ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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種子島での作戦後に配属されてきた阿賀野型軽巡洋艦の二人は、実を言うと釧路泊地と呼ばれる北地の地より余剰戦力として四宮が裏で手を回して送られてきた艦娘だった。

 

現在、国内にある泊地はかつては重点港湾と呼ばれた港や軍事施設があった場所だ。港湾施設をそのまま改修すれば良いし、何より艦娘の絶対的な数を補うために必要なのだ。

大型建造が可能な大型ドックは横須賀や佐世保などのいわゆる五大鎮守府と呼ばれる場所にしかないが、建造ドック自体は宿毛湾泊地にも存在していた。ただ山郷がその建造ドックを使ったことは一度もなかったが……。

 

 

 

 

 

「設計図書き終わりました」

「おう。俺はそこら辺は良く分からんからあと任せた」

 

三日かけて改装設計図を完成させた黒岩はその青写真を山郷に見せると、その後大淀が資材倉庫の鍵を手渡す。

 

「こちらが開発資材用の鍵です。……加賀さんのような大型艦にはどうしても必要なのが玉に瑕ですね」

「足柄さん達は必要ないですからね」

「ウチんとこであと設計図がいるのは……」

「不知火と、この前来てくれた矢矧ですね」

 

大淀がそう返すと山郷は納得した後で大量の水柱が立つ洋上の演習場を見る。

 

「ああ、散々扱かれているな……」

 

そこで行われている訓練は音だけでその激しさを物語っていた。

 

 

 

 

 

「そーれそれそれそれぇっ!!!」

「「ギャァアアアアッ!!」」

「ほらそこ、隙がありますよ」

 

片手に刺股を持って砲撃を続ける足柄に、高速で接近してボコしては走り去っていく暴走族の不知火。

そして上空にはこれでもかといいうほど殺到する航空機の数。

 

「ちょっと?!なんか数多くない!?」

「そりゃそうでしょう。泊地の基地からも飛んできているんですから……!!」

 

そこで二人は建造された時に言われた一言を思い出してしまった。

 

ーーああ、また軽巡か。今は必要ないな……。

 

初めに言われた言葉であった。生まれた瞬間に軽巡が多いからと言われ、要らない用済みと言われた私たち姉妹。

もしあの時、四宮提督の目に止まっていなければ。私たちはそのまま解体されていたかもしれない。だからこそ、遠い宿毛湾まで移動してまで来た訳なのだが……。

 

『かんぱぁぁあああいいっ!!』

『『『いえぇぇぇえええいっ!!』』』

 

ここの指令であると言う山郷勲、そしてここの泊地所属の艦娘達も同様にコップを掲げて騒ぎ始める。

その光景に唖然となっていると、山郷提督の秘書艦の大淀が軽く涙目でタブレットを見る。

 

「はぁ…今月も出費ですか……」

 

そう溢しながら何やら計算している様子の大淀を見た後、ふと違和感を感じた。

 

「あれ?さっきの人は……」

「ああ、学者ちゃん?あの人ならここには居ないわよ」

「え、どうして……」

「あの人、陰キャですもの」

 

そこでキッパリと加賀が答えると、何処かから呻き声が聞こえた。

 

「グハッ」

「「?!?!」」

 

声のした食堂の入り口には何か抉られたような様子で引き戸を掴んでいる様子の黒岩がいた。

 

「あら、そこにいたの?」

「ええ、いましたとも。至急確認したい資料があったもので……」ガクッ

「大尉!?」

 

致死量の毒物でも入れられたかのように倒れた黒岩に矢矧が駆け寄った。

 

「大丈夫ですか?」

「ええ…いつもの事ですから……」

 

彼女は体を起こすと、そこで加賀を見る。

 

「酷いですよ。私はそこまで隠キャじゃ……」

「宴会場から消えた時点でどうかと……」

「……」チーン

 

ぐうの音も出ない不知火の口撃に黒岩は今度こそ真っ白になってしまった。

そんな騒がしい泊地は前にいたあそことは大違いで、五月蝿くて…だけどとても賑やかで明るかった。

 

「矢矧?」

「?どうした、阿賀野姉さん」

 

阿賀野は少し微笑んでいるようにも見えた矢矧を見てやや首を傾げていた。

 

「何か、楽しんでいない?」

「そうかも……しれません」

「え?」

 

阿賀野はそこでペイント塗れの矢矧が一瞬Mに目覚めたかと勘違いしてしまった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、始めますね」

「ええ、頼むわよ。ミスのないように」

「はいっ!!」

 

訓練が終わり、いよいよと言った具合で工廠にて艤装を外した加賀はそこで黒岩の方を軽く叩いて改装工事を任せる。

今日から丸一日かかる改装工事。その後、加賀は改二となって改装後の試験のために数日は前線から外れることになる。

 

「阿賀野達のおかげで艦隊は満足に動けるわね」

「そうですね。航空戦力はちょっぴり不安ですけど……」

 

なにせ、いきなり改二改装を受けるのが宿毛湾の唯一の航空戦力の加賀だ。満足な航空支援が数日受けられないのは危険ではあるが。最も改二になって欲しいと思うのも加賀と言うことで平穏な今のうちに一番時間のかかる艦娘からやっていこうと言うスタンスとなった。

なお加賀が終われば重巡なら二隻同時に行けると言うことで次に足柄と羽黒が改装を受ける手筈となっている。

 

「改二になると性能がピーキーになりますからね。慣れるのと微調整で最短で二日かかりますね」

「じゃあ、その間に敵の大艦隊が来たら大惨事ね」

「その前にこっちに救援呼んでください。一応四式重爆がいるんですから」

 

