今の日本において、軍人にはどの様な身分であれ。自分自身を守るために拳銃が一人一丁支給されており、主な拳銃は旧式の『9mm拳銃 SFP9』だ。
戦前にすでに旧式の装備品となっていた拳銃を海軍に集積して提督向けに配布していた。
陸軍の主装備は旧式の20式小銃であり、警察ではさらに古い89式を主装備として使用していた。対深海棲艦用の弾丸も開発されていると言うが、通用する物はまだ存在していなかった。
そして其れ等公的機関に配備された小銃は戦争から数年経った頃に、法の秩序回復と政府の統制を図るために行われた全国一斉検挙の際、野盗と化した市民に向けて発砲する事もあった。
素直に従った者達は刑務所に送られ、そこで国の復興のための労働を課せられる。国全体に秩序が戻ったのは三年ほど前の事だった。
今回の復興作業にもその逮捕された元野盗の皆さんが動員されているとも聞いており、それはもうなかなかにお忙しいとも聞いている。
一部では皇族を京都に移動させる事を薦める話も出ていると言う事で東京では中々カオスな空気感だと聞いていた。
その日、宿毛湾泊地では洋上に向かって二人の軍人が立ち。その様子を他の艦娘達は後ろで見ていた。
「今から何するん?」
大波が横にいた不知火に聞くと、彼女は少し不思議そうにしながら岸壁に立つ山郷と黒岩の二人を見ながら言った。
「大尉の拳銃の発砲訓練だそうです」
「ふぅん……」
あまり興味はなさそうだが、黒岩がいるからという理由で彼女は岸壁に座り込んで足をフラフラさせていた。
ドロップ艦の大波は足柄達が哨戒中に出会した駆逐艦から現れた。
通常はもっと上位の存在からドロップ艦は現れる事が多いのだが、まあ過去に前例はあるのでなんとも言えなかった。
「あの人って軍人や無いんやなかった?」
常日頃、彼女の事を副司令と呼んで懐いている大波が聞くと羽黒が答えた。
「確かに、あの人は軍属ですけど。この前の規則改定で、軍属も拳銃で武装する事になったんです」
「ほーん…」
「なんでも、この前欧州であった大攻勢の時に武装していない技術者が多く亡くなったんだってさ」
「なるほど、それでですか……」
そこに加賀も現れ、泊地にいる全員が二人の銃の講習を眺めていた。
「まだ、すぐに動くようになっただけましね」
「ですね」
元々ガッチガチに固めた規則のせいで大勢の国民と領土を失った国家ゆえにその反省から今では情報を命に生きながらえてきた。
常に新鮮な情報を仕入れるために連携を密にし、また艦娘発祥の国として新たな技術を開発していた。
「よし、使い方はわかるな?」
「はい…一通り見ました」
スライドを引いてチャンバーチェックを終えると、サイトを合わせて両手で拳銃を握る。
パン!パン!
そして発射された二発の弾丸は軽く水面を穿つと小さく水柱が立つ。
薬室から弾き出された薬莢は岸壁に転がり、海面に浮かぶ的に当たっていない事に軽く頷きながら呟いた。
「まぁ、初めてで当たらんわな」
「今日初めて撃ったど素人ですからね」
弾倉を抜き、薬室の弾丸を確認した後に山郷に拳銃を返却する。
軍属に拳銃携帯の規則ができて以降、海を仮の射撃場として運用していた。
この的は波で照準が上下することもあって初心者にはあまりにもハードな射撃場だった。
「正直、深海棲艦相手に撃っても仕方ない気がします」
「ないよりはマシと言う判断だろう。この前の欧州攻勢でヨーロッパは海域の多くを奪還された」
「地獄ですね」
「ここは静かで良いもんさ。向こうの侵攻もほぼ起こっていない」
この前の深海摩耶との戦闘で付近にいた強力な守備艦隊をやったからか、ここ最近の太平洋の哨戒任務も大きな戦闘をする事なく帰ってくることが多い。
「あら、嵐の前の静けさって知ってる?」
「血の気が多いのはいいが、出来れば起きてほしくないねぇ」
「はははっ、それはごもっとも」
摩耶がケタケタと軽く笑いながらボラードの上で胡座をかいていた。
今日は宿毛湾泊地の艦娘達に出撃予定は無い。代わりに同海域は佐伯湾泊地の艦娘達が哨戒任務を行なっており、増援要請があった場合はすぐに出れるように準備はしていた。
日替わりで哨戒しようと佐伯湾泊地と連絡してそう言うふうに取り決めたのだ。向こうも実践が積めると言うことで容易にこの話に乗ってくれた。
「なぁなぁ副司令」
「なんですか?大波さん」
「良い電探ってあった?」
前に黒岩に注文をしていた電探の一件で、なんとか要求通りに部品を仕入れた彼女は頷いた。
「ええ、この泊地にある電探で一番良いのを付けておきましたよ」
「ありがとうなぁ〜」
艦艇だった頃の因果か、必要以上に電探の重要性を説く彼女は武装よりもまず初めに電探の話をしてきた。
