ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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翌日、工廠では急ピッチで足柄と不知火の改装を終えた。

 

「では、改二の微調整をします」

「了解」

「分かりました」

 

足柄達は改装が終わった艤装を装着して軽く手を握る。

既に阿賀野達の艤装修理は完了し、羽黒の喰われた右手も元通りになっていた。

 

「洋上を少し進んで下さい」

「「はい」」

 

そこで二人は洋上を進むとそこで停止し、改二となった足柄と不知火はそのまま戻ってくると違和感を口にする。

 

「ブーツが少し会わないわ」

「私は少し脹脛が痛いです」

「はいはい、加賀さんと同じですね」

 

主機の違和感を話すと、黒岩は慣れた様子でそのままブーツを取って調整をする。

工具箱を取り出し、明石に並ぶ速度で点検を終えると再び二人に渡した。

 

「これで再び動いてください」

 

そう言い二人はブーツを履くと再び海に出て履いた感想を言う。

改二になっても問題ない練度の二人だが、いざ改二になると個人差がある上に性能が上がるので慣れる必要があった。

 

「そのまま砲撃をして下さい」

 

そして無線で指示を出すと足柄達は砲撃を行う。

 

「っ!結構強烈ね……」

「少し手が痺れます」

 

斉射をした二人は強烈な反動で体に負担が掛かるのを身に沁みるも、これに慣れる必要があった。

 

深海摩耶からの宣戦布告より翌日、次は艦隊で来ることがほぼ確定している深海棲艦の攻勢に対応する為に着々と準備が進められていた。その一つに足柄達の改二改装後の訓練の短期終了があった。

 

「忙しいわね」

「仕方ありません。次いつ襲来するか分からないのですから」

「提督も災難ね……」

 

そう言い微調整を受けながら二人は話す。

 

「しかし、艦娘が深海棲艦になることなど…初めて聞きました」

「ええ、私もよ」

 

不知火の隠しきれていない同様に足柄も頷く。

 

「おまけに司令の事を探していると聞きました」

「ええ、前の秘書艦ですもの相当無理をしているでしょうね」

 

まるで亡霊の如く海を彷徨っていたかつての摩耶。その姿を見た時の山郷の驚き具合は不知火達ですら驚くものだった。

 

「もしかすると、私達艦娘と深海棲艦は表裏一体の存在なのかもしれないわね」

「そんな恐ろしいこと言わないでください」

「ああ、ごめんなさいね」

 

そう話すと調整を終えた艤装が戻って来て黒岩が足柄達を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「そちらの足柄さん達は改二の微調整中だそうですね」

 

作戦室で扶桑が大淀にそう話す。

 

「ええ、既に改装を行なってしまった以上。このまま通す方が無難ですから」

 

早朝に佐伯湾泊地から山郷の要請に応じる形で増援として派遣された扶桑率いる艦隊。戦艦を主力に六人が派遣されていた。

 

「戦艦三隻…それも一隻は大和……」

 

火力に申し分なしと思うと大淀は話す。

 

「しかし、向こうの艦隊戦力がいかほどなのか不明です。なので戦力は均等にすべきですね」

「そうですね。慣れもありますからやはり佐伯湾艦隊と宿毛湾艦隊で分けるべきでしょうか」

「そうですね」

 

山郷への一時的な指揮権の委任状を携えて訪れた佐伯湾艦隊の編成は扶桑、山城、天龍、龍田、天霧、曙だった。

対空が桁違いと言うことで初めから大鳳を渡れてこなかった。あくまでも火力を重視した編成だった。

 

「生憎と我が泊地に重巡がいませんので」

「いえ、戦艦がいるだけで十分ですよ」

 

大淀はそう話すと扶桑はやや不安げに大淀に聞く。

 

「でも本当に捕縛なんてできるのですか?」

「正直、作戦の成功は五分五分です。逃げられる可能性は低いですが、あるかも知れませんので……」

 

大淀は多くの可能性を想定しながら最善の策を練っていた。

 

「そう言えば、山郷提督は?」

 

本来こう言った仕事は山郷などの提督も加わるはずだが、彼の姿は無かった。そのことを不審に思った扶桑に大淀は少し息をついて答えた。

 

「提督は今、別の仕事中で。間も無く戻られると思います」

「そうですか……」

 

作戦立案よりも優先される仕事とは何だろうかと思いたかった。

 

 

 

 

 

その山郷はパソコンでテレビ通話をしていた。

 

「ですので、閣下のご要望には残念ながらお答えすることはできません」

 

キッパリと山郷は答えるとその画面に映る男、呉鎮守府提督の井上剛海軍中将は話す。

 

『しかし、艤装技師は我々も必要としている。直接大尉と話をさせて貰いたい』

「彼女は今、艦娘の艤装試験中でありあらかじめ予定を立てて頂かなければなりません。それが礼儀というものです」

『大尉の士官がこちらの予定に合わせるのは同義だろう?』

 

当たり前のように語る彼に山郷は頭痛がしてきながら答える。何馬鹿なこと言っているんだコイツはという気分だった。

 

「彼女は艤装技師であり、技術大尉です。そして引く手数多な艤装技師ならば時間が取れません」

 

そう言い、山郷は現在も外で足柄達の艤装の微調整を行なっており、砲声を聞いていた。

佐伯湾から援軍として派遣された扶桑達の改修作業もある事から休む暇はない。そんな時に彼女に会わせろなどと無理にも程があった。

 

『ふむ、ではその黒岩大尉に伝えておいてもらおう』

「はい…(どうせ却下されるだろうよ)」

 

