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両手で持つ盆の上に置かれたのは一本丸々のだし巻き卵と鬼おろしに出汁醤油。味噌汁に漬物、それから白米。
卵は飼っている鶏からの卵しか食べなかった。市販のを使うと一瞬で分かっていた。そして拳骨を喰らうのだ。
毎日変わらずこのメニューを愛しているあの人はとても偏屈な人だった。
当時孤児院にいた何の血縁もない私を引き取っては、この道場で私に家事を全般任せる代わりに勉学と剣術を教えた。
そしてその人は私に自らを師匠と呼ばせていた。
私達が十歳の時に母が亡くなった。
元々身寄りの無かった私達はそのまま孤児院に入り、私に唯一残されたのは双子の妹の小百合だけだった。
双子とは言え、容姿はそっくりだった私達は孤児院でも珍しがられ、同時に妬まれた。元々華奢だった肉付きに、母が元々余所者だったからと言う理由だけで私達は虐めを受けていた。
陰口が分かるように言い、物が消えるのは当たり前。二人して村八分のような扱いを受けていた。それは孤児院でもそうだった。
しかし、そんな事を言っていた人達はもう居ない。
何故なら、街ごと全員が死んでしまったから。
そう、街丸ごと……。
「師匠」
「ん?おお、飯か」
道場で大太刀を振るう音が聞こえ、そこでは道場着を着た一人の老人がこちらを振り向いていた。
「ーーい、大尉?」
「んがっ?!」
ビクンと体を跳ねて起こした黒岩はハッとなって横を向くと、そこでは大淀が彼女の肩を叩いていた。
「大丈夫ですか?」
「ああはい、大丈夫です!」
慌てて眼鏡を掛け直して答えると、自室の卓上で寝ていたと自覚する。
「全く、部屋でも仕事ですか?」
「はい、片付けなければならない仕事が色々とありますので」
「程々にしてくださいね?」
大淀は最近無理をしている黒岩に軽く注意をすると、卓上に置かれている図面を見た。
「これは何ですか?」
「これは沿岸砲の設計図ですね」
「沿岸砲?」
一瞬大淀に嫌な予感が走ると軽く眼鏡に手を添えた。
「80センチ列車砲の設計図を元に設計だけしてみました」
「もしかして大尉、作る気ですか?」
少々警戒した様子で彼女は聞くと、大淀は首を横に振りながら言った。
「いやいや、流石にこの大きさの物を作ったら怒られちゃいますから。作る気はありませんよ」
「そ、そうですか…(そ、そうよね。妖精さんじゃあるまいし)」
大淀は良識のある黒岩だったことをすっかり失念していた。
「……あれ?」
そんなことを考えた矢先、大淀は視線の先に置かれている一枚の写真に目が行った。
「あれ?こんな写真、ありましたっけ?」
「え?あっ、」
その写真に気づいた黒岩はまるで隠すように写真立てごと引き出しにしまった。
「ご家族ですか?」
「ええ、母と妹です」
「そうですか……あっ」
そこで大淀は思い出した。彼女の妹は既に亡くなっていると言う事実を。
「すみません」
「ああ良いですよ。特段気にしていませんから」
そう言い、彼女は一旦は引き出しにしまったその写真立てを取り出すと、大淀に見せた。
「わあ、双子ですか?」
「はい、同い年でした。違うのは目の色だけです」
そう言い、青い目を持ち、白い百合の髪飾りを付けた黒岩によく似た少女を指差す。
「こっちが妹の小百合で、奥で座っているのが母です」
「……」
つまり残った紫の目に黒い百合の髪飾りを付けた少女が黒岩という事になる。こうして見ると、この写真に映る時の黒岩は年相応に綺麗な目をしていた。
「この頃は楽しかったです。よく近くの公園に行って遊んだりしたこともありました」
「そうなんですか……」
しかし、彼女の口から母親の話を聞いたのは初めてだった。彼女がここに着任して半年、何かと訳アリな彼女は複雑な事情を抱えていた。
「でも母は私達が十歳の時に亡くなってしまって……それ以降は色々と大変でした。父とは幼い頃に離婚したそうで、それから連絡が来ることはありませんでした」
「…そうだったんですか……」
一瞬大淀は戸惑ってしまった。確か彼女が妹を失ったのは彼女が確か十四歳の頃。それから十年、彼女は天涯孤独の生活をしていたと言うことになるのか。
「苦労なされたんですね」
「ははっ、ここまで話したのは初めてですよ」
現在二四歳の彼女は丁度この前訪れた裕翔と同い年だ。年が同じと言うことから、二人は似ているのかもしれないと山郷達と冗談で話したりしていた。
