艦娘とは深海棲艦からの攻撃を直接退けることの出来る戦士である。
故に我々は海より賜れた彼女達に最大限の敬意を評する必要がある。
最近のネットでは艦娘をこのように書くカルト宗教が流行っていると言う。
自分たちの生活を守ってくれる艦娘に、大勢の人間が彼女達を信仰の対象とするのは理解できなくもなかった。
直接的に自らの生活の安全を保証する彼女らはイエスやアッラー、ヤハウェよりもより身近な現人神と思ってしまうのだろう。
初めは訝しむ声ばかりであったが、いざ深海棲艦と戦うとその持つ力に諸外国は艦娘を戦力として数え、最大限の敬意を払うようになった。
掌返がうまいと良いべきかも知れないが、よく言うと柔軟な思想に受け入れることができた。と言うべきだろう。
ただ、
海より訪れた彼女たちは奇しくも深海棲艦が現れた場所と同じだ。それ故に何処か疑心に駆られ、あれほど戦ってきたと言うのに不安がっているのだ。
艦娘を初めて運用した国とは思えないほど艦娘に対する権限が少ない日本、その始まりは一人の軍人からだと言う。
「今日の仕事はこれで終わりかな?」
「はい、おつかれさまでした」
工廠で一通りの仕事を終え、黒岩は椅子に座って軽く肩を揉む。
「やだなぁ、ちょっと凝っちゃったかな?」
首を回すとバキバキと音が鳴り、まるで爆弾が爆発したかのような音だった。
「なんだいまのおと!?」
「じゅうげきか?!」
あまりの異音っぷりに妖精さん達が驚いた声を出していた。
「わ、私の首の音だから……」
そう答えると大慌てだった妖精さんは黒岩を見た後に胸を撫で下ろしていた。
「なんだぁ…」
「びっくりした」
「たいい、いまのどえらいおとでしたよ?」
そう言う妖精さん達は黒岩の異常っぷりに呆れていると、工廠に一人の人物が飛び込んできた。
「誰ですか!?工廠で爆竹鳴らしたのは!!」
怒鳴り込んできたのは大淀だった。
「なんだ、大尉の首凝りでしたか」
事情を知り、大いに納得でいた様子の大淀。
「ごめんなさいごめんなさい。本当にすみません」
必死に何度も頭を下げながら大淀に言う黒岩。その前で大淀はやや苦笑いを浮かべる。
「よくそんな変な音が鳴りますね」
「昔からですよ。さっきまで小間事片付けていましたから」
黒岩は軽い様子で話すが、はっきりと言わせてもらうと以上の一言だ。
「でもついつい仕事が残っていると片付けたくなるんですよ」
「ああ、わかります。ちょっと残ってると気になっちゃってやっちゃうんですよね」
そこから二人は立ち話が盛り上がる。
「そうそう、それで整理してたらその後くらいにミスの連絡があって……」
「それでそのミスの修正をしていると気づいたら時間が夜明けとかなんですよね」
「わかります」
そんなブラックな話を工廠で盛り上がっている二人。それを聞いていた妖精さんたちはやや遠巻きからドン引きで見ていた。
「ああ、おそろしい」
「あのふたり、にたものどうし」
「え?ぼすがふたり?」
「なにそのじごく」
「でもしごとりょうはおなじくらいだよ?」
妖精さんたちの天敵である宿毛湾泊地の大淀。もし彼女がいなければ、ここはもっと悍ましい要塞か何かと化していただろう。山郷の資材管理はダダ草であり、妖精さんの申請に二つ返事してしまうので大淀が厳格な管理をしていた。
「でも大尉も結構色々と設計をしていますよね?」
「はい、休憩時間に趣味で引いてます。設計自体に資材は使いませんからね」
趣味せ設計図を書くと言う中々にぶっ飛んだ話をする黒岩に大淀は楽しげに語る。
「良いですね。妖精さん達は設計図を引いてからしつこく資源を要求する物ですから大変で……」
「良いじゃありませんか。設計図を引くのは楽しいですし」
「それはあなた達だけかと」
「「「「「え?」」」」」
「え?」
工廠で黒岩と妖精さん達、そして大淀が互いに首を傾げていた。
「ここでの生活はどうだ。摩耶?」
その頃、司令室では山郷は摩耶と彼のとっておきの山崎25年を飲んでいた。
彼女の体の都合上、滅多に外に出すわけにもいかず。かと言って部屋に閉じ込めるのも色々と問題があるので、こうして泊地の中で後方業務に従事させていた。
時折加賀達の訓練に訓練相手として出すこともあるが、艤装の展開が彼女の負担になると言うのが既に把握されているので無理に出撃しない方向だった。ただ書類仕事を行うようになったおかげで大淀の仕事が少し減り、彼女に少し余裕が生まれたおかげで最近の大淀は寮で寝れる時間が増えていた。
