私達が産まれた理由はどうしてだろう。
初めて深海棲艦の攻撃があってからしばらく経った頃、世界中で終末論が流れ始めた頃に深海棲艦と同じ海から私たちは放たれた。
私の生まれは川崎造船所。ただ艦娘というかつての軍艦の魂を引き継ぐ者であり、私達が産まれた理由は日本を守る為にあった。
深海棲艦の攻撃から人を守る為に、私達は生まれた。
私は東シナ海の油田リグを巡る攻防戦に際し、味方撤退の殿を務めるためにその時の部下であり、仲間だった十九人の艦娘を率いて戦い抜いたはずだった。
『これで…あとは……』
至る所が崩壊し、装備ももうボロボロで、生きて帰れる余裕はなかった。
『ぐっ!』
その瞬間、生き残っていたル級flagshipの砲撃でいよいよ艤装が激しい軋みを上げて動けなくなった。
『ここまで来れたんだ…悔いは無い……か』
そこで海に倒れながら摩耶は思う。
『(提督にこれを渡しておけば良かった)』
そう思い、最後に頭につけていた赤色のアズマギクの髪飾り……山郷が出張先で土産として買ってきた最初で最後の贈り物だった。
次に目が覚めた時、自分はとある浜辺に漂着していた。
それから自分が深海棲艦となっていたことに気がつくのに時間はかからなかった。
赤い血の通っていない程白い肌に、そして何より歯を見せる腹から突き出るような艤装だ。
初めは驚き、そして絶望したものだが。なぜこうなったのかどことなく予想できていた。
「未練があったのだろうな」
おそらく、山郷にこれを届ける為にこの姿になったのだろう。とするなら、やることは一つ。
「日本に向かおう」
ここがどこの海の島なのか、全く想像ができなかった。それゆえに私は海に出て日本を目指していた。
「ドウカシタカ?」
随伴のタ級に話しかけられ、深海摩耶は意識が戻る。
彼女は今、艦隊を率いて宿毛湾泊地に向かっていた。目的は山郷の居場所を聞くため。
「イヤ、少シ考エ事ヲナ」
「……貴様ガ応援ヲ呼ブノガ珍シイガ、ドウ言ウ気ノ変化ダ?」
「……」
「マァイイ、艦娘ヲ倒スノモマタ重要ダ」
タ級はそう答えると無反応の深海摩耶を一瞥していた。
「(目的…私ガ日本ニ…提督ニ会ウ理由……)」
私がこれだけの苦労をして日本に来た理由は何だ?日本に、山郷に執拗に執着するのは何故だ?
……分からない。分から、ナイ。
「深海棲艦による侵攻への対応ですが……」
宿毛湾泊地の作戦室では大淀が海域図を先ながらホワイトボードに指揮棒を指す。
作戦立案の為に寝る時間を削っていた大淀だったが昨晩は倒れるように眠っており、彼女曰くコーヒーを飲んだ瞬間に恐ろしい眠気が襲ったらしい。
「担当海域を二つに分けて行います」
大和が派遣されたと言うことで彼女を旗艦とした艦隊を編成していた。
「宿毛湾泊地混成第一艦隊は南西の海域をお願いします」
「了解です」
担当海域を把握し、大和は了承すると次に扶桑が一歩前に出て海域を指す。
「私達佐伯湾艦隊は南東方面の海域を担当する事となりました」
担当する海域の図を確認すると山城達は納得していた。
「また、加賀さんを筆頭の航空艦隊は後方の海域にて待機です」
「了解したわ」
「了解です」
そこで加賀と、緊急で新たに佐伯湾から派遣された大鳳が頷く。
「作戦は先ほど話した通り、深海摩耶を孤立させる事です。彼女以外の目標は倒してもらって構いません」
「了解です」
他言無用を条件に大淀は扶桑達に深海棲艦化した摩耶の話をした。初めこそ半信半疑だったが、残っていたアーカイブや山郷の証言を聞き、信用するに値するとなったのだろう。
「しかし、今でもにわかには信じ難いです」
「ええ、艦娘が深海棲艦となるなど……」
扶桑と山城はそう話すと大淀も分かってはいると言った雰囲気で頷いた後に答える。
「私も、直接会うまでは思いませんでした」
その目は信じがたいものを見たような目をしており、扶桑達はそれほどの衝撃だったのだろうと予測できた。
「……それで、その深海摩耶さんとやらを捕える方法はあるのですか?」
「一応、黒岩大尉が睡眠薬を持って来てくれるそうです」
黒岩が艦娘用の催眠薬と言うことで準備が進められていた。それなら安心かと扶桑達は思っていた。
着々と進む準備に山郷も少しばかりの緊張をしながら司令室の椅子に座る。
またとないチャンスだ。まさか摩耶が生きていて、この場所に来るなんて誰が思ったか。四宮に情報を照会した時にはひっくり返るかと思った。
「摩耶…お前は何のために戻ってきた……」
そんな姿になってまで自分に会いたいと願う彼女はまさに亡霊そのものだった。
同じ頃、泊地の研究所では黒岩がピペット片手に試薬を垂らしていた。
