ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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「なにこれ……」

「ええ……」(困惑

 

種子島での激戦より帰還した大淀達が真っ先に溢した言葉である。

宿毛湾泊地に帰還した大淀達はそこである光景を目にしていた。

 

「わーっ!ぼすがかえってきたぞ!」

「いそげいそげーっ!」

 

そこには地上設置型のウルツブルグ・レーダーやチェーンホーム・レーダーなどが設置されていた。

 

「……」

 

その確実に見た事のない設備の数々に大淀は帰ってきて早々にメガネが割れかけた。

 

「大尉!!どこにいるんですか!?!?」

 

そして大淀はそう怒鳴り散らすと、艤装の修復以前どうこうの問題で色々と問い糺しに走った。

 

「なんというか…たまげたなあ……」

「感心してる場合ですか?」

 

思わず溢す山郷に加賀がマジレスしてしまうと、近くにいた妖精さんが呟く。

 

「いやはや、たいいがあまったぱーつならじゆうにつかっていいといっていたのでこうさくがいっぱいできました!!」

 

顔は油で汚れているのに目はとてもキラキラしているその妖精さんはそう言うと山郷が聞いた。

 

「ん?ちょっと待て、資材をつかっていないのか?」

「はい!せいかくにいうとぱーつをいっかいしざいにもどしてあたらしくつくりなおしました」

 

そう答えると、他にもこの工作に参加していた妖精さん達が次々に答える。

 

「さすてなぶるってやつです!」

「かんきょうにやさしい!」

「りさいくる!」

 

そう答える彼らを見て山郷は黒岩を探す大淀に声をかけた。

 

「大淀!資材は使っていなさそうだぞ!」

「そんな訳ありますか!こんなもの作るのに資材を使わない訳がないでしょう!?」

 

反射的にそう返した大淀に妖精さん達はやや引き気味に言った。

 

「うそじゃないもん!」

「わー、ぼすこわいですよ〜」

 

そう茶化すように、というよりちょっと小馬鹿にするように言った妖精さん達に大淀は唖然となった。

 

「……本当なんですか?」

「ええ、資材倉庫の鍵は開けていません」

 

そう言い宿舎から黒岩が出てきた。

 

「大尉?」

「大淀さんに怒られたくないですからね……」

 

どこか疲れ切った目で語る彼女は着ている白衣もどこか薄汚れており、そして何より……。

 

「臭っ!?」

「何ですか。この匂い……」

 

何日も洗っていない服のような薬品のつんざく匂いが彼女達を蒙昧させる。不知火や秋月はその匂いにやられてそのままパタリと白目をむいて倒れ込んでしまった。

 

「不知火?!」

「姉さん!!」

 

慌てて気絶した二人に駆け寄る足柄と涼月。

 

「よくこんな状態になるまで放置できたわね?!」

「うっ、もうダメかもしれません……」

 

加賀と羽黒もそう溢すと山郷は鼻をつまみながら黒岩に言った。

 

「黒岩、まずは体を洗って着替えろ。話はそれからだ」

「ええ、そうですね。今さっき希硫酸を使ったのでその臭いかもしれませんね」

「飛んだ劇物じゃねえかよ」

 

そう言い、山郷は思わず苦笑する。希硫酸とは水で薄めた硫酸なのでよく勘違いされるが、濃硫酸よりも酸性の強いヤバい液体である。そんなものを使った時点でロクな研究になっていない気がするのは気のせいだろうか?

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「作戦は無事に終わったようで何よりです」

「ああ、何とかな」

 

あのあと着替えて、まるで魔法のように匂いがとれた彼女は軍服を着て帰還した山郷と話す。

 

「ロケットは無事に打ち上がったさ」

「はい、ニュースでも見ました」

 

黒岩はそう答えると、その後に数日の間で泊地で起こった異変などは確認されなかった事を報告していた。

 

「これで、我が国は新たな通信衛星が打ち上げられ。さらなる情報収集が可能になったわけだ」

 

報告書を受け取りながら山郷はそう話すと、黒岩に指示を出す。

 

「黒岩、近々大淀達に改装を施す。準備を進めておいてくれ」

「はっ!了解しました」

 

いよいよかという雰囲気で黒岩は少し緊張すると、山郷は少し困まった様子で外を見る。

 

「それからあのレーダーのことなんだが……」

「はい…どうしましょう」

 

大淀があの後困惑した様子でそのまま倒れてしまい、妖精さん達ですら動揺してしまった地上用のあのレーダー。その処遇で山郷も頭を抱えていた。

 

「作ったものは仕方ない。何処かに置かせるしかないだろう」

「でもどこにおきます?」

「飛行場にでもおいておけ。場所がなかったら解体だな」

「分かりました。そのように伝えます」

 

山郷はそう答えると黒岩は部屋を後にしていた。

 

「……ふぅ」

 

そして誰もいなくなった司令室で山郷は椅子に深く座るとそこでパソコンを開ける。

 

「仕事を纏めにゃならんな」

 

提督としての仕事を初めて九年、深海棲艦による初の攻撃である北陸砲撃事件。

 

 

 

 

 

十年前に始まった海の怪物との戦いは人々の生活を大きく変えた。海辺から人は消え、既存兵器もほぼほぼ役に立つ事はなく、ミサイルも冷やかし程度にしかならない。そんな中、沿岸部から避難する市民の護衛を担当したのは警察や自衛隊などだった。

 

『住民の避難を急がせろ!』

『畜生!奴らが来やがった!!』

『伏せろ!!』

 