山郷はそう思いながら井上の要件を聞いていた。

種子島の時も山郷がいない時に後場が黒岩に連絡をしたと妖精さんから聞いているが、彼女はキッパリと断っていた。もう装備庁に戻る気は無いというのも聞いていた。

彼女にはもう少し軍内部の派閥の話をすれば良かったと後悔しながら山郷は井上の話を聞いていた。

 

『私から本部に我が鎮守府への転属願いを申し出る。と伝えておいてくれ』

「……はっ」

 

予想外の文言に山郷は驚いた様子を一瞬浮かべると、そのまま通信は切れた。

こんなクソ忙しい時期に無理やり通信をしてきたかと思えば、呉の提督は黒岩の転属を持ち出してくるとは予想外だった。

深海摩耶の一見で動揺しているとはいえ、軍艦派の動向を注意するくらいには余裕のあった山郷はそのまま四宮に連絡を繋いでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

洋上では大和や羽黒、阿賀野、矢矧、秋月、涼月が艦隊を率いて出ていた。妖精さんのレーダーがあるとはいえ、いきなり大量の艦隊が襲来しても問題ないように大和を旗艦に哨戒艦隊が出ていた。

 

「妖精さん、そちらの様子はどうですか?」

 

そう聞くと無線が帰ってくる。

 

『こちらしょうかいぶたい。いまのところてきえいみえません』

 

泊地の基地から飛んできた四式重爆の攻撃隊の報告を聞く。元々艦娘の数が他と比べて圧倒的に少ない宿毛湾泊地艦隊はその反動故かは疑問だが基地航空隊の装備はかなり充実していた。

 

「了解、引き続き警戒を怠らないように」

 

羽黒がそう返すと秋月は大海原を見ながら呟く。

 

「本当に来るんでしょうか?」

「彼女は必ず戻ってくるでしょう」

 

そんな秋月に大和は確信した様子で答える。

 

「彼女が約束を破ったことは一度もありませんから」

「……」

「流石ですね」

 

涼月は大和と摩耶の関係に舌を巻いているとそこで大和は少し懐かしげな表情を浮かべた。

 

「私自身、摩耶さんには色々と助けられた人間ですから」

 

演習で建造されたばかりだった信濃の艦載機の訓練の為に摩耶と向かった紀伊水道。

 

当時は箱入り娘だった大和としては摩耶の積極的な性格のおかげで色々と接点が生まれたものだ。

 

「だからこそ、ケジメをつけないといけませんから」

 

大和はそう答えるとしっかりした面構えで海を見ていた。

 

 

 

 

 

まだ翌日なので侵攻をしてくることはなかったが、常時レーダーや偵察機が基地から出ており、警戒をしていた。

 

「今日は出てきませんでしたね。少将」

「ああ、ある程度は予測していたがな」

 

泊地の工廠で扶桑達の改装作業を指揮している黒岩は工廠を訪れた山郷とそう話す。

 

「ガンカメラの映像はありませんが、状況からするに深海摩耶さんは単艦での移動を基本としていたと言うことですので、他の仲間を呼びに行ったとしても時間が掛かると推測されます」

「そうだな……」

 

本来三日掛かる微調整を一日できっちり詰めて終わらせ、足柄達の作業を合わせた後に同時進行していた扶桑達の艤装改修を本格的に始めていた。

 

「一日で微調整を終わらせるとは感服したよ」

「いえ、作戦が終わったら本格的にやり直すつもりですから……」

 

艤装技師としての誇りか、彼女はそう意気込みを語ると山郷は言う。

 

「はっ、そうだな…作戦が終わったらな……」

 

そう話すと山郷は食堂で騒いでいる様子の加賀達を見る。

 

「取り敢えず、急いでくれよ」

「はいっ!おまかせください!」

 

黒岩はそう答えると片手に工具箱を持って艤装の確認に入って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じ頃、四宮は防衛省で書類の整理に追われていた。

 

「やれやれ、偽装をすると言うのも大変だな」

 

ふと小さく溢してしまう。

まさか思うまい、番号付きの重巡棲姫が片方の摩耶だったとは。艦娘の頃の記憶を持つ深海棲艦など初めての観測だ。

 

「(面倒なことになったな……)」

 

その内心、四宮は情報管理の徹底を肝に銘じていた。

何より山郷のかつての秘書艦だ、生体実験に回されようものなら彼なら平気で人を殺せる。本人はあまり自覚していないかもしれないが山郷と摩耶の関係はそこまでなのだ。

 

「(おまけに、深海棲艦の血液は需要が増えていると来た)」

 

現在、軍艦派や一部の製薬会社がヤオビクニを積極的に販売し始めた。

種子島での戦闘記録を用いながらの売り込みだ。通常の艦娘の育成では限界が訪れる。そこで艦娘用の強壮剤としてヤオビクニを売り込んでいた。

深海棲艦の血で出来ていると言う情報は半分無視された状態だった。

 

「よりにもよって欧州で大規模な攻勢があるとは……」

 

頭の痛くなる話だと四宮は感じる。

 

世界的において未だ艦娘に対する人権に関する法律が制定された例は存在しない。国連は戦前から機能不全に近い状態であったが、艦娘の人権のための条約は未だ議論に上がったことすらない。

 

戦争が始まってから十数年、世界は未だ混乱している地域も存在しているのだ。恥ずかしい話だが、大陸では未だゴタゴタが耐えないと言う。

深海棲艦という未知の怪物の侵攻があったとて、世界の足並みは揃わない。

 

「(深海棲艦より厄介な問題だな……)」

 

民族や宗教による紛争は、より強大な敵がいるのにも関わらず鳴りを顰めることはなかった。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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