目下増産しているのは艦娘用の超強力な麻酔薬だ。
「フフフフ…」
研究所に篭って作るはただの麻酔薬だ。それなのに何故だろう、とんでもない悪魔の薬を使っているように見えるのは。
「あわわわわ、たいへんだぁ」
「ついにたいいこわれたか?」
この数日、まともに寝ていない黒岩に妖精さん達がドン引いた目で見ている黒岩は妖精さんを見ながら話しかける。
「大丈夫よ、私はほぼ寝なくても大丈夫なのは知っているでしょう?」
「でもからだにわるいですよ。さすがにふみんれんきんは……」
「きょうなんにちかいえますか?」
近くにいた妖精さんがそう聞くと、黒岩はさぞ当たり前のように答える。
「え?今日は七月二日でしょう?」
「……だめだこりゃ」
「たいい、たのみますからねてください」
今日は八月十四日、何もかも違う日にちを答えた黒岩に呆れた様子の妖精さん達。
「フハハ…昨日大淀さんの飲むコーヒーに仕込んで効果は確認済み…あとは量産をすれば……」
そう溢すと彼女の真横で一人の声がする。
「成程成程、それは良く効きそうですね」
「ええ、そりゃあもうバッチリ……ん?あっ、」
「ふんっ!」
「!?」
その瞬間、黒岩の口に漏斗が突っ込まれると恐ろしい笑みを浮かべた大淀がそのまま黒岩に置いてあった麦茶と睡眠薬を流し込む。
「可笑しい思ったんですよ。コーヒー飲んだ瞬間にあんなに気絶するような倒れたのか……でもすっきりしましたよ」
「むごご…な、にゃにを」
ペットボトルの麦茶と睡眠薬を飲まされる黒岩はまともな反論が出来ずに注ぎ込まれる。
「この睡眠薬はよく効くそうですね。どのくらい強いのか試してみましょうか?」
「う、うごご……」
そして無理やり流し込まれた黒岩は漏斗が外れると大淀に言う。
「なっ、何してくれているんですか!これは象でも三時間ぐっすり眠れ……」
その瞬間、黒岩はパタリと倒れるとそのまま寝てしまう。
「ZZZ…」( ˘ω˘ )スヤァ…
爆睡する黒岩を見て大淀は軽くため息をついた後にあらゆる薬品が置かれた研究室を見ながら呟く。
「はぁ…取り敢えず仕返しはしましたので……すみません。後お願いできますか?」
「おう、まかせろ!」
「たいいをはこぶぞー!」
「いそげいそげー」
そして妖精さん達は黒岩を運ぶと研究室は一旦静かになる。
妖精さんの魔改造で生まれたこの部屋も大淀は慣れた手つきで入っており、見るからに高そうな機材まで置かれていた。
黒岩が努力しているのが垣間見える瞬間だが、日にちが分からなくなるくらい寝ないのも勘弁して欲しいと思うこの頃だ。
「そう言えば、大尉は妖精さんに何かと好かれている気がしますね」
こうしてわざわざ黒岩の職場に妖精さんが集まっていたり、数日前のモーターボートの時も妖精さんがボートに乗り込んでいたり。何かと黒岩の周りには妖精さんが付き添っている印象があった。
水飴の一件があったとしても異様に妖精さんが集まっている気がすると大淀は思っていたが、あの性格だからと納得して終わっていた。
「そうか、黒岩に睡眠薬を飲ませたのか」
「はい、日にち間隔が狂っている状態は流石に見逃せませんでしたので」
司令室で大淀は山郷にそう報告を入れると、彼はその睡眠薬の入ったアンプルを手に取る。
「しかし凄い効力だな」
「もはや毒の粋ですよ」
大淀が半分呆れた様子で山郷の持つアンプルを見ていた。
「ヤオビクニの特効薬で様々な副産物が生まれているわけだが……」
「ええ、ありがた迷惑なものも多いですけどね」
「そうか……」
特効薬開発は一向に進まないのに、なぜか副産物。それも使える副産物が生まれるのは何故か。聞きたくなる所ではある。
「だが、彼女の働き過ぎにはいつか注意せねばならんな」
山郷は働き詰めの黒岩を思い出していた。
初夏に着任してからと言うもの、色々と宿毛湾は口も騒がしい状況になった。
世界情勢も大きく動いており、欧州ではこの前深海棲艦による大規模攻勢があり、それを凌いだとも聞いている。夥しい数の犠牲者を出して……。
黒海にも現れている深海棲艦の影響でイスタンブールは街の八割が崩壊し、欧州軍はエーゲ海の制海権を失ったと言う。
「欧州の戦局はあまり芳しくないようだ」
「ええ、既に日本に余剰兵力の抽出を求めているそうです」
「欧州派遣艦隊……か、気安く言ってくれる」
山郷も思わず苦笑しながら溢すと、海を見ながら小声で呟いた。
「この静けさが…永遠に続くと思っていたんがな……」
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。