「提督…提督?」
煙が晴れた時、所々の割れた装甲から溢れる妖しい光は見ていた大和をも驚かせる。
「っ!!うああぁぁぁあっ!!」
途端、深海摩耶は激しい頭痛に襲われたのか。突如頭を抱えて苦しむ。
「?!」
間近でその絶叫を聞いた足柄は耳を押さえて退散する。
「何ですか、あれは?」
「分からない……」
「え?どう言うこと?」
その光景に困惑していると、目の前で深海摩耶は悶え苦しんでいるようだった。
「……摩耶さん」
大和はその違和感に冷や汗がドッと出る。
脳のどこかで、彼女を撃てと警鐘が鳴り響く。しかし体はそれを勝手に拒否していた。
「あぁ…あぁ……」
「大和さん!今のうちに!!」
羽黒の声でハッとなって大和はやや慌てて指示を出す。
「っ!撃てっ!!」
「あ、ちょ、まっ……」
不知火が準備ができていないと言おうとしたが、その直後に他全員が持っていた信号拳銃を撃ってしまった。
放たれた麻酔銃はそのまま深海摩耶に直進していくと、彼女は頭を抱えた状態で叫んだ。
「あぁあぁぁあああああああーーーーーー!!!」
青い血を流しながら彼女はもはや衝撃波のような金切り声をあげると、飛んでいた注射器は木端になって粉砕してしまった。
「っ!!しまった!!」
するとその瞬間、大和に深海摩耶が接近する。
「大和…!!」
「っ!!」キンッ
咄嗟に傘で防護すると、深海摩耶はその青い目から青い血を流してこちらを見た。
「モウ嫌ダ」
「え?」
その瞬間、大和の脳裏に壊れたレコードのように彼女の声が響いた。
「嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダーーーーーッ!!」
「うっ……!!」
吐き気を催すように大和はその呪詛に顔を青ざめる。今のは何だ?
「大和さん!」
そして押さえ込んだところを羽黒が砲撃すると深海摩耶は距離をとった。
「前よりも強くなっていない?」
「ええ、厄介ですが……」
「それより、これからどうするの?」
「麻酔薬、全部撃っちゃいましたよ」
秋月達はやや動揺した様子で大和を見る。おまけに、先ほどの絶叫で通信機器に若干の異常が発生していた。
「まだ……一発残っています」
そこで不知火が手を挙げて装填中の信号拳銃を取り出した。
「あんた、撃ってなかったの?!」
「私が装填中に先に撃ってしまいしたからね」
そう言うと、一発残った不知火の信号拳銃を見た大和は言う。
「山城さん達が戻るまで時間がかかります。時間的にもこれにかけるしかありませんね……」
「で、どうするの?」
「摩耶さんに隙を作ります。足柄さんと不知火さんは上手く接近できますか?」
大和がそう聞くと、足柄はやれやれと言った様子で軽く息をつく。
「全く、無茶を言ってくれるわね」
「まぁ…やってみますよ」
二人はそう答えると、遠くで嘆いているようにも見える深海摩耶を捉えていた。
「……行きます!」
「「「了解!」」」
そして深海摩耶に向かって多数の砲撃が飛んで行く。そしてその合間を縫うように深海摩耶は砲撃を仕掛ける。
「きゃっ!」
「羽黒!」
「大丈夫です、これくらい何の……!!」
砲弾が当たった羽黒は傷を高速修復材を使って直す。その間、唯一残った麻酔薬を持って不知火は隙を伺う。
「(残りは一発…これが堕ちたら…)」
跡がないこの状況に流石の不知火にも冷や汗が滲み出ていた。
そして大和は対空砲を使ってまでも深海摩耶に攻撃する。
「全砲門で摩耶さんを狙ってください!!」
そして数発が大和に当たるも、彼女は怯む事なく撃ち続けた。
「撃てっ!!」
そして放たれた砲弾の一発がお返しの如く命中し、深海摩耶に大きなダメージを耐えた。
「今だ!!」
そしてその瞬間を逃すことなく、深海摩耶の死角に滑り込んだ不知火は持っていた信号拳銃の引き金を至近で引いた。
「ギャアッ!……コノッ!!」
「っ!!」
しかし、刺さった圧力注射器に入った麻酔薬は三分の一ほどの量を入れただけでその直後に取り払われてしまった。
「ちぃっ!!」
そして不知火自身も反撃を喰らって怪我を負いながら悔しげに退散することとなった。
深海摩耶の異変をガンカメラから見ていた黒岩はその光景を前に目を見開いていた。
「あの現象は……」
現在工廠にて扶桑達の補給と修理を指揮している黒岩は自身の持つタブレットからその深海摩耶の変化を見ていた。
「……」
そしてその変化をなん度も繰り返しで見ていると、そこである事に気が付いた。
「ちょっと不味いかも知れませんね……」