ここの泊地に入る艦娘達は意外と火力至上主義の娘が多いので、いつもは余っている長10cm連装砲などを装備していた。
前に不知火が戦艦の14cm単装砲を載せられないだろうかという頭のおかしい提案をしてきた時は速攻で却下させてもらっていた。
「あと大波さん、散々言っていますが私は大尉と呼んでください」
「えぇ〜、別に良いやろ」
「ダメです。知らない人が聞いたらどうするんですか?」
黒岩は大波に軽く注意を入れると、彼女は余裕そうに答えた。
「大丈夫や、その時は言い方変えるし」
「日常で使っていると。いざ外に出た時にうっかりするなんてことがありますよ」
そう言うも、彼女は耳を貸した様子もなくそのまま工廠を後にしていた。
「もうみとめちゃえばいいんじゃないです」
「嫌ですよ。絶対ややこしい事になるって」
主任さんを前に黒岩は今後起こるであろう問題を色々と予測する。
「でもしれいもみなさんものっかっているんですし……」
「そもそも、何で提督も摩耶さん達も私を提督にしたがるんですか……」
疲れたような表情で軽くため息を吐く黒岩は自分の仕事を忠実にこなし始めると、そのまま工廠の奥に消えていった。
その時、司令室では山郷が四宮との直接のダイレクトラインを繋いでいた。
『そうか、彼女はああまり乗り気ではないのか……』
「なまじ才能があるが為に、何とも惜しいところだ」
『そうか……』
そこで四宮は軽く映像越しに天を仰いだ。
「もういっその事、囲んで既成事実作っちまった方が良くねぇか?」
『生憎と、軍艦派に色々と言われる未来が見えるんで結構だ』
無論、この通信は盗聴対策がバッチリ施されており。明石謹製の超強力な通信網だった。
「ほぅ?この前、大尉の研究結果を使って色々派手に暴れたと聞いているのだが……」
『……大和か』
情報漏洩の犯人を知り、四宮は軽く愚痴る。
「どうせ軍艦派の人間にも喧嘩を売ってきたんだろう?」
『そんなつもりは無いさ、どちらの陣営であれ大切な艦娘を余計な事で失いたく無いからな』
そしてそこで、山郷は四宮の意図を汲み取った。
「……また寄越すのか?」
『すまん、頼めるか?』
それはつまり、摘発した研究所にいた艦娘を数名引き取ってくれという話だった。
「戦力が増えるのは嬉しいが……相当まずいのか?」
『ああ……必要な資材は提供させてもらう。済まんが、俺からはこれ位の事しか出来ない』
「いいさ、これ以上資材を送られても余っている」
山郷の返答に四宮は思い出したようで軽く頷く。
『そう言えばお前はまだ建造をしていなかったな……変えないのか?』
「それが俺のポリシーだ。譲る気はない」
山郷はあの時に知った、失う悲しみと。それでも生産できてしまう艦娘の恐ろしさを感じており、それ故に艦娘の建造は二度と行わないと誓っていた。
『まぁ、君の意思を私は尊重するよ。私も似たような考えだ』
四宮は山郷の意見を肯定した上で話を続ける。
『山郷。君は黒岩大尉を提督にするべきだと思うかい?』
「何を今更……」
四宮の呟きに山郷はやや呆れたような目線を向けた。
『正直、今の海軍では既に多くの士官が提督としての任務をこなしている。
中には欧州に派遣部隊として向かった人物も居る。人格に関しても念入りに調査を行った上での人選だ。深海棲艦による攻撃も今のところ減っている以上、これ以上提督を増やすべきか考えものでな……』
司令部の人間故の悩みを吐露する四宮に、山郷は即答えた。
「正直、訓練でいくら優秀でも。そいつが実戦でうまくいくのかは別だ」
『黒岩大尉にはその可能性があると?』
「元々技術屋だ。艦娘に関しては世界で一番詳しい。そんな彼女に艦隊の指揮を取らせてみろ、きっと化けるぞ」
山郷の意見を聞き、四宮は少し驚いた様子で聞いた。
『それほどか?』
「正直、俺は恐ろしいと思ったよ」
山郷はそこで最近の兵棋演習で見ている彼女の戦術の高さ…あくまでも自分の再現でしかない、オリジナリティのないものだが。山郷の実力に追いつきつつある彼女の腕前を。
「ただ、提督業に持っていくと必然と仕事は増える。彼女に負担がかかる」
『それは……そうだな』
「言っておくが、半分以上お前のせいだからな?」
『無論分かっているさ。ただ……ヤオビクニの対抗薬を制作している中で一番進んでいるのが大尉なのもまた事実なんだ』
「あぁ……なるほど」
何とも難しい話だ。提督としての才能を持ち、技術士官としての腕は日本でも指折り。研究者としても優秀。
「何というか……器用貧乏だな」
『色々と優秀すぎるのも困りものだな』
山郷と四宮の意見が一致し、黒岩の今後について彼女の預かり知らぬ所で議論が繰り広げられていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。