着任初日の夜にいきなり盛大な歓迎会を開いて黒岩の着任を祝った宿毛湾泊地。翌日、初仕事となる泊地にて黒岩は死にかけていた。
「ううっ…ぎもぢわるい……」
昨晩、散々司令官の山郷に飲まされた彼女は顔を真っ青にして口元を手で覆っていた。
司令官という立場故に断りづらく、ジョッキ三杯を行ったところで大淀に怒鳴られて無理やり引き剥がしてもらった。
「初日早々急性アル中で搬送案件かと思った……」
水を飲みながら思わずそう溢すと、部屋の扉がノックされた。
『大尉、大丈夫ですか?』
おそらく飲まされたことで心配になったのだろう、大淀がわざわざ声をかけてくれた。
「ええ、大丈夫よ……」
そこで彼女はそう答えるとそのままもっさりとした動作でドアを開けた。
「昨日は散々でしたね」
「ええ全く」
そう言うと、大淀はぶっ倒れた彼女を案内する。
「では食堂に行きましょう。みんなも今日の歓迎会でそのまま寝ているでしょうし」
「え?あのまま宴会続行してたの?」
思わずマジ顔で聞き返すと、大淀はいつもの如くといった様子で頷く。
「ええ、宴会なんて夜通しでやることが多いんです」
「……」
なんて奴らだと思っていると、大淀はそうなる訳を話す。
「ここは最前線です。楽しめる時に目一杯楽しむようにしているんです」
「あっ…」
事情を納得し、少しだけ申し訳なく思った。
最前線と言う事はいつ自分が死ぬかわからないと言うことになり、楽しむ機会なんて数える程度だ。
それを考えると少し自分の思っていた事に申し訳なさを感じた。
「でもまあ、それに託けて提督は宴会を良くやっていますけどね」
「……」
前言撤回、山郷少将は一回告訴された方がいいかもしれない。
「何せこんな場所の泊地です。色々と忙しいかも知れませんが、よろしくお願いしますね」
彼女はそう言うと昨日宴会をしていた食堂の引き戸を開けた。
するとそこには地獄とも称すべき光景が広がっていた。
「うぅ〜、羽黒ちゃ〜ん」
「ねっ、姐さん!!」
二日酔いなのか、羽黒にだる絡みしてる足柄。
「ZZZ……」
食堂の椅子に寝そべって爆睡中の不知火、そして……
「うおー、まだまだいけっぞぉ〜」
酒瓶片手に寝言を呟く山郷。その服は乱れまくっており、制服はよれよれだった。
「……」
そこに加賀や秋月姉妹の姿は無く、おそらく宴会を抜け出して寮に戻ったのだろう。地獄絵図のような景色に絶句してしまっていると、大淀は慣れた手つきで初めに不知火を起こす。
「不知火さん、起きてください」
「んあ…もう朝ぁ?」
「ええ、朝ですよ」
そう言い不知火を起こすと、大淀は黒岩に頼んだ。
「大尉、そこら辺の宴会の皿とかを片付けてくれませんか?」
「あ、分かりました」
そこで彼女は散らばった皿などを片付け、ついでに皿洗いをする。
大きな鎮守府なんかに行けば間宮などの補給艦がいるからこうした事も無いのかと考えていると、大淀が横で今度は朝食を作り始める。
「ここには生憎と間宮がいませんから、色々と大変ですわ」
「本部に間宮を要望しないんですか?」
「ええ、普段はみんなが手伝ってくれますからね」
そう言うと彼女は朝食の焼き鮭を作り始める。
既に食堂は静かなもので、いつの間にか宴会の後も掃除し終わっていた。
皿洗いをする中、黒岩は思い切ってここの現状を聞いてみた。
「七人しかいないここは、どうやって艦隊を回しているんですか?」
「艦砲は足柄さんと羽黒さんを筆頭に加賀さんの航空攻撃に任せている事が多いですね。基本的に訓練と出撃以外で外洋には出ません」
「深海棲艦との戦闘では?」
「簡単な話です。速度を生かして足柄さんと不知火さんが接近戦で倒しています」
「ああ、なるほど」
そこで納得した表情を見せると、大淀は言う。
「中央から来た貴方なら分かりやすいかもしれませんが、あの二人は飛び抜けて強いですよ。恐らくは……」
「そりゃ、東シナ海の英雄に扱かれた艦娘なら恐ろしく強そうですよ……」
そこで山郷の異名と共に洗った皿を拭くと、そこで大淀は彼女に言う。
「大尉は料理できますか?」
「?ええ、多少なりは……」
そう答えると、そこで大淀はフライパンを黒岩に預けた。
「ここはとにかく人手不足です。なので大尉には色々と仕事を兼任してもらいますね」
「は、はい……!!」
なんだか前の職場よりもえぐい場所に派遣された気がする黒岩であった。
それから少しして、食堂には九つの皿が置かれ。簡単な朝食が提供された。
「「「「頂きます!」」」」
ここに来ていない山郷以外の艦娘達は手を合わせて朝食を食べる。先ほどの地獄が嘘のようだった。
「あれ?少し薄味じゃ無い?」
そこで焼き鮭を食べた足柄がふと疑問に思うと、そこで大淀がその訳を話した。
「今日は黒岩大尉に作ってもらったんです。今日から本格的なお仕事ですからね」
「口に合うかどうか分かりませんが……」
少し怯えているように見える彼女に、足柄は何処か違和感を覚えつつもその鮭を食す。
「ふーん、貴方がね……」
そこで彼女たちが朝食を摂っていると、食堂に山郷が入ってきた。
「おはよう」
「「「「おはようございます」」」」
