ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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「そうか……」

 

東京の防衛省、そこで四宮は受けた連絡にそう答える。使っているのは傍聴対策のとられた特別仕様の携帯だ。

持っているのは四宮と山郷、そして大和だった。

 

『摩耶さんは泊地の医務室で治療を受けています』

「うむ、無事なようで何よりだな」

 

四宮も安堵した様子で摩耶が保護された事実を聞いていた。

 

『提督、そちらでは何か動きはありましたか?』

「既に《HC-11》の情報は報告した。撃破したとな。いくら対立しているとはいえ、軍の大半は中立派だ。番号付き深海棲艦の撃破は偽造できる」

 

事実、倒した思っていた深海棲艦が再び現れる事例は確認できているし、こんな時代だ。情報が錯綜することは良くあった。

 

『ありがとうございます』

「何を感謝する必要がある。深海棲艦の数を減らす事は国防上の急務だ」

 

彼はそう答えると、四宮は続けて大和に言う。

 

「近々、引き上げと視察を兼ねて裕翔を送る」

『あら、裕翔さんを?』

 

向こうで大和はやや驚いた様子で四宮に聞き返した。

 

「ああ、事実確認を兼ねての視察だ」

『内閣府から帰ったのですか?』

「いや、息抜きを兼ねている。まだまだ政府と軍の釣り合いはやってもらう必要があるからな」

 

彼はそう答えると大和に言う。

 

「大和、詳しい報告書は紙で頼むよ」

『はっ』

 

そう答えると、四宮は電話を切っていた。すると丁度良く部屋の扉がノックされた。

 

「入れ」

 

携帯を仕舞いながら四宮は言うと、扉が開いて部屋に一人の軍人が入ってきた。

階級は少佐。第3種夏服を見に纏い、白い帽子を被り直していた。

 

「只今戻りました、四宮幸三中将」

 

そう言い、その青年軍人は四宮に敬礼すると。彼はやや苦笑気味に答える。

 

「おいおい、もう終業後だぞ。裕翔」

「いえ、ここにいる間は仕事中ですので」

 

そう答え、四宮裕翔海軍少佐は片手に書類を持ってきていた。苗字から分かる通り、彼は四宮の息子であった。去年防衛大を卒業し、今は政府と防衛省の路地合わせをするために内閣府に毎日出向していた。

 

「こちらが今日の内閣府との議事録です」

「ああすまん」

 

そう言い、彼から書類を受け取るとそれを卓上に置きながら言う。

 

「裕翔、すまんが明日から二日ほどは宿毛湾に飛んでくれ」

「はいっ……宿毛湾といえば、山郷少将がいる場所ですね」

 

裕翔はそう答えると、四宮は頷く。

 

「ああ、所用で大和を派遣したからな。彼女の回収も兼ねてお前に疑似休暇だ」

「休暇……」

「ああ、向こうである人物にあって欲しい」

 

そう言いながら四宮は彼に一通の封筒を手渡す。

 

「?」

「命令書だ。宿毛湾行きの飛行艇に乗ったら開けろ。誰にも見られないようにな」

「了解しました」

 

裕翔は封筒を受け取ってそう答えると、彼は言った。

 

「裕翔、今日の仕事は切り上げろ。明日は早いぞ」

「はっ」

 

そして裕翔は命令書を受け取ると部屋を後にしていた。そして裕翔がいなくなった後、四宮は部屋の明かりを消すとやや大きめに息を吸って窓の外の景色を見ていた。

 

「戦時下だと言うのにこの明るさか……」

 

そこには形ばかりの灯火管制の敷かれた東京の街があった。街灯や一部ビルの灯りは落とされているも、航空灯は点滅したままだった。

東京には房総半島と三浦半島を中心に首都防衛線が何重にも引かれており。今まで一度も東京は深海棲艦の攻撃を受けたことがなかった。

かつての護衛艦に装備されていた兵装などをそのまま沿岸砲に改造した砲陣地が並んでおり、さらには横須賀鎮守府や百里、木更津などの主要基地が圧倒的防御力を誇っていた。

 

