《HC-11》呼称、深海摩耶。
深海棲艦となって宿毛湾の前に現れたかつての山郷の秘書艦の摩耶。大和が東京から緊急で番号付きとなった深海棲艦の対応をするために離れている頃。東京でも大仕事が起こっていた。
「では、会議を始めます」
防衛省の地下司令室。そこでは多くの将校が集まって今後の方針を決める重要な会議が開かれていた。
「一週間前、欧州ガスゴーニュ湾並びに北海にて発生した深海棲艦による同時攻勢において。我々日本政府に対し救援要請が正式に送られた」
議題はこの前起こった深海棲艦による大規模攻勢による救援要請に関する議題だった。
上座に日本海軍総司令官の上山岩男海軍大将が座りながら議題を話す。彼は中立派の人間であり、現在派閥争いが激しくなりつつある軍艦派と軍人派の争いに一切加担する事はない人間だった。
しかし、彼は間も無く定年退官を迎えるのでその後釜が誰がなるのか揉めていた。
現在の国防の要である海軍に他の軍は口を挟めていない。かつての自衛隊の慣わしで日本軍総司令官は陸軍・海軍・空軍の中から持ち回りで勤めているが、他の二軍は海軍にご機嫌伺いをしなければならなかった。
「今回の議題はこの救援要請に答えるか否か。また応えた場合の派遣部隊の編成を行いたいと思います」
ここには軍人派も軍艦派の連中が揃っている。中立派の人間が音頭をとっているからこそまともな会議ができていると言った方がいいだろう。
「救援であれば、応えるべきでしょう」
「しかし、冬に行う大規模作戦の準備はどうする?戦力を割くのはあまり得策ではないのではないか?」
「しかし、欧州連合からの救援要請は既に正式に送られている。これに応えられないとすると相応の理由が必要だ」
そう答えると、一人が言う。
「だから、冬の大規模作戦の関係上で戦力を割けないと……」
「そうだ、既に米・露との調整も行われているんだ。危険すぎる」
「だが、欧州の海域では深海棲艦の攻勢が激しい。イギリスを滅ぼす気か?」
しかしそこで相変わらずの反論が飛んでくる。英国は日本に次いで二番目に艦娘の運用につき、かつての大英帝国の誇りを取り戻すかの如く欧州で活躍をしていた。現在において、米国が最多の艦娘運用国であり、二番目に英国、そして三番手に日本が来ていた。
かつての二次大戦期の軍艦が現れている現状、なぜそれ以降の艦艇は表れていないのか。その理由は不明だった。
「バカを言うな。世界でも二番目に艦娘の運用のある英国がそう倒れることもなかろう」
「しかし彼の国は海洋国家だ。物資を運ぶ海路が遮断されれば何れ息が切れる」
EUを脱退した英国は周りを海に囲まれ、ドーバー海峡を封鎖されれば残る道はユーロトンネルしか無く。ゆっくりと滅びの時を待つ事になるだろう。
「ここでもし英国に倒れられては、我々の責任問題にもなる」
「ですな。厄介なのはすでに正式に救援要請が出されているところだ」
正式に政府から救援を回しているあたり、あの国の思慮深さには舌を巻く必要がある。
「しかし、救援要請に応えられるほど戦力もないぞ」
「米国経由で極秘作戦の事を秘密裏に伝えるのはどうだ?」
その提案に他の将校達も乗っかり始める。日本は日本で資材をほぼほぼ海外頼りで、そのシーレーンを守るために手一杯であった。
「ですな。米国であれば余剰もありますし、何よりロシアから多大に抗議してくれるでしょう」
戦前は東京に核を落とそうなどととんでもない事を言っていたロシアでは今は深海棲艦による連日の攻撃で疲弊しており、それどころでは無かったのだ。そんな米国と露国の二大大国に文句を言われては英国としても強くは出れないだろう。
「では早速内閣府に連絡だ」
「はっ!」
そして会議は英国への救援要請は見送ると言う方向で進んでいた。
会議後、私的に四宮はある人物に呼ばれていた。場所は都内のとある店であった。
「すまんな、いきなり呼び出して」
「いえ、閣下のお呼び出しであれば応えないわけにも行きますまい」
そう言い、カウンター席で四宮は酒を注がれながら話す。
「どうぞ」
「ああ、すみませんね。鳳翔さん」
そう言い、日本酒を注がれる四宮。ここは『居酒屋鳳翔』知る人ぞ知る居酒屋であり、ここの女将は鳳翔と言う艦娘が勤めている珍しい店でもあった。
そして艦娘が運営している店という事でほとんどの人は知る事なく、それ故に公に話せない内容などを話し合える場所でもあった。
そして四宮が相手をしているのは先ほど会議で議長を務めていた上山であった。
「閣下も中立派のお勤めご苦労様です」
「何言ってんだ。神尾先輩から仕事を押し付けられたお前の方がご苦労だよ」
あくまでも中立の立場としてどちらにも肩入れしない方針を取っている上山はそう言い、四宮を労う。
「組織内の対立を平等に扱う中間管理職がこれほど面倒なのは予想外だったが……」
彼はそう答えると、そこで鳳翔から日本酒を注がれる。
「どうぞ、提督」
「ああ、すまん」
鳳翔が上山の猪口に同様に酒を注ぐと、次に彼女は二人の前に食事を出す。
「それで、大和の戦況はどうなっている?」