詳しい検査は今も黒岩を中心に妖精さん達が行ってくれてはいるが、不明な点があまりにも多すぎた。
そして二人の飲む日本初の蒸留所の山崎蒸留所で作られたジャパニーズ・ウイスキーはすっきりとした軽い味わいをしていた。
「ってか、昼間っから酒かよ。提督」
「良いだろう?ここは平和だ、それにお前もすでに飲んでいるじゃないか」
「全く……」
摩耶も軽く吐息をして山郷に注がれた一杯を軽く傾ける。
「どうせなら角瓶が良かったな」
「飲んだことあったか?」
「……いや、趣味の問題だな」
サントリー角瓶は旧海軍に大量に納品されていたからなのか、理由は不明だが摩耶が飲んだ記憶が山郷には無かったが彼女は角瓶が飲みたいと言っていた。
「んじゃ近場の酒屋行って買ってくるか」
「おいおい、仕事中だろう?」
「良いんだよ。大尉に買わせに行けば」
「ひどいパシリだ」
摩耶は山郷に答えると、グラスの一杯を飲み終える。
「でもまあ、私としては提督に部下ができたのが一番の驚きだな」
「半分押し付けだ。四宮からのな」
「……訳あり娘ってことかい?」
「ああ、流石だな」
長年の経験で、摩耶は山郷がなにを思っているのかすぐに理解できた。数年のブランクはあれど、二人の関係は阿吽の呼吸であった。
「どんな理由で提督の部下に?」
「……摩耶は軍艦派と軍人派の存在をまだ知らないだろう?」
「なんだそりゃ?」
「お前がMIAとなった後に世界も色々と変わっているのだよ」
少なくとも摩耶が消えてからの数年で、状況が落ち着いた軍部は艦娘への対応として二つの派閥に分かれた事を話す。
「今の軍部のうち、主要鎮守府を抑えているのは軍艦派と呼ばれる連中だ」
「はっ、クズだな」
「そういうと思ったが……彼らの意見は軍人としては正しいのかも知れない」
「……」
艦娘と共に戦い、情が移ると失った時の悲しみは大きい。それ故に艦娘を兵器の発展系とし、情を移さないようにして前線に向かわせる。それが軍艦派の根底にある考えだった。
「軍人としては正しいかも知れない。戦地に送るのに、情は余計な感情だ。だが……」
「人としては失格だな」
「そうだ、戦場で情を失い。日常生活を蝕んでいく事に変わりはない」
かつて見て来たその景色はまさしく修羅の道だった。
人々が罵り合い、強盗や喧嘩は当たり前だった避難所。いつ爆撃がくるか分からず、掩蔽壕に隠れて怯える日々。そして戦地から帰還してもトラウマでまともに会話ができずにパニック障害を起こした隊員。
「俺たち軍人派の人間は艦娘と二人三脚で国を守る事を選ぶ集団だ。共に戦地に赴くのであれば、一人の人として扱う」
「ああ、私もそっちの方が良い。なにせ私らは気分によって士気も変わってくるからな」
自らを人間と言い、その訳を答える摩耶。山郷はどこかで似たようなフレーズのセリフを聞いたが、この時は思い出せなかった。
「とまぁ、そんな派閥争いに巻き込まれたのが彼女と言うわけだ」
「へぇ、あんな若いのに可哀想に……」
そう言い、黒岩のいる方の工廠に軽く目をやった。
「ははっ、俺のとっておきを飲んで気分上場か?」
「そうかも知れない」
摩耶は飲み終わったグラスを置きながら山郷を見ると、そこで言う。
「でも私の予想通りだったな」
「なにがだ?」
「私がMIAになって、提督が佐世保鎮守府を降りた事」
摩耶の言葉に山郷は一瞬言葉が詰まった。精神的理由で佐世保鎮守府の提督を降りた山郷は、当時は同じ軍人派の人間からもやや白い目で見られていた。
しかしそれ以上に山郷としては疲れていた。ここ何年もの激務に所属していた艦娘全員の喪失。いくら東シナ海の制海権を奪還できたとは言え、十九人の艦娘を失った事は山郷の精神的支えを失ったも同義だった。
「……」
「まあいいさ、ゼロからでも人はやり直せる。蒔いた種から芽が出るのと同様にな」
摩耶は彼に優しく話しかけると、山郷も短く頷いた後に小さくつぶやいた。
「ああ、そうだな」
失ったとしても、一からやり直せばいい。そのための人生という区切りがあるのかも知れない。
「ははっ、またお前に教えられる身とはな」
「提督はいつまでも甘ちゃんなんだよ」
「相変わらずだ……もうすこし何とかならんのか」
山郷は薄く笑いながら聞くと、彼女はキッパリと答えた。
「ダメだ。提督を甘やかすと碌なことがないのは既に経験済みだ」
摩耶は椅子の上で胡座をかきながら答えていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。