ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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「…来た」

 

漆黒が包み、空に浮かぶ満点の星空の下、一つの影が蠢く。

 

巨大な影の下では剥き出しの砲身が幾多も突き出し、巨大なレーダーサイトや巨砲も備えていた。

 

「…」

 

禍々しい青く灯る巨大な蛇の如く動き回るその姿は異形の神のようであった。

 

「見つけた」

 

動き続ける足元は動き出し、漆黒の海を掻き分けて進み始めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「くあぁ〜…」

「あら、おネムですか?」

 

宿毛湾泊地、その工廠で欠伸を溢してしまった黒岩に、横にいた阿賀野が声をかける。

 

「いやぁ、最近は忙しくてねぇ〜」

「あなたはつねにいそがしいでしょうに」

 

そう突っ込むのは主任さん。

工廠で自分の仕事である艦娘達の艤装の整備点検、および改修を行なっている黒岩は欠伸を溢す。

 

「昨日はどのくらい眠ったんです?」

「うーん…」

 

阿賀野に聞かれ、少し返答に間を置く黒岩。

彼女に懐いている大波は、今日は哨戒任務に出ており、この場所には居なかった。

 

「二時間…くらい?」

「そんなに寝ていないんですか?!」

 

黒岩の睡眠時間に阿賀野は驚愕していると、その直後。

 

「What's?!」

「ほら、寝に行きますよ!!」

 

仕事中だというのにお構い無しに阿賀野は黒岩を担ぐとそのまま速攻工廠を飛び出す。

そんな彼女を主任さん達は見送る。

 

「何するんですか!?」

「貴方は女性なんですから、寝ないとお肌に悪いですよ!」

「貴方も女性でしょうがっ!!」

 

そんな黒岩のツッコミなど聞いていない様子でそのまま宿舎に運ばれる黒岩。

 

「あっ!提督!」

「おう、阿賀野か…」

 

途中、山郷ともすれ違うが、阿賀野によって持ち上げられて運ばれている黒岩に若干困惑していた。

 

「…人間バーベルか?」

「断固として違います」

 

掲げられている黒岩は不満げな表情で遺憾の意を示すと、阿賀野は事情を説明する。

 

「副司令はまたまともに寝ていなかったんです!だから今から寝かせに行きます!」

「そうか、なら理解した」

「理解しないでください!!」

 

大いに納得している山郷に黒岩が反論していると、

 

「おや?」

 

そこに摩耶が現れ、彼女は担がれている黒岩を見て面白そうな表情を見せた後に阿賀野の肩を持った。

 

「ちょ…」

「んじゃあ、少尉寝かしつけてくるわ。あと宜しく〜」

「あぁ、分かった。寝たか見張っといてくれ」

 

山郷は摩耶達を見て言うと、二人は頷いて黒岩を官舎の休憩室に運んで行った。

 

 

 

「どっ…せい!」

 

普段山郷が暮らしている官舎には休憩室と呼ばれる場所がある。

 

「うわぁっ」

 

普段、官舎で暮らすが故にここには必要最低限の生活を行うための設備が整っている。

 

「ほいっ、お届け完了!」

「ありがとうございます」

 

摩耶と阿賀野はソファから起きあがろうとする黒岩を押さえつけながら言う。

 

「まだ仕事があるんですが…」

「あぁ、その点について心配はいらないよ」

 

摩耶はそう返すと、阿賀野は黒岩の靴を脱がせて上から毛布をかける。

 

「すでに妖精さん達が補填している」

「そうですよ。元々副司令が居なくても泊地は回っていたんですから」

「…あの時は艦娘も少なかったでしょうに」

 

どう言って軽く駄々を捏ねる黒岩だったが、彼女は目にホットアイマスクを付けられる。

 

「ほら、特に少尉は仕事立て込んでいるし。よく寝ないと」

「ほれ、子守唄でも歌ってやろうか?」

「結構です」

 

黒岩は摩耶の提案を断ると、彼女は反対のソファに座って横になる黒岩を見る。

 

「じゃあ、私が横にいますね」

「大丈夫ですよ」

 

阿賀野に黒岩は返すと、その直後

 

「zzz…」

 

軽くいびきをかいて寝始める。

 

「ほら言わんこっちゃない」

「よほど疲れていたんですね」

 

ソファですぐに熟睡に入る黒岩に二人はそんな事を言いながら阿賀野は摩耶に任せると言って部屋を出て行った。

 

「…」

 

そして残った摩耶は目の前で寝ている黒岩を眺めながら窓の外を見ると、少しの懐かしさと共に北の方角から異様な雰囲気を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

「状況は切迫しつつある」

 

その頃、市ヶ谷では四宮が少し険しい表情を浮かべて会議に臨んでいた。

 

「これがロシア沿岸にて確認された新たな深海棲艦だそうだ」

 

そう言い、報告官がスライドを動かすと。そこには朧気ながらも巨大な黒い影の姿があった。

 

「北極海沿岸部の攻勢中に確認された新型深海棲艦と推定されている」

 

その深海棲艦の映像は戦闘中の一瞬に撮られたもので、その際の損害があまりにも夥しい物だったという。

 

「知っての通り、現在のロシア連邦はモスクワで徴兵が行われている程だ」

「「「「…」」」」

 

会議室には将校が詰め寄っており、その新しい深海棲艦に関する情報を見ていた。

海を奪われた今の人類は海の奪還という夢のために多くの国民に犠牲を強いていた。

 

しかし日本はほぼ関係ないが、内陸国では安全な領土と地下資源を求めて紛争が勃発しており。カザフスタンやアフガニスタンと言った中央アジアでは周辺国などの圧力もあり、世界の難民を受け入れざるを得なかった。

