ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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黒岩の改修を受け、前より大幅に強化してもらった宿毛湾艦隊はそのまま試験航海と哨戒を兼ねた航海に出ていた。

航行海域は深海棲艦との競合海域である。太平洋側は沿岸部までを掌握しているに過ぎず、本格的な奪還には至っておらず。ハワイ島などの太平洋の諸島がどうなっているかは把握できていなかった。

艦隊は先頭を不知火、その後ろを加賀の左右に足柄と羽黒、前後を秋月と涼月で囲んでおり。いつもと変わらない配置だった。

大淀はいつもの如く秘書艦として泊地に残って山郷の手伝いをしており。今頃書類の整理でてんてこ舞いだろう。

 

「今更ながら、本当にうちのところの艦隊って数が少ないわよね」

 

足柄がそう溢すと、秋月が答える。

 

「仕方ないでしょう?うちらの泊地は提督が建造しない主義なんだもの」

「そもそも、私たちも元々は寄せ集めに近い集団ですしね」

 

そこで思わず涼月がツッコミをかけると、全員が一瞬だけ思ったのか黙り込んでしまった。

 

「それを思うと、私たち。よくやっている方ですよね?」

「まあ、そうね」

 

羽黒の言葉に足柄も、まんざらではない様子を浮かべていると。艦隊の真ん中で加賀が新たに装備された彩雲を飛ばしていた。

 

「しかし、あの大尉。なかなかな腕があるのね」

「正直ハムスターのようなお人だと思っていましたが、腕は確かです」

 

そう言い、先頭を進む不知火がいつもより出力を落とした状態で答えた。今の彼女は黒岩の手によって出力が馬鹿みたいに上がった状態だ。燃料を食う上に機関が爆発する危険性があるので全速航行は禁止されていた。

 

「背中に爆弾を背負っているようなものなのかしらね?」

「あら、また怖い話ですわね」

 

足柄の言葉に涼月が思わずそう溢すと、そこで加賀が軽く注意をした。

 

「気を引き締めなさい。ここは競合海域よ」

「いつどこから深海棲艦が襲ってきてもおかしくありませんからね」

「幸い、近くを呉の艦隊が走っているからなんとかなりそうだけれど……」

 

そう話していると、先ほど飛ばした彩雲から連絡が入った。

 

「その噂の艦隊を見つけたそうよ」

「うげっ、そうですか……」

「どうする?」

 

足柄が聞くと、加賀は指示を出した。

 

「このまま進路反転します。私たちの目的はあくまでも試験航海です」

「了解」

「そろそろ時間ですし、このまま帰投します」

 

そう答えると、艦隊は進路を一八〇度変えて元来た道を戻り始めた。

 

「機関、推進器、共に異常なし」

「武装も問題なし」

 

そこで秋月と涼月も確認を終えると、そこで無線が入った。定時連絡の無線で、時刻は午前十一時だった。

 

『みんな、調子はどう?』

「はい、問題ありません」

 

加賀が無線でそう返すと、黒岩は少し安堵を見せた後にこう返した。

 

『了解、みんな。無事に帰ってきてね』

 

そう言うと定時連絡の無線が切れた。

 

基本的に宿毛湾泊地に所属している艦娘達は数が少なく、代替できるといっても大淀しかヘルパーがおらず。二人以上欠けた場合は業務を行うことが一層困難となる。そのため、誰も欠けてはならないが泊地の絶対的ルールであり。彼女達も今まで配属されてきてからその約束を破ったことはなかった。

 

『生きて帰ってこい。どんなに大怪我をしても、必ず治してやる』

 

それが山郷から初めて言われた命令だった。

 

 

 

 

 

山郷勲、かつて東シナ海の水上油田海域を巡る攻防戦で深海棲艦の艦隊を相手に二〇名の艦娘を率いて勝利を掴んだ提督だ。

しかし、彼は東シナ海攻防戦の後。彼の部下の艦娘二十名を全滅させた責を取って佐世保鎮守府提督を辞任し、新たに宿毛湾泊地に配属されていた。

 

