ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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黒岩やその周囲の面々が休暇や揉め事で軽い騒動が起こっている頃、東京では四宮裕翔はいつも通りもっと大きい揉め事を内閣府でこなしていた。

理由は冬に行われる米兵移送任務のための政府との路地合わせの為だった。

 

「今の在留米兵の移送作業は?」

「一次収容施設として千葉を始めとした各臨時キャンプに移送を行なっています」

 

裕翔はそこで国家公安委員会から派遣された女性職員に確認を取る。

 

「船の方は?」

「現在、各種民間のクルーズ船やフェリー船を途中でキャンプ地の米軍兵を回収しながら苫小牧や釧路に集結させています」

 

職員はそう答えると、護衛に各港湾から派遣された艦娘の情報もついでに渡される。

すると裕翔に近づいたある一人の官僚が、彼の肩に手をやりながらぼやく。

 

「全く、陸海空。韓国も諸々合わせて約八万人の駐在米軍の輸送とはねぇ」

「西州か」

「よぅ、出向ご苦労さん」

 

裕翔に話しかけた若い男は内閣情報調査室、通称内調に勤務している職員だ。名を西州常男と言う。

 

「仕方ありません。たびたび国内でテロ起こされて上は腸が煮えくり帰っているんです」

 

そう答える女性職員は東屋静子と言い、彼女は警察庁警備局所属の警察官で、国家公安委員会からの出向だった。

 

「ほほう、いつも権力争いで大忙しの警察庁がかい?」

「そんな事をやっている暇すらないと言うことです」

「そりゃそうだろうな」

 

裕翔はそんな出向された者同士で話し合っていた。大学卒業後から数年は本庁で仕事をしていたが、今年から父に情報本部への転属とともに本格的な元在日・在韓米軍の帰還作戦の為、他の各省庁との路地合わせのために内閣府に出向して以降の知り合いだ。

内閣情報調査室、情報本部、警備局と言うバラバラな情報機関所属の三人は部屋の隅で話し合いをしていた。

 

「ましてやテロを起こした米兵が裁判にかけられない状態が続けばな」

 

自棄になってテロを起こして逮捕された米兵の裁判は米軍が身柄を拘束する事になっているが、その数が多すぎて裁判所の数が追い付いていない状況にあった。

 

最近は米国への帰還が本格的に行われると知ってか、その数は大幅に減少してきているが、ここにきて在日米軍の粗相の悪さが、当時は国内が混乱していた上に国民の不満の捌け口を求めていたメディアがそれを煽り立てており。それ故に、在日米軍は基地から出られなくなってしまった。それと同時に、国内にいる外国人に対する扱いも杜撰になり、これがまた問題を引き起こしていた。

 

「いいじゃねえか、今回の撤収作戦でハーディー・バラックスが帰ってくるんだ。一部の評論家は喜んでいるぞ」

「正直、ニュー山王ホテルも売るとは予想外でした」

「基本的に持っていける武装以外は解体か、政府に売り付けている」

 

事実、横田基地もこれ以上の戦略的価値や経済的負担を鑑みた結果として日本への返還準備が始まっている。

 

「本当に、この国から米軍がいなくなるんですね」

「今米国は深海棲艦の攻撃でハワイやグアムなどの太平洋の軍事施設を軒並みやられた。今は失った兵力の再編や世界中に派遣した米軍兵を回収するので大忙しだ」

「約一六五万人の兵士を一時は見捨てるなんて言ってしまったくらいですし……」

 

あの米国が、事実上海外に派兵した部隊を見捨てると言ったも同義なあの大統領の発表は世界に衝撃をもたらしていた。逆に言うと、それほどの混乱が当時は米国おも覆っていたのだ。

 

「だが、今回の帰還作戦が成功するとなると……」

「向こうとしては失った兵力がそのまま帰ってくる上に失った艦隊も補充できる」

「ただし、航路はこれまでにないほど危険ですが……」

 

三人はそう話すと、西州がさらに付け加えるように言う。

 

「あと、今回の作戦で使う船舶は全て米国が()()()()事になった」

「本当ですか?」

「あの国のことだから、そのまま接収するのではないかと思っていました」

 

あの無理強いを散々強いてくる国の事だからやりかねないと思っていたが、案外優しいものだと思った。

 

この作戦は迅速を主に動くことが求められているので、徴用したフェリーを動かすのも米兵の仕事だった。

ちなみに、この作戦に際し。韓国に駐留していた在韓米軍も本国への帰還を行う為。兵士を載せた輸送機がひっきりなしに北海道に集結していた。

 

「どうやら、米国内で帰還を望む兵士の家族が色々と騒いだらしい。おまけに今の大統領は例の発言で支持率が大きく下がっている」

「要はメンツの問題ですね」

「そゆこと」

 

ちなみに国の崩壊が確認された元北朝鮮領土は、かつての軍閥の如く別れていた土地を韓国軍が占領。領有化を宣言しており、民主化が果たされ。中華民国と名を変えたその国と国境を接しており、ロシアも今は北極海からの深海棲艦による攻撃でてんやわんや状態で戦争を仕掛けてこない米軍基地に構ってられなかった。

 

と言うより、在日米軍は帰還して、在韓米軍が帰還しないとなると韓国で暴動が起こる可能性があり。そう言った余計な戦死者を出さないためにも、二国の撤兵が行われることとなっていた。おかげで国内の空港は輸送機でパンパン、臨時で設営したキャンプでは間に合わず、一部の兵士は集結した第七艦隊の所属艦の艦内で作戦開始の時を待っていた。

