ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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大波と言うドロップ艦の艦娘が現れてから数日後、黒岩は工廠にて彼女の艤装の確認を行なっていた。

 

「一般的な夕雲型ですね」

 

陽炎型駆逐艦の改良型の夕雲型駆逐艦、今でこそ不知火は改装を加えられて夕雲型とほぼ同じ艤装となっているが。目の前の艤装は夕雲型の艦娘なので不知火と類似点があるのは当たり前なのだが……。

 

「どうして四〇ミリ機関砲が付いているんでしょう?」

 

そこには艤装の対空砲を発射する場所に25mm機銃ではなく、40mm機銃が取り付けられていたのだ。

 

「でもそれ以外の装備って普通なのよね……」

 

他の艤装の確認を行うが、これと言った異変もなく……ぶっちゃけ前回のドロップ艦があまりにも異例すぎるので参考対象がないのだ。

 

「まぁ、改造するにしたってなぁ」

 

艦娘にも個人があり、大体そう言うのは後から動いた後に注文が入るもの。まず初めは動かない限り……

 

「副司令ぇ〜!!た〜のも〜!!」

 

その瞬間、耳を擘く大声が工廠に響き渡り近くにいた妖精さん達も驚いてフォークリフトの衝突事故を起こしていた。

 

「うわぁっ?!」

「わぁ、たいへんだぁ!!」

 

事故ったフォークリフトの復旧やらの騒動があらかた落ち着かせた頃、

 

「で、何か御用で?」

「おう!頼みがあんねん」

 

頭によく見える大きなたんこぶを作った大波はそこで黒岩に言った。

 

「ウチに一番良い電探が欲しい!」

「電探……?」

 

そこ要望を言われた彼女は首を傾げると、大波は頷いた。

彼女が電探を強く欲したのは、元となった艦艇がレーダーでボッコボコにされたからなのかもしれない。

 

「副司令、なんか良いの無いん?」

「良いのと言われましても…」

 

普段から散々装備品をいじっている身ではあるが、電探もその例には漏れない。

散々ここの泊地はいい装備品が余っている状態なので散々改造をしている身だが、こんな要望を受けるとは少々予想外だった。

 

「いい電探と言っても……」

 

そして今までそんな注文を受けた事がないので電探の準備もなかった。

 

「まぁ、了解しましたよ」

「おぉ、ありがとな!!」

「仕事ですから。あぁ後、私は副司令ではなく技術大尉です」

 

最後に訂正を付け加えると、大波は満足げに工廠を後にしていた。

 

「……で、だいじょうぶなんです?」

「うーん、問題はそこなんだよねぇ」

 

腕を組んで悩む黒岩に主任さんはややジト目を向ける。

 

「正直、電探なんてほぼデフォの奴しか無いの」

「いままでそういったもののちゅうもんはありませんでしたからね」

「代わりに消えていくのは足柄さん達が訓練中に壊してくる戦闘装備品ばかり……」

「どうにかしてもらえませんかね。まいかいくんれんごにどこかこわれているのはかんべんなんですけど」

 

そしていつの間にか二人は愚痴モードに突入していることに気が付かなかった。

 

「おまけに注文したは良いものの足柄さん全く薙刀使わないし」

「そのくせしてきんきゅうほしゅうざいはどんどんきえていく……」

「もう少し訓練を抑えられないのか……」

 

すると二人の間に声が割り込んだ。

 

「そうだな、やり過ぎはまずいわな」

「「!?」」

 

驚いて咄嗟に振り向くと、そこには摩耶と滅多に司令室から出ない山郷がいた。

 

「司令!?」

「よぉ、調子は?」

 

そこで反射的に黒岩は敬礼が出てしまうと、軽く笑いながら山郷は答えた。

 

「まぁ、確かに資源は有限だ。毎度毎度壊しにくるのは資源の浪費になるな」

「おお、そうだな」

「貴方との訓練が一番物損激しいんですが……」

 

摩耶を見ながら呆れた目を向ける黒岩と主任さん。

そう、摩耶との訓練が一番激しく、一番損耗が出る。修理しなければならない箇所が増えるので忙しくなるのだ。

 

その癖して摩耶は損傷自体はするものの、修理しようにもどうすれば良いのかわからない時に彼女はなぜか自然と修復が始まっていたのだ。

これには全員が驚いて血を回収して検査をしたものの詳細は不明。詳しく調べようとすると情報漏洩の観点と山郷と本人の意思でする事もできず。

ただ分かっているのは彼女は自己修復機能のある艤装を装備し、食事を摂る事で勝手に治ると言うことだ。

 

「ぶっちゃけしごとふやさないでください」

「おや、妖精さんがそう言っちまう程かい?」

「いえ、われわれとしてはけんきゅうのこうじつができるのでまんぞくです」

「はははっ、じゃあWin-Winの関係だな」

 

摩耶は返すと、山郷はほどほどになと言った目線を向けた後に先ほど出て行った大波の事を聞いてきた。

 

「どうだ?大波は」

「はっ、特にこれと言った事はありません」

「おう、それなら良い。夕雲型の子は俺も前に見ていた事がある」

 

見ていた。それはつまり、嘗て彼が佐世保鎮守府で国土防衛の任に就いていた時に預かっていた艦娘達の事を指していた。

生き残ったのは目の前にいる摩耶のみ。東シナ海防衛戦の為に散った儚い命、尊い犠牲の元に今の東シナ海の平穏はある。

 

「んじゃあ、後は頼むわ」

「はっ」

 

そう言い工廠を後にする山郷、そしてなぜか摩耶は残って黒岩の事を見ていた。

 