「……」

 

山郷の部屋の写真立てに収められた一枚の写真は真ん中に山郷が写り、そこを囲むように多くの艦娘が囲んでいた。

 

「摩耶……」

 

その中でも山郷は写真でもベッタリとくっ付いて戯れている一人の艦娘を見た。

そこで山郷はかつて交わした数々の記憶を思い返していた。

 

『提督!後で四宮の部屋に行こうぜ!』

『はぁ、また怒られたいのか?』

 

まだ艦娘が配属されたばかりの頃、摩耶が基地で遊びに行った時の記憶。

 

『提督…いつも、悪いな』

『はんっ、お前に振り回されるのは慣れっこだ。それに、上と仲が悪いのはいつもの事さ』

 

摩耶が命令違反をして上官に叱られた時の記憶。

 

『提督!』

 

かつてあった日常、今はもう戻ってこない日常。

 

『提督…すまん』

『待て、摩耶!死ぬ気か?!』

『ここはアタシが止めなきゃならねえんだ……提督』

『やめろ!あと二十分で増援が来る!お前たちは撤退しろ!』

『……悪い、後で目一杯怒っていい。だから今は…』

 

 

 

『摩耶ぁっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督?」

「……?」

 

瞼を上げると、そこにはバインダーを抱えた大淀が心配げに見ていた。

 

「大丈夫ですか?」

「ん、ああ…いかんな、寝ていた」

「お疲れなんですね」

 

大淀は少しだけ微笑んで話しかけると、彼はそこで少しだけ苦笑する。

 

「ははっ、俺も歳かな?」

「何を言っているんですか。この前四五になったばかりでしょう?」

「歳で言ったら立派な親父だよ」

 

山郷がそう言うと、そこで大淀は哀れんだ目をしながらバインダーを机に置く。

 

「はあ…これも結婚できなかった影響でしょうか?」

「煩いやい」

 

山郷はそう答えると大淀の置いたバインダーを手に取る。

 

「防衛省より通達です」

「陸軍機甲部隊を移転か……」

 

そこには通達で陸軍一個戦車中隊が九州方面に移動する旨が伝えられていた。

 

「首都圏の外郭部隊の一部を派遣する様ですね」

「仕方あるまい。島国の我が国で今最も安全な場所と言えば長野や岐阜などの内陸地帯だ」

 

事実、首都機能を長野に移管する情報もあり。国内の様相はあまり芳しいものではなかった。

 

「ただでさえ資材に余裕のない我が国だ。これ以上物資統制がキツくなったら暴動が起こるぞ……」

「でも、日本海側の海域から東シナ海は深海棲艦から奪還しました」

「ああ、だが現在。アメリカとの直接的な接触ができない上に南シナ海以南の海域は未だ敵の手中だ」

 

深海棲艦との戦いで、世界中に存在していた海底ケーブルはその殆どが切断されてしまい、通信は衛星のみが出来るような状態だった。流石に深海棲艦も宇宙空間までは攻撃が届かなかった様子で、陸地に閉じ込められた各国は衛星通信を駆使して連携を測っていた。

ロケットは打ち上げると深海棲艦に落とされるので、打ち上げの際は確実に艦娘の護衛艦隊を派遣していた。

 

「今の所、幸いなのは中国で民主化革命があった事だろうか?」

 

この深海棲艦との戦いでご自慢の福建を沈められ、そのうえ上海やマカオや香港、青島などを破壊され、そして海南島は世界で唯一深海棲艦に奪われた島となってしまった。

彼ら深海棲艦に対してやられっぱなしの中国では革命が勃発し、インドもそれを援護し、中国は念願の民主化を果たすこととなった。

 

