ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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宿毛湾泊地に休みは無い。

 

理由はそもそもの艦娘の数が少ないため、深海棲艦の襲来による対処でてんやわんやとしており、艦娘達が泊地内での仕事を兼務している事は当たり前であるからだ。

 

基本的に艦娘の数が多ければそれだけローテーションを組むことが可能であり、役割分担も可能である。

 

「こっちいそいで!」

「こっちはやけたそうこうばんをきって!」

「あたらしいほうしんってどこにある?!」

 

工廠では先ほど深海棲艦の機動艦隊と一戦を交えた宿毛湾泊地所属艦隊が損傷を受けて修復作業に入っていた。

 

「痛たたた…」

 

左腕を掴んで包帯で巻いた足柄が言うと、その横で黒岩が介抱する。

 

「大丈夫ですか?」

「ふんっ、これくらいの事で倒れるわけないじゃない」

 

足柄はそう言い平気な様子で黒岩を見ると、彼女もそんな足柄に軽く笑みを見せる。

 

「それなら、よかったです」

「…」

 

黒岩はそこで怪我をした足柄を湯船に送る為に工廠を後にする。

 

「副司令、手伝おか?」

「あぁうん、大丈夫よ」

 

そこで大波が駆け寄ってきたが、黒岩は感謝をしながらも自力で足柄を運んで行った。

 

 

 

 

 

その日の夜、泊地に建設された黒岩研究所では妖精さんや主任の黒岩が多数仕入れた試薬を用いた研究を行っていた。

 

「副司令〜」

「ん?」

 

白衣を身に纏って片手にホールピペットと三角フラスコを持っていた黒岩はそこでやってきた大波を見る。

 

「もう門限の時間じゃないの?」

 

研究室には常に数人の妖精さんが出入りしており、艦娘に取り付ける装備品の研究も行っていた。

 

「大丈夫やで!ちゃんと足柄はんの許可は取って来たで!」

 

ここの寮長である足柄の許可を取って来たと言った大波は寝巻きの姿で研究所を訪れており、彼女は徹夜をする黒岩を度々気にかけていた。

 

「一緒に寝ぇへん?」

「え?それは…」

「たまにはええやろ?」

 

大波のお願いに黒岩は少し考える。時刻は午後九時。

山郷や大淀は日々の書類仕事を終えて晩酌をしている時間帯で、寮で暮らす艦娘達もいつ来るかわからない深海棲艦の襲来のために寝れる時に寝ていた。

 

「…」

 

大波の提案に黒岩は今行っている作業を再度一考する。

 

「…分かりました。ただ、ちょっと目が離せないのでここで寝ることになってしまいますけど…」

「かまへんで」

 

大波は少し嬉しそうにしながら黒岩を見ると、彼女は後を妖精さんに頼むと、研究室の横の休憩室に用意していた寝袋を取り出す。

 

「へへへっ、副司令と添い寝ななんて初めてやな」

「そうですね…」

 

黒岩は積極的な大波に負けた様子だったが、少し懐かしい気持ちになりながら寝袋を広げる。

二人が入れる大きめの寝袋であり、休憩室の広めの空間に敷いて大波は持ち込んだ枕と共に横になると、そこで黒岩は大波の横に入る。

 

「副司令って、意外とあったかいんやな」

「私はそんな低体温症じゃありませんよ」

 

黒岩は大波に言うと、黒岩は大波にいきなり抱きついた。

 

「どうかしましたか?」

「…つまらんなぁ、もっと驚いたりすりゃあええのに」

 

黒岩の反応に不満げな大波だったが、黒岩は少し笑うと言う。

 

「昔、私の妹も同じことをしていましたからね」

「副司令の…妹はん?」

「えぇ、可愛い妹でした」

 

そこで黒岩は少し懐かしむように大波の髪を軽く撫でた。

 

「ちょうど身長差もこんな感じでした」

「…」

 