「あの……如何かされましたか?」

「ん?あぁいや、提督は随分大尉の事を気にするなって」

「そうですか?」

 

首を傾げると、摩耶はここでの山郷の黒岩に対する扱いに少し思う部分があるそうだ。

 

「なんと言うかな、随分提督は大尉に色々と教えているだろう?ほら、兵棋演習とかさ」

「えぇ…あまり本望ではありませんが……」

 

そう言い、黒岩は時折呼び出されてやらされている山郷との兵棋演習の事を思い出す。

 

「もういっその事、提督の仕事やっちまえよ」

「無理に決まっているでしょう。第一、提督業は専門の訓練を受けて最低でも准将にならないと」

「意外と行けんだろ。篠海って言う提督もほぼ同い年だしいけるって」

「あの人が特別なだけですよ」

 

出世の速度が階段二段飛ばしレベルの速度で出世を果たして泊地の仕事をしている篠海准将。将来は安泰と見て良いだろう。

 

「自分は所詮技術屋、提督業なんて始められませんよ」

 

正式な軍人ではないのだからと、自身を卑下している彼女に摩耶は内心感じていた。

 

「(ぶっちゃけ君は提督業でも食っていけるよ)」

 

前に山郷との模擬戦を観戦していたからわかる彼女の異常な指揮能力。……正確に言うと、山郷の戦術を取り込んで上手く再現していた艦隊の動きは新米程度であれば十分通用する戦法だった。

 

「でも技術屋兼提督ってのも興味が湧かないか?」

「そんな二足の草鞋で上手く行った例を見た事がありませんよ」

 

そう言い残すと彼女は去ってしまい、摩耶もそんな逃げるように後にしていった黒岩に本質的な何かを感じていた。

 

「そんな人に嫌な思い出があるのかねぇ」

 

妖精さん相手では押しに弱く、艦娘や山郷と言った人に対しては逃げるように避けている雰囲気のある黒岩。摩耶はそこに引っ掛かりを覚えていた。

 

「まぁ、あまり深煎りするのも良くはないか」

 

大淀曰く、彼女には小百合と言う双子の妹と母が居たが既に亡くなってしまったと言う。

 

「妹は深海棲艦との戦争の時に死亡か……」

 

少しくらいは深海棲艦の見た目の自分に恨みを持っていてもおかしくは無いが、そう言った兆候は無かった。

 

彼女の妹が死亡したのはちょうど戦争が始まった時と同じ。深入りしていないので詳しいことは知る由もないが、恐らくは自分達が現れる前に世界中が深海棲艦にやられていた時に大量に死亡した人々のうちの一人なのだろう。

 

「一体どんな気持ち抱えているんだか……」

 

ますます疑問が深まる摩耶はそのまま近くにあった箒を片手に工廠を後にしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、東京は四宮の部屋に大和が書類を持って入ってくる。

 

「提督」

「ああ、何か?」

「調査の報告書です」

 

短い報告をすると大和の持ってきた報告書を受け取って四宮はその内容を読む。

 

「提督」

「ん?」

 

そしてわざわざ仕事を中断してまでその報告書を読む四宮に、大和は疑問を持っていた。

 

「随分と、黒岩技術大尉に興味があるようですが。……何かあったのですか?」

 

そんな疑問に四宮は書類を見ながら答えた。

 

「いや、簡単な事さ。彼女を通して捜査を行えば、装備庁や研究所の他に行っている実験の詳細がわかると思ってな」

「成程……」

 

開戦以降、深海棲艦に既存兵器で対抗しうる兵器を開発している研究所などは16式機動戦闘車と24式装輪装甲戦闘車の改修プログラムを行っており。政府も同車等の量産を進めていた。

 

「対深海棲艦用の装備とはいえ、その研究はどうやって試験しているのか。私ですら公開されていない」

「中将で公開されないのは少し匂いますね……」

 

それには大和も少し怪しむ眼差しを浮かべると、四宮は呟いた。

 

「人間、一番怖いのは自分のやっていることが正義だと信じて疑わない時だ」

「……どう対応されるおつもりですか?」

「幸い、軍人派と軍艦派の共に共通している事はなんだと思う?」

「……私達を守る事です」

 

四宮の意見に大和は軽く頭痛を感じた気がした。

 

「そう、いつも歪みあってる事が多いが、基本的な理念は艦娘の無駄な浪費を無くす事。

君達は今の国土防衛や、海域奪還のために必要な戦力であり。守るべき存在だ」

 

そこで嫌な予感を大和は感じる。

 

「そんな艦娘を実験目的で使えないのは困る……という事ですか…」

「これから米軍の移送任務も始まる。米本土とは違って今の日本はまだ企業より政府の権限の方が強い」

 

悪い顔をしている四宮に大和は軽く溜息が漏れてしまう。

 

「報道機関も戦争が始まって以降、放送権を失いましたしね……」

「今は政府の検閲が入った放送協会関連しか正式な報道機関は無いからな」

 

情報統制は比較的簡単だと彼は言う。

 

「それで、いつ動くのですか?」

「今からだ」

 

四宮は椅子に深く座り直すと端的に答えた。

それはつまり、大和が過去に報告書を持ってくる前にすでに行動に移していたことになる。

 

「黒岩大尉は随分色々な研究に関わっていたらしい……()()()役に立ってくれているよ」

 

そんな四宮を見て内心大和は合掌をしていた。何か特別な思いがあるのかと勘繰っていたが、四宮は四宮だった。

何も知らないところで材料にされる黒岩に哀れみを感じていた。

 

 

 

 

 

数日後、いつくかの艦娘の装備の研究を行っていた研究所や研究員が秘密裏に閉鎖・逮捕に追い込まれていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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