ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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東京からの増援で宿毛湾に派遣された大和はそのまま宿毛湾泊地に寄港すると、そこで大和は工廠で修理中の阿賀野達を見ていた。

 

「……」

 

その景色に大和は驚きつつも、警戒を消す事なく艤装を置いて司令室に入る。

 

「大和、入ります」

『どうぞ』

 

そこで部屋に入った大和はそこで山郷からはじめに感謝される。

 

「今回の救援、感謝する」

「いえ、こちらこそ。いきなりの増援にも関わらず受け入れてくださってありがとうございます」

 

大和は山郷にそう返すと、そこで早速彼女は山郷の心労を思った。

 

「大変なことになりましたね」

「ああ、俺も想定外だよ」

 

そう言い乾いた笑いを浮かべる山郷。それを見て大和は少し悲しげに見ると、彼に聞く。

 

「これからどうするのですか?」

 

彼女の問いに山郷は椅子に座ったまま自分の願望を大和に伝える。

 

「望みは捕縛にしたい……が」

「過去に深海棲艦の鹵獲例は存在しますが、いずれも深海棲艦が撃破もしくは大破に持ち込んだ状態での捕縛です」

 

部屋に大淀が入ってきてそう話す。大和は大淀の管理能力の高さに相変わらずだと舌を巻きながらも、真剣な眼差しで大淀の話を聞く。

 

「いずれにせよ、捕縛するには相応の損害並びに嘗ての摩耶さん……便宜上深海摩耶と呼びますが、その人が戦闘中に死亡するケースを鑑みなければなりません」

「……」

 

大淀の冷徹な判断に山郷も少し険しい表情となると、大淀に聞く。

 

「確実に安全な方法での捕縛はないのか?」

「現時点で前例がない以上、厳しいものがあります」

「山郷提督、大淀さん。先の戦闘終盤、深海摩耶は『次ニ会ウ時ハ必ズ提督ノ居場所ヲ吐イテモラウ』と言っていました」

 

それを聞き、山郷は少し考える仕草を取る。

 

「そうか…それはつまり……」

「はい、再侵攻の可能性は極めて高いです」

「とすると、今度はさらに重装備の可能性があるな」

 

艦隊で仕掛けてくる可能性がある事を考えると今の戦力では不安が残った。

 

「最低でも戦艦を主力とした艦隊が必要になります」

「私だけでは無理がありますか……」

「申し訳ありませんが、そうなります」

 

そう話すと大和はそこで少し悲しげになって少し俯いていた。

 

「仕方ない。いくら大和とはいえ、戦艦一隻では無理がある」

「しかしどうするのですか?この泊地に戦艦はおりませんが……」

 

そう、山郷の建造をしない意向でこの泊地に戦艦は存在しない。重巡洋艦の足柄達が純粋な火力で言うと最大のこの泊地で、戦艦は……。

 

「俺に考えがある」

「「?」」

 

そこで山郷は何か閃いたのか、徐にパソコンを開くとそこでキーボードを叩く。

 

「何をされるおつもりですか?」

「ん?簡単なお使いだ。大淀、黒岩を呼んでくれ」

「は、はい……?」

 

そこで大淀は山郷の思惑が読めずに混乱しながらも、司令室に黒岩を呼んでいた。

 

 

 

 

 

「お、お呼びでしょうか?」

 

ゆっくりと部屋に入ってきた黒岩は大和を見て驚いた様子を見せると、大和は黒岩を見て気さくに挨拶をした。

 

「お久しぶりです。黒岩大尉」

「は、はいっ!!お久しぶりです、大和さん」

 

カチコチになりながら黒岩は大和を見ると、そこで大淀達は彼女の改装設計図を初任務で書かされたと言う事を思い出した。

 

「大尉の書いた設計図のおかげでこの前改装工事が完了しました」

「そ、それは大変よかったです……はい」

 

大和改となった話を彼女は黒岩に感謝すると、見るからに憔悴しはじめている黒岩を見て山郷は早速要件を伝えて部屋から出させることにした。

 

「黒岩、至急で済まないが佐伯湾に飛んでくれ」

「……え?」

 

突然の命令に思わず驚いた声が漏れると、山郷は言った。

 

「篠海准将にはすでに連絡済みだ」

「し、しかしボートは……」

 

先ほどエンジンの点検のために機関部を丸ごと持って行ったあの移動用ボートは動かせないと思っていると、部屋に現れた妖精さんが敬礼をしながら話す。

 

「もんだいありません!えんじんはもとのいちにもどしました」

「ええ、でもエンジンの状態は……」

「だいじょぶです!ようせいさんのおすみつきですから!」

 

そう言い、等身サイズの小さな妖精さんはそう答えると山郷は軽く大淀を見た後に黒岩を見る。

 

「とまあ、動けるようだ。船舶免許は持っていたな?」

「はい……小型ですけれど」

 

装備庁に入った時に撮っていたのが幸いだったと思っていると、山郷は黒岩にある封筒を渡す。

 

「佐伯湾に着いたら、この封筒を准将に渡してくれ」

「わ、分かりました……」

 

途端に胃痛がしてきた気がする黒岩。無理もない、あんな強い女性を体現したような人とタイマンで話すのなんて恐怖でしかなかった。

 

「何、手紙を届けてくるだけの簡単な任務だ。夜には帰ってこれるだろう」

「簡単に言いますけど……夜の航行なんで慣れていませんよ?」

 

どこまでも不安になる黒岩に大淀が優しく話しかける。

 

「心配でしたら救難信号を送ってください。ここら辺の海域は私達宿毛湾艦隊の海です。誘導してあげられますから」

「お、お願いしますよ?」

 