黒岩の妹と言えば、昔に亡くなったと言っていた彼女の唯一残された家族だ。

 

「可愛くて、いつも明るくて…姉の私よりも姉のような存在でした」

 

その時の彼女は懐かしそうに目を閉じて、絵本の読み聞かせをするようなゆったりとした口調で軽く頷いていた。

 

「孤児院でも学校でも村八分で、どこにも行きたくないから…毎日学校をサボって海沿いの岸壁を歩いていました」

「…」

 

前に大淀からこっそりと聞いた黒岩の断片的な情報から得た彼女の過去。

壮絶な人生を経験してきた彼女の話は、大波も聞いていて腑が煮えくり返りそうだった。

 

「その時に見た海はとても煌めいて…何もよりも美しかったんです」

「へぇ〜、それは一度見てみたいな」

「えぇ、一度見に行くといいですよ。ただし冬はお勧めできませんけど」

 

黒岩はそういい、冬の日本海の荒れ具合を思い返す。

 

「今は北陸騒乱の復興作業もしていますし、もしかするとあの場所も変わっているかもしれませんね」

「あれ?副司令、この前の休暇は北陸に行ってへんかった?」

「えぇ、でもあそこには行っていないんです」

 

黒岩はそこで主任さんと共に巡った北陸旅行を思い返す。

 

「行ったのは大学行く前までにお世話になった師匠の元に…ね」

「師匠?」

「えぇ、剣術の道場をやっていたんですけど…今思えば結構偏屈な人でした」

 

彼女の持っていた太刀もその師匠から譲り受けたものだと言う。

 

「北陸騒乱の後に、わざわざ私を探して孤児院から引き取ったんです」

「へぇ〜、遠い親戚とかやったんか?」

「いいえ。全く知らない人でした」

「ほ〜ん…」

 

確かにそれは珍しいと大波は思った。欧州と違って全く血の繋がりのない孤児を引き取る事はほぼ無い日本。

 

「まぁ、母から血縁関係を全く聞いていないので私が知らない親戚だった可能性はありますがね」

「ふーん…」

 

大波は、母と妹をそれぞれ別の理由で失った黒岩に難しい顔を浮かべてしまう。

北陸騒乱以降多くの人が死んだが、それを考えても黒岩にはあまりにも酷いと思わざるを得ない。

 

もしここの神様がいるとしたら、大波はその神を恨む。

大波はこの泊地に拾われて以降、艦娘や提督との交流。他の泊地の艦娘とも交流をして来ており、多くの経験を積んだつもりだ。

 

そんな中でも黒岩には特に気になっていた。

別にそう言ったそっちの気はさらさら無いのだが、なんとなく彼女のことが気になってしまうのだ。

 

一歩引いた立ち位置で自分たちを見守ってくれる存在だが、どこかすぐに消えてしまいそうな雰囲気も持ち合わせていた。

それが少し危なっかしく思って、それでついつい声をかけたくなってしまう。

 

「…辛くないん?」

 

話を聞いていた思わず大波は黒岩に聞いてしまう。

こんなに簡単にいじめられていた事や亡くなった家族の話をした時に、なんとも言えないが、悲しさを感じない黒岩の話に首を傾げると、彼女は言う。

 

「辛い…と聞かれると、もう分からないですね」

「分からない…?」

 

黒岩は頷いた。

 

「えぇ、確かに妹の小百合だけいなくなった時は恨みました。…でも北陸騒乱があって、私たちを除け者にしていた人達は私の知る限りでは全員死んでしまいましたからね。私自身、恨んでいるのか、悲しんでいるのか。もう訳分からなくなってしまったのが正しいですね」

 

黒岩は吐露すると、大波を見て軽く微笑んだ。

 

「でもここに来てからは、そんなことも忘れられるくらい毎日が楽しいです」

「…そうか」

 

大波は色のない黒岩の瞳を見ていたが、言っている事に嘘は感じられなかった。

 

