新型重巡棲姫の攻撃で艦隊の半分がやられた宿毛湾泊地艦隊。離陸した四式重爆の支援で一旦撤退した加賀達は帰還した泊地の工廠で黒岩の出迎えを受けていた。
「大丈夫でしたか!?」
「問題ないわ。それよりあの深海棲艦は?」
真っ先に加賀が聞くと彼女は教えた。
「あそこから動いていないみたいです。妖精さんのレーダーが言ってました」
「そう……」
うちらがいない間に作ったあのウルツブルグ・レーダーが役に立ったと思っていた。いらない装備かと思っていたが、予想以上に活躍していた様だ。
「阿賀野達は?」
「皆さん入灌しています。艤装の修理も急ピッチで始めています」
阿賀野、秋月、涼月の三人は大破にまで持ち込まれた。自分の航空隊ですら出した分だけ叩き落とされていた。そのことに悔しさが沸々と上がって来ていた。
「提督は?」
「司令室で頭を抱えていますよ」
「え?」
加賀は黒岩の返答に思わず驚いた声が漏れてしまった。
「何で?」
「私に聞かれても……兎に角、加賀さんは司令室に向かってください」
黒岩はそう答えると工廠で艤装の修理に入っていった。
加賀は山郷の異変もあるが、とりあえず報告のために司令室に入るとそこでは大淀が山郷を抑えている光景が広がっていた。
「提督!待ってください!!」
「あれは、俺が直接見なければならないんだ……」
山郷はそう言い部屋を出ようとしたところを大淀に羽交締めにされていた。
「あまりにも無茶です!そのまま殺される可能性があるんですよ!?」
その光景に加賀は驚いて少し固まっていると、そこで話しかけた。
「加賀です。ただいま帰還しました」
そう話すと加賀に気づいた大淀がやや険しい剣幕で言った。
「あっ!加賀さん!ちょっと手伝って下さい!!」
「わ、分かったわ……」
そこで加賀も困惑の色を見せながら山郷を落ち着かせる。
「提督、報告をしたいので席に座ってください」
「……」
そう言うと山郷はそのままゆっくりと司令室のソファーに座り込んだ。
「詳しい状況を」
「はっ!」
そこで加賀は山郷に接敵からの詳しい状況を話していた。
「ーーそれで、私達は撤退しました」
「そうか……」
話を聞き、山郷は軽く頷くと加賀は疑問を持った様子で溢す。
「一体誰を探しているのか……」
「……加賀」
「?」
そこで山郷は加賀に言う。
「加賀、羽黒、矢矧、大淀の四人でもう一度出れるか?」
「え?……まぁ、行けないこともないですが…」
損耗を考えればあと二回ほど出られる。しかしあの重巡棲姫は圧倒的な防空能力を持っていた。
「今、あの重巡棲姫は動いていない。おそらくは待っているのだろう…….そこでお前達にはあの重巡棲姫との会話を命令する」
「命令……ですか?」
「そうだ」
山郷はそう答えると加賀は軽く頷いた。
「分かりました。直ちに出撃します」
「すまんな、苦労をかける」
山郷はそう言うと加賀は少し呆れた様子で答えた。
「提督がそこまで感情的になったのを見ただけで儲けものですよ」
そう言うと彼女は司令官室を後にしていた。
そして大淀と二人きりになった所で大淀は改めて落ち着いた山郷を見て聞いた。
「私を出すんですか?」
「ああ、お前にはやってもらいたいことがあるからな」
「その前にいくつかお聞きしたいことが……」
「何かね?」
そこで大淀は山郷に気になった点を問う。
「提督はあの重巡棲姫に心当たりがあるんですか?」
「……」
その問いに少し間を置いた後に大淀に逆に聞いた。
「大淀…」
「?」
「大淀は行方不明者が何年も経って見つかる事を信じているか?」
「え?」
大淀は困惑した表情を見せると山郷は大淀に話しかけた。
「本当にそんなことがあり得るのですか?」
話を聞いた大淀は思わずそう返すと山郷自身も『普通ならありえない』と言った上で話す。
「あくまでも俺の仮説だ。だが、あの髪飾りは……」
「でももしそうだったとして、その後はどうするんですか?」
そう聞くと山郷は答える。
「捕縛か鎮めるか…できれば捕縛が望ましいな……」
「それは……」
「何、俺の私情に付き合わなくてもいいさ……」
山郷はこう答えると大淀は少しだけ悲しげにした後に部屋を後にする。
「では、私も出ます」
「ああ、宜しく頼むぞ」
「くれぐれも飛び出さないでくださいよ?」
「分かっている」
山郷はそう答えると大淀は拭い切れない不安を覚えた。
「ええっ!?もう出撃ですか?!」
工廠で黒岩は驚いた様子を見せる。そんな彼女に今回出る大淀含めた四人は言う。
「今、あの重巡棲姫はあの海域に留まっています。こちらからの積極的攻勢は行う予定はありませんので」
「しかし、負担が大きいんじゃあ……」
「大丈夫ですよ。たまに有りますから」
羽黒がそう答えると黒岩は少し考えた後に答えた。
「……分かりました。補給をしてだします」
「あとそれからもう一つ」
「?」
そして黒岩に大淀はある改造を依頼する。