 

中国でも首都が長安になってから久しく、沿岸部では常に激しい砲爆撃に晒されていた。

 

「この深海棲艦はまだ情報が少なく、その後の動向も不明だ。だが冬に行われる作戦に際し、北極海と通過点のベーリング海は接続している関係上、我々も十分留意する必要がある」

 

そうして会議は終了した。南方作戦海域を担当している四宮は本来であればここで退場するべきなのだが、

 

「四宮少将は残りたまえ」

「はっ」

 

言われ、彼は会議室に残ると部屋の中には他に数名の招集された提督が残る。

彼の今の仕事は残存米軍の移送任務と移送先の確保である。

そして他に残った提督は今回の作戦で該当地域に当たる提督達であった。

 

「現在移送中の米軍残存兵の状況は?」

「はっ。本日、韓国より移送される残存兵移送の最終便が二二三〇に新千歳空港に到着予定です」

 

北海道に集結中の米軍は日本全国と韓国に駐留していた部隊全てである。

 

「しかし、集結した地元住民の反発も強く…」

「米艦隊は各港を出航した後、現在は大湊をはじめとした太平洋側の港に停泊させています」

 

徴用した貨客船及び客船にはこれでもかと乗せられるだけ米軍兵が乗せられ、運べない装備品は日本政府へ格安で売却されていた。

 

「しかし今の北海道と青森県の空港は輸送機で飽和状態だ」

 

そして兵隊を乗せた輸送機などは北海道と青森県各地の空港に駐機されていた。

 

「先に航空機だけでも飛ばせないのか?」

「無理でしょう。深海棲艦の防空範囲に引っかかて堕とされるのがオチです」

 

そう答えるのは伊藤まり少佐、軍艦派の軍人であり。今は仙台泊地の提督を務めていた。

軍艦派の中でもかなりの強硬派であり、四宮達軍人派からすると敵対視し、要警戒している人物であった。

 

「米軍の護送中に死者を出すのは、今後の日米関係のためにも避けるべき事案かと」

 

若くして出世への階段を登っている篠海と同じタイプの女性士官だ。

と言うより、四宮が篠海を引き抜いたことに対する軍艦派からの対抗馬でもあった。

 

ただ対抗馬として出されるだけあり、その指揮能力は最高に近い。

 

基本的に艦娘の全てを徹底管理し、その作戦行動や日常の行動の全ての責任を負う代わりに提督の指示を全て従う事を要望するのが今の軍艦派の主張。

それに対し、ある程度の自由を効かせ、作戦時以外の責任は自己責任となる行動指針を示すのが軍人派の考え方だ。

 

艦娘への弾圧と他国からの評価は芳しくない軍艦派と、艦娘と言う未知の存在に恐怖する民衆からの評価の芳しくない軍人派。

 

どちらにも長所短所が存在し、今の海軍ではこの二大派閥が鎬を削っていた。

 

「しかし、これ以上米軍の長期駐留を行うことによる地域の治安悪化も発生している」

「それに、高高度まで上がれば敵の攻撃も少ないと聞く。本土領空で高度を取った後にアラスカ方面に飛ばすのではダメかね?」

「日本の領空では、沿岸に接近した深海棲艦の艦載機攻撃による襲撃が考えられます」

 

年上の上官に対しても物怖じしないこの振る舞い、確かに重宝される人間だろう。

 

「ここは護送作戦の際に偵察も兼ねた輸送機部隊の展開を行う事を優先し、駐留中の米軍に対しては米軍駐屯地の周囲の警護強化を行うのが得策かと」

「しかしこれ以上の警護増派は米兵への弾圧と勘違いされる危険があるぞ」

「それにこれ以上警察から人員を派遣できないと言われているぞ」

 

卓の反対に座る初老の中佐が苦言を呈すると、別の軍艦派の士官は言う。

 

「過去、在日外国人に対する一時的な治安維持を目的とした警護強化及び、住民移動の事例は存在しています。よってこの行為は法令によって認められる順当な行為です」

「…川崎居住地か」

 

言われ、中佐は少し苦い表情を浮かべた。

 

深海棲艦との戦争が始まった頃、国内の治安悪化の原因とされた不法滞在の外国人へのリンチから彼らを守る為に、日本に滞在していた外国人全員を川崎の埋立地に移住させた、通称川崎埋立地事件と呼ばれる事例。

これにより一時的な治安回復の兆候があった事からこの法令は賞賛されていた。その際に発行された法令を用いる事を彼らは提案した。

 

「しかしそれらは全て政府に委ねられる案件だ。我々が決定するべきではない」

 

白熱仕掛ける会議室を収めるようにそこで口を開いたのは上山であった。

 

「しかし大将、軍部での方針は決定するべきかと」

 

伊藤はそこで上山に上進すると、彼は少し頷く。

 

「君の言う事も理解している。だが物事を順調に進めるには入念な下準備と言うものが必要なのだよ」

 

上山はどちらにも属していない中立の人間だ。故に二大派閥で対立している海軍に非常に手を焼いていた。

 

「それに、意見を出すにしても空軍や陸軍とも歩調を合わせて政府に報告をする必要がある」

「…」

 

今の日本軍の三つの軍隊、いずれも国土防衛には欠かせない存在であり、自衛隊から継承された三体の連携は維持されている大切な伝統であり、その協調を崩すわけには行かなかった。

 

「とりあえず、この件は私に一任させてくれ」

 

もうすぐ退官する上山は最後の仕事と言った様子で伊藤達を宥めると会議は一旦休憩に入った。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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