「副司令は…この泊地でみんなから必要とされているんやで」

「えぇ、そうですね」

 

黒岩は大波にそこで頷くと、彼女は抱きついたまま静かに寝息が聞こえて来てしまった。

 

「あらあら…」

 

抱きついたまま寝静まってしまった事に黒岩は苦笑してしまう。

 

「…これも懐かしいですね」

 

そこで大波の頭を軽く撫でると、

 

ズキ「っ…!!」

 

一瞬、脳全体を電流が走ったように痛みがした。

 

「っ…」

 

その時、彼女の目には自分と同じ顔をした少女が抱きついたまま寝ている様子が見え、一瞬黒岩は目を驚かせた。

 

「…」

 

しかしそれは一瞬の出来事で、大波の寝顔が目に入った。

その出来事を見て、黒岩は改めて自分の掌を見る。

 

「(あの日から…私は変わった…か)」

 

そこでこんな時間で、尚且つもう何日も徹夜をしているにも関わらず一向に疲労感を感じない自分の体に自笑していた。

 

 

 

 

 

きっかけは単純だった。

いつも通り、学校や孤児院で除け者扱いだった私たちは、真冬の新学期が始まった頃に、一緒に遠い場所に行こうと言って街の外れの海の近くの崖に向かった。

 

冬の日本海はとても寒くて荒れていて、海の近くに入ってはいけないと色々な人から言われてきた。

だからこそ、私たちはそこに向かった。

 

 

このくだらない生活を終われるから。

 

 

「小百合」

「お姉ちゃん」

 

学校の制服に身を通したまま、私たちが学校をいつも通りサボって街の郊外にある海沿いの高い崖の近くに、私たちは来ていた。

柵は低く、柵の向こうに行っても安全な場所が広く設けられていた。

 

「行こうか」

「うん!」

 

柵を越えることは比較的簡単で、今日も強い風が吹いていた。

 

「「…」」

 

その途中で、私たちは言葉を交わすことはなかった。同じ時を生きた双子だ、考えていることなんて手に取るようにわかった。

 

「高いね」

「うん…」

 

そして影の端に辿り着くと、そこで軽く見下ろすとそこで立ち上がる大量の泡まみれの海水の波。

 

「大丈夫?」

「うん、小百合がいるからね」

 

高さの確認をした後。持っていたゴミ塗れの鞄を地面に捨て置くと、小百合の手を取る。

 

「よし、お姉ちゃんがずっと一緒だから」

「うん」

 

笑顔で小百合は頷くと、私たちは強く抱き合った後に崖の下の方に体重を落とした。

 

目の前にはどんよりとした崖の岩の色。その落ちる速度が妙にゆっくりに見えるのは気のせいだろうか。

人は死ぬ時に走馬灯を見ると言われているが、私たちには目の前の岩が動いていく様子しか見えなかった。

 

当然だろう。母が死んで以降、私たちはろくな生き方をしていないのだから。

 

「ずっと一緒だから」

 

私は年を推すように小百合に言うと、妹は笑顔で頷いた次の瞬間。

 

ザバーンッ

 

水の音と共に二人は冷たい海の底に沈む。

 

「(冷たい…暗い…)」

 

初めて入った冬の海はとても冷たくて暗かった。

口の中に大量に海水が入り、体全体が冷たくなっていく。

 

「(これが…海)」

 

お互いに抱きついて沈んだことで今も腕の中には小百合がいて、小百合の顔を見れた。

 

「(お姉ちゃん)」

「(?)」

 

その時、顔を上げた小百合は笑みを見せた。それに釣られて私も笑みがこぼれた時、

 

「っ?!」

 

突如海流が私たちを襲い、その時の力で小百合を抱いていた腕が海の濁流に飲まれて離れてしまった。

 

「(小百合っ!!)」

 

一瞬の隙だった。その瞬間、妹の姿は見えなくなってしまった。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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