っていると、大和自身は軽く首を横に振った後に大淀に答えた。

 

「……」

 

出撃前になんで聞いたのだろうかと言う疑問があっただ、大淀はそれは今は必要ないと言うこと頭の隅に追いやると、目の前の作戦に集中していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、司令部では四宮と山郷は司令部の屋上に移動していた。

 

「しかし驚いた。まさか前線まで飛んでくるとはな」

「俺の秘書が出るんだ。東京でぬくぬくやって居れんよ」

 

四宮はそう答えると、柵に手を掛けて海を見る。

 

「今回の種子島の防衛戦はあくまでも前哨戦に過ぎない」

「ああ、当然だろう」

 

山郷が納得した理由。それは……

 

「元在日米軍の国内での問題行動に政府がついに切れたんだろう?」

「ああ、もう見てられないと。内閣府に出向している息子から連絡が届いている。特に国家公安委員会がウチにケチをつけてきているとな」

 

祖国から見捨てられた在日米軍……特に陸軍と空軍の部隊の風紀の乱れは国内の治安維持に深刻な問題を生んでいた。

十五万人も居る在日米軍の管理は条約によって日本が全面的に面倒を見る事となったのだが、戦前より資金不足が問題で『陸自ではトイレットペーパーを自腹で購入している』なんて国会で大問題になった国の軍事予算では到底元米軍の潤沢な物資を貰っていた方々からは不満が溜まる一方であり。統率のとれていない部隊から国内でテロ行為を行うようになっていた。

もはや世紀末状態に陥ったその部隊の対応に警察もてんてこ舞いで管理できていない軍部に怒りの抗議文が寄せられていたのだ。

 

「予定では今年の冬にオホーツク海・ベーリング海奪還作戦は行われる。日・米・露の三カ国での共同作戦だ」

「はっ、戦前じゃあ有り得ない構成だな」

 

普通に聞いても驚くべき共同作戦の相手に山郷は思わず笑ってしまう。しかしそこにはさまざまな事情があった。

 

「ロシアとしても、北極海航路分断による戦力の減衰を狙っての積極的協力だ。あの国は20年代に始めた戦争の傷が癒えぬ内にこの戦争だ。もう参っているのさ」

「前任の大統領が死んで以降、あの国もゴタゴタが絶えないからな」

 

辛うじて深海棲艦による攻撃があるからあの国は今も成り立っているようなものだと、山郷はこぼした。

前に東欧の小国と戦争をした際に多大なる戦費と人員を浪費したロシアではその後、削れた陸軍部隊の再編や海軍の充当をしている最中に深海棲艦との戦争が始まってしまった。

夏には北極海航路を使っての深海棲艦の艦砲が加えられ、冬には航空機の爆撃に沿岸部は晒される。カナダも同様の被害を受けており、北極には深海棲艦の巨大基地があるのではないかと噂されるほどだった。

 

「すでに極東地域、千島列島ならびに北方四島の自治権をロシアは事実上の放棄をした」

 

そしてそんな連日の砲爆撃にロシアは自治の厳しい地域を纏めたリストを制作。その中には千島列島や北方四島が含まれていたのだ。

 

「すでに軍上層部では単冠湾からの侵攻ルートを策定中。今後の調整では米海軍とは今の所キスカ島沖で合流予定だ」

 

そしてロシアの自治権の事実上の放棄に日本は目を付け、すでに北方四島は日本の艦娘の手で()()されていた。

 

「はっ、また特別な場所なことだ」

 

有名なキスカ島の近海で米軍と合流とはなんだかうまくいくのか行かないのかよく分からないような場所だ。

 

「とりあえず、目下重要なのは目の前の作戦だ」

「ああ、そうだな」

 

そこで二人は改めて意識を目の前の事象に向けると、遠くで汽笛を鳴らす『くにさき』の音を微かに聞いていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。