ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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黒岩が宿毛泊地所属の大淀に案内をされている頃、山郷は今回赴任した黒岩技術大尉の経歴書を見ていた。

 

「薬学系の大学を出ていて、それでいて就職は工学系の国立研究機関か……面白い娘だ」

 

経歴だけでも面白過ぎる人物だと思っていると、扉がノックされた。

 

『黒岩百合大尉です』

「おう、入ってくれ」

 

彼はそう答えると、司令室に佐々が入ってくる。

 

「仕事場は案内されたか?」

「はい!」

「じゃあ、この書類にサインをしてくれ」

「はっ!」

 

そう言い、バインダーを出して受け取った黒岩はそこに名前を書く。ここ最近では当たり前となった脱判子の文化。簡単に偽造ができてしまい、それで前に物資の横流しをしていたと言う大問題が起こって以降。各省庁や軍部はサインによる確認を徹底するようになった。

 

ただでさえ深海棲艦の攻撃で物資不足に喘ぐ日本で、そういった物の横流しは重罪だ。

また国防の要である艦娘に対する暴行や強制労働も又重罪に認定される。

 

「これでよろしいでしょうか?」

「ああ、完璧だ」

 

そしてサインを受け取った山郷はそこで軽く確認を取るとそのまま席に座ったまま彼女を見た。

 

「もうすぐに演習場から艦娘達が帰ってくる。そしたら君の歓迎会を開こう」

「え、そんな……」

 

山郷の言葉に萎縮しまくっている彼女は断ろうとしたが、彼はそんな彼女を見て軽くため息が漏れてしまう。

 

「せっかく東京からわざわざ来たんだ。ここは上の目が無い分、自由にやれる」

「は、はぁ……」

 

そんな彼に黒岩は困惑を隠せない様子だった。

 

「明日から仕事だ。それまでは部屋でゆっくりしていてくれ」

「はいっ!」

 

敬礼で返すと彼女は部屋を後にして行った。

部屋に残った彼はそのまま司令官室の椅子に深く座り直すと、そこでまたも扉がノックされた。

 

『司令、入ってもいいですか?』

「ああ、良いぞ」

『失礼します』

 

そして部屋に大淀が入ってくると、そこで彼女は聞いた。

 

「書類は書き終わりましたか?」

「ああ、これで彼女もここの一員だ」

 

そう答えるとやや安堵した様子で大淀は言う。

 

「良かったです。これで円滑な改修作業ができます」

「全くだ」

 

そう言うと大淀はやや呆れた様子で山郷に言う。

 

「あのですね司令。あなたはあまりにも機械音痴がすぎますよ」

「ははっ、仕方あるまい。昔から俺は機械に縁が無いのさ」

 

彼は陽気にそう答えると、司令室から宿舎に向かって歩く黒岩を見ていた。

 

「念願の技術士官だ。これからの装備関係は安心できるな」

「ええ、彼女と共に運ばれてきた補給物資の中には装備品も含まれていますからね」

「ありがたい話だ。お偉いさんとお友達だと、色々と心強い」

 

彼はそう言うと大淀も納得した様子で軽く頷いた。

 

「しかしまさか、貨物列車に同乗してくるとは思わなかったがな」

「ええ、新幹線からの乗り換えでも大変だったでしょうね」

 

東京からの転勤で尚且つ旅客機で一っ飛び出来ない現状、移動手段は新幹線だ。

 

「……歓迎会は明日の方が良いか?」

「大丈夫でしょう。黒岩大尉は若いですし」

 

山郷の懸念に大淀は黒岩の若さで反論していた。

 

 

 

 

 

そして新たな仕事場に着いた彼女は荷物を広げていた。

元々は多く物を持たない彼女は制服と数着だけの私服を部屋のハンガーに引っかけると、そこでいくつかの私物もテーブルに置く。

 

「へぇ、冷蔵庫も付いているんだ」

 

尉官の待遇にしては充実した部屋だと思っていた。

 

