種子島でのロケット発射は成功し、多少想定外のことはあったにしろ。作戦自体は成功していた。
「よう、お前らも無事だな」
「はい、宿毛湾泊地艦隊以下七名。全員帰還しました」
大淀がそう答えると、山郷は松葉杖をついている足柄を見て軽く安堵した後に言った。
「足柄、入渠準備はできている。行ってこい」
「ええ、失礼するわね」
そう言い彼女は不知火に抱えられながら鹿屋基地の入渠施設に入っていく。
「お前らも、作戦で疲れただろう。明日までここに居るから、今日はゆっくり休め」
「分かりました」
そこで加賀達がそう答えて山郷達の前から後にしていくと大淀は一人、山郷の前から離れなかった。
「お前は大丈夫なのか?」
「はい、私は基本的に後方指揮ばかりでしたので。怪我はしていません」
「そうか……」
そしてそのまま山郷はその場を離れようとした時、
「提督、折行ってお話が……」
「?」
そこで大淀は陸奥の話を山郷にした。
「熱が出ただけで効果がなかった?」
「はい、佐世保の陸奥の証言ですと。そのように話していました」
「……副作用か」
山郷の呟きに大淀は頷く。
「でしょうね。ただ驚きです、まさかヤオビクニの効果のない艦娘がいるとは……」
「ああ、俺もだ……大淀、この後時間あるか?」
「はい、私はいつでも」
彼女はそう答えると、山郷は大淀を連れて四宮を探した。
そして彼を見つけると、その側には大和が居た。
「四宮、この後空いているか?」
「……例の一件かい?」
そこで山郷は軽く頷くと、四宮は時計を見た後に彼に言う。
「山郷、この後時間がある。夜に近くの居酒屋にいくぞ」
「了解、こいつも連れて行っていいか?」
「ああ、もちろん。俺もあいつを連れていくさ」
そう答えると、二人は一旦は別れる事となった。今回の作戦司令の四宮は報告書などを上げる必要があり、色々と忙しいのだ。
その日の夜、街の居酒屋の一角で四宮と山郷は大淀と大和に私服姿と軽い変装をさせて訪れていた。最も堂々たる規約違反である。
個室に入った四人はそれぞれ酒を注文すると、そこで早速四宮が話を聞いてきた。
「それで、佐世保の陸奥は効果がなかったのか?」
「はい、話によればですけど……」
「高熱を数日出した後に艤装に乗っても特段変化はなかったようです」
「ふむ……副作用なのか?」
首を傾げる山郷に四宮も同じように疑問を浮かべた。
「不思議だな。あの薬剤は全ての艦娘に効果があると思っていたが……」
「まだ詳しい事情がわかりませんので何とも言えませんが……」
「詳しく話を聞いてみたいものだが……」
「そもそも、あのヤオビクニは特例で認められた薬品なのですよね?」
「ああそうだ。厚生省が緊急で認めた」
四宮がそう答えると、そこで大和は純粋な疑問が浮かんだ。
「軍艦派の人間は艦娘を兵器として思っているのなら、どうしてわざわざ厚生省の認可なんか取ったのですか?」
「ああ、それか……ん?」
「言われてみると変な話ではあるな」
するとそこで大淀が口を挟む。
「それは、厚生省に認められないと色々と後が面倒だからじゃないんですか?」
「ああ、確かにそうだが……」
「いや、おかしな話だぞ?艦娘を兵器の発展系としかみておらん連中がする行動か?」
「世間の目というものでしょうか?」
大和がそう言うと、真っ先に山郷が否定した。
「それは無いな。海辺の人間以外、艦娘に興味なんてありゃしない。どうなろうが関係のない話だからな」
「ああ、一般市民には情報統制がよく行き届いているからな」
「海辺から人がいなくなってもう何年経ったのか……」
「それを思うと、東京は珍しいですね。何たって、海辺に人がいるんですもの」
大和がそう言うと、四宮が次に話す。
「そりゃそうだ、東京の人口は未だ千四百万人以上。国内総生産の約20%が集まっている。戦争が始まって、かなりの人間が内陸に逃げ込んだとはいえ日本の首都だ。
おまけに、東京湾要塞による何重もの防護壁。おまけに東京湾の入り口には日本最大級の防衛拠点の横須賀がある。これを突破できる深海棲艦は今のところ確認されていない」
現在、北陸地方は日本でも安全な地域として復興が急ピッチで進んでおり、数少ない交易ルートがあることなどから貿易会社などは物流拠点を北陸地方に移し始めている。しかし、それでもなお東京の絶対的な首都としての機能など。東京には今でもとにかく様々なものが集約されていた。
「政治・経済・人口。その全てが集約されている東京を、今更遷都なんてできっこないさ」
「そうだな、首都圏に広げれば。さらにその割合は大きくなる」
「特にシンガポールという重要なアジアの経済拠点が深海棲艦の攻撃を受けた影響で世界中の経済は大混乱だ。今もその影響は続いている」
「今、世界的にみても沿岸部で安全な地域が中国北部と朝鮮半島だ。全く、海産物全体が高級品になるなんて誰が予想できたか……」
山郷はそう溢すと、四宮は出された料理を食べながら呟く。
「先ほど、北朝鮮の滅亡も確認され。韓国が事実上の朝鮮半島の統治国だ。今頃、ロシアが大慌てしているだろうよ」