「ええ、おかげで物資不足で滅亡は避けられました」

「……しかし、問題なのはそろそろ大きな作戦があるかもしれないと言うことだな」

「え?」

「考えてもみろ。首都防衛の戦車中隊がわざわざ戦力を割いてまでも九州に移動する理由は?」

「ああ……」

 

そこで納得した大淀は途端に目元がやや鋭くなる。

 

「大尉には調整を完璧にするよう言った方が良さそうですね」

「ああ、ここに来て早々忙しいがな」

 

そこで彼は席を立つと、そこで窓の外から海を眺める。

 

「だが、今まで渋られていた技術士官がいきなり派遣された理由が分かった気がするよ」

「嫌な理由です」

「仕方あるまい。それが権力争いに巻き込まれた人間の末路さ」

 

何処か事象気味に語ると、山郷の部屋の緊急無線が鳴り響いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時は少し戻り、洋上の競合海域を哨戒する宿毛湾艦隊はそこで偵察中の彩雲からある影を見つけたと報告が入った。

 

「……敵発見」

 

加賀がそう呟くと、艦隊の全員の顔が鋭くなった。

 

「十時方向、距離一万五千」

「結構距離あるわね」

 

そこでさらに続報を加賀は聞く。

 

「艦隊は空母二、重巡二、駆逐六」

「どうしますか?」

 

羽黒が聞くと、足柄が言う。

 

「上等よ。この改修が何処まで使えるかやってやろうじゃ無いの」

「ええ、私も賛成です」

 

不知火が頷くと、そこで秋月が注意した。

 

「無理は禁物よ、不知火」

「分かっています」

 

今の不知火は背中に爆弾を抱えている。機関が爆発する可能性があると言われたからには無理は禁物だ。

 

「全機発艦」

「連絡は?」

「もうした」

 

足柄がそう聞くと、加賀は答えながら弓を引いて流星や天山、零戦五二型を発艦させる。

 

「主砲、発射用意」

「先手必勝……!!」

 

そこで不知火が加速を始めると、足柄も同様に速度を上げ。残った人員は対空防御の為に砲身を上げる。

そして飛び出した不知火と足柄はそのまま敵艦隊のいる海域に急行していた。

 

「まったく、相変わらずですわね」

「貴方こそ」

 

二人はそう話すと、既に爆撃が始まっている戦場を見た。

 

「全く、加賀さんも相変わらず容赦がないわね」

「はい、私たちの分も残っていればいいですが……」

 

そう言うと艦載機がこちらに向かってきており、それに気づいた足柄は対空砲を上に向けて発射する。

 

「こうなったら瑞雲でも載せてこれば良かったわ」

「載せられるの?」

 

不知火はそういい首を傾げると、そのまま取り敢えず近くにいた駆逐艦に向けて一発撃った。そしてその直後、一旦飛ぶとそのまま駆逐艦を足蹴りで破壊し、次に魚雷を撃って残った重巡の一隻を撃破する。

 

「相変わらずの無茶で……」

「……」

 

そう言う足柄も前方の主砲を前の駆逐艦に、後部の砲塔を別の駆逐に向けるとそのまま引き金を引いた。

 

『ーーーっ!!』

 

声にならない悲鳴と共に駆逐艦が沈むと、軽空母から艦載機が新たに発艦した。

 

「あら、まだ生きてたの?」

「迎撃する」

 

そう言うと不知火は長10センチ高角砲を発射し、発艦直後の艦載機を叩き落とした。そしてそのまま軽空母に照準を合わせると、

 

「お先に失礼」

 

真横で足柄が主砲を発射し、まともに食らった軽空母はそのまま轟沈して行った。

周りに敵艦の姿は無く、戦闘はあっけなく終了した。

 

「ふんっ、これくらい大した事じゃありませんね」

「……」

「これなら、報告書をあげるだけで簡単に終わりそうですね」

「ええ、帰投しましょう。敵の増援があるかも知れません」

 

敵の哨戒部隊を撃破し、軽い運動程度だったと溢すと二人はそのまま戦闘海域を後にした。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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