八月十日
東京 防衛省
この日、四宮は頭を抱えていた。
防衛省と、憲法改正前より名称の変わらないこの場所。看板を変えないのは経費削減の為。
軍と名を変えたにも関わらず、駐屯地に下がる看板に『自衛隊』と残されているように過去の名前はいまだに残っていた。そんな看板を変える人員の余力があるならそれらを前線に兵士を回せと言うこの国の限界を感じつつある現状の表れでもあるのだが……。
「新種の深海棲艦と来たか……」
そこには資料と共に送られた情報が書かれていた。
その重巡棲姫はおそらくタイ海軍の艦娘を蹴散らした個体と同一と推察されており、驚異的な力を持ち合わせていた。
「戦艦を斉射で中破とは……」
接敵した那覇泊地所属の艦隊から送られてきた報告書を読み、四宮は最早戦艦棲姫だなと溢す。
「新型の深海棲艦ですか……」
「ああ、見た目は重巡棲姫。火力は戦艦級だそうだ」
「それはまた……」
大和は同じように資料を見ていると、ふと違和感を口にする。
「ガンカメラの映像はないのですか?」
艦娘の艤装には必ずビーコンとカメラが搭載されており、随時位置情報と映像が集約されていた。なので普通はそういった写真が残るはずなのだが……。
「真っ先に破壊されたようだ。それでいて艦娘を殺す事なく大破させた状態で去っていくそうだ」
「殺さない?何故?」
「私に聞かれても分からんよ」
四宮は大和にそう答えると、報告書の最後を見ながら呟く。
「それよりも問題なのは…その深海棲艦は山郷を探していると来た……」
報告書の最後に書かれた深海棲艦からの問いかけの内容だった。非常に流暢な日本語で山郷の居場所を聞いたと言う事実がそこにはあった。
「どうしてまた山郷提督を……」
心労から五台鎮守府提督を退いた彼に用事のある深海棲艦など想像がつかなかった。
「最後にその深海棲艦……今度個体識別で《HC-11》と呼称される事になる重巡棲姫は北に向かって消えたそうだ」
強力な深海棲艦や新種の個体には新たに名称が与えられる。前者は主に番号のことが多かった。
「北となると……」
「種子島沖だな」
この前防衛作戦を展開した種子島方面に向かったと言う事実に大和は四宮に言う。
「よかったですね提督。時期がズレたみたいで」
「ははっ、不幸中の幸いというやつかな……?」
四宮はそう答えると息を吐いて大和の出した紅茶を飲んでいた。
宿毛湾泊地での山郷の仕事は提督業務の他にも付近の住民との交流も含まれている。
普段いる宿毛市にも人は住んでおり、そういった住民との交流は重要であった。
『『『『『カンパアァァァァァアアイイイッ!!』』』』』
そう、こう言う地元の祭りに参加して酒を飲む方もまた重要な仕事なのだ。そう、これは重要な任務なのだ。
「さあ、今日は目一杯飲んでくれ」
「山郷さんや、旬の魚はどうだい?」
「魚か、珍しいな」
街の集会場で山郷は漁師の持ってきたアジやマグロなどの魚料理を食べていた。
「いつも山郷さんとこには世話になっていくからねぇ」
「あの子たちにも分けといてくれや」
そう言いその漁師は天然物の魚を山郷に渡す。
海を奪われた今の世界は魚は養殖が基本であり、天然物の魚など高級品になってしまうほど漁獲量は少なかった。
「ああ、ありがたく受け取るよ。いつもすまんな」
山郷はそんな漁師の好意を受け取りながらそう答えると、その漁師は答える。
「いやぁ、感謝するのはこっちよ。山郷さんや他の子達が命張ってバケモンどもから守ってくれてるから俺たちは海に出られるんだ」
「まったくだ。あんな若い子達に守られっぱなしってのが何とも情けなく思えちまうよ」
そう言い、そのあとゲラゲラと笑い合う漁師たち。
そろそろお盆ということもあり、中には帰省してきた様子の家もいた。
「この前孫に言われちまったよ。『安全な内地に引っ越そう』ってな」
「へえ?それでどうしたんだい?」
「んなもん『俺から海を抜いたら何が残んだ!!』って言っちまったよ」
「はっはっはっ!爺さん、そりゃちと可哀想じゃないのか?」
山郷はそう聞くとその老人は豪快に笑って応える。
「馬鹿言え、どうせ孫より長く生きられねぇんだ。俺は最期まで海を眺めて逝くんだよ」
そう答えるとその老人は固い決意を持った表情で酒を飲む。
「それに今更、ここを捨てる気にもならねぇ。ここは俺の故郷だ」
「……」
それほどこの地を愛していると言うことなのだろう。その気持ちは山郷も分からないわけではなかった。
