十月も中頃となったその日、宿毛湾泊地沖では加賀を筆頭に艦隊が太平洋を進んでいた。
「静かな海ねぇ」
「本当ですね」
海を進むのは加賀を旗艦に足柄、羽黒、阿賀野、矢矧、秋月、不知火の六名で航行していた。
ここに来てから二ヶ月ほど、初陣にて深海摩耶というあまりにも悪すぎる敵との接触。それ故に阿賀野達の感情は複雑なものだった。
「このままずっと静かだといいのになぁ……」
「それは誰もが思う事です」
阿賀野の呟きに加賀はそう返すと、彼女達はそのまま哨戒任務を続行していた。
宿毛湾泊地の工廠では大勢の妖精さんが所属している艦娘の艤装の改修や修繕、装備の開発などを行なっていた。
「工事の方はどう?」
「もーまんたいです!」
黒岩が確認を取ると近くにいた主任妖精さんが答える。大勢の妖精さんが走り回っているこの宿毛湾泊地で、黒岩が妖精さん達を円滑に動かす為にチームを作り、そのチームリーダーに安全ベストを着せてそれぞれのリーダーに任命していた。
「艤装の整備は?」
「たいきちゅうのぼすとすずつきさんのそうびはてんけんちゅうです」
「今日は装備の換装の予定も無いし……」
タブレット片手に確認作業をしていると、そこに一人が入ってくる。
「なるほどなるほど、仕事熱心なのには感心だ」
「摩耶さん……」
壁に背を預けて、扉の近くで立っていた摩耶は黒岩を見ると、そのままゆっくりと近づいてくる。
彼女は一応、軍属という立場で加賀さん達の訓練相手になる他、泊地の食堂の管理や大淀の補助など。とにかく後方の管理を中心に仕事が与えられ。非正規……と言うよりも存在しない従業員のような扱いだった。出自が特殊なだけに、書類に残せない案件が多すぎるのだ。
「提督に言われたから来てみれば……」
呆れたような口調で彼女は黒岩を見ると、持っていたタブレットを回収した。
「大尉、君に提督からの辞令書だ」
そして入れ替えるように彼女の手に封筒を入れると、そのまま工廠を去って行く。
「中身の命令は絶対だぞ〜」
そう言い残し、彼女は消えると黒岩は封筒の封を切って中身を見た。
そこには命令書があり、そこにはただ一言。
『黒岩大尉に二週間の休暇を命ずる。よって今後一切の仕事を禁ずる』
その命令書を読んだ後、咄嗟に後ろを見ると。そこでは妖精さん達が黒岩をじっと見た後にジリジリと近寄ってきた。
「な、何ですか?」
「それ!いまだ!!」
「わぶっ?!」
その瞬間、上に隠れていた妖精さんが麻袋を頭から被せるとそのまま妖精さん達が声を上げる。
「「「「そーれっ!!」」」」
そしてそのまま『いっち、にっ!』の掛け声でそのまま連れ出されてしまい。その景色をちょうど帰還した加賀達が遠くから見ていた。
「あらあら……」
「何ですか?あれ……」
阿賀野が困惑した表情を見せていると、横で足柄が軽く呆れた様子で工廠に上がって艤装を解く。
「あの技術大尉、飛んだ仕事馬鹿でね」
「休んでいるところをほぼ見ていませんからね」
「えぇ……」
羽黒の言葉に阿賀野はドン引いた目を浮かべると、妖精さん達に担ぎ上げられていたあの麻袋の消えた先を見ていた。
「元々、提督自身がどうにかして休暇を与えるつもりでしたからね」
「大淀さんが休暇を取りなさいって怒っていましたから」
「お、恐ろしいですね……」
艤装を解き、仕事を終えた矢矧は黒岩のワーカーホリックぶりに引いていた。
「まぁ、元々仕事が好きなタイプの人間のようですし」
「寝ている時間はあるのかしら?」
「いや、流石に人ですし。寝てないと頭おかしくなりますよ」
秋月がツッコミを入れておくとそこで足柄が軽く手を叩いた後に言った。
「はいはい、提督に結果報告に行くわよ」
「了解」
「行きましょう」
他の面々も黒岩の話を辞め、そのまま司令室に向かって行った。
「さて、これで大尉がいない二週間が始まるな」
「はい、おかげでこちらの胸も撫で下ろせます」
司令室では山郷と大淀が安堵した様子で軽く吐息し、ソファーでは摩耶が呆れたように呟く。
「しっかし、本当に大尉は仕事馬鹿というかアホというか……」
