ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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加賀達含めた全員が種子島に向かっている頃、宿毛湾泊地では一人置いてきぼりにされた黒岩は泊地の研究室に篭っていた。

篠海達との演習の後、種子島に遠征する事となった加賀達の為に演習の時の戦訓を活かした改装を行っており、本当ならば最後まで付いて行って調整を終えたいところではあった。

しかし、事情を知っている山郷の考えで黒岩は泊地にお留守番を(強制的に)する事となった。

 

「はぁ……」

「どうかしましたか?」

 

研究している横で横で妖精さんが聞いてくる。

 

「いやぁ、こうしている間にも大淀さん達は戦っているんだもんなって思ってね……」

「ああ、なるほど。それはたしかにそうですが……」

「たいいはぎじゅつしゃですから。ていとくとちがってたたかえませんよ?」

 

納得する妖精さんとば別の妖精さんが彼女に話しかける。

 

「それはそうなんだけどねえ……」

 

そこで悩んでいる様子の彼女はそこでピペットから試薬を垂らす。

 

「何だか、いつもうるさい場所が静かだと不気味だなって言う話で……」

「うーん」

「なるほど……」

 

時たま大淀の怒声が響いていた艦娘の寮や司令官室が、深夜まで真っ暗で静かだと恐ろしく不気味だと思ってしまっていた。

 

「深海棲艦の攻撃がなければいいけど……」

 

そんな彼女の不安に妖精さんは陽気に答える。

 

「それならだいじょうぶですよ。なにかあればさえきわんのかんたいやくれのかんたいがとんできますし。それに……」

 

その時、ちょうど海辺から離水していく一機の影が見える。あれは基地所属の二式大艇だった。ここには臨時で妖精さん用に建築された小型の飛行場が存在し、そこには四式爆撃機や三式戦闘機の姿があった。今更ながら、ここの装備って充実しているよね。艦娘の人数以外は……。

 

「なにかあればすぐににしきたいていがれんらくをしてくれますから」

 

妖精さんがそう言い、黒岩は離水していった飛行艇を見た後に軽くため息を吐いてしまう。

 

「はぁ…少将も建造してあげたほうが。大淀さん達のためにもなると思うのに……」

「ていとくにはていとくなりのかんがえがあるんだとおもいますよ?」

 

妖精さんがそう答えると、一人の工廠にいる妖精さんが研究所の扉をノックした。

 

「たいいたいい!おでんわがきています!」

「電話?誰から?」

「なんかえらいひとで『ごばたいさ』っていってた!」

「っ!?」

 

その名前を聞いた時、黒岩の表情は驚きのものとなる。

 

「しっているんですか」

「…前の職場の人よ。会った事はないけど……」

 

どこか怯えている様子の黒岩を見て、連絡に来た妖精さんは起点を効かして黒岩に聞いた。

 

「いまはいないってことわっておきますか?」

「……良いわ、電話を回して」

 

そこで気を引き絞って少し鋭くなった表情で研究室にあった電話を取った。

 

「……もしもし?」

 

そう聞くと、電話の向こうで一人の男の声が聞こえた。

 

『黒岩百合大尉でよろしいでしょうか?』

「はい、私が黒岩大尉で有ります。後場大佐、このような形での受け答えで申し訳ありません」

 

彼女はそう答えると、後場はとんでもないと返した後に黒岩に話しかける。

 

『こちらこそ、いきなりの電話で申し訳ありません。幾分火急の案件でして』

「はい、どのようなお話でしょうか?」

 

彼女がそう聞くと、後場は黒岩にある話をしだす。

 

『装備庁内部であなたに対するパワハラが認められたことをご報告させて頂くとともに、私の方から正式な謝罪をしたいと思っているのです』

「え?」

 

まさかの話に驚いていると、後場は電話越しで驚く彼女に続けて言う。

 

『はい、その一件でお話とその謝罪を行う機会を設けたいのですが……』

「結構です。もう前の職場とは関わりたくありませんし……」

 

彼女はそう言うと、後場はそんな彼女にやや驚きを交えた様子で聞き返す。

 

『よろしいのですか?』

「はい、謝罪ならそこでしてもらって構いません」

『しかし…それなら直接伺うのは』

「良いんです。私はここで働く事を決めた身ですから。もう結構です」

 

そう言うと、後場は困った様子で答える。

 

『うーん、困りましたね…謝罪は形式上でも行わないといけない取り決めでして……』

「だったら今ここでお願いします。幸い、謝罪した事は情報として記録されますので」

 

泊地に繋がる電話は基本的に記録として残されており、情報を求められたら本部のアーカイブから知ることができる。

 

『……しかし、よろしいのですか?』

「はい、構いません」

 

彼女はキッパリと答えると、後場も折れた様子で答えた。

 

『……分かりました。後日、必要ないかもしれませんが。謝罪の文書とそれから企業の推薦状をお送りいたします』

「はい」

『では、失礼します』

 

そう言い、電話が切れると暫く呆然となった後にゆっくりと受話器を置いた黒岩はそのまま地面にへたり込んでしまった。

 

「はぁぁぁぁ…怖かったよぉ……」

 

地面にへたり込んで涙ぐむ彼女を周りに居た妖精さん達が慰めていた。

 

