現在、宿毛湾泊地を含めた全国の港湾施設に艦娘たちは所属している。
基本的に女しかいない艦娘、それにより粗相に関する問題というのは厳しく管理されており、もしそう言う行為が発覚した場合、厳罰が提督には待っていた。
一時期、本気で男の提督には全員去勢手術をさせようかと言う意見がアメリカではあったという。
カキーンッ!
「オーラーイ!!」
秋の空、木製バットなのにカキンと音を立てて野球ボールが吹っ飛んでいく。
加賀の投げたボールを足柄が思い切りバットを振って吹っ飛ばしたのだ。
空母と重巡の体力を持ってすれば、それはそれは恐ろしい勢いでボールが吹っ飛んでいく。
これでお釈迦になった窓ガラスなんて幾万枚。そして大淀の説教も幾万回と行われてきていた。
「よくやる。人数足りていないのに」
「本来は九人でやるスポーツでは?」
その様子を見ていた山郷に大淀が話しかける。
「そうだ。だからここにいるお前さん以外全員の艦娘が出ているわけだ」
山郷はそこでまた声をあげてバットを振る摩耶の声を聞く。
「今度は摩耶か…」
「あれ?この後訓練をするはずでは?」
「暇なんだろ?いやぁ、若いってのは体力が有り余っていて羨ましいもんだ」
ジジ臭い言い振りで彼は呟くと、大淀がややジト目で言う。
「そう言う提督も、歳の割には出世している口なのでは?」
「黒岩や篠海君相手にそれを言うかね?」
「篠海提督は実力。副司令は上層部…と言うか防衛研究所との揉め事が原因じゃないですか」
大きなため息をつきながら大淀は研究所を見る。
その施設は一見するとただの倉庫であるが、中には黒岩の残した研究データなどがあった。
「仕方ないだろう。研究所で爪弾きにあった彼女を匿えと言われたんだ。命令された以上、言われたことをやるしかあるまい」
艤装技師でありながら薬物研究者で、深海棲艦に関する研究を行っている。
あまりにも異色な経歴を有した研究者である黒岩百合という女。
「はぁ…全く、四宮も面倒な仕事を寄越しよる」
「呉とかからのラブコールも止まりませんしね」
「流石に『前線基地に艤装技師入るのか?』と言われた時は…」
「恐ろしいぐらいブチギレていましたよね」
今日も今日とて凄まじい量の仕事を処理しながら大淀と山郷はそんなことを話す。
「というか、指揮能力の腕もあるなんて…本当に器用貧乏ですね」
「使える手が多いというのは、この国じゃあ喜ばれるがな」
山郷はそう言い、そこで毎週報告をあげてくる女性士官を思い出す。
この宿毛湾泊地には定期的に貨物列車が荷下ろしのために訪れる。その際、帰りの貨物列車に郵便物としてこの報告書があったら送るというのが習慣となっていた。
「全く、冬の作戦のために秋の演習も中止ときた」
「まあ、あの交流戦で資材を浪費するくらいなら。という上の判断なのでしょうね…」
「浪費か…深海棲艦と戦って死なないためにも訓練は重要だぞ」
山郷のぼやきが炸裂しながらも、二人は黙々と作業を続けていると、
「しつれいしまーす!」
部屋に一人の妖精さんが入ってきた。
「おや、どうしましたか?」
「しれーかんとぼすのおてつだいです!」
駆けつけた妖精さん達はそう言うと、大淀達は軽く笑った後に言った。
「ありがとう。だが今日は大丈夫だ」
「幸いにも、今日の仕事は少ないです。そうですね…落ち葉を野球場近くにまた集めてもらっていいですか?」
「あと木の実も分けてくれ。あとで燻って、みんなで食べよう」
「「「「「わかりましたーっ!」」」」」
そこで妖精さん達は仕事を与えられると、意気揚々と出ていった。
「元気だな…」
「ジジ臭いですよ提督」
「俺、シワも増えてくる結構いい歳なんだが?」
彼は大淀にそう返すと、山郷のパソコンに一件のメールが届いた。
「ん?作戦本部から?」
「なんでしょうか?」
メールの送り主を見て軽く首を傾げた山郷と大淀だったが、メールの内容を読んで驚愕した。
「嘘ですよね…!?」
「おいおい、マジかよ…」
そのメールを前に、二人は唖然となった。
そこでは幾多もの砲声が轟いた。
ッ!ッ!
場所は千葉県は九十九里浜。日本有数のビーチに、永遠と続く浜辺近くの海岸線の道路で多くの16式機動戦闘車が砲撃を行っていた。
目的は深海棲艦による攻撃の水際防衛のためだ。
『目標!全弾命中!』
『CP、こちらパンサー5。目標命中を確認。次の目標指示を乞う』
北陸騒乱から始まった深海棲艦との戦い。もう十年…間も無く十一年目に入ろうとしていた。
『こちらCP、戦域展開中の即応機動部隊は新たな目標に攻撃を開始せよ』
『パンサー5了解。射撃する』
海を奪われた人類は水際での防衛を余儀なくされ、同時に機動防御に国防政策は移管していた。
ミサイルでも目標が小さすぎて捉えられず、またドローンによる攻撃も、深海棲艦の有する対空火器の前に悉く落とされた。
電子制御を中心としたミサイル・ドローン攻撃は、深海棲艦に大した効果が得られないと言う理由でこの戦争では急速に廃れた。
今まで戦場の主役でもあったステルス性能は急激な交戦距離の短縮を前に急速に廃れ始めており、まるで第二次世界大戦に戻ったかのような戦場となっていた。
ッ!ッ!
