ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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深海摩耶からの宣戦布告を受け取った宿毛湾泊地。そこで黒岩は山郷からの命令の封筒を携えて三時間ほどのクルーズに出る。

瀬戸内海は安全な海域であり、付近にはフェリーが航行している情報もあった。

 

「……」

 

そんな海を見ながら黒岩はふと呟く。

 

「瀬戸内海は静かな海ね……」

 

冬に日本海よりもずっと静かで、海全体が暖かい。

 

「……」

 

海というのは不思議と吸い込まれるような美しさがある。

現在豊後水道を北上している黒岩はモーターボートに乗って佐伯湾泊地に向かう。

妖精さんには操縦が大変なので黒岩がモーターボートを飛ばしていると妖精さんが話しかけてくる。

 

「たいい、かわりましょうか?」

「ん?ああ、大丈夫」

 

ボートに乗ってくれた妖精さんは黒岩の返答を聞いて先日に戻ると、船首部分では二人の妖精さんが遊んでいた。

 

「たいたに〜っく」

「せかいはおれのものだ〜!」

 

そう言い二人で遊んでいる妖精さん。

彼?彼女?どちらとも言えない性別の区別が曖昧な彼等はかつての戦いで亡くなった兵士の生まれ変わりとも噂されていた。艦娘の登場と同じ時期に存在が確認され、軍関係者であればかなり身近な存在となっていた。

歴史に名を残すほどでもないが、国を守る一心で戦い抜いた兵士の幽霊以上英霊未満のような存在、それが妖精さんであると予想されていた。

艦娘や鎮守府の運営に協力し、良い人物の居る場所には多く現れ。悪い人物の居る場所には現れない。純粋な感情を持ち、補助をしてくれる彼らは新米の黒岩をサポートしていた。

 

「ほらほら、危ないから船室に戻りな?」

「みずあめもあるぞ」

「「はーい!」」

 

ドタドタと音を立ててその妖精さんは船室に戻って行く。

 

ヤオビクニの特効薬の開発途中で生まれた水飴、妖精さんが飾って金平糖と同じ位に人気になりつつある甘味だ。元々金平糖で『元気百倍!』になる妖精さんだが、水飴と言う新しいお菓子にやや興奮気味に嗜んでいた。

 

「みずあめうまい!」

「ぼすがいないからあんしんだ!」

「たいい、またこんどつくってください!」

 

船室では妖精さん達が宴会気分でワイワイして楽しんでいた。

普段から泊地の設備の改修やらで泊地の何処かには必ずいる妖精さん。

自分が来る前の泊地では大淀がボスとして資材管理に口を出す姑的立ち位置で天敵だったそうだ。

そりゃあんな沿岸砲を作ろうと画策している段階でダメだろうとツッコミをかけたくなるが、私が来てから少しその規制が緩くなったことから妖精さん達は涙を流して喜んでいた。

 

「はいはい、また今度ね。大淀さんにバレたらまた怒られちゃうから」

 

山郷の意向で艦娘の建造行わないと言われた妖精さんからしてみると不満な環境なのかもしれない。しかし建造をしないおかげかは分からないが資材はよく貯まっている。

 

「むー、たいいもぼすにおびえている」

「しかたない。ぼすははくちでさいきょうのひとだもん」

 

大淀のことをボスと呼ぶ妖精さん達に黒岩は少し笑っているとボートの無線に通信が入った。

 

ジジッ『宿毛湾泊地の船ですか?』

 

無線の声は扶桑のものであり、それに黒岩も答える。

 

「はい、山郷提督の命令で佐伯湾泊地に向かう途中です」

 

灰色に塗られた改造モーターボートは遠くから向かってくる艦娘を見た。

 

『分かりました。これより誘導を行うので、着いてきてください』

「了解です」

 

少佐…たまに大佐である最低でも佐官の艦娘に黒岩は丁寧に答えるとそのままモーターボートの周りに艦娘が集まる。

 

「あっ、この前の引きこもり大尉じゃんか」

「!?」

 

そこで黒岩を見た天龍が気づいて陽気に声をかけると一瞬だけ黒岩は驚いた後に軽く挨拶をする。

 

「どっ、どうも……」

 

そこでそう挨拶をすると扶桑が軽く注意を入れる。

 

「天龍、大尉を驚かせちゃいけませんよ」

「うーん、分かってはいるんだがなぁ……」

 

そう話しているのを見て黒岩は初めての宿毛湾以外の泊地に緊張しつつもボートを見えてきた桟橋に近づける。

 

「もやいお願い」

「りょうかいです」

 

そう言い船室から出てきた妖精さんたちはそこでボートを固定し、黒岩はエンジンを切って少し息を吸って桟橋に降りた。

 

「着いたー」

 

するとそんな彼女に篠海が近づいた。

 

「まさか貴方が来るとは思いませんでした。黒岩大尉」

「あっ。し、篠海准将…!」

 

そこで挨拶に来た篠海に慌てて敬礼する。

 

「いきなりのお話で申し訳ありません」

「いえ、事前に話は聞いております。こちらとしてもあの子たちの改装はしたい思っておりましたので」

 

篠海は山郷からのメールで宿毛湾泊地に来て改装をしないかと言う提案をされていた。前々から改装を施したいと思っていた篠海にとっても艤装技師による調整は棚ぼたとも言えた。

 

「こちらが山郷少将からの文書です」

 

そう言い黒岩は篠海に預けられていた手紙を渡すと、彼女はメールで言われた通りにその封筒を開けてすぐに読んだ。

 

「……」

 

そして読んだあと、ほんの一瞬だけ篠海は目を開けたあとに手紙を閉じると黒岩に答えた。

 

「手紙の内容については了解したと少将にお伝えください」

「は、はい」

 

