八月十五日 十九時二二分
太平洋洋上
偵察中の四式重爆より一報が届く。
『敵艦ト思シキ水面ヲ発見セリ』
月明かりの反射で見えたその報告に泊地に居た大和達は出撃する。
その際、彼女達はある特殊装備を手渡される。
単発式の信号拳銃の様な代物だが、装填されているのは低圧弾だった。
「象でも三時間は眠る強力な睡眠薬です。予備は一発しか作れませんでしたが……」
「もはや毒じゃないのかしら?その薬」
足柄が呆れた様子で黒岩を見る。
「同じことを大淀さんにも言われました……でも安全性は大丈夫です」
「ええ、よく効くお薬ですよ」
その横で大淀が黒岩に圧をかけるように見る。何があったのか聞きたいものだが、後で聞こうと思っていた。
「では、作戦通り全艦出撃します」
「うむ、頼んだぞ」
「はっ!」
大淀の言葉に山郷がそう答えると、彼女は敬礼で返した。
佐伯湾から派遣されてきた艦隊はすでに出港しており、大和達も艦隊を組んでいつでも出れる準備はできていた。
「全艦出撃!」
「「「了解!」」」
大和の指揮の元、足柄達も出撃していく。その後ろ姿を山郷達は静かに眺めていた。
深海摩耶の対空ははっきり言って異常であり、海に出た加賀達や扶桑達佐伯湾艦隊の目的は随伴する他の
臨時航空艦隊は加賀を筆頭に大鳳、大淀、阿賀野、矢矧で編成し、後方からの支援を目的としていた。
『これより作戦海域に突入します』
「了解、全艦突撃!」
『航空隊、全機発艦』
大和、足柄、羽黒、不知火、秋月、涼月と兎に角火力を重視した臨時宿毛湾混成艦隊は洋上を進む。
別海域では扶桑、山城、天龍、龍田、天霧、曙と救援で駆けつけた佐伯湾の艦娘が敵艦隊と接触をしていた。
「全艦斉射!撃てっ!!」
号令と共に一斉に砲声が海に轟き、水柱をあげながら時折爆発炎を視認する。
「奇襲ダ!」
「アソコ二居ルゾ!」
「撃テッ!」
そして随伴の艦隊、駆逐艦ニ級や軽巡ト級が反応して体を動かす。それを見て扶桑は無線で大淀に伝える。
「敵が誘導に乗りました」
『了解、事前の作戦通り佐伯湾艦隊は敵の誘引を行って下さい』
「了解」
事前の作戦では砲撃で挑発したところを深海摩耶から他の鑑定を引き剥がし、単体になった所を大和たちが総攻撃する手筈だった。
『航空隊、全機攻撃開始!』
『了解、全機攻撃開始!』
加賀と大鳳の航空隊がト級に攻撃を開始し、ヲ級から出た艦載機が戦闘機と交戦を始める。
「魚雷発射!」
そこで天霧や曙から魚雷が出ると、そのまま直進して空母ヲ級に命中していた。
「増援ヲ送ロウ」
「イヤ、コノママデ良イ」
「何故ダ?」
タ級の問いかけに深海摩耶は答える。
「アノ艦隊ノ目的ハ私ヲ単独ニスル事。コレ以上ノ戦力ノ分散ハ好マシクナイ」
「……ソウカ」
姫級の実力者の意見にタ級はそう頷くと扶桑達の艦隊を見ていた。
「空母ガ何処カニイル……」
タ級がそう話した時だった。空気を切る音と共に前を進んでいたリ級とナ級が一撃で吹き飛んだ。
「ナッ!?」
「……来タカ」
その火力に驚いていると、深海摩耶は笑う。
「斉射開始!」
大和の指示で一斉に足柄達が砲撃を始める。
「適度な距離を保ちながら砲撃してください」
「了解」
「まずは取り巻きを排除よ」
そこで改二となった足柄は砲撃をすると、その反動の強烈さを感じとる。性能は上がったが、まだ完全に慣れたわけでは無かった。
「確かに、終わったら再調整してもらう必要がありそうだわ」
そして砲撃をすると単縦陣にて丁字戦法を取る。目的はあくまでも深海摩耶の周囲の深海棲艦の排除。高速性に重きを置いたタ級がいると言うことはそれだけ高速性を意識した編成であることは明白だ。
「接近戦は危険ということですか……」
「そうよ」
不知火の言葉に足柄が答えると、彼女は手に長10cm砲を持って深海摩耶を見る。
嘗て自分はとある泊地にて建造された。しかし、すでにその泊地では多くの駆逐艦が在籍しており、私は軽巡洋艦を目的に建造がされた……用は資材を食い潰しただけの必要の無い艦娘だった。
それ故に私はその泊地の提督からいつも嫌な目で見られていることが多かった。艦娘に対する暴行や強姦は法律によって守られているが、嫌味などを言うのは此処の自由だった。だからこそ吐き捨てられる暴言の数々。正直に言って腸が煮え繰り返りそうだった。