「自分の技が役に立っていると言うことが嬉しいんでしょうけれど……」
大淀は理解できなくも無いと言った様子で答えると、参った表情で山郷が言う。
「勘弁してくれ。毎度毎度、四宮に『休暇を取らせないのか?』と文句と圧力かけられる俺の身にもなってくれ」
「四宮提督は特に怖いですしね」
「はははっ、アイツは確かに飴と鞭の使い方が上手いからな」
「今の東京で生きるには頭がいるからな」
摩耶の最後の発言に山郷達はやや苦笑気味に返すしか方法はなかった。
「ぶはっ!」
麻袋を取られた黒岩は自分が自室に放り込まれている事に気がついた。
「ここは……」
「たいい!」
「?」
名前を呼ばれるとそこでは一人の妖精さん……自分が主任妖精さんと名付けた妖精さんが自分の目を睨むように見ていた。
「きょうからたいいはにしゅうかんのきゅうかです!」
「休……暇?」
「そうです!」
その漢字二文字の単語に黒岩は首を傾げると主任妖精さんは続ける。
「たいい、いまからりょこうにでましょう!」
「へ?」
お前は何を言っているんだと言う表情を浮かべながら妖精さんを見返すと、彼女(彼?)は言う。
「いいりょこうさきをあつめたので」
「え、でも荷物とか。それに研究所だって……」
「だいじょうぶです!にもつはまとめましたし、けんきゅうじょもなにかあったときにはすぐにたいおうできます!」
そう言いながら向けた目線の先では鞄の中に丁寧に入れられた彼女の旅行道具一式があった。
「人の服勝手に漁らないでくださいよ……」
それを見て呆れたように鞄を手に取る。
「たいいはにもつがすくないですね」
「そこっ、余計な一言」
地味に分かりやすく服や下着まで綺麗に小分け袋に入れられて収納されており、部屋にあった化粧用具も入れられていた。
「つきそいでわたしもたいいとどうこうします!」
「え?良いの、そんな事して」
「きょかは取りました!」
陽気に答えたその妖精さんは片手に『がいしゅつきょかしょう』と書かれた紙を見せた。地味に山郷のサインと印鑑まで押された正式な書類だった。ただそれが軍規違反である事に違いないのだが……。
「でも移動とかはどうするの?」
妖精さんは基本的にこの世界に艦娘という存在が現れて以降、移動する姿が見られると色々と話題になるのでバレたら色々と面倒な事になる。すると主任さんは親指を立てて答える。
「その為にこの鞄に加工を施しました!」
そう言うと主任妖精さんは鞄の隙間にすっぽり入ると、そこに金平糖や先の水飴なんかも仕込んでいた。
「ははは……準備が良いことで」
「むしろきゅうかをひつようとしないたいいがおかしいだけです」
「酷いなぁ…真面目に任務に忠実なだけなんだけど……」
黒岩は呆れたように答えると主任妖精さんはその隙間に入った後に言う。
「ともかく、ここにいつもは隠れているので。たいい、どこかいきましょう」
「行くって言ってもねぇ……」
そこでいきなり旅行に連れて行かれる時点で某北海道の旅行番組を彷彿としてしまったが、あれと違ってここにはサイコロがなかった。
「……あっ、そうだ」
そこで黒岩はある場所が思い浮かぶと、主任妖精さんを見た。どうやら工廠や研究所は他の妖精さんにお任せするようで、本気で提督は黒岩に休暇を取らせたいらしい。
「久しぶりに……行こうかな」
小さく呟いた彼女はそのままベットから立つと私服に着替え始め、主任妖精さんは部屋の外で待っていた。
「じゃあ、気をつけてくださいね」
「はい」
泊地の門で大淀が黒岩を見送る。山郷は司令室で加賀達の報告を聞いており、この場にはいなかった。
「妖精さんも、よろしく頼みますね」
「おまかせあれ!」
黒岩の鞄に隠れるように入った妖精さんは敬礼をしながら返すと私服姿の黒岩が言う。
「では、二週間後にまた戻ります」
「分かりました。行き先は北陸であっていますね?」
「はい」
彼女はそう返すと、大淀も軽く頷いて黒岩を見送った。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。