ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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宿毛湾泊地から二週間の休暇をもらった黒岩は列車に乗って高松まで移動し、そこから別の列車に乗り換えて瀬戸内海を横断した後に岡山まで乗り、そこからは新幹線で新大阪まで出ていた。

 

「ゆきさきはいったいどこなんですか?」

 

鞄に入り込んで彼女の様子を伺っていた主任妖精さんが黒岩にこそっと声をかけると、彼女は駅のホームに腰をかけながら答えた。

 

「昔お世話になった人に挨拶をね」

「なるほど……たいいのおせわになったひとですか」

「ええ、その人は私に『師匠』と呼べって言った変な人だけどね」

「ほほう」

「北陸騒乱の後で色々とお世話になっていたの」

 

深海棲艦による初めての攻撃と言われている北陸騒乱。今の世界大戦の始まりとも称されるこの事件は北陸地域の、福井を中心とした都市部を壊滅させ、死者は最低でも数千は降らなかった。

未だに行方不明者もおり、都市の再建もその後の混乱から遅々として進まず。今年に入ってようやく本格的な復興が始まっていた。

 

「いまはしゅとけんからのひなんさきとしてちゅうもくがあつまっているそうですね」

「そりゃあ、安全が担保された海だものね」

 

新大阪から北陸新幹線に乗り込むと、列車には恐らくは仕事を求めてなのだろう。()()()()人が集まっていた。

東海道新幹線、リニア中央新幹線と並んで東京と大阪をつなぐ重要な路線の一つだ。特に北陸新幹線は遠回りだが、安全な地域を通ることから多くの利用客から重宝される路線であった。

 

「日本海は世界でも数の少ない、安全が保障された海だものね」

「でもおほーつくのほうはまだまだしんかいせいかんがいます。あんしんはできません」

 

そう答えながら金平糖を一つ口に入れる主任妖精さん。

大勢の妖精さんがいる中で、特に黒岩に懐いている妖精さんのうちの一人だ。基本的に妖精さんたちの間で黒岩は絶大な人気を誇っており、彼女の部屋には妖精さんが入り浸っており、朝の目覚ましも時々行っていた。

だからこそ、彼女の私物やらその他諸々の場所を言っていても特段違和感がなかったし、純粋な感情しか出さない妖精さんに黒岩はある意味山郷や艦娘以上に心を開いていた。

 

「でも最後の深海棲艦が確認されてから何年も経っているし、根絶宣言も出ているから……」

 

黒岩はこれから向かう先の車内で鞄の中にいる主任妖精さんとそんな話をしながら席に座る。

 

「ふぅ、流石にずっと電車だと疲れるわね」

 

ここまで宿毛湾から乗りっぱなしだ。飛行機が満足に使えない以上、移動はほぼ鉄道だ。精神的な疲れがドッと襲ってきた。

 

「よかったらねていてください。とうちゃくしたら、わたしがおこしますよ」

「ああ、大丈夫。すぐに着いちゃうでしょう?」

「それならいいのですが……」

 

主任妖精さんもそんな彼女の反応を見ながら、少し不安を拭いきれない様子で黒岩を見上げていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

お姉ちゃん

 

誰かの声が聞こえる。

 

お姉ちゃん

 

声の主が私を呼びかけているのだと理解するのに時間は掛からない。

 

お姉ちゃん?

 

ゆっくりと目を開けると、そこには青いサファイアのような目の私と鏡写しのような少女が私を見ており、ゆっくりと体を起こした。

 

「ここは……」

「おはよっ、お姉ちゃん」

 

いつも通りに陽気な彼女は私を見ながら声をかけてくると、私は手元を見る。足元には敷布団と使い古された人形、布団も薄汚れており。いつもの景色が広がっていた。

 

「小百合」

「もう直ぐ学校だよ。ほら、準備しないと」

 

小百合は私を急かすようにすると、頭につけた白い百合の髪飾りが太陽の光で反射していた。

 

 

 

それがとても私には眩しく見えた。

 

 

 

 

 

学校に行くと、そこではいつもの景色があった。

落書きされた机にゴミの詰まった棚。ベタすぎるいじめというべきか、見てて呆れてしまう。

どうせ言ったところで、教師も碌に対応しない。自分もその村八分の火の粉を自ら被ろうとは思わないからだ。

 

この街の全員が私達の敵だ。理由は知らないけれど、私達の母含めた家族は厄介者だった。聞いたところで誰も教えてくれる訳でもない。

故にここにいる他の同級生達は親からそういう事を言われているから好きにしている。それが実に馬鹿馬鹿しくて、腹が立つ。所詮はクソガキだ。

 

席に着くとコソコソと笑っている女の同級生。やったのはあいつらだというのが丸わかりだ。隠す気もない。

教師も、明らかに目に見えてわかるいじめだと言うのに関わろうともしない。

 

午前のうちに私は学校をひっそりと後にしてした。

 

「お姉ちゃん」

 

そしてそんな私に小百合が声をかけてきており、バックも持っていたことから同じ状況だったのだとすぐに理解できた。

 

「……行こうか」

「うん」

 

二人で手を繋いで、学校を抜け出して向かう先はいつも同じ。人気のない海岸だ。波の音を聞きながら海岸を歩くと、自然と落ち着くのだ。

おまけに夏になっても遊泳禁止だからか人がいない。岸壁に腰をかけて下を見ると、かなり深いのだろう魚がここまで入ってきていた。

 

「……何でだろうね?」

 

