ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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戦争が日常に入ってもう十年以上経つ。

戦争初期の頃といえば、それはもう酷い有様で。突如として途絶えたシーレーンによる日本への損害は恐ろしいものがあった。

 

食料や物資、資源などと言った全てにおいて何もかもが不足していた我が国は人口の三割を最初の二年で失う事になった。

 

当時、先進国の中でも経済成長が置き去りにされていた日本は自国民ですら養うことができず。国内で生産、あるいは備蓄されていた農作物や食料輸入品は全て政府に買い取られ配給制となった。一九八二年以降また日本は配給切符を発行する事になっていた。

 

ただ、戦前より食料自給率が三割を下回っていた日本は配給となっても微々たる量のみで、到底生きていくのには不十分な量だった。

そんな生活に満足できる人間はいるはずもなく、各地で食料をめぐった暴動が起こる。

 

限られたリソースを国民ではなく、国を守る部隊に割いていた当時の政府は方針を変える事は無かった……いや、この際は変えられなかったと言った方が正しいのかもしれない。

 

すでに東京湾以外の全国の沿岸・離島において同様の深海棲艦による攻撃が行われ、すでに多くの島嶼部守備隊は全滅。頼みの綱である在日米軍もこれといって歯が立たなかった以上、国を存続させるためには国民に餓死という犠牲を強いざるを得なかった。

 

何よりも三割の損耗があれば後方に引いて戦力の補充を行わなければならないというのに、在日米軍の約半数が駐留している沖縄が寸断されてしまった為に国内に駐留する約二万名の在日米軍は戦う前の時点で壊滅していたと言える。

ただでさえ数多の血肉を流して領土を守っていたと言うのに、そんな状態でまともに戦えるはずも無かった。

 

またグアム海軍基地やアンダーセン空軍基地から離脱してきた海軍や空軍がいたことも当時の日本には衝撃を与えた。

深海棲艦の攻撃は世界的に同時に起こったものであり。その時にハワイの太平洋艦隊司令部も壊滅、後に放棄していた。

世界最強と謳われたアメリカ軍ですら、深海棲艦相手には負けて逃げることしか許されなかったのだ。

 

故に毎日のように人が大量に官民問わず死に、その遺体回収も出来ず。逃げる市民の為にただでさえ数少ない農地を潰さねばならず、食料は不足するばかり。

元々シェルターの文化もほとんどなく、全国民を収容できる筈も無く。一応戦前に整備が始まっていたシェルターもお粗末なものが多く。備蓄食料も数日で消えてしまった。

 

外に出れば忽ち深海棲艦による攻撃で帰ってくる事はほぼ無い。

空爆の無い日は無く、毎日必ずどこかで爆弾が落ちる音が響く。そんな状況で人がまともな思考能力を判断できるとは到底思えない。

 

政府が守ってくれないのであれば、自分たちなりの正義を通すしかない。

食糧が無いのなら、他人のを奪っても生きながらえるしかない。

 

こうして法の秩序は一瞬にして崩壊し、彼らは野盗に身を投じる事となった。

そして野盗に身を投じた人々の鎮圧の為に自動火器を配備された警察官が投入され、国内の身内の殺し合いでさらに被害は拡大する始末。

敗戦直後の日本でもこんな事にはならなかっただろうと言えるほどの荒廃具合に、国の基盤は崩れかけの一本橋だった。

 

 

 

そんな時、当時の海自の拠点の一つであった舞鶴にて、ある一人の自衛官が、後の世界の防衛戦略に大きく寄与する事となった男が反抗の狼煙を挙げていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「で?何か意見はありますか?」

 

仁王立ちで顔に般若を浮かべている黒岩。その目の前では山郷、大淀、摩耶の三人が綺麗に正座をさせられていた。

 

「「「いえ、滅相もございません」」」

 

そんな鬼の形相を向けている黒岩だが、これには理由があった。

 

「ドロップ艦の娘が出たのなら、真っ先に技術士官の私に連絡するのが規則じゃないんですか?」

 

そう、この各地では初めてのドロップ艦が現れたからであった。

 

ドロップ艦とは、主に深海棲艦との戦闘後に倒した深海棲艦から現れる事のある艦娘の事を指す。

深海棲艦から現れると言うことで、何かと話題に尽きない艦娘ではあるが。常に戦力が足りない以上、ドロップ艦も一人の艦娘として迎える事は単純に戦力強化につながる上に、今までドロップした艦娘が深海棲艦との繋がりがあった記録や情報は上がっていない。

 

またドロップ艦には深海棲艦として戦っていた頃の記憶やそれ以前の記憶は存在していない。深海棲艦との関連性はその出自のみであり、深海棲艦と艦娘の繋がりに関しては研究が進められていた。

 

「それで、ドロップした艦娘は今どこに?」

「えっと……」

「今は寮で他の娘たちと遊んでいるかと……」

 

それを知った黒岩はなおのこと顔をより恐ろしくする。

 

「ほうほう、つまりあなた方はドロップ艦が出たのにも関わらず私に一報も入れず、碌に検査もする事をしなかった……と?」

「「「はい……」」」

 

一応、規則によりドロップ艦には軽い体調検査を行うのが規則であり。それらの仕事はその資格を持つ技術士官が行う事になっている。

そして艤装技師の資格を持つ黒岩もまた、その資格を持っていた。

 