そこで早速上山は四宮に聞く。今は宿毛湾沖にて確認された番号付きの深海棲艦と戦闘をしている事は二人は承知していた。
と言うより、番号付きの深海棲艦の登場を報告した際に上山が極秘裏に処理する事を口頭で伝えていたのだ。
「続報はありませんが、戦闘状態にあります」
「佐伯湾泊地の艦隊と合同で当たっていると言うが、大丈夫か?」
上山としてはかつての艦娘が深海棲艦化したなどと言う爆弾を流す訳には行かなかった。それで軍艦派の人間が勢い付けば、それこそ大問題になるからだ。
現在、世界的に艦娘に対する人権問題は大きくなりつつある。今まで共に命をかけて戦ってきた仲間であり、国家の危機を救った英雄のような扱いだ。手厚い保護をすでに諸外国は彼女達に施していた。
「問題ないかと」
「必要になれば、俺の名前で他の泊地に出撃命令を出しておけ」
「よろしいので?」
「番号付きの深海棲艦に街を撃たれたらそれこそ大問題だ。その時は手段を選ぶな」
「はっ」
上山はそう話すと、四宮も少し頷いていた。
「今、君たち軍人派の人間は少し押され気味だ。重しを乗せてバランスを撮るのが俺の仕事だ」
時刻は現在二一時、東京の一角では人知れず二人が密会をしていた。
同時刻
宿毛湾沖
「主砲斉射、撃えっ!!」
大和の号令で艦隊は一斉に砲撃を始める。
向かう先は深海摩耶率いる敵機動艦隊、その航空戦力の要のヲ級である。
「ウラアアァァァァアア!!」
そして別海域、佐伯湾艦隊の担当する海域では天龍が手に持った剣を思い切り振って敵艦隊最後のリ級を撃破していた。
「ハァ…ハァ…終わった……」
息を切らしながら彼女は持っていた剣をしまうと、旗艦の扶桑が呟く。
「これ以上の継戦は危険よ」
「ええ、そうですね姉さん」
その横でところどころ服が焦げている山城も同様にそう溢す。
佐伯湾艦隊の主目的の深海棲艦の撃破は、三度にもわたる波状攻撃によりかなり疲弊していた。全員がどこかに負傷を負っており、一部は大破寄りの中破までしていた。
後方から加賀達による支援航空攻撃が有るとは言え、連戦は少々堪えるものがあった。
「流石に三度の目の攻撃ん時はビビったぜ」
「ええ、同感ね」
天龍や龍田も同様にそう答えると、二人は息を切らして海の上に立っていた。
「これ以上の艦隊は確認されていないようですので、一度帰投しましょう」
「了解」
すると遠くで多数の砲撃音が聞こえ、そこではちょうど大和達率いる本隊が深海摩耶と交戦をしていた。
「向こうは激戦のようね」
「ええ……私たちが赴いても寧ろ邪魔でしょうね」
手負の深海棲艦にとどめを刺す程度しかできない上に、そもそも連戦で弾薬が怪しかった。
「帰還命令が出ました。緊急での修理と、補給に行きましょう」
「了解」
そこで佐伯湾艦隊は一旦帰還し、体制を立て直してから再出撃することを決めていた。
「発射!」
ドドドォン!!
大和達の砲撃で最後のタ級が撃たれ、貫通した大和の46糎砲弾は貫通を起こして一発でその体を吹き飛ばした。
「中々ヤルジャナイカ」
「これで残るは貴方だけです」
大和は悲しげに相対する深海摩耶を見る。
「弾は二発。慎重に打ちましょう」
「そうね、無駄撃ちはできないわ」
片手に睡眠薬入りの信号拳銃を持って大和と足柄は小声で話すと、大和は言う。
「一斉に撃ちましょう」
「了解」
一人二発持っている睡眠薬。飽和攻撃を仕掛ければ一発は当たるだろうと大和は予測していた。
駆逐艦を中心に深海摩耶を囲むと大和は号令する。
「発射!」
「っ!!」
そして一斉に発射した高圧注射器に深海摩耶は危機を感じたのか対空砲を撃ってその全てを撃ち落とした。
「なっ!!」
「何ヲ撃ッタノカ……何ヲ考エテイル?」
発射された注射器を、砲弾より柔らかいとは言え撃ち落としていた。その事実、発射された初発の注射器は海上に粉砕していた。
「予想以上の対空火力です」
「撃った砲弾を撃ち落とすなんてできるの?!」
「あり得ない……」
予想以上の防空力に足柄達は目を見開いて驚いていると、深海摩耶はお返しと言わんばかりに砲撃を加える。
「退避!」
「ちっ」
放たれた砲弾はおおよそ重巡とは思えぬ水柱を上げて着水する。
「接近戦を仕掛けましょう」
「そうね、この際やるしかないでしょう」
不知火と足柄はそう話すと速度を上げていつものように深海棲艦の戦いを挑む。
「コレデモ戦ウ事ヲ選ブカ」
「悪いけど、山郷提督に合わせるには手順を踏まないといけないのよ」
そう言うと、深海摩耶はそんな足柄に砲撃を叩き込む。
「きゃっ!!」
「足柄!」
速射で撃たれた足柄は煙が晴れると少し服が焦げた状態で現れた。
「痛ったぁ…やりやがったわね…!!」
そして足柄もお返しと言わんばかりに反射的に砲撃を至近距離で叩き込むと、深海摩耶に命中した。
「提督…提督?」
「?!」
そして足柄の反撃の煙の奥から現れた深海摩耶は所々に装甲にヒビの入った状態で、その隙間から淡く青い光が漏れていた。
そして自問自答するように提督と言葉を溢していた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。