「まぁこれも、ここが最前線だからかな?」

 

そう呟くとテーブルの上に彼女は髪飾りを置く。

 

 

 

 

 

日本の本土防衛の要である艦娘の拠点は主に『横須賀鎮守府』、『呉鎮守府』、『佐世保鎮守府』、『舞鶴鎮守府』、『大湊鎮守府』の五つがあり。それらを補助する役割で日本各地に『泊地』と呼ばれる小型の艦娘用の拠点がある。そのうちの一つがこの宿毛湾泊地だ。

 

宿毛湾泊地と言えば、かつては多くの旧海軍の艦艇が速度試験を行った場所でも有名であり、かの大和の洋上試験もここで行われた。

 

泊地の主な目的は本土侵攻を目論む深海棲艦に対しての迎撃、若しくは鎮守府から訪れる増援部隊が到着するまでの足止めだ。

 

日本は太平洋側に関してはほぼ制海権を奪還出来ていないので、ここは実質的な最前線だ。

その為、深海棲艦が訪れた場合は真っ先に出撃する必要があった。

 

そして最前線と言うことは言わば捨て駒にされる可能性がある事を意味しており、損耗も激しい物だった。

 

「こんな最前線に左遷とは……」

 

転勤という名の事実上の左遷に彼女は苦笑する。しかし技術者として、技術士官として、前線の艦娘を生き残らせる努力は最大限しようと思っていた。

 

「大丈夫だからね……」

 

そこで彼女はテーブルに立てかけた写真を見ると、何処か自分に暗示するように呟いていた。

そこで一息つくと、彼女は貰った泊地の地図を見ながら場所を覚えようと考えていた。

訓練中でここに所属している艦娘は泊地には居ない。かと言って仕事をするにも、仕事場の工廠がああも大惨事となっていては今日からの仕事初めは無理と思った。

 

「歓迎会か……」

 

されたこと無かったと思っていた。戦争が始まり、自分も奨学金を返すためにどんな条件でも良いところに就職したいと思って適当に出しまくった結果、まさかのある艦娘の研究所に就職。しかし工学系という今まで習った事が全てパアになる職場だった。

 

「適当に出さなきゃ良かったなぁ……」

 

今更ながら後悔をしていた。でも、就職先の研究所では薬学系の仕事もさせて貰う機会があった。その点はありがたかった、でもやはり主な仕事は工学系で、なんとか技術士官を何とかやって行けていた。

 

荷物を一通り広げ終え、ベットに寝転がろうかと思った矢先。内線電話が鳴った。

 

『黒岩大尉、歓迎会を行いますので。至急、食堂にお越し下さい』

「わかりました」

 

わざわざ歓迎会を開かなくてもと思ってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

深海棲艦は何処から生まれ、なぜ自分たちを襲うのか。いまだに分からない事だらけだ。

 

世界中に張り巡らされた海底ケーブルは今までの攻撃で破壊されており、沿岸部は危険地帯として人の姿は減っていた。

通信は衛星通信のみで、偵察衛星は深海棲艦に奪われた海を撮影しようと試みているが、深海棲艦の巣喰う海域は殆どが厚い雲に阻まれており、どうなっているのか見る事は叶わなかった。

 

「えっと、食堂は……」

 

今更ながら、この泊地は驚くべきほど静かだ。警備員も本当にいるのかと疑いたくなるほどだ。

 

あるのは泊地らしく工廠や宿舎など、必要最低限の施設のみでありそのほかはあまり無い質素は泊地だった。

 

「食堂はここか……」

 

かく言うその食堂だって上には司令官室や、近くには浴場を備えている場所だ。

 

「素朴でいいところでしょう?」

 

するとそこで後ろから大淀が声をかけた。その問い掛けにどう答えようかと悩んでいると、彼女は少し笑って彼女を見る。

 

「ええ、お陰で道に迷う事もなさそうです」

 