しかしそんな状況に変化があったのは数年前、緊急で艦娘が欲しいと偉い人が声をかけたらしく。私は厄介払いされる様にその泊地から移動命令を受けた。それが宿毛湾泊地……山郷勲との出会いだった。
初めて出会った時の山郷の印象は、正直言って抜け殻のような人だった。何事にもやる気を見せず、泊地にいても最低限の仕事を終えては後はどこか適当な場所で遊ぶか酒を飲んでいた。
はっきりしない提督だと叱った事もあったが、それでも山郷が何か変わろうとした事はなく。私自身、どこかで諦めていた。
私の他にもそれぞれの泊地や鎮守府で余剰戦力として宿毛湾に転属してきた足柄達とも同じ境遇だからか、上手くやっていけていた。
そんなある日の夜。書類の確認にために司令室に入った時に、山郷はある写真を見ながら疲れた声で話していたのを見ていた。
ただひたすらに摩耶の名を呟いては悲しみに暮れてウイスキーを傾ける山郷。その光景を陰からこっそりと見ていただけで私は察してしまった。
山郷は嘗ての秘書艦を失い、心の弱っていた人だったのだ。
それを知ってから、少しだけ自然と対応が変わっていた。嘗て、自分に散々嫌味をこぼしたあの軍人と自分が重なって見えてしまってとても嫌いだった。
だからこそ、反面教師の様な感覚で山郷のとの接し方は考え直していた。
「発射」
そして発射した不知火はそのまま深海棲艦に着弾する。その直後に夜に紛れて発射した魚雷が着弾し、重巡を一隻倒す。
今までの戦いで大型艦を倒す為に積んだ経験だ。なるべき多くの魚雷を当てるために主砲で足止めし、予め発射していた魚雷に命中させる。経験が生きる技だった。
「ひゅー、流石ね」
相変わらずのやり方に足柄は不知火を褒める。すると深海棲艦となったかつての艦娘を見る。
「……」
山郷が探していたかつての艦娘は、まるで亡霊のように海を彷徨い、この地にやって来た。
その姿を見ていて、どうしても私はあり得たかもしれない自分が見えた気がして末恐ろしく感じた。
もしあの時、山郷に拾われていなかったら。
あの時山郷の想いに気付かなかったら。
自分はどうなっていただろうかと……。
深海棲艦の放つ言葉はいつも恨みや辛さを持った言葉ばかりだ。それを辛いと思うかと言われると興味が無いと答えるが、それでも堪える時は堪える。
そんなことを考えていた時だった。
「先ズハオ前カラダ」
「っ!?」
その言葉が聞こえた瞬間、不知火に深海摩耶からの攻撃が飛んでくる。
「不知火!」
「ちぃっ!」
その瞬間、慌てて不知火は速度を上げて回避行動に出る。
黒岩謹製の機関のリミッターを一瞬外して避けると、深海摩耶は感心した様子を見せた。
「ホウ、コレヲ避ケルト……」
「生憎と私は改造されていますから……ねっ!」
そして高速で移動する隙を狙って砲撃を叩き込むも、やはり重巡棲姫相手には効果は薄かった。
「くっ……」
改二となり、夕雲型に似た改造を受けた不知火は少しだけ背が伸びた気がする。
そして、そのまま距離を取ると今度は大和や足柄達の砲撃が飛んでいく。
「撃てっ!」
その瞬間、放たれる砲弾は流石の深海摩耶ですら回避を取っていた。
まだ作戦は始まったばかりだった。
同じ頃、加賀を筆頭の艦隊は後方の海域にて艦載機を放って波状攻撃を行っていた。
「航空隊の再補給完了」
「了解、直ちに出撃」
弓を引いて加賀は流星改航空隊を発艦させる。その中で大鳳も同様に流星をあげる。
宿毛湾艦隊と佐伯湾艦隊の連合艦隊はかつての山郷の秘書艦を相手に戦闘を繰り広げている。
深海摩耶の圧倒的な対空砲火の為航空戦力は完封される。その威力はあの彩雲を落とすほどだ。
「(流石は歴戦の猛者なだけあるわね……)」
嘗て、佐世保の虎と呼称された山郷を支えた艦娘。東シナ海の運命を変えた奄美列島沖海戦。そこで摩耶は沈んだと公式資料では残っていた。
「(世の中不思議なこともあるものね)」
少なくとも深海棲艦化した艦娘に加賀は少し悲しさを覚えていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。