ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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初日の仕事は秋月の艤装の改修作業だった。

 

「なるほど、既に改にはなっているのですか……」

 

艤装を見ながらそう呟くと近くの妖精さんが答える。

 

「はい、まえにていとくがしざいもってきてくれてかいそうしてくれました」

「そう…よく使い込まれているわね」

 

艤装は今まで戦ってきた痕が残っており、同時に大切に使ってきたことがよく伺える。

 

「どうですか?」

「ええ、彼女の要望は機関出力の強化。これ以上に機関出力を上げても問題は無さそうね」

「そうびはどうしますか?」

「このままで良いわ。長10センチ砲は使い勝手が良いもの」

 

そう答え、艤装改修は行わずにそのまま次の仕事に映る。

 

「改修作業が終わったら、秋月を呼んで」

「わかりました」

 

そう答えると、そこである妖精さんが彼女に聞いた。

 

「たいいはとうきょうではどんなしごとをしていたんですか?」

「東京かあ…色々とやっていたわよ」

 

彼女はそう答えると先ほど、黒岩に青図面を渡した妖精さんが聞いた。

資材を管理する倉庫の鍵は大淀と黒岩の二人が持っており、妖精さん達は大淀がいなくなった事をいい事にちょくちょく黒岩に話しかけていた。

 

「とうきょうにはおおきなたいほうはたりますか?!」

「君、相変わらずそう言う大砲好きよね」

「ええ!でっかいことはいいことだ!」

「……駄目だこりゃ」

 

ちっとも借りて無い様子のその妖精さんに苦笑しながら彼女は次に加賀艤装を見る。

 

「加賀さんの艤装も問題なさそうね」

「はい!もんだいはかんさいきです!」

「そうよねぇ……」

 

そこで彼女は工廠に溜まっている複数の艦載機を見ていた。

 

「今ある装備で艦載機を載せるとなると……」

「これがいいでしょうか?」

「ええそうね」

 

そこで彼女は妖精さんが持ってきた零戦五二型を取り出すと、それを艦載機として載せていた。烈風改がない以上、一番火力を発揮できるのがこの戦闘機だ。

 

「逆に彩雲と流星とかはあるのね……」

「はい、ぼすおおよどからわずかにていきょうされるしざいをくししてかいはつにせいこうしました!」

 

まるで血涙を流すかのようにしみじみと語る彼らに少し同情してしまった彼女はそこで妖精さん達に言う。

 

「艦隊の主攻撃が加賀さんの艦載機な以上、攻撃機を多めに積んでおかないとね」

「でしたら、りゅうせいとすいせいがあります!」

「よし、それじゃあその二つを載せちゃって」

「はい!」

 

そう答えると妖精さん達は黒岩の指示に従って作業を続けていた。

 

 

 

 

 

技術士官として着任した彼女は他の艦娘達から実にさまざまな要望を受けていた。

 

「どうかしら、仕事の様子は?」

「あ、足柄さん」

 

工廠に訪れた足柄に黒岩は少し油のついた顔のまま彼女に近寄った。

 

「ええ、一応足柄さんの要望に合わせて機関出力の強化とレーダー設備の改修は済ませました」

「そう、なら良いわ」

 

彼女はそっけなく答えると、そこで彼女に何を押すように話す。

 

「私が必ず勝てるようにしっかりと整備しなさいね」

「は、はいっ!!」

 

まるでハムスターのように緊張した様子で答える彼女に足柄は羽黒と似たような何かを感じると、そのまま工廠を去って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

早速の仕事初めということで作業は夜まで行われており、その様子を見に遠くから足柄達は見ていた。

 

「羽黒は予想できたけど、まさか足柄とか不知火まで見ているなんてね」

「ええ、ちょっと予想外だわ」

 

涼月も同じように寮から工廠を覗き込んでいると、そこでふと眺めていた不知火が呟く。

 

「あの大尉、放っておいたらどこかで死んでしまいそうな雰囲気があります」

「「「……」」」

 

全員が同じように思ってしまった為に誰も反論できなかった。仕事は確かにきっちりしているが、自分のことに関してはかなり抜けており、正直見ているこっちが心配になる人間だった。

 

「ほら、明日もありますし。寝れる時に寝ましょう」

 

大淀がそう催促すると、ただでさえ人員不足と思われている彼女達はそのまま部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

その頃、司令官室では山郷が今日の工廠での改修作業の内容をまとめた紙を見ていた。

 

「上から専門職の人間が派遣…珍しくも無い話だが……」

 

現在の時期は初夏。一般的な会社とは違い、軍部の人間は転勤に主な時期はない。理由は簡単で、泊地や鎮守府を管理する提督が戦闘に巻き込まれての死亡などで、新たな人員が派遣されることがある上に。艦娘の艤装に関する技術職の士官は引く手数多な状態だ。本部にいる明石の手解きを受け、艤装技師の免許を獲得した士官は艦娘の性能を底上げしてくれる頼もしい人材だ。

 

「しかし、最前線にこんな若娘を送り込むとは……」

 

そう言い、黒岩の年齢を見て少なくない驚きを見せた。

彼女の年齢は今年で二三。去年大学を卒業し、明石の講習を受けて免許を取得したばかりの新人だった。

 

「一応、明日には試験運用か……」

 

いくら装備を変えたところで、彼女達は妖精さんだけでの性能向上に限界を感じ始めた頃合いだ。そんな時期に降って湧いてきた技術士官派遣の通達。

 