深海棲艦との戦いは人類の生存競争と変わりつつある。海から襲来した怪物は人類を根絶やしにする為に現れた黙示録のラッパ吹きなのか……。
そもそも深海棲艦自体、どう言った存在なのか分からないことの方が多い。どう言う生態系を有し、なぜ我々を攻撃するのか。
それを言うのなら艦娘もまた同様になぜ現れたのか。なぜ二次大戦の艦船ばかりなのか。不明な部分が多いのは彼女たちもまた同じだった。
「爺さんも長生きしろよ」
「はんっ!俺はあと十年は生きてやるさ」
そう老人は意気込んで居ると、そんな酒に酔い始めた山郷を一人の女性が叱るように来た。
「少将!」
「うおっ!?」
怒鳴り声で一瞬ビビって後ろを向くと、そこには黒岩がやや青筋を立てて仁王立ちしており、山郷を見下していた。
「誰だい?その若いのは?」
「あらまぁ、別嬪さんじゃないか」
そんな黒岩をまた老人たちはそう溢すと山郷は怒る黒岩を紹介する。
「黒岩百合、春から俺の部下になった技術士官だ」
「はぇー、技術屋かい?こりゃまた……」
「偉い若いなぁ……まだ二十歳近いやろう?」
そう言い黒岩の若さに驚いた目をしていると、近くにいた老婆が黒岩に話しかける。
「お嬢さんはどこから来なさったんだい?」
「あっ…えっと……東京です」
黒岩はその場の和やかな雰囲気に飲み込まれそうになるのを踏ん張りながらも、老婆の問いかけに答えると集会場にいた全員が感心した様子を見せた。
「ほぉ、東京からかい」
「都会から来たならここは磯臭いだろう?」
「はっはっはっ!そいつぁ無いぜユウさん」
「そうだそうだ、住めば都よ」
「これば本当の都下りってな」
そう話すと直後に爆笑が集会場を包み込む。そのほんわかした空気に黒岩はそこで自分がなぜここにきたのかを考えてすぐに思い出した。
「……あっ!そうだ!!少将、今から帰りますよ」
「え?どうしてだ?」
「大淀さんに呼ばれているからですよ。ほらっ、行きますよ!!」
「あっ、ちょっと……!!」
そこで山郷は土産の魚や酒瓶を持ったまま黒岩に首を引っ張られるとそのまま集会場を出ていく。
「じゃあみなさん、お先に失礼するよ」
山郷が去り際にそう言うと老人達も陽気に答える。
「おう、大淀ちゃんによろしくな」
「今日はどのくらい絞られるか楽しみだ」
「ははは、そりゃ無いよ」
山郷は苦笑気味にそう返すとそのまま集会場を後にしていた。
「全く、少将はすぐ酒を飲みたがるんですから……」
「良いだろう?酒は男の醍醐味だ」
やや胸を張って山郷はそう答えた。
「堕落の象徴ですよ」
黒岩は呆れたようにそうキッパリと答えると山郷は聞いた。
「大尉は酒は飲まないのか?」
そう聞くと黒岩は間を開けることなくはっきりと答えた。
「ええ、酒はほぼ飲みません。春先の宴会以来飲んでいませんよ」
「……まじか」
「むしろ少将が飲み過ぎなんです。もう少し控えてください。命令に支障をきたしますよ」
私は泊地の中でも一番下っ端なんですから……。とこぼす黒岩は先ほど山郷の首根っこを掴んでいたのだがと思っていると黒岩は色々と思っているものを吐き出すように愚痴った。
「大体、少将は制服姿のまま街に繰り出さないでください。もし誰かにその姿が拡散されたら側の腐敗だと言われますよ」
「地域住民との交流は重要なことだぞ?」
「だからってお盆の季節に騒ぐ必要ないでしょう。長崎の花火じゃあるまいし……」
「君、結構言うようになったね……」
山郷はこれは行けないと思った。うちの泊地に大淀が二人いるとみんなの胃袋が破裂しかねないと思った。
「(大淀のように厳しい人間が二人はちとキツイな)」
少なくとも自分は耐えられないと思っているし、小言を二倍言われたくない山郷は黒岩の大淀化阻止計画を考え始めた。
「何か変なこと考えていません?」
「そんな訳なかろう」
山郷はけろりと嘘をつくと黒岩は呆れたようにデコに手をつける。
「…はぁ、加賀さんも改二になったと言うのにこの提督は……」
本気で呆れている様子の黒岩に山郷はこれがいつものうちらだと言って諭すと、
「そんなのダメじゃないですか!大淀さんを殺す気ですか!?」
と真顔で返されてしまった。確かに、艦娘が二人来て少しは負担が軽くなったかと思っていたのだが……。
「はぁ……大淀さんが苦労する理由がわかりますよ」
彼女はそう溢すと二人は泊地に帰還して行った。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。