世の中、思い通りに行かないことの方が多いと言うことは言うまでも無い。
「そっちの、砲塔ごと梱包しちゃって」
「りょうかい!」
「たいい!こちらのでんたんは?」
「どうせ作戦後にめちゃめちゃに壊れるから予備パーツ多めに持ってきて!」
ここは宿毛湾泊地の工廠。今ではすっかり、春に着任した新任の海軍大尉が指揮を執っていた。
「随分と忙しいな」
「そりゃあそうですよ。泊地の全員が総動員ですから」
その様子を見ていた摩耶がボソッとこぼした一言に大淀が頷く。
「君はここにいて大丈夫なのかい?」
「大丈夫です。提督の代わりに工廠から運び出す物資の管理をしていますから」
彼女はそう言って工廠にいた理由を答えると、聞いていた摩耶は軽くため息を吐いた。
「全く、作戦の繰り上げがされるなんて聞きたことがない」
「私も初めてのことですから…お陰でいろいろと準備が間に合っていませんよ」
そこで彼女はバインダーに挟まれた書類を見る。
日本と韓国に駐留していた米軍をアメリカ本国に帰還させるための作戦が急遽、作戦開始時期の繰り上げという類を見ない問題に直面していた。
「しかしなんで作戦時期の繰り上げが?」
「北極海の方で新しい深海棲艦が確認され、それが南下の兆候を見せたからだとか」
「新しい深海棲艦?」
「これですよ」
大淀はそこで送られてきた資料を見せた。
そこに印刷されていたのは朧気な写真に映る巨大な影と、無数の巨大な砲塔を備えた大型の深海棲艦だった。
「…随分と大きい」
「ええ、最低でも戦艦砲を備えた巡洋戦艦型だと言われています。この個体が北極海を中心にロシア軍に壊滅的被害を出しているそうで…」
「今の時代じゃあ、北極海も戦線になるか…」
摩耶はそんな事を話していると、出撃準備中の他の艦娘達を見る。
「私達は指揮の為にここを離れてしまいますが…」
「留守は任せな」
「すみません」
摩耶は色々な意味で表に出せないので、今回の作戦では留守中の宿毛湾泊地の警備を任されることとなった。
「それで?今日の予定は?」
「あっ、一応出撃前最後の訓練ですね。足柄さん達と阿賀野さん達が射撃演習。他の駆逐艦の子達は全員、大尉の改造機関の試験運用です」
「あぁ、あのジェット噴射か…」
数が圧倒的に足りないこの泊地の艦娘は、性能を上げる為に基本的に艤装に百合の手が加えられていた。その改造の中で有名なものに不知火に取り付けられたあの緊急加速装置があった。
本人からも『カタパルトで飛ばされるようだ』と言われるほど爆発的な加速を誇るあの装置を、以前の深海摩耶での戦闘で負傷をした艦娘達から搭載を要望されたので、山郷の認可の元、装備の装着がなされた。
「摩耶さんには取り付けられなかったんですよね」
「そりゃあこんな状態ならね」
彼女はそう言い、腰回りから
少なくとも、艦娘ではないその異質さに禍々しさは一切感じられないその装備。検査と調査を行った百合曰く、『艦娘でも深海棲艦でもない。両者の真ん中にいる微妙な状態』だという。
後々で加賀さんが『深海棲艦と艦娘が同じみたいな言い方じゃないの』と言ったところを百合が『同じ海から来たので、同じ存在だ思って研究している人も居ましたよ?』と装備庁時代の話を言ってドン引きしていたのを思い出す。
「案外、深海棲艦と艦娘は鏡写しのような存在なのかもしれないね」
「…やめてください。笑えませんよ?」
「ははは、悪い悪い」
大淀に摩耶は軽く謝ると、その後に工廠で指揮を取る中で常に百合の側にいる大波を見る。
「ただ大波みたいなドロップ艦の艦娘を考えるとな…」
「…」
摩耶の呟きに大淀もふと思った。
「(しかし、どうして彼女は黒岩大尉を慕っているのでしょうか?)」
大波という艦娘は、ドロップ艦で撃破した深海棲艦から現れた存在である。そして通常、艦娘というのは指揮を直接取る提督に忠誠を誓うようになる。
しかし大波という艦娘はこの泊地に配属されてからというもの、山郷よりも後方にいて指揮を取らない百合の事を慕っているように見えた。直接指揮をとったことなど一度もない百合に。確かに彼女は艤装技師として私達と接する機会は多いし、百合は彼女の要望をよく聞いてあげるからなのかもしれないが、違和感がある。
山郷の指揮も聞いてはいるが、イメージとしては『百合が指示に従っているから、自分もそれに倣った』というのが正しいだろう。
泊地の中でも生粋の電探好きで、電装系にやけに詳しいので、火力至上主義の宿毛湾泊地艦隊の中では索敵係となっている大波。実際、彼女の装備は索敵・対潜能力に重きを置いた改造を施されていた。
「まるでハリネズミね。彼女は」
そこで艤装をつける直前の足柄が話しかけてきた。
「ええ、主砲を一つ降ろして爆雷投射機を装備しています。対艦戦闘をあまり意識していませんね」
「まあ、お陰で索敵は楽なんだけど」
大波の、百合によって様々な改造を施された艤装を見て大淀達は口々に話していると、足元に妖精さんがやってくる。
「みなさん、しゅつげきのじゅんびがかんりょうしました」
「了解」
「分かりました」
出撃の準備が完了した事を聞くと、彼女達は頷いてから艤装の装着に向かった。
そして洋上に出撃をした彼女達。
「間も無くブースターを起動します。起動まで3…2…1…」
先頭を不知火が進んで指示を出すと、直後に駆逐戦隊全員が水飛沫を上げて急加速を行う。
ドドドーンッ!!