そこで彼女はタブレットを持ったまま司令官室に飛びこんだ。
「司令っ!」
「何だ?」
部屋に飛び込んだ彼女はそのまま山郷に先ほどの映像を見せながら言う。
「まだ憶測ですが、彼女はまだ
「……どう言うことだ?」
山郷はさぞ驚いた様子で黒岩を見た。
「数日前、初めて深海摩耶が現れた時。彼女は会話できる余裕があったほど落ち着いていました。ですが、感情が抑えきれず。まるで獣のように喚いています」
そこで彼女は今までの状況証拠と戦闘中の音声を聞きながら憶測を言う。
「余りにも非科学的ですが…」
「言ってみろ、そもそも深海棲艦と艦娘の存在自体が非科学だ」
山郷はそう唆すと黒岩は言う。
「おそらく、深海摩耶さんはもうすぐ正気を失います」
「っーー」
「その前に対処する必要があります」
黒岩の判断を聞き、山郷はそれを信じるしかないのかとゆっくり目を閉じた。
「つまり、俺たちに時間はないと?」
「その際は深海摩耶を鎮める必要が出てきます」
「……」
黒岩の判断を疑うわけではないが、それでも堪えるものがある。
山郷は無線機の電源を入れるとマイクに話しかけた。
『ーー総員、よく聞け』
「「!!」」
無線が突如聞こえ、珍しく戦闘中に山郷の声が入る。
『たった今、黒岩技術大尉の状況判断を鑑み。緊急で作戦を変更する』
「……」
山郷からの指示、これは今まで新たに配属された加賀達にとっては初めての山郷からの直接指示だった。
『作戦開始時刻は三分後を予定。各艦予定位置に移動開始、いつでも対処できるようにしてくれ』
「…了解」
大和が真っ先に答えると、山郷はパソコンの画面を見ながら事細やかに指示をする。
『大和、お前のスピーカーを入れてくれ』
「えっ…!?」
『時間が無い、指示通りに動いてくれ』
「……分かりました」
意味で山郷達は何が起こるかわからないと言う理由で彼の声を使って摩耶に呼びかけることはなかった。それがいきなり山郷から話しかけると言うので大和は驚いた。
すでに取り巻きの深海棲艦は全て叩きのめした。佐伯湾艦隊の奮戦で増援の様子もなく、この海域には深海摩耶しか残っていなかった。
大和はスピーカーの電源を入れると、無線で山郷が話しかける。
『ーー摩耶、聞こえているか?』
海にその声がよく聞こえると、深海摩耶は痛む頭に手を当てて答える。
「提…督……?」
『俺だ、山郷だ』
彼の呼びかけに摩耶は動きが止まる。
「山郷…提督……」
『俺の声を覚えているな?』
「……当たり前だ…」
彼女はそう答えると、山郷は更に話し続ける。
『今映像越しでお前を見ている』
「……」
『こんな形ですまないが、今からお前と話がしたい』
「……」
『大人しく大和の指示に従ってくれ。これ以上の争いは無益だ』
山郷は感情を押さえ込んでいる様子で、しかしその我慢が漏れている声で呼びかける。
山郷の声を聞き、摩耶は大きく息を吸って答えた。
「…分かっ……っ!?!?」
その瞬間、彼女の体にまるで電流が走ったようにビクリと体が動く。そしてそのまま彼女から先ほどの深海棲艦の口調の声が聞こえる。
「フザケルナッ!私ハマダ、
「『っ!!』」
その瞬間、大和に全砲門が向いた。
「死ネェッ!!」
そして摩耶が手合いの大和に砲撃をしようとした時、
ドォッ!!
ある斉射が摩耶の限界の身体に突き刺さった。
「ナッ…!?」
大和はその砲撃が飛んできた方を見ると、そこには不知火が煙の出る砲塔を手に持って悲しげに深海摩耶を見つめる景色があった。
「ヴェァァァアアッ!?!?」
『摩耶っ!!』
既に艤装はボロボロ、深海摩耶も撃たれた麻酔の影響なのか動きが鈍かった。それ故に回避が遅れ、不知火の最後の砲撃をまともに喰らってしまった。トドメの一撃だった。
撃たれた彼女はそのまま海に倒れると他の面々が駆け寄った。
「無事なの?」
「とりあえず手当てを」
大和はツールを取り出して特に考えずに高速回復剤を打ち込むも、深海摩耶は大和を見た。
「大和……」
「っ!摩耶さん……!!」
「提督…は?」
摩耶は青い血をドクドクと海に流したまま聞くと、彼女はハッとなって摩耶の肩を持つ。
「すみません。誰か手伝ってください!!」
「急いで泊地に運ぶわよ!」
「だ、大丈夫なんですか?」
「その時はその時ですよ」
不安がる羽黒に涼月が答えると、深海摩耶は羽黒と足柄に腕を担がれて運ばれ始めた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。