黒岩はそういうと山郷の命令を受けて部屋を後にすると、先ほどエンジンを付け直したモーターボートに乗り込む。

 

「……」

 

未知の深海棲艦がまさかの嘗ての山郷提督の秘書艦。そんなことがあり得るのかと黒岩は内心驚いていた。

装備庁にいた頃鹵獲した深海棲艦の姿を見てきていた。暴れるが故に無理やり艤装を外し、その艤装も整体サンプルとして保管されていた。

 

その景色は今でも思い出すとゾッとなる時がある。そしてそんなところに現れた艦娘の頃の記憶がある深海棲艦、そんな存在がいると知れ渡ればまず間違いなくサンプルとして研究者達が奪いにくるだろう。

 

しかし彼女……深海摩耶と呼ぶ事にしたその深海棲艦は山郷提督が愛した艦娘だ。そんな事させるはずが無かった。実験動物にされるくらいであれば静かに看取るのが正しい選択なのかもしれないが、それでも山郷は彼女を()()する選択を即座に決めていた。

 

「本当に愛していたんだろうな……」

 

黒岩はモーターボートのエンジンを入ればがらようせいさんがもやい縄を取ってくれるのを見る。

数人のようせいさんがボートに乗ってくれてそのまま黒岩はボートを出して佐伯湾泊地に向かった。

 

「ああ…行きたくないなあ……」

 

黒岩はそう溢しながら宿毛湾泊地を後にしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして黒岩がモーターボートで出て行ったのを見た山郷達、大淀は次に深海摩耶が侵攻をした際の迎撃作戦立案の為に部屋を出ており。司令室には山郷と大和だけが残っていた。

 

「四宮提督より一時的な私の指揮権の委任状です」

「うん、確かに」

 

元々番号付きの重巡棲姫だ。それが現れた海域に四宮の秘書艦が派遣されることに大した違和感は感じられない。

しかし、この宿毛湾泊地は内外に敵を持つ極めて不穏な空気が漂う泊地だ。大和は山郷に委任状とはまた別の話題を振った。

 

「黒岩大尉の様子はどうですか?」

「見ての通り、相変わらずの小心者だ」

 

山郷はそう答えると、大和はそこで聞く。

 

「四宮提督の要件はどうなっていますか?」

「……大和、少し外に出ようか」

「分かりました」

 

山郷の意図を汲み、大和は司令室を出るとそのまま泊地の宿舎に向かう道を歩く。

 

「念の為の用心だ」

「分かっています」

「一応、毎日妖精さんが検査をしているが、いつどこで仕掛けられるか分からんからな」

「ですね、山郷提督は軍艦派の皆さんから目の敵にされていますから……」

 

大和はそう答えると山郷も軽く愚痴をこぼしていた。

 

「全くだ、四宮の奴め。俺に面倒を押し付けやがって……」

「ふふっ、でもそんな大尉を迎えてくれる優しい一面があるのがなんとも提督らしいです」

 

大和はそう語ると四宮は『五月蝿え』と言って大和を黒岩の寝泊まりしている士官用宿舎の前に立つ。

 

「元々使っていなかった宿舎を大幅に改造しているそうだ。BSL-2対応の研究所を備えている」

「流石ですね」

 

元々宿毛湾泊地にいる妖精さんの数は他の場所と比べても圧倒的に多い。それは大和も他の鎮守府などを見てきたから分かる。

 

「ああ、だが今ではヤオビクニの特効薬を作るには余裕を持ってBSL-3程度の研究所が必要だと言う」

「……今の装備では限界があると言う事ですか?」

「らしいな。俺にはよく分からん」

 

少なくとも薬学に関しての知識はさっぱりな山郷からすると黒岩の話していた話をそのまま大和にする。

 

「おまけに士官用宿舎の改造でBSL-3の研究所は作れないそうだ」

「まあ、反対側には私達用の寮がありますしね……」

 

ここの泊地は艦娘の数自体が少ないが故に様々な艦級を雑多にまとめているが。呉鎮守府などの大きな場所では戦艦寮や駆逐艦寮など、別々に分けていた。

 

「彼女が持ち出したヤオビクニは数にして数千本。色々と努力はしているようだ」

「聞きました。なんでも特効薬開発の副産物で色々な薬品ができたとか」

「ああ、加賀達がこぞって喜んでいた『水飴』とか『緊急補修剤』だな」

 

大和の話に山郷はそう答えると彼女は興味深そうに話す。

 

「緊急補修剤は前に種子島で使用したあれですか?」

「ああ、打ち込むと艤装は直らないが艦娘本人の傷を多少回復される。副作用で熱は出るがな」

「ほぉ、それは興味深いですね」

 

ヤオビクニの対抗薬を開発している時に生まれる副産物の数々。それらの開発を一人で行なっている事実に大和は驚いていた。

 

「なんか、他にも色々と試作品を作っているらしいが。まぁ、俺は一回も研究所に入ったことがないからよく分からないな」

「そうなんですか……」

 

話を聞き、大和はそこで山郷に言う。

 

「四宮提督にお話しして物資を増やした方がよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだな。俺はよく分からんが、ただ黒岩はいつ寝ているのか気になる話だがな……」

「はぁ……」

 

大和はそこで自分の設計図を書いていた時に不眠不休で仕上げていた黒岩の姿を思い出していた。

 

「(確かに、あの時も大尉が寝ている所を見ていませんね)」

 

まあ、元々滅多に顔を見ていなかったので偶々なのかもしれないと思い、大和は海を見ていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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