ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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深い深い海の底。

 

日本海の冬の海は荒れていた。

 

薄暗い海の水底に沈んでいく体。

 

そこで永遠と後悔している沈んでいく妹の体。

 

「っ…!!」

 

そこで目を覚まし、そこで軽く息を荒くしている事を実感した。

 

「はぁ…はぁ…」

 

よく見ると自分はどっぷりと汗を流しており、冷や汗をかいていた。

 

「…」

 

隣では大波がぐーぐーといびきを立てて寝ており、これが噂のアレかと思いながら黒岩は寝ていた布団から静かに出る。

時刻は午前四時、まだ山郷ですら起きていない時間だ。

 

「ごめんね」

 

黒岩はそう言って寝ている大波の頭を軽く撫でると隣の研究室に戻る。

 

「あっ!もうおきてきた!」

「はやくないですか?」

 

研究室では妖精さん達が入ってきた黒岩を見て声を上げた。

 

「おはよう皆んな」

「たいい、おきるのはやくないですか?」

「そう?」

 

白衣を着て寝ていた彼女は、下はつなぎ姿ですぐに工廠に飛び出せるようになっていた。

 

「いつもこの時間に起きているわよ?」

「…そのまえにたいいはねているじかんがすくなすぎるんですよ」

「そうだそうだ」

 

妖精さん達は各々そんな事を言っていると、

 

「もっとさぼれるときにさぼればいいのに…」

「いやいや、やる事やんなきゃならないから」

 

ある妖精さんの呟きに黒岩は何を言っているんだと言わんばかりに手をブンブンと振った。

 

「それに、私がここに来たのもそれが理由だし…」

 

そう言った彼女の表情は少し暗くなった。

かつて彼女は装備庁の研究室でヤオビクニを作った人間だ。現在ヤオビクニは世界中で生産が行われている薬剤であった。

材料は深海棲艦の血液、その血清を材料としており、故に作り方は恐ろしいほど簡単だ。

データは消去したものの、作り方は研究所の人間が覚えていた事で世界的に広まっていた。

鹵獲に成功した深海棲艦から抽出され、精製される艦娘用強化薬剤『ヤオビクニ』その能力は著しく、彼女が手に入れられた情報の中でもその威力は目を見張るものがあった。

 

「たいい…」

「それに、研究をしてて面白くないことなんてないしね」

 

彼女はそう答えると、そこで摩耶から採取した血液検査の結果を見る。

 

「…」

 

妖精さんの手伝いがあれど、ほぼワンマンでこの研究所を回している彼女を前に少し不安を覚えながらも黙々と指示された仕事をする。

彼女に与えられた仕事はこのヤオビクニの対抗薬の製造。

それは四宮肝入りの命令であり、彼女がここに異動した際の条件のようなものであった。

 

「でも色々と副産物ができちゃったのはなんでだろう?」

「さぁ?」

「それはわたしたちにいわれても…」

 

研究室で黒岩と妖精さんたちは首を傾げる。なぜか対抗薬を作っている筈なのに出来上がるのは『緊急補修剤』やあの謎の水飴、よく聞く睡眠薬という全く関係のないものが出来上がってしまう。

緊急補修剤と睡眠薬に関してはすでに実戦にて使用例があり、血清を使わない完全薬用の代物である。

 

「まぁレポートはまとめているからいいんだけど…」

 

彼女はそこで自分のパソコンを開いてデータを打ち込む。

それは今まで開発した薬品の名称や作り方。用途まで事細かに記されており、これは明石さんから卒業時にもらった彼女謹製のパソコンであり、彼女曰く『絶対に破られない最強の防御性能を有したパソコンです!どんなものでも中に入れておくといいでしょう!』と言って渡してくれたパソコンだ。

実際、このパソコンに入っていた作業用プログラムは艦娘の調整用にはぴったりのもので、明石さんらしい技術がふんだんに盛り込まれていた。

 

「…」

 

そしてその隣にはルーズリーフにびっしりと書き込まれたデータの数々。それらは全て摩耶に関するデータだった。

 

「…」カチッ

 

そのデータは艦娘のカメラに搭載され、映像に残された『仮称深海摩耶』の姿だ登録番号から《HC−11》とも呼ばれている。

その姿は今よりもよっぽど禍々しく、その映像が撃沈されたとして報告書が四宮裕翔海軍少佐によって作られていた。

 

「…」カチ

 

その時の映像も提出されており、撃沈時の映像はAIによる自動生成によって作られていた。

彼女は山郷提督の名を聞いた時に頭を痛めている仕草や、圧倒的な防空・砲撃能力。明らかに今まで確認された重巡棲姫と違う容姿。そして戦闘後に回収された後の深海棲艦との混血となった彼女の血。

 

グラフや数値も全て手書きで記し、妖精さん達の協力で得られたそれら知見は全てレポートにまとめて山郷に提出したが、彼はそのレポートを読んで

 

『さっぱり分からん』

 

と言ってそのレポートをそのまま返してきた。提督からは『摩耶の今の能力は未知数だ。だが無茶をさせないくらいにしてくれ』と言っていた。

現在、摩耶の能力は陸上からの射撃や艤装展開時の限界稼働時間などをまとめており、その砲撃能力は自分たちもよく知る20.3cm砲のそれとほど同等の威力であり、触れた時の感覚があることから彼女とは生体的に接続しており、神経が通っているものと推測されている。

 

「…」

 