「平和だな……身の危険を感じないと言うのは」

 

四宮にはこの景色が鬱陶しく見えていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日、羽田空港から旅客型のUS-2に乗り込んだ裕翔は宿毛湾に向かって飛んでいく。

 

「……」

 

そしてその機内、四宮裕翔は昨晩に父の幸三より託された封筒の中身を読んでいた。

そしてそれを読んで彼は非常に驚いた目をしていた。

 

「そんな事が……」

 

にわかには信じ難いと思っているが、父親の持ってきた情報な上に、確認も取れている。信じる以外には無いのかと怪訝にも思っていた。

 

 

 

 

 

「東京からの来客ですか……」

 

その頃、宿毛湾泊地では黒岩がどこか緊張した様子で聞き返すと山郷は言う。

 

「ああ心配しなくていい。俺の知り合いだ」

「そ、そうですか……ふぅ」

 

一体何をされて来たのか……と言うか何を見て来たのかと思いたくなるような怯え方をしていた彼女だったが、それ以上に聞く事も無かった。

 

先日、扶桑達救援艦隊の艤装の改修作業を終え、夜には帰還して行って静かになった宿毛湾泊地に今度は東京からの来客かと黒岩はゲンナリしていた。

元よりあまり人と関わりたくない性格故に転属先のここでも山郷以外の住民とあまり顔を合わせた事はなかった。

今度休暇が与えたれるというが、正直どこにもいくつもりなはかった。

 

「楽にしていてくれ。悪い奴じゃない」

「はい」

 

あの後、摩耶の体調を随時見ている事の多い黒岩は他の仕事を含めるとどこぞのブラック企業よりもブラックな就業時間だと山郷達も危惧していたし、実際そうだった。

 

「それを考えるとつくづく心配になるな」

 

黒岩は研究室に戻り、司令室には山郷と大淀が残る。

 

「ええ全くです。少しは休むと言うのも学んで欲しいです」

「マジでアイツいつ寝ているんだ?」

 

大淀と山郷はそう言い、彼女の生活習慣を思い返してしまう。山郷の性格的に他人の生活にとやかく言うつもりはないが、部下が過労死で死なれるのはたまったもんじゃなかった。

 

「今度仕事しすぎていたら叱っといてくれないか?」

 

それには大淀も頷いていた。

 

「ええ、働きすぎている人はまずいですからね」

「お前もだよ」

「え?」

「え?」

 

山郷のツッコミの大淀の反応にお互いに顔を見合わせてしまった。

 

「……自覚してなかったのか?」

「ええ、私は至って真面目です」

「……病気だな」

 

山郷はそう答えると真面目に困惑した様子を見せていた。するとまたも聞き慣れたエンジン音が聞こえ、泊地の上を前と同じくUS-2が飛ぶ。

今度新型の飛行艇が採用されると言う話だが、まだまだ主力なのはこいつだった。いつも如く海に着水した後は桟橋に向かって来る。

 

「出迎えるぞ」

「はい」

 

二人は顔を見合わせると、司令室を出ていく。

 

「裕翔に会うのは初めてか?」

「はい、噂は聞いておりますが……」

 

そう答えると、山郷も頷く。

 

「去年防大を卒業してすでに少佐だ。恐ろしいほど優秀な奴だよ」

 

そう言い、山郷は桟橋に向かうと、そこで飛びを開けたUS-2から一人の軍人が降りてきた。

 

「お久しぶりです」

「よう、防大以来だな」

 

そう言い、降りて来た青年は山郷に敬礼すると山郷は少し笑みを見せた。

 

「山郷少将」

「少佐か、出世したな裕翔」

「いえいえ、親の七光りですよ」

 