「今から出撃する艦娘の艤装のガンカメラを切ってもらえますか?」
「えっ!?」
艦娘の艤装に必ず取り付けられるガンカメラ。映像は本部のアーカイブに送られており、出撃中は必ず起動しなければならないのが規則だった。
「規則違反ですよ?もしバレたら……」
「その心配はありません。こんな田舎泊地です。一々確認なんてしませんよ」
サラッと自虐しながら大淀は言うと黒岩は少し悩んでいた。それを見て大淀は強請る。
「今回の出撃はある事情で映像は遮断する必要があります」
「……」
「お願いします。提督に関する事情でもありますので」
「わ、わかりました……」
そんな大淀に黒岩は了承するとそのまま艤装のガンカメラの電源を落としていた。
「はい、これで問題ないはずです」
「有難うございます」
大淀は何も聞かずに依頼をこなしてくれた黒岩に感謝すると加賀が言った。
「行きましょう」
「はい」「了解」
そしてそれに続くように加賀達はガンカメラの切られた艤装を装着するとそのまま出撃していく。
「……」
そしてそんな大淀たちを見て悔しげに海を見ている不知火と足柄の二人。
「何とも悔しいわね」
「ええ…何も出来ないと言うのは歯痒いです」
「無理に飛び出そうとしないでくださいよ?」
そこで黒岩はいつもと違って真剣な眼差しでそう話すと二人は頷いていた。
「ええ勿論……」
「ええ、分かっています」
本当は飛び出してでも行きたいが、生憎と自分達は改二になるための工事中で出る事はできない。
と言うか出ようとすると艤装技師としての誇りからなのか黒岩が普段から考えられないくらい怖いのだ。それこそ山郷が萎縮するくらいには……。
「(大尉を怒らせたらたまったもんじゃないわ)」
「(ですね、普段の弱々しい部分は何処に行ったのでしょうか……)」
足柄達は小声でそう話していると出撃して行った大淀達を見送っていた。
「なるほど、優秀な生徒だったんですね?」
大和は紅茶を飲みながらそう答えると席の反対に座る一人の女性が陽気に答える。
「ええ、あの子はすごく優秀な子ですよ。一年で私の太鼓判を押せるんですから」
ピンク色の髪が特徴的なその女性の名は明石、明石工廠なる艤装技師を育てる為の学校の教師兼工廠長を務める艦娘だ。
大和は明石を千葉から呼び出して東京のあるカフェで話をしていた。理由は黒岩に感じて大和なりに気になった事があったからだ。
もちろん、これも規則違反ではあるがしょっちゅう大和は変装して街に繰り出していた。しかも今までバレたこともなかった。
「一年で明石さんの太鼓判とは…」
本当に天賦の才があったのだと思う。すると明石は授業中の態度などを大和に話す。
「授業中もよく装備品を分解して組み直したりしていましたからね。なかなか面白い人でしたよ、あれで薬剤師の免許もあるんだから。いやはや天才というのはいるんですなぁ」
「明石さんがそんなに褒めるのも珍しいですね」
「そりゃ勿論、私の授業に着いて来れた弟子みたいなものですから」
少し誇らしげに明石は語ると、大和も四宮の命令で自分の改装設計図を書いていた彼女を思い出す。今思っても可哀想な話だと思う。
「しかし、艤装技師になって初めてな仕事が大和さんの改装設計図の仕事とは……運がありませんね」
「ええ、提督も人使いが荒い人ですよ。大尉、涙目で脚がすくんでいましたから」
そう言い改装設計図を提出した時のあのこちらの心が痛くなるようなほど震えていた黒岩の姿を思い返す。
「あー、黒岩大尉はチキンハートですからね。とにかく人と接するのは苦手みたいですからね」
「そうなのですか?」
明石の言葉に大和は首を傾げると明石は頷いた。
「はい、大尉が誰かと接していたのなんてほぼ記憶にありませんから」
「そうですか……」
「接客的に人と関わろうとしないんです。何と言うか…人を怖がっているような印象でしたね」
「……」
少しだけ大和は目元を細めて話を聞いていた。
「あれは過去に何かあった感じですね。どちらかと言うと良くないタイプですね」
「そうですか……」
するとそこで明石は率直な意見を大和に伝える。
「まあでも、私の知る限りでは黒岩大尉が一番艦娘に詳しい人だと思いますよ。艦娘の装備研究所でもかなり頑張っていたって言う話ですし」
「なるほど……」
とは言え何かしらの闇を抱えているのかと大和は感じているとその時、大和の持っていた携帯が鳴った。
「あっ、提督から……はい?」
そこで大和は軽く何度か会話をした後に席を立つ。
「提督から呼び出しを受けましたので、お先に失礼します」
「はいはい、大和さんも忙しいですね〜」
明石は軽く笑いながら大和を見送っていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
-
ハッピーエンド
-
微ハッピーエンド
-
モヤモヤエンド(?)
-
全部書け。