「だいじょうぶですか?」

「な、なんとか……」

 

あの後場とか言ったえらい人の声色はとても無感情なもので、電話越しでもわかる自分を引き戻そうとしている雰囲気に腰が抜けてしまった。

 

「かえれます?」

「少し待ったら大丈夫だから……それまで、上の薬の状態。見ててくれる?」

「わかりました」

 

そこで妖精さんは梯子を使って机の上に登ると、そこで先ほど試薬を入れた薬の様子を観察していた。

未だ、ヤオビクニの解毒薬は開発できていないが。幸いにも持ち出したヤオビクニの数は多くある。その為、この在庫がなくなるまでに解毒薬に開発はできるだろうと予測していた。

 

自分が生み出してしまった狂気の薬のヤオビクニ。もしこれで何か問題があれば、あの研究所の連中は開発した私に責任を押し付けることだろう。もしこの事を話せば妖精さん達がレンチ片手に装備庁を破壊する可能性が無きにしも非ずなので言っていないのだが……。

 

しかし確かに生み出したのは自分だ。自分のツケは自分で払わなければならない。それこそ、一生を賭けても……。

そして、自分をこんな場所に斡旋してくれた四宮中将の恩に報いるためにも。

 

「頑張らないとね……」

 

そこで軽く頬を叩いて気を引き締め直すと、彼女は立ち上がって先ほど中断していた薬品開発を再開させていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、遥か南の海では『くにさき』の甲板に大淀は上がっていた。

全通甲板にはSH-60Lの他に、主砲代わりに甲板に露天繋止されている99式自走榴弾砲の姿があった。かの車両は射程が最大三〇キロあり、その射程を生かして『くにさき』の様なほぼ武装の無い艦艇の自己防御手段の一つとして搭載されていた。

普段は艦娘が周囲に展開して警戒にあたっているので、それほどこの自走砲に出番がある訳でもないが……。

 

「珍しいわね。貴方がこんな場所にいるなんて」

「ああ、大和さん……」

 

そこに同じく甲板に上がってきた大和が大淀に話しかけると、二人はヘリの他にコンテナも積まれた『くにさき』を見ながら呟く。

 

「この物資は?」

「種子島に住んでいる人達に届ける物資ね」

「なるほど……」

 

このおおすみ型は輸送艦としての色合いが強く、甲板に多数のコンテナを乗せて種子島に住む住民達に物資を運んでいた。

 

「いくら海域が統治下にあるとはいえ、完全に安全とは言い切れないから」

 

大和はそう言うと、遠くでこちらを興味ありげに見ているこの艦の運用要員を見た。すると彼らは少し恥ずかしげにした後に目を背けると、大和も大淀も少し面白く感じてしまった。

 

「種子島のロケット発射はいつですか?」

「すでにロケットは輸送されて、今は組み立ても終えて最終調整に入っているから……あと十八時間くらいね」

「十八時間ですか……」

 

そこで大淀は発射までの日数を聞くと、そこで少し考える。

 

「組み立て場から発射台までの移動で数時間掛かるから、狙うならそこら辺でしょうね」

「そんなに掛かるんですか……」

「ゆっくりだもの。これでも急ぐと思うわ」

 

大和はそう答えると、そこで『くにさき』は種子島を見た。

 

『発艦用意!!』

 

『くにさき』のウェルドックに今回の作戦に参加する艦娘達が艤装をつけた状態で立っているウェルドックに水が入り。ある程度水が入ると順々に海に出て行く。

 

 

 

 

 

そんな様子を『くにさき』の艦橋から艦長と副長が見ていた。

 

「不思議な感情です」

「……同感だな」

 

二人は出撃して行く年はもいなく少女の見た目をする艦娘を見ていく。

 

「あの見た目でも持っている武器は俺達の主砲より強力なのが笑えない話だ」

「まるでファンタジーの世界です」

「ははっ、深海棲艦の存在が半分ファンタジーだろ」

 

まさか自分たちがアニメにありそうな世界にいるとは誰が思っただろうか。

 

「海の怪物が生まれた影響で俺たちも色々と変わったもんだ」

「ですね……」

 

既存兵器ではまともに立ち会う事すら出来なくなった自分たちの武装。最も効果的なのが艦娘による攻撃。

 

「彼女達は俺たちに信頼を置いているのに、俺たちが彼女を信用できなくてどうするんだと言う話だな」

「ええ、恥ずかしい話です」

 

政治家や我々軍人は艦娘という存在に懐疑的だった。自分達はあくまでも中立を保っている立場だが、甲板で楽しげに話している姿など。本土にいる年相応の子供と同じだった。

 

「娘を戦場に出している様なものだと思うと、心が痛むな」

「だからこそ、軍艦派の連中のような発想ができるのかもしれませんがね」

 

そう言った失った時の痛みを無かった事にする為に、失っても苦しまないようにする為に。あえて心を鬼にするという選択をした。

 

「しかし、だからと言って俺は人体実験をする様な連中は好きになれんのも事実だ」

「全くです」

 

しかし、だからと言ってそれにかこつけて彼女達に人体実験を強いる真似をする連中とは顔も合わせたく無かった。

近頃では彼女達に敵の血を使った薬品が流れているというし、この国の限界と狂気を感じ始めていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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