そして海を眺めていると、不思議と小百合が溢した。

 

「どうして、何も悪いことはしていないはずなのに。……こんな生活を送らないといけないんだろうね?」

「……」

 

こればかりはどうしようもない。理由がわからないのだから。

ただ、母がいないから理由を書こうにもわからない。母の葬式は私達以外に誰か来た事もなかった。

 

「こらぁっ!」

 

近場の雑貨屋のおばちゃんが岸壁で座る私達を注意する。

 

「落ちたらどうするんだ。このクソガキ姉妹め」

 

こう怒られてそそくさと逃げるように私達は退散する。それで帰ったら孤児院の寮母達に殴られるのだ。

 

こんな日常に。私達もいつの間にか毒されてしまっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「ーーい、たいい!」

「っ…どうした?」

 

職業病なのか、その声には敏感に反応できるようになっており。私はパッと目が覚めた。そして主任さんに問いかけた。

 

「もうすぐつきますよ」

「あっ、そう……」

 

どうやら窓の景色を見ていた途中で眠って新しい。珍しい、()()()()私はほぼ寝る必要は無い体になったというのに。

 

「ありがとう」

「いえいえ、のりすごしたらたいへんですから」

 

それよりも思ったよりも疲れているんですから無理しないようにと軽く注意されると、二人は越前たけふ駅に到着した。

 

「つぎはなににのるんですか?」

「次はバスに乗り換えるよ。次で到着かな」

「おぉ!ここでおわりですか……なんともものかなしさがありますなぁ」

 

主任さんはそう呟くと私も少しだけ同じことを思った。

だけど同時に安堵も生まれる。それはおそらく、私だけの感覚だ。

 

「じゃあ、行こうか」

「はい」

 

そして二人はそのままバスに乗り換えると、そのまま再び揺られていた。

 

 

 

 

 

そして駅からバスに乗って少し経つと、目的地に到着した。

 

「着いたよ」

 

私が大学進学直前まで過ごした第三の家のあった場所だ。今では寂れた道場のみが残り、かつて人が住んでいたとは到底思えない程だった。

 

「ここですか?」

「ええ、昔。私に剣技を教えた師匠と共に暮らしてた場所……師匠が死んだ後に全部売り払っちゃったけど」

 

そう答えると、主任さん脳裏にあの太刀が思い出された。特徴的な白い鞘に入ったあの太刀。黒岩が自分が転けてまで大切に扱っていたあの太刀。

 

「たいせつなばしょなんですね」

「ええ、何せあの太刀はその師匠から譲ってもらったものだしね」

 

その崩壊した道場跡を眺めながら彼女は答えると、主任さんはわざわざ彼女がここを訪れた理由を察した。

先ほど、彼女は師匠は死んだと言っていた。そう答えた彼女がここに来たと言うことは……つまりはそう言うことだろう。

 

「師匠は私が大学に行く直前に亡くなっちゃってね。全く血の繋がりがないのに遺言状であの太刀やら墓の設置費やら色々と工面していてね……」

 

本当に変な人だったと彼女は溢す。

 

「孤児院から私を引き取った後に、師匠と呼ばせてたりしてたから……今考えたら、私の事は召使いみたいな感覚だったんだろうね」

 

事実、その師匠に引き取られた後は身の回りの生活や師匠からの剣技の指導。剣技の指導はあの太刀を扱う為の技だった。言うなれば住み込みで剣技を教わる弟子のような扱いだった。

 

「好みはだし巻き卵だったなぁ……」

「だしまきたまごですか」

「そう、毎日一本食べるくらい好きだったの」

 

花屋で花束を一対購入しながら黒岩と主任さんは話す。どこか懐かしそうに彼女は溢すと近くにあった寺に向かった。

線香や蝋燭の法典セットも持って二人は寺院の墓地に入ると、ある墓石の前で立ち止まった。

 

「ここですか?」

「ええ」

 

確認を取ると主任さんは鞄から降りて墓石を眺める。

そして黒岩は花を差し、汲んできた水を墓石のあちこちに掛けて軽く洗った後に線香と蝋燭を立て、その後に墓石の前で手を合わせた。

主任さんも同様に手を合わせて故人を慰めていた。

 

 

 

 

 

故人に挨拶を終え、早々に今回の旅の主目的を終わらせた二人は近くで取っていた宿屋に入る。今日はここで一泊する予定だ。

 

「あしたからはどうするんですか?」

 

旅館に入り、主任さんが聞いてくると黒岩は少し考える。

 

「正直無理やり休暇取らされて連れ出されたようなものだから。あまりこの後のこと考えていないんだよね……」

 

一応軍属という立場の黒岩は何かあればすぐに所属している宿毛湾泊地に帰還する必要があり、できればあそこら辺で近場な場所に戻っておいた方がいいだろうと勝手に思っていた。

 

「近場…近場だと……」

「しこくにもどるんですか?」

「だってその方が何かあった時にすぐ戻れるしね」

「まぁ、たしかにそうかもしれませんが」

 

現に宿毛湾泊地に技術士官は黒岩以外は存在しない。

と言うか、それを考えるとあの泊地に男は山郷提督しかおらず姦しいったらありゃしない。

まあ、山郷提督が艦娘達に手を出すとは到底思えないのだが……。

 

「取り敢えず、今日はもう寝よう。予定は明日考えれば良いし」

「ですね、もうこんなじかんですし」

 

そう言い午後十一時を回った時計を見て二人は寝る準備を整えると黒岩は目を閉じていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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