「私もここで過ごしてきているが故に多少の規則違反は目を瞑りますよ……ですがね、ドロップ艦はここで暮らすんですから、その娘達が増えるんです。いきなり『不審者?!』なんて知らない艦娘の子から言われたら困惑しますし、驚きますよ」

「はい……申し訳ございませんでした」

 

そう言い、泊地に帰ってきた時に見知らぬ艦娘に私服姿で靴がボロッボロの黒岩を見て不審者扱いしたあの不遜な艦娘を思い返す。

 

「謝罪はもう結構です。それよりもどうして一報も入れなかったのかだけを聞いています」

 

完全に立場が逆転し、少将の面目が潰されている山郷。しかし圧倒的に非は山郷側にあったので何も言えなかった。

そんな恐ろしい空気に妖精さん達ですら近づこうとせず、遠くで見つめていた。

しかし沈黙のまま時が過ぎるのも良くないので恐る恐る摩耶が口を開いた。

 

「その…休暇を邪魔したら悪いかなって……」

「ほぅ?」

 

摩耶はそこでゆっくりと黒岩に釈明をし始める。

 

「二週間の休暇中に、与えちゃったからには途中で切り上げさせるのもどうかなって……なりまして」

「はぁ〜……」

 

そこで大きくため息をついた彼女はそこから捲し立てた。

 

「いいですか?これでも私は軍属!軍人の端くれなんです!命令があればどこに居ても戻りますし、艦娘の整備は本来は私の仕事なんです!職務放棄なんてさせないでください!」

「「「はい、申し訳ありませんでした」」」

 

綺麗な土下座を三人がすると、最後に黒岩は今回の件に関して忠告を入れた。

 

「いいですか?これからは何か私が必要になった時は呼び出してください!ただでさえここは人手不足なんですからね!!」

 

これから仕事に戻りますからと言い残し、何時間にも感じた説教を終えた三人は思わず呟く。

 

「「「(これから大尉を本気で怒らせないようにしよう……)」」」

 

そう心に誓った彼らはその後、正座の足の痺れで暫く動く事すら出来なかった。

 

 

 

 

 

「悪いな、いきなり不審者扱いしてもぅて」

「いえ、あなたのことを報告しなかった上司が悪いので。それほど気にしていませんよ?」

 

少し関西訛りの入った口調で話す一人の少女、服装的におそらく夕雲型の艦娘なのだろう。その少女は保健室のベットに座って黒岩に話しかけた。

彼女は一週間ほど前にいつもの哨戒を行なっていた加賀達が深海棲艦の艦隊との交戦後にドロップ艦として保護されていた。

そしてその事を一切知らずに徒歩で帰還した黒岩は初めて見た彼女に驚くとともにすぐさま山郷達に確認をとって先ほどの説教をしていた。

 

「なぁ、()()()

 

そして黒岩の事を副司令と呼ぶ彼女にややため息を漏らしながら答える。

 

「私は副司令じゃありませんよ。大波さん」

 

そう言い、自らを夕雲型駆逐艦七番艦『大波』と名乗った艦娘は黒岩の事を先ほどから副司令と呼んでいた。

 

「私は黒岩百合技術大尉、艤装技師の資格を持っている軍属の人間です」

「うーん、一々技術大尉って呼ぶんもなぁ……面倒いしこのままでええ?」

「辞めてください。正式な軍人でもないのですから、指揮系統が混乱しますよ」

 

自分の事を副司令と呼んでくる大波に対し、黒岩は言われるたびに修正を希望していた。

しかも厄介なことに大波の副司令呼びに山郷達も乗っかってきたのだ。

 

「帰ってきて早々、こんな問題が待っているなんて……」

 

まさかドロップ艦が出た事実を技術士官である自分に報告しないとは何事か。本当であればあと小一時間ほど問い詰めたかったが、休暇から帰って来た直後&大波の体調確認をしなければならなかった為に説教はやめていた。

 

「あー、休暇中やったんやけ?」

「まぁ……ほぼ強制でしたが」

「そらぁ、半年以上無休暇で働いてりゃあアタイも驚くわ」

 

軽く頷きながら答える彼女に黒岩は疑問を感じた。

 

「ん?どうしてその事を知っているんですか?」

 

すると大波はその訳を教えた。

 

「色々と教えてくれたで。足柄や不知火が『ここの泊地にはマッドサイエンティストがいる』とな」

「……」

 

その瞬間、黒岩の中で色々と言いたいことが増えてしまった。全く人のことなんだと思っているんだと言いたい。

 

「でも正直しっかり寝た方がいいで?休むのも仕事のうちや」

「ええ、その辺の分別はできていますとも」

 

帰って来たばかり故に私服姿のままで、その上ボロボロのスニーカーを履いたままでの検査だったが、これと言った異常は無かった。

 

「では検査はこれで終わりです」

「おう、夜分にすまんかった」

 

ベットから降りて手を軽く振りながら大波は答えるとそのまま保健室を出て行く。

この部屋は摩耶も検査のためにちょくちょく使っており、回収したデータは研究室に送られていた。

研究室のサーバーは完全に独立したものであり、それらを作った妖精さんには驚かされるばかりだ。本当になんでもできるな、ここの妖精さん達。

 

「大波ですか……」

 

常に人手不足と戦力不足の我が宿毛湾泊地。そこに新たな戦力が増えた事に黒岩は少し口角が上がっているように見えた。




オリジナル艦娘で実装されていない大波を出させていただいました。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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