砂浜近くの道路で射撃訓練を行なっていた16式機動戦闘車で構成された部隊は、洋上に水柱を立てていた。
そして水際での防衛と、数を揃えると言う目的で機動性に長け、ある程度の砲撃力を有す装輪戦車や歩兵戦闘車は急速にその数を増やしていた。
特に日本の場合は津々浦々までアスファルトで敷かれた道路が展開しているので、機動防御にタイヤは打って付けだった。
そして国土防衛の任を一手に引き受けているのは多くが陸軍部隊だった。
「よう、ご苦労」
「はっ!ご苦労様です」
射撃音が市街地にまで聞こえ、その一角の建物で陸軍は前線司令部を設営していた。
「精が出ますね」
「全くだ。105ミリの砲声は腹に来る」
テントに入ってきた東堂常道少佐は上小路悠大尉と軽く話す。
「米軍の話。聞きましたか?」
「ああ、もっぱら噂になってるさ。悲しいことにな」
「ああ、約二万人の在日米軍がいなくなるんだ。狭い国土で、まだ志願制のこの国じゃあ兵力が足りなさすぎる」
東堂がパイプ椅子に座ってぼやくと、それに上小路も軽く頷く。
「今、国会では米軍撤収に合わせた徴兵制を行う法案準備が進められていると言いますが…」
「総理は渋るだろうな」
当代の総理大臣は『戦争の無理のない継続』『志願制継続』を公約に掲げて首班指名を勝ち取った人物。
そんな人物が十八〜二〇の兵役義務が課されている現状でさらに徴兵制を導入しようとするのなら、国民は『公約を守らないクソ野郎だ』と言って爆発するに違いない。
「今じゃあ太平洋のほぼ全部の要所が前線だ。とても今のままじゃ賄い切れん」
「『武器はあれど人は無し』なんて言われている状態ですからね。笑えない話ですよ」
そんな事を話していると、遠くで105mmライフル砲とは違う砲声が響いた。
「ん?この音は…」
自分達の持つ大砲よりもよっぽど重くて大きい音が響いた。
「多分、海軍さんのだ」
「艦娘か…」
そこで東堂は紙コップに入れた緑茶を飲む。
艦娘は海軍が有した深海棲艦に唯一真っ向から対峙できる力を持った不思議な少女達だ。自分も何度か会ったことがあるが、皆が若くて美人な少女達だったのは強烈な印象で覚えている。
「皆噂していますよ。艦娘は美人揃いだって」
「そうだな…」
そこで東堂は防衛省の知り合いで、今は南部方面艦隊参謀を務めている男のそばにいた女性を思い出す。
「美人に囲まれた提督業をみんな羨んでますよ」
「阿呆、ありゃ恐ろしいぜ、手出したら去勢の上に首だぞ?」
「ふはははははっ!それは恐ろしいですね。あぁ怖」
その辺の法整備がしっかりと決められている現状、提督というのは絶対になりたくないものだなと東堂は強く思っていると、
「東堂少佐殿」
「ん、なんだ?」
テントに一人の部下が入ってきた。
「少佐殿に面会です」
「うん。通せ」
予定の御仁が来たなと思い、テントに東堂と上小路以外の人間を外させた。
「お久しぶりであります。東堂少佐殿」
そして海軍式の敬礼をしながらテントに入ってきた四宮裕翔少佐。
階級章を見て東堂は笑った。
「久しいな。前は防大だったか?」
「はい、防大生の基礎訓練課程の際にはお世話になりました」
彼はそう言うと、東堂は席に座らせて茶を用意した。
「その時で少佐とはな。よく出世している」
「いえいえ、親の七光りですよ」
「親の七光りでも遠慮なく使う。お前さん、政治家の方が向いているのではないか?」
「そのようなことはありません。教官殿」
「むず痒いな」
首都防衛を担う即応機動部隊を率いている彼はそう返すと、裕翔は早速話題を変えた。
「んで、今日は海軍さんの面倒に俺たちが付き合わされるわけか?」
「その点は申し訳なく思っています」
「わかっているさ。要は俺たちの嫌い政治的理由というやつだろう?」
「そうです」
そこで裕翔は持ってきたバインダーを東堂に渡す。
「ふむ…」
その資料には事前に通達された情報と、それに合わせて行われる部隊の配置転換の事が書かれていた。
「米軍移送任務の繰り上げに合わせて首都防衛部隊を移動させるのか…」
「これでは後方の首都の防衛戦が一つなくなります少々危険では?」
そこで上小路が苦言を呈した。が、東堂は言う。
「いや、春に九州に行かせた部隊が二ヶ月後に帰ってくる。消えた分はそいつらでうまく補填しよう」
千葉県から一部東京にかけての範囲を担当する彼は頷くと、そこでバインダーを裕翔に返す。
「それよりも俺としては、最前線を担う泊地の艦娘を移動させる方が怖いんだが…」
「その点に関しては佐世保と呉の鎮守府が担当する手筈になっています」
「ふむ…最前線の目が消えないか?」
「そこは空軍の方におかませとなります。いつも通りですね」
裕翔は今の太平洋側の防衛はまだ万全であると遠回しに言うと、東堂は軽く頷いた。
「やれやれ、親父さんに振り回されるのは大変じゃないのか?」
「いえ、私の仕事ですから」
「ふっ、まあ頑張れよ」
「ええ、教官殿もお元気で」
裕翔は帽子を被り直すと、そのままテントを後にした。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。