「何か裏がなければいいが……」

 

彼女と共にやってきた資材をたっぷりと積んだ貨物列車しかり、何かしら遠く離れた東京で動きがあったかもしれないと嫌な予感を彼は感じていた。

現在、立憲君主制をとっている我が国では新たに華族も復活しており、東京では深海棲艦との争いよりも厄介な事情が複雑に絡んでいると言う話だ。幾分、知り合いにその華族の人間がいるが故にそういった話もたまに小耳に挟むのだ。ここから東京に出向くには丸一日かかるレベルの距離だ。

 

「変な呼び出しだけは受けたくないな……」

 

そう溢すと、彼は机に置いてある写真を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日、早速改修作業の終わった艤装の確認の為に宿毛湾泊地艦隊の七名は工廠を訪れていた。

 

「……あら?」

 

まず初めに偽装を履いた秋月がその異変に首を傾げた。

 

「体が軽いわ」

「ええ、おかしいわね。装備はほぼ変わっていないと言うのに……」

 

軽く砲塔を動かしたりしながら体も動かすと、そこでタブレットを持った黒岩が性能を確認しながら話しかけてくる。

 

「皆さんの要望に合わせて、機関出力の向上と舵の強化。それと一部武装の変更をさせていただきました」

「「「「おおっ!!」」」」

 

そこで彼女は加賀を見て少しだけ申し訳なさそうに言う。

 

「それと、加賀さん。申し訳ありませんが、今の所艦載機は零戦五二型、流星、彗星、彩雲となっています。あとは……」

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

 

そこで加賀も艦載機の変わった偽装を見て納得した様子を浮かべると、今度は足柄と羽黒を見た。

 

「お二人には3号砲を装備し、それに合わせて出力も上げました」

「流石ね」

「ありがとうございます」

 

そこで今度は駆逐艦の三人、特に不知火を見ながら話した。

 

「皆さんも要望に合わせて機関出力向上と武装の見直しを行いました」

「私も秋月と同じ主砲なんですか?」

 

そこで不知火は新たに換装された自分の主砲が高射装置付きの長10センチ連装高角砲になっている事に疑問を感じていると、そこで黒岩は言った。

 

「不知火さんの戦闘方法を見て、先制攻撃とそこからの急接近からの接近戦を鑑み。速射性に優れた秋月砲を配置してみたのですが……」

「……」

 

そこで不知火はやや驚いた様子を見せ、同時に『この人。意外とできる人物だ』と思った。

 

「元々最大火力が足柄さん達の20cm砲です。最も攻撃力のある加賀さんによる航空攻撃で先に数を減らしてもらい、その後に足柄さん達の砲撃で倒してもらう戦法だとよく伺っていたのですが……」

「あなた……すごいわね」

「はい、これでも艤装技師の免許を取れた人間ですからね」

 

彼女はそう語ると、次に不知火に注意をした。

 

「不知火さん。あなたの要望に合わせて機関出力を上げましたが、くれぐれも最高速度を維持したまま戦闘に移行しないでください」

「どうしてです?」

 

首を傾げる不知火に黒岩はその訳を言う。

 

「分かりやすく言うと10式並みの殺人ブレーキになるからです」

「……はい?」

「なので必ず、最高速度を出す場合は周りをよく確認してからにしてください。ましてや戦闘中も永遠と使っていたら機関が爆発する可能性も捨てきれません」

「……」

 

なんとなく誇張しているのではないかと思ってしまうが、不知火はそれでも今日の哨戒任務兼試験航海に出るために岸壁に出るとそのまま海に出た。そしていつもの調子で離岸しようとした瞬間。

 

「っ!?うわぁっ?!」

 

不知火の後ろに飛んでもない……それこそ、はやぶさ型ミサイル艇のような凄まじい水飛沫を上げながら不知火は急加速した後に慌てて機関を切った。

 

「何…今の?」

「さあ……?」

 

その光景に思わず愕然となる秋月と涼月。

 

「不知火、大丈夫?」

 

まさかの急加速に加賀ですらも困惑していると、当の不知火はダイブ寸前だった姿勢を元に戻すと、そのまま黒岩を見た。

 

「さっき言ってた加速って……」

「ええ、不知火さんの戦闘にはこれが一番かと思いまして……」

「だとしても加減しなさいよ馬鹿!!」

 

そこで足柄のツッコミが響き、それと同時に機関出力向上を頼んだ全員がやや恐れていたが。そこで彼女は補足で付け加えた。

 

「大丈夫です!不知火さん以外はそこまで出力は上げていませんから」

「「「……」」」

 

怪しい目線を向けながらも、仕方ないと半ば諦めて同じように海の上に立つとそのまま恐る恐る離岸をした。

すると今度は適度な機関音が轟き、先程と打って変わって今度は馬鹿みたいな加速はしなかった。

 

「おぉ……」

「不知火みたいな動きじゃないですよ」

「ふぅ…」

 

安堵した様子を見せる彼女達に黒岩も当たり前と言った様子を見せて話す。

 

「よっぽど不知火さんみたいに最大限機関出力を上げてほしいと言われなければ、私も制限できますとも」

 

そう言うと、そこで全員の注目が不知火に集まった。そして視線の集まった不知火は少しだけ恥ずかしそうにしながら顔を俯けていた。

 

「どう?」

「その……帰ったらもう少し出力落としてください」

「ええ、分かりました」

 

そう答えると、宿毛湾艦隊はそのまま出撃していった。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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