ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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日本は常に資源が不足している国家だ。艦娘の運用が出来たところでそれを動かす燃料がなければ満足な作戦行動も不可能だ。

国家の血液とも称される石油。世界中で石油がなくなると騒がれても、また新たな油田が見つかる影響で一向にその問題は解決に向かない。『喉元過ぎれば熱さを忘れる』とはまさにこの事である。ましてや、その石油油田が日本の近くにあるというのならば尚更だ。

 

 

 

 

 

東シナ海洋上 尖閣諸島沖五〇海里地点

 

凡そ1095億バレルの石油が眠っているとされるこの地で、戦前より日本と中国が揉めており。戦争の直接的な起爆剤たり得たこの場所。事実、中国の脅威的な海洋進出に戦前は中国海軍の軍艦と海自の護衛艦が直接睨み合っていた海域だった。

 

ただ深海棲艦との戦争が始まり、この海域に存在していた洋上プラットホームはそのほとんどが放棄され、現在ではそのほとんどが深海棲艦の攻撃で木っ端微塵に破壊されていた。

 

「石油、問題ありません」

「パイプラインも異常ありません」

「了解、タンカーと接続」

 

そしてこの海域で唯一現存している石油リグが、この第八石油リグであった。建造された中で最も小型の石油リグではあるが、日本が世界中に原油を売り捌くための重要な設備であった。

中国は革命後の混乱から未だ石油リグを再建するほどの余力はなく、韓国もまた同様であった。そのため、この第八石油リグ自体が戦略的にも重要な設備であった。

 

「タンカーとの接続を開始します」

 

そしてこの日も、艦娘や海外に売るための石油を回収に来たタンカーが接近していた。

 

「タンカーとの接続を確認」

 

本来であればこう言った石油リグはパイプラインで繋がっているのだが。生憎とそのパイプラインも今は破壊され、こうして特殊で危険な方法ではあるが長いクレーンを使用して直接原油をタンカーに注ぐ方法が取られていた。

 

「了解、圧力最大。できるだけ早く流し込め」

 

そう言い、タンカーの中には最大圧力をかけられて原油がタンカーに注がれていた。

国の重要物資でもある石油を運ぶタンカーの周りには護衛の艦娘も多数控えており、海域は物々しい雰囲気を醸し出していた。

 

「今日も静かですね」

「そりゃそうだ。東シナ海は日本海と同じく安全が確認された海域だ。これも、山郷提督のおかげさ」

「山郷提督?」

 

そこで一人の係員が首を傾げていると、リグの管理を任されているその男は頷く。

 

「ああそうさ、あの人が居なかったらここも破壊されていたんだ。俺たちは感謝しても仕切れんような人さ」

「そんなに偉い人だったんですか……あの人」

 

そう言いその係員の男は管理者の部屋にお御影の如く飾られたあのスクラップ記事を思い出していた。

 

「あの人がこのリグを守ったから、俺たちは働けるし、日本も石油不足で嘆く事はないんだ」

「なるほど、それは勲章ものですね」

 

そう話していた時だった。

 

『敵艦接近!』

 

警報と共にアラートが鳴り響く。

 

「何?!」

「どう言うことだ!?」

 

慌てて全ての作業を中断する係員達は驚きの声をあげる。ここは安全が保障されている東シナ海。それなのに深海棲艦がいると言う事実に驚いていた。

 

『敵艦一隻。急速にこちらに向かう!』

『総員戦闘配置。対艦戦闘用意!!』

 

護衛を最小限残して艦娘は現場に急行して行った。

 

「敵は一隻だけですか?」

「なら簡単に潰せるだろ。あれだけの艦隊だ。戦艦も混ざっている」

 

そう言い、彼らからしてみれば見慣れた艦娘達の艦隊を見てそう口にしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

七月三十日

宿毛湾泊地

 

夏も中盤に差し掛かり、暑い日差しが燦々と差し込むこの地で一人の女性士官が扇風機片手に涼みを求めていた。

 

「あ"っづ〜」

 

間近で扇風機の風を感じていると、横で大淀が呆れた声で話す。

 

「大尉?そんな声出します?」

 

そして横でタンクトップに短パンというあられもない格好をして、口にはアイスキャンデーを咥えていた。

 

「だって部屋のエアコン壊れちゃいましたし」

「修理はいつ終わるんです?」

「妖精さんがいうには夕方までかかるらしいです」

 

団扇を仰ぎながら泊地の彼女の家である宿舎で大淀と黒岩は話していた。

 

「こんな時期にエアコンが壊れるなんて災難ですね」

「ははっ、運が無いのは昔からですよ」

 

少し笑って答える彼女は製図台に立つとそのまま定規を使って線を引き始める。

 

「すごいです。こんな設備もないのにこんな設計できるなんて」

「いえ、所詮艤装技師なんて書く場所と道具があれば仕事ができる職業ですから」

 

そう答えながら今度の加賀の改二の為の改装設計図を書いていると、遠くでは砲声が轟いていた。

 

「新しい娘達も早速訓練ですか……」

「ええ、なんたってここは最前線ですから」

 

そう言い加賀や泊地から上がっていく流星改や四式重爆撃機を見ていた。

 

 

 

 

 

数日前、この宿毛湾泊地に新たな艦娘が配属された。

 

「阿賀野型一番艦の阿賀野よ!宜しくね!」

「同じく阿賀野型三番艦の矢矧です。よろしくお願いします」

 

そう言い挨拶をする二人の艦娘。そう、念願の増員である。二人しか来なかったがそれでもこの常人員不足の泊地からすれば喜ばしい話だった。

 