「その韓国は圧力を受けて陸軍のほとんどの部隊を海外に派遣するとか聞いたぞ?」
「はっ、流石にダンケルクの時のようなイギリス軍にはならないさ」
すっかり二人の会話となっている横で大淀と大和は出てきた料理に舌鼓を打っていた。
「美味しいですね」
「ええ、ここら辺は安全が確保された海域ですから。海産物も解禁されているんでしょう」
「普段から暇つぶしで魚を釣っていたりしてましたから。あんまり違和感ありませんでしたけどね」
大淀はそう言い、九州の魚を嗜んでいると思わず大淀は苦笑してしまう。
「なんだか、すっかり提督達の談話になっちゃましたね」
「いえいえ、いつもの事です。昔はそこに摩耶さんがちょっかいをかけていたんですけれどね」
遠い、懐かしの光景だと彼女は呟く。
「それで大体大惨事になって、最後に私が叱っていました」
今ではもう見られない、懐かしの景色だ。騒がしかったが楽しかった日々。
ちょくちょく基地を抜け出しては当時の司令であり、自分たちに軍人派の教えを説いた、『救国の英雄』として特別に『元帥』を名乗ることを許された天皇以外初の人物、その人に説教された日々。
「今となっては懐かしい景色です」
「……大和さん」
「?」
あまりにも懐かしげに溢す大和に大淀は気になって聞いてしまう。
「その摩耶さんとは、どのような人物だったのですか?」
「……そうね、また貴方には話したことが無かったわね。…今まで忙しくてすっかり忘れていました」
大和はそう溢すと、時間も時間なのでなるべく短く。それでいて懐かしの思いに馳せた少し重みのある口調で大淀に言う。
「何にでも血気盛んで、それでいて皆に気の配ることのできる優しい人でした」
「……」
「何にでも前向きで、諦めることなく。最後まで山郷提督の事を思っていました。
元々、山郷提督の秘書艦は決まっていたんですけど。それを無理矢理変えてまで摩耶にしたくらいですからね」
「へぇ……」
そこで大淀は少しだけ羨ましく思えてしまった。自分は摩耶や、その他の艦娘達がいなくなった後のことしか知らない。それ以前の話は人から聞くしか方法がなかった。
直接本人に聞くのも気が引けるし、かと言って四宮に聞くわけにもいかないので、こう言う話は大和からが一番聞きやすかった。
「山郷提督は摩耶さんがいなくなってからはもう、全ての事に対して身が入らなくなってしまいましたから」
「はい…仕事も結構適当な部分ありますし……」
そこで大淀は並々ならぬ感情を沸々とさせて溢すと、大和も思わず苦笑してしまった。
「でも、今の提督は少しだけですが。覇気が戻ったような気がします」
「……」
そこで大和は四宮と談義で盛り上がっている山郷を見て少し嬉しげにする。
「恐らく、黒岩大尉を送り込んだからでしょうね」
「どうしてですか?」
そこで大淀は首を傾げると、大和は今まで見てきた人と言うものに対して感じた経験から語る。
「簡単な話です。教えがいのある部下が一人いるだけで、人は成長するんです。元が優秀な人ほどそれは顕著に現れる……大尉は良い起爆剤になってくれたみたいです」
「……」
嬉しげに大和はそう語る。旧友の再始動の予兆を見て安堵しているようでもあった。
「大尉は良くも悪くも極端な人です、山郷提督もある意味で極端な人ですから。案外気があってよかったです」
「それは大和さんが仕組んだことじゃあ……」
「さあ、そうでしょうか?」
大和は少し楽しげにそう返すと、大淀はそこで経験の差を感じられずにはいられなかった。
「でも……やっぱり七人で艦隊を回すのはやっぱり酷です。それを今日、改めて実感できました」
大淀hがそう溢すと、大和も少し思ったのか答えることはなかった。
「いくら質を上げたところで、いずれは限界がくるのだと……」
「……私からも、提督に艦娘の配備を要請しておきますね」
「よろしくお願いします」
大淀の意図を汲み取った大和は少しだけ悲しげになると四宮と談笑する山郷を見た。
「山郷提督は過去を恐れて建造できませんから……」
なにせ摩耶がMIAになってからと言うもの、山郷は一度も涙を流していない。彼女の遺品すら見つからず、彼女の死をいまだに受け入れられていないと言うより。その実感がないのだろう。
涙とは別れを意味する重要な儀式であり、死者を弔う為には必要な行動だ。
「恐れとは、自分ではなかなか気づきにくいものです。しかし、人から言われたところで受け入れられないのも事実。
厄介な感情ですが、人を人たらしめる重要な感性の一つです」
大和はそう語ると、猪口を一口飲む。
「とりあえず今日は作戦の成功を祝いましょう。良い事は、祝える時に祝わないと」
「そう…ですね。じゃあ……」
そこで大淀は、普段は全く飲まない酒を猪口に軽く注ぐと大和と軽く乾杯をした。
「今後の成功を祈って」
「これからの平和を願って」
そして二人は少しだけ猪口を両手に持って軽く上に掲げる。
「「乾杯」」
そんな二人の願いは居酒屋の喧騒の中で小さく響いていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。