思わず黒岩もそう答えると、足柄達はやや驚いた様子を見た。

 

「結構言うようになったわね。大尉……」

「毎回戦闘に出るたびに何かしらぶっ壊して帰ってきたらそりゃ呆れますよ」

 

思わず黒岩はそう返すと、非常に疲れた様子を見せ。見るからに弱そうな女性という印象がある黒岩に着任して日の浅い矢矧はその気苦労を察していた。

 

「取り敢えず、明日になれば改装工事は終わるので。その後一四〇〇から調整を始めます」

「了解したわ」

 

加賀はそう頷くと、他の艦娘達も明日を楽しみにしながら工廠で早速作業に入る黒岩を見届けていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「アイツって、いつ寝ているんだろうな?」

「?」

 

司令室で目覚めのコーヒーを飲みながらふと山郷は溢す。

 

「いや、昼は工廠で加賀達の艤装の整備と改造。夜はヤオビクニの解毒薬の研究……寝る暇もなさそうじゃないか?」

「そうですね……」

「正直、こっちが申し訳なくなるよ。あんな若い娘に酷使を強いているみたいだ」

「見たいというか……強いているんですけどね」

 

少々後ろめたい部分を感じながら大淀がそう答える。

 

「流石に仕事を盛りすぎたな……」

「どこかしら妥協させた方がいいですね」

「本業をどっちにさせるかだよな……」

 

そこで山郷は一瞬考えた後に決断した様子で目を開ける。

 

「上からの命令を優先すべきだな」

「ですね、命令を出したのは南方方面艦隊参謀ですしね」

「ああ、普段は四宮中将とお呼びしなきゃならんからな」

 

そう言うと山郷は席を立ち上がる。

 

「しかし、改二を行う改装に艤装技師の技術が必要なのもまた事実」

「ええ、改装工事がひと段落したら。大尉には休暇を与えては?」

「そうだな、ここに来てから休みなしだものな」

 

いくら後方の人間とは言え、この数ヶ月を休暇なしというのは酷だ。いくら技術士官とはいえ、家族に顔すら見せないというのも酷い話だ。

 

 

 

 

 

「別に休暇は入りませんよ。私は忙しい方が好きですので」

 

工廠に入り、仕事をしていた彼女はそう答える。予想外の返答に思わず驚く山郷と大淀はつい聞き返してしまう。

 

「いいのか?」

「ええ、構いません」

「しかし、大尉の体調は……」

「私のことはそう御心配なさらなくて結構です」

 

自分の事を鑑みていない素振りを見せる黒岩に山郷は軽くため息が漏れた後に言う。

 

「黒岩、お盆くらいは親御さんに顔を出しておけよ」

 

そう言うと、彼女はそんな山郷に無機質に応える。

 

「ええ、その親御さんがいればの話ですけどね」

「え……?」

 

そこで山郷は言葉に詰まると、黒岩も少し山郷の目を外した。

 

「いえ、何でもありません。失礼しました」

「あ、ああ……」

 

そこで山郷は深く踏み込んではならない領域だと察し。それ以上聞くことはなかった。

 

「とりあえず、お前にはこの改装工事が終わり次第、休暇を出すから。覚えておけよ」

「わかりました」

 

そう応えると彼女は作業に戻っていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ぐっ…ごほっ……」

「ね、姉さん……」

 

首元を鋭利な黒い爪のある純白の肌の手で掴まれ、体の至る所から血を流す榛名。その近くでは同じように大破した霧島のが倒れかけで立っており、限界を迎えつつあった。

 

「くっ……!!」

 

そこで榛名は残っていた最後の主砲を、最後の攻撃で向けようとするが。そこを丁寧に敵の8inch砲の至近の砲撃で撃ち抜かれて破壊される。

彼女達は南方にて原油タンカー船の護衛についていた艦娘達だ。深海棲艦の接近を聞きつけて迎撃に向かったは良いものの、こうして返り討ちにあっていた。

 

「……一つ、聞きたいことがある」

「っ?!」

 

全ての武装をグチャグチャに破壊され、他の艦娘も同様に大破し、ほぼ全ての武装が使えなくなった現状。器用に破壊する目の前の重巡棲姫は流暢な言葉で榛名に聞く。ここだけでも十分異常な深海棲艦であった。

 

「山郷勲と言う男を……探している」

「?!」

 

その名前を聞き、榛名は聞き覚えがあった。常々自分たちの提督が『落魄れた英雄』と評していた人物だ。

 

「知っているなら、居場所を聞きたい」

「し……らない」ドンッ「ごふっ!!」

 

そう答えた榛名の腹をその重巡棲姫は容赦なく撃ち抜く。

 

「その顔は知っているな?言え」

「……」

 

そこで沈黙を守ると、その重巡棲姫は諦めたのか榛名を掴んでいた首を外すと一旦顔を下げた榛名の頭に8inch砲を向けた。

 

「っ!!姉さん!」

「来ないで!」

 

そこで榛名は無理に動こうとする霧島を静止させる。おそらく、目の前にいる重巡棲姫は今度こそ本気で沈めにくる。重巡であっという間に空母や戦艦のいる艦隊を蹴散らした実力。今の自分たちで叶う力ではなかった。

 

「私たちは知らないわ……名前しかね」

「……そうか」

 

その反応を見てか、その重巡棲姫はそのまま用が済んだかの如く走り去っていく。その速度はジェット機のようで、あっという間に海域から消えてしまった。

 

「どうして……?」

 

なぜ、護衛のいないタンカーを狙わないのだ。自分たちを沈めないあたりもそうだ。さまざまな疑問が残る重巡棲姫の行動に榛名達はただただ首を傾げていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

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  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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