「念願の増員だ。今日は飲もうか!」

 

新たに来た艦娘に少しは苦労が減ると歓喜する足柄達。軽巡なので少し無理をすれば駆逐運用もできる事から秋月達も大喜びだった。

 

「明日からきっちりと戦い方を教えてあげるから」

 

加賀がそう言うと二人は思わずその気配に緊張していたが、そこですかさず黒岩が話しかけた。

 

「大丈夫大丈夫、そんな怖い事はしないから」

「え、えっと……」

「貴方は?」

 

そこで阿賀野達は山郷以外にいた士官服を着る人間に首を傾げると、そこでハッとなって改めて自己紹介をした。

 

「初めまして阿賀野さん、矢矧さん。私はここの艤装技師を勤めています。黒岩百合大尉と申します。宜しくお願いしますね」

 

階級は艦娘の方が上なので敬礼をして答えると、二人は少し唖然となった後に矢矧が聞いた。

 

「あの…艤装技師とは?」

 

建造されて間もない二人はそう首を傾げると既に出来上がりつつある足柄が答えた。

 

「うちらの艤装の改修作業を全般的に引き受けてくれる特務士官よ。今度設計図が書き終わったら、改二への改装が行われるわ」

「なんと!」

「おおっ!そんなに凄い人なんだ」

 

そこでその重要性を知った阿賀野達は感心した様子を見せると、少しだけ黒岩は恥ずかしそうにしていた。

 

「改二の改造後は性能に慣れるために数日は訓練が必要だから、その間の埋め合わせを宜しく頼むわね」

「はいっ!」

「了解です」

 

はず始めに改二への改装を行うのは足柄達の推薦で加賀が行うこととなる。

 

 

 

 

 

宿毛湾博多艦隊唯一の航空戦力の要である加賀、その彼女がいきなり改二の改装を行うのかと驚いてしまったが、山郷も承諾していたので黒岩も改装設計図を書いていた。

 

「改二になると艤装の性能自体が向上するから、初めは慣れないでしょうね」

「大尉は見た事があるのですか?」

 

艤装技師は改装設計図を元に艤装に手を加える。そこで大淀は改二をみた事があるのかと興味ありげに聞いた。

 

「と言うか、艤装技師になりたての頃に四宮提督の大和さんの改装設計図を書かされましたから……」

 

何処か遠い目をする彼女に大淀はその時の気苦労を想像すると思わず憐んでしまった。

 

「それは…….大変でしたね」

「ええもう、緊張でガッチガチでした……」

 

ペンをガタガタ振るわせながら設計図を書いている様子がありありと浮かび、四宮の扱い方に少し苦笑してしまった。

 

「四宮提督は東京では優しい心遣いのある軍人と聞いていたのに……」

「それはどうなんでしょう?」

 

少なくとも人をパシリにしてこき使ってくる時点でまともな軍人じゃ無い気がする。そう思うのは自分だけでは無いはずだと大淀は思っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じ頃、洋上では加賀の大量の流星改の攻撃に阿賀野達は晒されていた。

 

「きゃあっ!?」

「くっ…!!」

 

まだまだ経験の浅い二人はその絨毯爆撃を避けきれず無様に演習のペイント弾をくらい、身体中がインクまみれになる。

 

「ほらほら、背中がお留守よ」

「きゃあっ!!」

 

そして足柄が砲撃を加えると、阿賀野は至近距離の背中から撃たれてそのまま倒れ込んでしまった。

 

「はぁ…はぁ……」

「こんなに激しいなんて……」

 

二人はそう溢すと、教官の足柄はケロリとした様子で答える。

 

「あら、大和の時はもっと酷かったわよ?」

「え?あの大和さんに教えてもらっていたんですか?」

「凄い……」

 

()()大和の手解きを受けた足柄達に阿賀野達、特に矢矧は羨望の目を向けていた。しかし当の本人は少し忌々しげにその当時の状況を溢す。

 

「ええ、殴られ蹴られ説教され……」

「持ってる傘で筋肉痛の脹脛をぶっ叩かれましたからね」

 

そこで同じく教官として立っていた不知火がそう答えると、阿賀野達は困惑した様子を見せた。

 

「え?」

「嘘じゃ無いのですか?」

 

二人がそう言うと寧ろ足柄達はどこか望むように答える。

 

「はぁ、嘘だったらどれだけ良かった事か……」

「ですね。見かけに寄らず、実戦では結構厳しい人ですから」

「四宮提督に鍛え上げられた屈強な精神力よね」

 

少なくとも同じ大和型がいたとしても、ああも精神が強くなることはないだろう。と言うより、初めて出会った時と比べると間違えるほどに逞しくなったと山郷は語っていた。

 

「大和さんが……?」

「そんな……」

 

少なくとも建造された瞬間に余剰戦力としてこの地に派遣された二人は唖然となってしまっていた。

 

「さあ、まだ訓練は終わっていないわ」

「ですね。そろそろ続きを再開しましょう」

 

足柄と不知火は時計を見てそう話すとインク塗れの阿賀野は驚いていた。

 

「こ、この状態で!?」

「……分かりました」

 

そう言い矢矧は立ち上がると、足柄が忠告を入れる。

 

「海水で軽くインクを落としておきなさい」

「初日なのでまだ軽いですけど、これからどんどん厳しくなりますから」

「「(もうすでに厳しすぎると思うのですが……!?)」」

 

不知火の言葉に阿賀野達はそうツッコミをかけると同時に、とんでも無い場所に来てしまったと思ってしまった。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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