彼はそう答えると、大淀が挨拶をする。

 

「初めまして、四宮少佐」

「はははっ、裕翔で良い。階級は同じなんだし」

 

彼は気さくにそう答えると、少佐の大淀に手を差し出す。大淀もそんな彼の手を取ると、裕翔は周りを軽く見回した後に山郷に聞いた。

 

「あれ?黒岩大尉は?」

「ん?ああ、彼女は今。研究室の中だ」

「なるほどそうですか」

 

研究者って大変ですね、と言って裕翔は黒岩の苦労を妄想していた。

 

「会いたいのか?」

「ああ、いえ。研究の邪魔をする訳にはいきませんから」

 

彼はそう答えると、早速山郷に要件を話す。

 

「…で、本当に摩耶さん何ですか?」

「ああ、そうだ」

「……」

 

山郷の答えに裕翔はいまだに疑っている目をしていた。

 

「まあ、にわかには信じられんだろうがな」

「今、黒岩大尉が検査を行っていますが。結果が出るまで時間がかかってしまうでしょうね……」

 

大淀がそこで説明を加えると、裕翔は山郷に案内される。彼がここに来た目的は摩耶の聴取と大和の回収だった。

 

「これから彼女をどうするんですか?」

「今のところは泊地で保護だ。研究対象なんぞにされてたまるかってんだ」

 

そう答えると、三人は泊地の医務室に入る。

 

「摩耶、お客だ」

 

まだ部屋が無いと言うのと、経過観察の為に医務室に入れられている摩耶は反応する。

 

「お客?」

「お前も知っている人だ。さ、入れ」

 

そう言うと、山郷は裕翔を部屋の中に入れた。

 

「ええっと……」

「ん?おお、裕翔か?久しぶりだな、随分とまあ大人になったもんだ」

「ほ、本当に摩耶さんなのか?」

 

しかし目に前にいるのは見るからに深海棲艦の姿をした女性だった。すると彼女は茶化すように裕翔に言う。

 

「ピーマン嫌いと足の水虫は治ったか?」

「……どうやら本当に本物みたいですね」

「だから言ってんだろう」

 

眉間に指を当てて困惑している様子の裕翔に呆れた様子で山郷が見ていた。

 

 

 

 

 

「その後に変化は?」

「今の所、見られません。至って健康体です」

 

裕翔は報告書を受け取りながらそう言われる、面と向かって話すのは黒岩であった。

あの後、摩耶の体調を確認しに来た黒岩はバッタリと裕翔と出くわしていたのだ。

 

「あの……四宮少佐」

「ん?」

「ああ、いえ……四宮中将と同じ名前でしたので。もしかしてと思いまして……」

「ああ、そう言う……想像通り、四宮幸三海軍中将は私の実父です」

 

裕翔は黒岩にそう答えると、彼は気さくに言う。

 

「それから、私のことはどうぞ裕翔と呼んでもらって構いません」

「い、いえ。そんな不敬な……」

 

彼女は驚いたようすで裕翔に言うと、彼はやや苦笑気味に話す。

 

「どうで私は親の七光りで出世しているようなものですから。それより、黒岩大尉の方がよっぽど素晴らしいですよ」

「いえいえ、私も四宮中将に大尉にさせてもらっただけですので。買い被りすぎですよ」

 

彼女はそう答えると、裕翔もやれやれと言った様子で黒岩を見る。

 

「とりあえず、この書類は大切に使わせてもらいます」

「はい、了解しました」

 

黒岩も了承した様子で答えると、横にいた山郷が思わず口にした。

 

「お前ら……よく似ているな」

「「え?」」

 

二人は思わず山郷の方を向いてしまう。

 

「どこがですか?」

 

裕翔が聞くと、山郷はそれを口にした。

 

「誰かのために身を粉にして働く所」

 

そう言われた二人は思わずお互いに顔を合わせて見てしまった。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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