彼女もそう答えると、大淀は少し緊張気味の彼女をみて少し初々しさを感じた。

 

「大丈夫ですよ。ここにいる子達は皆、優しい子ですから」

 

そう言うと、大淀は食堂の扉に手を触れるとそのまま食堂に彼女を案内した。

 

「皆さーん、念願の技師さんですよ〜」

 

そう言い、いきなり大淀は黒岩を紹介した。

 

「ど、どうも〜」

 

そこで彼女は恐る恐る食堂に入ると、そこには数名の艦娘達が座っており。卓上には大量の料理が置かれていた。

山郷も座っており、ここに居る艦娘は全員が集まっているのだろう。

 

「本日より配属されました。黒岩百合大尉です!よろしくお願いします」

 

そう挨拶をしてお辞儀をすると、そこで弱々しい見た目の彼女を見て一人のスレンダーで長身の女性が軽く鼻を鳴らす。

 

「ふーん、貴方が新しい人なのね」

 

その女性は黒岩を見ると手を出して挨拶をした。

 

「初めまして技術屋さん。妙高型重巡洋艦の足柄よ」

 

そう言うと、同じような格好をしている見た目から気弱そうな女性が後ろから顔を出して挨拶をする。

 

「お、同じく妙高型の羽黒です。黒岩大尉、よろしくお願いします」

 

そう言い、足柄と羽黒の二人が挨拶したのを皮切りに他の艦娘たちも挨拶をする。

 

「航空母艦の加賀だ。よろしく頼む」

 

青い袴を履く弓道着姿の女性が次に挨拶をすると今度はピンクのセミロングの少女がそっけなく挨拶をする。

 

「不知火よ」

 

そう言い、不知火は簡単に挨拶を済ませると今度は黒上ポニーテールの少女とセミロングの銀髪の少女が挨拶をする。

 

「秋月型駆逐艦の秋月と涼月です。よろしくお願いします」

 

そう言い秋月型の二人はそう挨拶をすると、黒岩もそんな二人に答えた。

 

「よろしく二人とも」

 

そう答えると大淀が改めて挨拶をした。

 

「大淀型軽巡洋艦の大淀です。よろしくお願いします」

「はい、皆さんも。今日からよろしくお願いします」

 

そう挨拶をすると、そこで黒岩は改めてここにいる艦娘の名前を呟いて覚えようとしていた。

 

「足柄さんに羽黒さん。加賀さんに不知火さん、秋月さんに涼月さんと大淀さん……あれ?」

 

そこでふと違和感に気づいた。

 

「ここには七人の艦娘しかいないのですか?」

 

通常、こう言った場所には予備艦隊分も含めて二十人ほどいるのが当たり前だが、ここにはたったの七人しか居なかった。おまけに火力も重巡洋艦が頼りであり、戦艦は居ない。

 

「ああ、そうだ」

 

その疑問に山郷は頷くと自信満々に答える。

 

「だか、彼女達は俺が率いた仲間さ。信頼できる」

 

そう言い彼は艦娘達を信用した目を彼女に向けると、横で大淀が補足で教えてくれた。

 

「最前線とはいえ、深海棲艦が大規模で襲来したことがありませんからね」

「でも交代要員とか……」

「大丈夫ですよ。そう言う仕事は慣れっこですから」

 

そう言うと大淀は足柄と不知火を見た。なるほど納得、戦闘狂が二人もいるなら確かに心強い。

 

「まあそんな所だ。さあ、ここに居る俺の娘達の紹介が終わった後は……派手に祝おうじゃ無いか」

 

そう言うと食堂にいた全員の顔が晴れやかになり、秋月に至っては待ちきれない様子だった。

そして山郷はビールの入ったジョッキを片手に持つと高らかに掲げた。

 

「では!これより新米大尉の歓迎会を始める!乾杯!!」

「「「「乾杯っ!!」」」

 

そう言うと他の艦娘たちもジュースやビールで乾杯を挙げた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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