その瞬間、深海棲艦の戦闘機による機銃掃射と爆撃が飛び。コンクリートの破片や銃弾が襲う。そしてそれらの攻撃ですべてが消えていく様。

避難していた住民や護送のための自衛隊員はなす術もなく、ただ深海棲艦の攻撃が去るのを待つだけだった。

 

『畜生…畜生……!!』

 

本来守るべきであるはずの国民どころか、仲間すら守れず。彼らの遺体を前に己の無力さに嘆く隊員。

 

『無能共が!!』

『役立たず!!』

 

日に日に積み上がっていく遺体や行方不明者の数々。家族や友人を失い、本来の国防という職務を全うできていない当時の自衛隊に向かって国民が撒き散らした不満と憎悪。

彼らは自分の生活を奪われた不満の吐口を自衛隊や警察に吐き捨てていた。突如として無作為に命が奪われる状況に全員が狂い始めていたのだ。

 

『母さんを返してよ!!』

『ーーっ!ーーっ!あぁぁあああっ!!』

 

集団墓地にて燃えていく家族の遺体を見て近くで泣き叫ぶ娘や子供を失った母親の悲鳴、そのすべてが地獄を呈していた。

あの頃、世界中で同じ現象が起こっていたのだろう……いや、その光景すら見る前に滅亡した国家もあるはずだ。それくらいの衝撃力と混乱。まともな統率が取れるわけもなく、人は安全な場所を求めた。

 

『こちら第四小隊!支援要請!』

『こちら第一射撃中隊!これ以上はもう持ちません!ただちに戦車か航空機の支援をーーー』

 

防衛戦を展開する守備隊も連日訪れる砲爆撃に晒され、擦り減っていく日々。元々人員が少なく、どこからも冷遇されていた自衛隊は国防の要でありながら初戦から深刻な人員不足となっていた。

終いには難民キャンプで終末論を解き始めるカルト集団が現れる始末だった。

 

『お前達だって!今まで俺たちを蔑んでおいて何を今更救援ばかり叫ぶんだ!』

 

そんな中、反自衛隊を掲げていた左翼の人間の叫んだ文句に耐えかねたとある自衛隊が言い返した言葉だという。

そこから始まった国民の分裂、今まで溜まりに溜まった多くの鬱憤の声は国内での暴動に発展した。

俗にいう『二二世紀の赤狩り』の始まりの瞬間だった。戦前に反自衛隊を叫んだ政治家達は容赦無くリンチをされ、死亡した後も街に吊し上げられて放置される始末。

 

内地に続々と立つ避難民のための高層ビルは、国家の安全を最優先とする国の方針によって日照権なんかお構いなしに次々と建てられて行った。農地を潰し、土地を強引に買収され、強制的に農業を辞めさせられる農家達。

当時、海自の護衛艦艦長を拝命していた俺ですら、片手に20式を持たされて防衛部隊を任された身だ。乗っていた艦は深海棲艦の攻撃で呆気なく沈んでしまったさ。

 

陸自はほぼ壊滅。海自や空自の人員を割き、民間からも大量に募兵を募る。しかしそれでも足りない戦力。そして激しい深海棲艦の止まない攻撃。

憲法で徴兵ができず、行きつかなくなったこの国は過去類を見ない例で徴兵制度を復活させた。それが新憲法発布という方法だった。

それは、憲法改正の時間すら惜しかった当時の日本の極限の状況下で生まれた究極の一手だった。

 

「……思えばここまで、忙しい日々だったな」

 

戦争が始まり、当初は混沌と阿鼻叫喚が広がっていた国内も今ではすっかり戦争が日常と化していた。

この国で軍を持つ事に違和感を感じる人間なんておらず、海産物は全般が高級品となった。海を封鎖されている以上、まともに漁業を出せない。たまに密猟者もいるが、そう言った者達は一度出たっきり海から帰ってくる事はなかった。

 

「なあ、そうだろう?……摩耶」

 

そう画面に話しかける山郷は返る事のない返事を待っていた。パソコンの画面には一人の艦娘の顔写真とその経歴が記載されていた。

 

 

『《登録管理番号20341108630》

艦種:高雄型重巡洋艦三番艦 摩耶

所属:佐世保鎮守府

建造日:二〇三四年十一月八日

轟沈日:二〇三八年十月二三日

除籍:二〇三八年十二月二〇日』

 

かつて、自分の秘書艦であり。戦闘中行方不明(MIA)と判断された彼女は未だ帰ってきていない。

他の十九名の艦娘の遺品は丁寧に集められ、今でも山郷のデスクの棚に仕舞われている。

ただ唯一、彼の秘書艦の遺品だけは回収されなかった。彼にとっての嫁のように、娘のように可愛がっていた摩耶の遺品だけは見つからなかった。

 

「生きているんだろう?なあ…俺に顔を見るくらいしてくれよ……」

 

とても弱々しい声で彼はそう溢すと、彼女を最後に見た大海原を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……提督…?」

 

遠い南の海、そこで静かな海に一人の深海棲艦が何かを感じたように北を向く。

 

「……」

 

腹から生えた禍々しい様相の白い怪物が意思を持って不安げにその深海棲艦を見る。

 

「こんな私の元に生まれたのが災難だ……すまんね」

 

そう話しかけると、その艤装は『そんなわけない』と否定するように彼女に軽く擦り寄って答える。

 

「……そうかい、ありがとよ」

 

そんな反応を見てその深海棲艦は足の推進器を動かす。

 

「それじゃ、行くとしましょうか……」

 

そこでその重巡棲姫は加速を始める。その時の音は鯨が鳴いている様にも聞こえた。

月の輝く静かな海によく響くその音は北に向かって進み始めていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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