それら資料を見ており、艤装技師として彼女の無理のない範囲で色々と調査を行なっていた。

その結果、彼女は食事を接することで回復できる損傷や弾薬といったファンタスティックに片足突っ込んだような意味不明な結果が得られた。

 

「…」

 

そして定期的に行っている採血の結果によると、彼女の血液は毎回変化をしている。

試しに彼女の血液でヤオビクニを精製してみたところ、それはただの血清となって失敗していた。

 

「(分からないことだらけだ…)」

 

すると研究室のドアが三回ノックされると、大淀が声をかけてきた。

 

『黒岩大尉、いますか?』

「はーい、どうぞ〜」

 

資料を広げたまま黒岩は研究室に通すと、彼女はそこで黒岩を前に失礼な発言をした。

 

「うわっ、汗臭っ?!」

「…」

 

唐突な暴言に黒岩は唖然となった後に反射的に着ていた白衣の匂いを嗅いでしまうと、そこで大淀は容赦なく言う。

 

「少なくともその匂いで提督の前に出ないほうがいいかと」

「えぇ…」

 

よっぽど酷いんだなと思いながら黒岩はすぐに着ていた服を着替えるために研究室を出ようとした時、

 

「たいい〜」

「ごほうびくださ〜い」

 

研究室で仕事をしていた妖精さん達からせびられた。

 

「分かったわ」

 

そして彼女から金平糖を好きに食べて良いよと言われて喜んでいたが、出てきたのは百円の安い金平糖だった。

 

「われわれはー、きぎょうのどれいではない!!」

「だんけつけんをこうしする!!」

 

百円の金平糖を前に妖精さん達はブーブーと文句をこぼしていたが、その時に大淀さんが飛び出てきて言った。

 

「あのですね!大尉のあの水飴は本来大量に食べるものじゃないんですよ!?」

 

その辺をわかっているのかとどこぞのヤクザのような剣幕で叫ぶ大淀。

今日も朝から騒がしいなぁ〜、と思いながら大淀の声で目を覚ました大波を見た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「…そうですか」

 

その時、ある場所では電話を片手に部屋で誰かと話すのは後場五雄技術大佐だ。

 

「分かりました。引き続き報告書をあげてください」

 

そう指示して受話器を置いた彼は少し大きく息をついた後に背もたれに深く腰掛ける。

 

「…」

 

彼は防衛省防衛装備庁管轄下、艦娘研究局局長を勤めており、艦娘に関する改修や身体的研究を進めていた。

 

「ヤオビクニの生産は順調か…」

 

そこで彼は報告書を片手に持って読む。

年明け頃に我が研究所に薬学研究者として入所したとある研究員が見つけた艦娘用強化薬剤。

その有効性はすでに承諾を得て非検体となってくれた艦娘に強力な力を与えた。一度打つだけで改二と同等の能力を得ることができるこの薬剤は、崩壊の危機にあるこの世界においてまさに光が差したような状態であった。

 

原料は深海棲艦の血清であると言うことで開発者の研究者は使用に関して猛反対をしていたが、所長権限で有効性が確認されたのちに特例で軍用に限り量産する事を決定した。

後にこの情報を聞きつけた四宮率いる軍人派の人間が開発者の女性を異動という体で研究所から艤装技師として引き離していた。

 

「馬鹿な事を…」

 

艦娘と心を通わせて強固な絆を育んで協調して深海棲艦を撃退する。なるほど、ロマンティックでドラマにもしやすい物語だ。

だが現実はそうではない。すでに欧州では前の大攻勢により、大損害を被った。

 

今時戦争の勃発から間も無く十年、すでに太平洋の諸国と連絡がつかなくなり、かつての超大国アメリカですら逃げることしか許されなかった敵。それが深海棲艦だ。

生馬の目を抜くように、あらゆる機会を逃すわけにはいかない。そんな情勢下で呑気に艦娘と友情を育んでいる暇などないのだ。

 

「あなた方は分かっていない…。この国にはもう時間がないのですよ…」

 

その証拠に、艦娘用強化薬剤であるヤオビクニはライセンス生産による大量生産が今も行われている。

鹵獲した深海棲艦から生き血を失血死しない程度に抜き取り、その青い血の血清を材料に艦娘に打って質を高める国防政策をとっている。

無論、材料に深海棲艦の血液を使っていることを留意させての使用であるので、日本においては艦娘一隻に一本のみの使用を徹底させていた。

ヤオビクニに関しては複数打った場合の事案はまだ研究途中であり、複数の使用は危険であった。

 

一部では深海棲艦にも人権はあるのではないかと言われているが、彼らの言葉は欧州大攻勢による被害と深海棲艦と言う言葉の通じない化け物を前に人ではないという判断をし、戦時国際法に抵触しないとしていた。

 

「海の怪物、深海棲艦…」

 

忌々しい存在であり、人類から海を奪った異形の存在。

彼等のせいで我が国や世界の経済はズタズタに破壊され、多くの小国が滅んだ。

 

初めは北陸地方で勃発した殺戮だった。

それはあっという間に世界に波及し、現時点でわかっている範囲で世界人口の約十パーセントを殺戮していた。

彼等はこの世界から駆逐せねばならないのだ。

ヤオビクニに関してはまだ分からないことも多いが、何かあればその時に対処するという事をしなければ、この国を守ることはできない。

 

「我々は、どのような手を使ってでも彼等の方なければなりません。その為には部下に犠牲を強いることも、あなた方将官の仕事の筈ですよ」

 

そう呟く彼はそこで机に立てていた、かつて防大生時代に山郷達と撮った集合写真を見ていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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