そこで黒岩はやや緊張して篠海に答える。

何せこの佐伯湾泊地は東京にいた頃から噂で聞いていた荒くれ者の集う不良泊地であると。そしてそんな泊地を取り仕切っている篠海もまた見た目から怖かった。

二八歳にして准将という将来有望なのもよく伺えた。自分と五歳しか離れていないのにこの差だ。

 

「どうかされましたか?」

「い、いえ…あまりここまで宿毛湾と変わらないのだと思いまして……」

 

そう言い設備諸々が似た様相の佐伯湾泊地を見てそう溢すと篠海は当たり前と言った様子で建物を見る。

 

「建設時期がほぼ同じなんです。建物が似ているのもそれが理由でしょう……それよりも、」

 

そこで篠海は自分達の所にいる妖精さんと楽しげに話している宿毛湾泊地の妖精さんを見る。

 

「珍しいですね。妖精さんを乗せてやって来るとは」

「え?そうなんですか?」

 

そこで黒岩は少し首を傾げると篠海はええと言って彼女に普通の妖精さんの話をする。

 

「少なくともうちでは扶桑達の艤装の整備などの艦娘周りのことしかやりませんから。あんな風に艦娘と関係のない仕事なんてしませんよ」

「そ、そうなんですか……」

 

そこで黒岩は少し驚きながらボートで騒いでいる妖精さん達を見る。

 

「宿毛湾の妖精さんは建物を直したりとか、足柄さん達のマッサージとかお風呂の掃除とか色々とやっていましたよ?」

「マッサージ……」

「すげぇな宿毛湾」

「!?」

 

そこで話に入ってきたのは艤装を外して桟橋に来た扶桑と天龍だった。

 

「妖精さんって、そこまでやるの……」

「ウチなんかサボっている奴もいるのにな」

「どんな違いがあるのでしょうね……」

「「「はぁ、羨ましい」」」

 

三人はそう答えると、黒岩はそこで少し考えた後に違いが思い浮かんだ。

 

「少将は良く妖精さん達に質の良い金平糖をあげていますよ」

「え?」

「まあ、相対的な差ですしそれで効果が上がるかどうかは良く分かりませんけど」

「そ、そうですか……」

 

後に試しにその質の高い金平糖を渡した所開発で烈風改や天山なんかがポンと出てきて、大騒ぎになる効果があったと来た。

 

「では、私はこれで帰ります」

「…休憩なさらないのですか?」

「はい、仕事が山積みですので」

 

そう話すと篠海もそれを察してそれ以上言うことはなかった。

モーターボートが離岸し、もと来た道を戻ってボートが見えなくなると篠海は扶桑に言う。

 

「扶桑、明日の明朝に山城を率いて宿毛湾に行きなさい」

「え?しかしそれでは泊地の戦力は……」

「構わないわ。改造を受けられる上に装備も幾らか融通してくれるそうよ」

 

篠海はそう話すと扶桑は先ほどの手紙が気になって彼女に聞いた。

 

「一体どんな手紙だったんですか?」

「山郷少将からの増援要請だ」

「っ……」

 

手紙の要約を知り、扶桑はやや驚いた様子を見せる。

 

「番号付きの重巡棲姫が現れ、極秘裏に作戦が進められるそうだ。詳細は宿毛湾に到着してから話すそうだが、山郷少将は戦艦の派遣を要望している」

「宿毛湾に戦艦はいませんからね……」

 

扶桑はそれでも演習でやられたことに少し悔しげ語ると篠海は言う。

 

「おまけに、今宿毛湾には大和が緊急で派遣されていると言う。普段から二線級の我々が前線で戦える絶好の機会だ」

 

元々佐伯湾泊地は立地的に先に宿毛湾の強力な艦隊が片付ける事が多く、その上宿毛湾で対処できない場合は呉の艦隊が出るのであまり出番が多くなかったのだ。

だからこそ、こんな数少ない活躍できる機会に非常にやる気が出ていた。

 

「ですね、山城達にも伝えて艦隊を編成します」

「ええ、宜しく頼むわよ」

「はい、おまかせを」

 

篠海の秘書艦として、扶桑はそう答えると泊地に戻って出撃準備を初めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、洋上ではモーターボートの操縦席の近くで黒岩がへたり込んで涙目になっていた。

 

「うわ〜ん、怖かったよぉ……」

「おー、よしよし」

「おつかれさまです」

「えらいぞー、よくがんばった!」

 

そしてそこ周りで乗り込んだ妖精さんたちが必死に慰めていた。

操縦を妖精さんに放り投げ、今まで我慢していた黒岩はその緊張から解き放たれた気分でいた。

 

「やっぱ篠海准将は怖いよ…あの空気が……」

「かおじゃないのか?」

「おい、しつれいだろ。じょせいのかおをみてはんだんするのは」

「そうだぞ。しのうみじゅんしょうはびじんだぞ」

 

妖精さんがツッコミをかけると、黒岩は操縦席に座りながら言った。

 

「正直、私が一番怖いと思っているのは人だからね……」

「「「?」」」

 

そこで黒岩を慰めていた三人の妖精さん達は彼女を見ると慌ててさっきの言葉を訂正していた。

 

「ああ、気にしないで。独り言だから」

 

そう話すと妖精さんは黒岩に言った。

 

「なんかあったらいってくださいね?たいい」

「わたしたちはたいいのみかたです!」

「うん、ありがとう……」

 

そんな妖精さんたちの言葉に黒岩はそう答えると時計を見た。

 

「なんか、今日はいつもより長く感じちゃったな……」

 

色々と情報が駆け込んだからなのだろう。黒岩は今日が長く感じていた。

明日からも色々と忙しくなるのだろうと黒岩は確信できていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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