ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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現在の宿毛湾泊地に所属している艦娘の人数は、書類上は十人である。

国防の要である艦娘は徹底した管理がなされており、故に書類も厳密に数の確認がされていた。

 

他の人員は個々の責任者である山郷と、彼の元に配属された艤装技師の黒岩。そして事務員に摩山沙耶がいた。

 

「すみません…」

「あぁ良いさ良いさ。特に苦でもないしな」

 

そう言い保健室で申し訳さなそうにする黒岩に摩耶は軽く笑いながら返すと、腕から細い管を通ってパックに青い血液が流れる。

あまりにも特異的なその見た目から彼女は表に出ることができず、かと言って戸籍が無いというのも今後のことを考えると不便だろうと言う事で、山郷の提案で事務員として雇ったことにしていた。

その時に作られた履歴書はもちろん偽造した物であり、経歴は山郷達が考えて違和感のない様に作られていた。

 

「私の仕事は明らかに事務員じゃねぇと思うんだけどなぁ…」

「まぁ、摩耶さんの場合は色々と例外すぎて…」

「だからって無駄飯を食らうのも性に合わないよ」

 

そう言い、彼女は黒岩の実験に協力する代わりに泊地に置いてもらうと言う建前で泊地に居候していた。

 

「流石に今の摩耶さんを戦力として泊地に置くと、周りから面倒な事になりますからね…」

 

黒岩はそう言い、知りたくなかった軍内部の情報に溜息を漏らす。

 

「大変だな、政って…」

「同感です」

 

黒岩もそれには納得していると、

 

「…なぁ副司令」

「何ですか?」

 

最近では言い直させることも面倒になって来て、泊地内では副司令で罷り通り始めている黒岩。

そんな彼女の行動の根底にあるある恐怖に疑問を投げる。

 

「君はさ、どうしてそこまで人を畏れているのかい?」

「…」

 

その時、黒岩の手が一瞬止まった。

 

「いやぁね、こっちも君の仕事ぶりには感謝しているけどさ、流石に自分の身体は労わろうよ?」

 

そう言い摩耶は生き急いでいる様に働く黒岩に不安視していた。

少なくとも山郷の様な生き方をしろとは言わないが、もう少し自分自身に優しくあれと思ってしまうのだ。

 

「人が怖い理由は定かじゃないけどさ…少なくとも妖精さんが副司令の事を気に入っていて、君も彼らのことを気に入っているのは、あの子達は人の姿とはかけ離れているからだろう?」

「…流石ですね」

 

黒岩は言い当てた摩耶に苦笑していると、彼女は言う。

 

「ダテに司令の元で働いていないさ」

「あんな司令官ですからね…」

 

黒岩は採血をされる摩耶を見ながら言うと、彼女は軽く笑う。

 

「自由人だが、人を見る目はあるからな」

「えぇ、そうですね…」

 

黒岩はそこで摩耶に言う。

 

「昔、私達は地元で村八分にあっていましたね…」

「…」

「まぁ当時の事は今でも虫唾が走りますよ」

 

そう言い彼女は表現し難き感情を抱え為を摩耶に見せた。

 

「でもその直後に北陸騒乱が起こって…私達を追いやった人たちは皆墓の中ですよ」

「…」

 

そう言って彼女は軽く笑った。

サラリと言われたその事実に摩耶も一瞬驚いてしまうと、その後に少し表情を変えて言った。

 

「すまないな…無理やり言わせて」

「いえ、もう昔の話ですよ…それに、その後は特段悪い経験は…しなかったわけではありませんが、充実した生活は遅れていたと思いますので…」

 

そう言い彼女は採血したパックを取って、摩耶の腕から針を抜いた。

 

「採血、終わりました」

「あぁ、分かった」

 

そこで摩耶は腕に絆創膏を貼り、保健室を出る時。

 

「…何かあったら、誰かに相談する事も忘れるなよ?」

「えぇ、ご忠告ありがとうございます」

 

黒岩はそう言った摩耶に薄く笑みを見せて返していた。

 

 

 

 

 

「なるほど、村八分か…」

「今どきそんな古臭いことをするものですか?」

 

摩耶から話を書き、腕を組んで考える山郷に大淀が首を傾げた。

 

「無いわけじゃあ無いだろう。特に田舎ともなればよ他所からきた人間には厳しく接することの方が多いだろうしな」

「にしちゃあだいぶ酷いことをされたっぽそうだかな」

 

摩耶はそう言い、黒岩がそれを話した時のあの何とも言えない黒いとも無とも言える感情を孕んだ目を思い返す。

 

「北陸騒乱の時に副司令を村八分にしてた人たちは死亡したそうだが…」

「なるほど…彼女は北陸騒乱の生き残りなのか…」

 

そこで彼は考える仕草を取る。

 

「知らなかったのか?」

「あぁ、彼女の過去の経歴にその様な事は書かれていないからな…」

 

山郷はそう言うと、大淀が聞いた。

 

「そこら辺を詳しく調べてみますか?」

「あぁ…そうだな、彼女の過去の経歴を知れば、今の状況も理解する事もできるだろう」

 

そう言い、黒岩の生き急いでいる様な生活態度に不安視している山郷は言うと、大淀も頷いていた。

 

「ですね…彼女には特に思い残す様な事もなさそうなのが不安でもありますし…」

 

そう言い、断片的に聞いていた彼女の過去の遍歴を思い返す。

 

「確か親は若い時に離婚して、母親が幼い頃に死亡…んで村八分にあって、北陸騒乱の後に引き取られたんだったか?」

 

改めて今知っている彼女の過去の経歴を半ばで整理をして口にする山郷に大淀は頷いた。

 