その悲惨さは、第七艦隊旗艦であるブルー・リッジの甲板にテントが設営されるほどだった。

 

「正直、米軍がいなくなった後に。この国を防衛し切れるのでしょうか?」

「さぁな?少なくとも、丸ごと米軍が居なくなっちまうんだ。これから色々と荒れるだろうよ」

 

東屋の言葉に西州はそう答えると、今後の方針を予測する。

 

「少なくとも、奴らとの戦争が始まって以降。世界は大きく変わった、だが変わらないのは人を疑う心って訳だ」

 

開戦当初、パナマ運河を深海棲艦の手によって破壊された時点で。世界貿易は半分以上が機能不全に陥った。そして経済もこれまでにないほど世界的な不況を引き起こし、同時に数多の人命や国家が失われた。

そして世界の様々な地域で今は、紛争や軍事的衝突が起こっているのもまた事実。

 

「この前、ロシア軍がチェチェンで散発的に軍事衝突を起こした」

「ああ、聞いています。しかし、まだ本格的な戦闘は起こっていないはずでは?」

「それをウクライナが支援する動きがあるんですよ」

 

裕翔がそう答えると、東屋はやや驚いた目をした。

内閣府の一室、在日韓米軍兵士帰還作戦を行う会議室。今日の会議で作戦名と、具体的な概要が米軍主導で行われる。そんな中、三人は別の案件で話していた。

 

「なんだ、防衛省でもつかんでいるのか」

「ええ、これでも対外的事案には警戒していますからね」

 

西州は感心したように裕翔を見返すと、東屋は内心ため息が漏れていた。

 

「とまぁ、またでっかい紛争がロシアで起こるかもしれないな」

「だとしたら防衛戦に穴が開きませんか?」

 

東屋の言葉に西州は気にした様子もなく答える。

 

「さぁな、あの国のことだ。大量動員でなんとかするだろう」

「その前に国が保たなくなる気がしますよ」

 

そんな様子に裕翔はあの国の現状を鑑みた戦死者数諸々含めた計算を口にした。

 

「所詮、『隣の芝は青い』よ。北方領土が帰ってきた今、大国は大きく疲弊している。むしろこの国が生き残っていることが奇跡のようなもんだ」

 

西州はそう語ると、二人の脳にはすでに沿岸部全体を放棄して国を成り立たせているインドやアフリカ地域のことが脳裏をよぎった。中東地域は沿岸部以外は砂の大地であり、今まで積み上げてきた都市が奪われることを危惧して徹底抗戦を叫んで今もインド洋に潜む深海棲艦と対峙していた。

 

「そりゃあ、元帥の称号を与えられるもんさ」

 

西州はそう呟くと、この国を艦娘の力を率いて救ったある英雄の顔を思い出していた。

 

「んまぁ、そろそろ会議だ。また後でな」

 

時計を確認した西州はそう答えると、そのまま自分の席に方に移動する。そしてそれを見て東屋はやや呆れていた。

 

「全く、ああ言う自由人気質なのがなんとも」

「まぁまぁ、ここで愚痴らないでください。西州さんも貴方も出世株なんですから」

「あら、その言葉そっくり返させてもらうわよ。自称親の七光りさん?」

 

東屋にそう返されると、彼女はそのまま西州と同じように自分に用意された会議室の席に向かって行った。

 

「(やれやれ、これなら前線で指揮とった方がよっぽど楽だよ)」

 

思わずそう心で溢してしまうほどに、彼は疲れていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

二週間と言う長い休暇を使って遥々北陸から地道に宿毛湾に帰還中の黒岩は、宇和島から国道五六号線沿いに歩いていた。

 

「はぁ……ちょっと疲れた」

 

そして路肩の縁石に腰をかけると、鞄の中にいた主任さんが呆れたような目で彼女に言う。

 

「ふつうのひとはまるふつかをうわじまえきからこくどうをあるきません」

 

呆れというか、もはやちょっとしたUMAを見ているような目をしている主任さん。そんな目で私を見ないで……。

 

「くつもよくみなさい!つかってなくてほぼしんぴんだったくつがこのありさま!」

 

そう言い、指差したスニーカーは。諸々は白かったが、今ではボロボロで、ところどころに穴が空いていた。

 

「ていあんしたわたしもあれですが、ここまでほとんどやすんでいないんですよ?」

 

唯一まともに休んだのは北陸の宿で休んだあの時だけ。それ以外はほぼノンストップで宿毛湾まで歩いていた。

 

「やはりたいいはたいりょくおばけですね」

「ははは…昔はそうでもなかったんだけどね……」

 

黒岩は後頭部を軽くさすりながら言うと、彼女は鞄からスポーツドリンクを取り出す。

 

「というより、いつもおもうのですが。たいいはどうしてそこまでねなくてもまともなせいかつができるんですか?」

「え?あぁ……昔ちょっとね」

 

その瞬間、一瞬だけ彼女の表情は暗いものとなり、その表情を見た主任さんは少し申し訳ない表情になった。

 

「……すみません、へんなことをきいてしまったようで」

「ああ、良いの良いの。結構昔の話だから」

 

彼女はそう答えると、縁石から立ち上がった。

 

「さて、そろそろ行こうかな」

 

そう呟くと再び彼女は歩き始めた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

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  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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