彼女たちはそう答えると、今度はしっかりと着こなされた制服姿で山郷は席に座ると、大淀から緑茶を出された。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
そう答えると山郷は緑茶を飲む。
「今日の予定は?」
「特にありません。訓練もありませんし、強いて言えば黒岩大尉の仕事場紹介でしょうか」
彼女はそう答えると、山郷は納得した上で食堂に立つ黒岩を見る。
「黒岩、ここの妖精さんはちと厄介なことを忘れるな。慣れるまでは大淀にでも着いて来てもらえ」
「は、はい……?」
どう言うことだと首を傾げる彼女であった。
朝食の時間が終わり、黒岩は大淀とともに今日からの仕事場である泊地の工廠に向かう。
「提督の言う通り、ここの妖精さんは警戒しておく事です。その為に……」
そこで彼女は一冊の手帳を渡す。
「これらのルールを守り、妖精さんの言葉には耳を傾けないように」
「え?」
「ここの妖精さんは狡猾です。あらゆる手で資材を使って変なものを作ります。もし困ったことがあればすかさず私に相談してください」
「はい……」
凄みのある表情でそう話す大淀に、少し虚どりながら黒岩は答えると二人は工廠の扉を開けて中に入った。
「ここでは自由に作業をしてもらって構いません。既に艤装の改修作業を要望されていますので、大尉はその改修作業をそこにいる妖精さんと共に行って下さい」
「分かりました」
そこで指示を受けた彼女は頷くと、大淀は軽く手を叩いて工廠で盛り上がっている妖精さん達の注目を集めさせた。
「さて、今日から忙しくなりますよ。しっかり働いてくださいね」
『『『『『はーいっ!!』』』』』
大勢の妖精さん達はそう答えると、早速黒岩は気を取り直して仕事を意気込んだ。
「ねえねえ、たいい」
「ん?どうかされましたか?」
そこで最初の仕事として秋月達の偽装の回収作業を始めようとした矢先、彼女は一人の妖精さんに話しかけられた。
「こっちのほうがこうりつてきだとおもいませんか?」
「どれどれ?」
そこで青図面を受け取ると、そこで首を傾げた。
「沿岸砲?」
そこには対深海棲艦用沿岸砲と書かれた図面があり、それを提出した妖精さんが熱くプレゼンをする。
「はい!しんかいせいかんにたいこうするために、ぼうきょのかなめであるこのちにきょだいなたいほうをそうびするんです!」
「なるほど…」
プレゼンをきき、悪く無い話であると思ったが、そこでふと疑問が浮かんだ。
「でもこう言うのって上からの許可がいるんじゃ無いの?」
こんな巨大な大砲は確かに基地防衛には必要な物資であるかもしれないが、そう言った代物を建造するには大量の資材と人員が必要になる。だからこそ許可が必要になるはずだ。
するとその妖精さんは自身ありげに軽く胸を張って答えた。
「だいじょうぶです!しれいにはきょかをとりました!」
「あっ、ほんとだ」
図面をよく見ると山郷の判子が図面の端に押されていた。判子なんて珍しいと思っていると、妖精さんは言う。
「たいいはしざいようのかぎをもっていますよね?」
「ええ、大淀から渡されたわ」
「でしたら!しれいのきょかもありますので、しざいをおわたしください」
「ええ、司令の許可があるなら……」
そう言い妖精さんに資材を渡そうと思った時。
「ちょっと待ったあ!!」
工廠に大淀の声が響き渡った。それを聞き首を傾げる黒岩と不満気になる妖精さん達。
「大尉!妖精さんの話は聞かないと言った筈ですよ!」
「え?でもこの設計図、司令の許可が出ているなら……」
「妖精さんから出された設計図は信用しないように!そもそも、そういった許可はサイン出ないとダメですよ!」
「え?」
そう言うと黒岩は唖然となった。
「ちっ、ばれたか……」
「えっ!?」
そして妖精さんの顔に心底驚く。その時の顔はとても悔しげな表情を浮かべていた。
「沿岸砲なんて建造したら周辺住民の人たちから抗議の言葉が出ますし、何より資材の無駄遣いです!」
「でも防衛のためなら……」
「それが駄目だと言っているんです!!」
「っ!?」
大淀の叫び声に黒岩は体をびくりとさせるとそのまま固まってしまった。
「良いですか!?ここの妖精さんはありとあらゆる手で資材を手に入れようとしてきます!ただでさえここは資材がカツカツなんです。よく注意してください」
「は、はい……」
すっかり怯えてしまっている黒岩に大淀は次に妖精さんに忠告する。
「これから資材を使う際は必ず私を通してからにします。良いですね?」
そう言うと妖精さんたちから文句が飛び交う。
「ひどい!」
「おうぼうだ!」
「どくさいしゃ!」
そう言うと、そこで大淀は妖精さんたちに強いカードを出した。
「では、提督の判子を偽造したことを報告してもよろしいのですね?」
「「「……」」」
強力なマジックカードを繰り出され、すっかり黙り込んでしまった妖精さん達。そう、先ほどの青図面に押していた判子は偽造したもので、バレたら大問題になること間違いなし。
「さあ、仕事に戻って。大尉の指示に従って下さい」
「「「はーい……」」」
妖精さんは肩をやや落としながら工廠に戻って行った。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。