「えぇ、概ねその通りかと…」

「飛んだ災難な人生だな…」

 

山郷はそう言い、大淀は彼女の部屋に置いてあった太刀と写真を思い返す。

 

「双子の妹も北陸騒乱の最中で失われたと推測できますし…」

「俺、流石にそこまで壮絶な人生を体験した事ないな…」

「いや、誰もそんな経験したくないって…」

 

摩耶は山郷に突っ込むと、三人は何度言い難い表情を浮かべる。

 

「良く自殺をしてこなかったな…」

 

それほどの苦労をしていながら今日まで生きていることに山郷は感心し、同時に彼女の性格でどうしてだろうとも思っていた。

 

「彼女を引き留めた何かがあったと言うことではないのでしょうか?」

「引き留めた…ねぇ」

 

摩耶はそこで黒岩百合と言う人がどんな心情を抱えて生きているのか、少し考えていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日前、阿賀野と摩耶の手で黒岩が寝かせられた時。

 

「全く…これじゃあ泥棒とさほど変わりませんね」

 

そう言いながら手に手袋を嵌めた大淀は空になった黒岩の部屋を探る。

彼女は黒岩が摩耶達の監視で寝ている間に部屋の中を探る任務を山郷から受けており、彼は士官寮の入り口で仁王立ちをして黒岩が来ないかと監視をしていた。

 

「大尉の動機を探ると言いましてもね…」

 

そう言いながら箪笥を開けると、そこには数着の私服と下着というとても少ない荷物が置いてあった。

 

彼女の昼夜を問わない仕事ぶりに、普段から怠けることを優先している山郷は信じられないと言った様子で彼女のことを見ており、生き急いでいる様に見える彼女の原動力は何なのかを生活面から見ると言うのが今回の目的だった。

 

「ミニマリストみたいな生活ですね…」

 

大淀はそんなことを言いながら箪笥を閉じる。元々物を持たない人なのはここに派遣された時から知っていたが、ここまで行くともはや感心するほどであった。

 

「…」

 

そして次に机の引き出しを開けると、そこでは手帳と瓶が数本入っており、瓶を一つ手に取るとラベルに『ヤオビクニ原液』と印刷されたテープが貼られていた。

 

「これは…」

 

透明な深い青色の液体。噂の薬物であるが、本物を見たのはこれで二回目、だが原液は初めて見た物だった。

 

「…」

 

その瓶に入っていた薬物の原料は深海棲艦から取られた血液で、ここに置いてあるという事は、この薬物は既にその効果を失っているという事なのだろう。

 

今の黒岩の研究室にはヤオビクニの原液は冷蔵で保存されているのは大淀も知るところだった。

 

初期量産分のヤオビクニの原液を盗み出した胆力には舌を巻くが、やっている事は窃盗以外の何物でもない。

しかしヤオビクニ自身も原料は深海棲艦の血液と言う、かなりグレーゾーンな代物なので研究所側も迂闊に行動ができないと言う、実に曖昧な立ち位置で彼女はここにきていた。

 

「凄い」

 

しかしそれを持ってしても大淀は不思議とヤオビクニの持つ不思議な魅力に思わず目が止まってしまう。

その深い青色の透き通った液体は光を通過して青色の光を大淀の目に入れる。

 

「…」

 

その光をずっと浴びるのは危険だと何かが訴えてきて、大淀はそっとその瓶を元に戻したその時、

 

「ん?」

 

ふと彼女は引き出しに入っていた手帳を手に取る。

その手帳は黒岩が書いているのだろう、試しに開くとびっしりと数列や計算先で埋め尽くされていた。

 

「えっ…」

 

その計算式を前に大淀も思わず驚いてしまう。

彼女の脳は一体どうなっているのだろうかと思いたくなり、その計算式を見るも、理解がいまいちできなかった。

 

「…」

 

そして書き殴られたその手帳を一枚ずつ見ていく。

 

「…」

 

膨大な計算式に文字。すべて手書きで書かれ、深海棲艦という文字や艦娘の文字もパーセントとともに書かれ、何かの理論を証明している様子だった。だが、それには違和感があった。

 

「答えがない…?」

 

その手帳はあくまでも計算式を書いているのみで、肝心の答えは何処にも記されていなかった。

 

「…」

 

そんな手書きの手帳に大淀はいくつか違和感を感じていた。

 

「どうして電卓を使わないのでしょうか…」

 

すべて計算式は筆算含めて書かれており、電卓を使用した形跡はなかった。

今の時代、これほどの計算式であれば電卓に頼るのが一般的であるにも関わらずだ。

 

「情報を残したくなかった…?」

 

大淀は数ある予測の中から一つの答えを仮設する。

 

「インターネット上に残したくない研究を、大尉はしている…?」

 

全てをアナログで管理し、自分達にも明かしていない黒岩のこの手帳に書かれた研究。

 

「…やれやれ」

 

大淀は黒岩が生き急いでいる理由を探る為に部屋に侵入をしていたのだが、その意味が変わってきている様な気持ちになりながらその手帳を元の位置に丁寧に戻す。

ペンの一本まで完璧に元通りにしたのでバレる事はないだろう。

 

「また余計な疑惑が生まれてしまいましたよ…」

 

彼女はそう溢し、自分達の知らないところでヤオビクニと関連している研究を続けている黒岩に呆れていた。

 

「大淀」

 

するとそこで部屋の外に山郷が立って話してきた。

 

「そろそろ黒岩が起きそうだ」

「分かりました。すぐに戻ります」

 

大淀はそう返して引き出しも丁寧に元通りに戻すと、部屋を出て何もなかったかの様に寮を後にしていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

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  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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