「それで、何で大淀さんは来たんですか?」
「ああ、大尉がなかなか起きてこないので直接お部屋に来ました」
「え?そんな時間なの?」
驚いた様子で時計を見ると、そこには時刻九時を指し始める時計があった。
「げっ!!」
「昨日は夜間哨戒でしたからね。さぞお疲れだったでしょう」
「あわわわわっ!?」
そこからバタバタと部屋で大慌てする黒岩に大淀はやれやれと言った様子で彼女に話す。
「後で司令室に来て下さい。提督がお呼びでした」
それだけ伝えると彼女は黒岩の部屋を後にしていた。
「はいっ!何か御用でしょうか!!」
制服に慌てて着替えた黒岩は司令室に飛び込むように入ると、席に座っていた山郷はうむと軽く頷いた後に要件を言う。
「単刀直入に言おう……黒岩、貴様は働きすぎだ」
「……は?」
すると大淀が横からずっとあるデータを見せる。
「大尉、この数値が何かわかりますか?」
「?」
分かっていない様子の黒岩は首を傾げると大淀が言った。
「大尉の一ヶ月の労働時間です。ダントツですよ、馬鹿じゃないんですか?私より働くなんておかしいですよ」
「……」(゚ω゚)
あの大淀にそう断言された事実に黒岩は受け入れられない驚愕の表情を浮かべた。
「頼む、頼むから休んでくれ。じゃないと俺が怒られる」
「……はい」
縋るように休めと言われれば黒岩に拒否権はなかった。
「ねえ聞いたかしら?」
「何でしょう姉さん?」
足柄が昼食のトンカツを作りながら羽黒に話しかける。
「大尉、提督から強制的に休暇を貰ったそうよ」
「ああ、あの人はいつも働いていますからね……」
するとそこで摩耶が話しかける。
「私もよく大尉を見かけるけど、あの人いつ寝ているんだ?」
その姿や立場上、無闇に外に出せない彼女は泊地の細々とした仕事や、山郷の書類仕事。それから黒岩の実験の手伝いをしていた。
「さあ?少なくとも陽が出ている間はずっと起きていますよね」
「あれか?ショートスリーパーって奴か?」
「それで事足りるの?あの人、何連勤何徹しているのかわからないのよ?」
足柄は呆れも混ざった様子でそう溢すと上がったトンカツを羽黒の前に出す。
「ワーカーホリックにも程があるレベルよ」
彼女はそう言うと昼食を作っていた。
「ほーれほれほれほれほれ!!」
「くっ……負けませんよ…!!」
午後、海に上がる摩耶は加賀と演習をする。摩耶の頭や手首には何やら検測装置のようなものが付けられていた。
「ばいたるはあんてしいています」
「けつあつもせいじょうちです」
そしてその観測機器を見ながら妖精さん達がそう答える。
あの後、摩耶の艤装は色々と変化があった。
まず目に見えてわかる変化は艤装の出方だ。前までは重巡棲姫らしく腹部から飛び出ていたが、今では腰辺りから相変わらず生えるようだが艤装が飛び出ていた。
ただ長時間艤装を出すと頭痛が激しくなるようで稼働時間に限界があった。
彼女から生える角は触ると感覚があると言うことで神経や血管があると推定され、切除は無理と判断。
防空力は昔からの受け継ぎで無類の強さを誇り、訓練がてらに検査を行っていた。
「うひゃー、すんごい対空火力」
「さすがはぼうくうじゅんようかん」
「うみのたいくうようさいなだけありますなぁ」
双眼鏡を使いながら妖精さん達とその様子を見ていた黒岩はそう呟くとそこに山郷がやってくる。
「よう、調子はどうだ?」
「あっ、少将」
「ああ、続けていい。ただ、無理はするなよ
そう言いながら彼は岸壁に座り込むと、黒岩に聞く。
「で、摩耶が戻らなかった理由はわかったか?」
「……いえ、何せ始めての事で。不明な事しかなく…」
「そうか」
そこで彼は何処から持ってきたか、『重巡殺し』と書かれた一升瓶を持ち出して飲んでいた。
今の摩耶はまさに深海棲艦と艦娘の中間にいる存在だった。
外観からもわかるが、艤装でもそうだ。生えてくる艤装は一部が深海棲艦のような見た目だが、基本的には艦娘の時の様相を呈しており、試しに艦娘の装備を載せてみたが拒絶反応のようなものを示されてしまった。
「原因究明と、解決策の模索を無理しない範囲で頼むぞ」
「はい、お任せ下さい」
そう答えると妖精さんの指示で訓練を終えていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。