すると直後に先ほどまで航行していた場所に水柱が上がると、ペイント弾が着弾した事を確認する。
「停止」
「うおっと!」
スケートリンクを滑るように不知火は出力を落として急停止をすると、後ろで大波が転けかけた。
「だいぶ慣れましたね」
「でも結構怖いですよ?」
「ほんとほんと」
涼月に秋月も大いに頷くと、無線で足柄が繋いできた。
『次行くわよ』
すると彼女の改良された主砲が発砲。それを再度回避する不知火達。
その演習の様子を泊地から飛んだ爆撃機が観測を行っている。
「演習は十分にやれているようだな…」
「ええ、お陰で万全の状態で作戦に臨めそうです」
その演習をパソコンで見ていた山郷が言うと、隣で大淀が頷く。
「明後日に迎えの船が接岸する。必要な物資を詰め込んだら、北に出発だ」
「了解です」
防衛省から送られた作戦要項に山郷は苦笑気味に繰り上げが行われた経緯を見る。
「全く…北極海の新型深海棲艦が南下するからって…」
「司令部では、この新たな深海棲艦を危険視しています。南下をすると言うことは、必然的にベーリング海で鉢合わせることとなるでしょう」
「ベーリング海か…」
山郷はそこで部屋に貼られた世界地図を眺める。
アラスカから細い線のように伸びるアリューシャン列島は、そのままカムチャッカ半島にまで線を繋いでいる。今回の作戦は北海道から千島列島、カムチャッカ、アリューシャン列島を陸地に近い場所を航行する予定である。
「輸送船団は第十五次まで分けられて輸送だ」
「国内のフェリーは総動員。途中、三回の補給を行なう予定ですね」
「ベーリング海は北極海とも接続している。ここを断てれば、敵は欧州からしか北の海を脱出できなくなる」
地図を指でなぞって彼は呟くと、隣で大淀が言う。
「今回、我々は海原茂雄海軍中将式の元、混成第一護衛戦隊に組み込まれます」
「海原か…」
名前を聞いた瞬間、山郷は懐かしそうに名前を言った。
「お知り合いですか?」
「防大の二つ先輩だ。同じ神尾学校の生徒だった」
戦争が始まり、世界中で混乱と恐怖が支配する中で、舞鶴にて旗を上げた一人の自衛官。その時、山郷は四宮と共に舞鶴で彼の活躍を見た。
「初めは基地の皆が先生は頭がおかしいって言ってたんだ。まだお前達艦娘と言う存在が意味不明で不可解だったのに、それでもあの人は手を差し出して戦った」
そして深海棲艦の部隊を倒し、その報告書を受け取った上層部が彼に他の海域でも確認された同様の艦娘を預けた。そして預けられた艦娘を、彼は指揮者が棒を振るように次々と艦隊を撃破し、日本海の掃討作戦を実施。救国の英雄と讃えられた。
「今でも思い出せる。…俺はまだ若かったなぁ」
「今でも十分若いのでは?」
「もう人生百年とか言えねぇ時代だよ」
そう言い、彼の脳裏には今のこの国の仮初の平和が過ぎる。
「この前、ロシアが徴兵を拒否したチェチェン共和国に戦争をふっかけた。第三次チェチェン紛争だ」
「深海棲艦との戦争をしているのに、そんな事をやってしまっては…」
「向こうも必死なんだろう。全ての海岸に深海棲艦の襲撃があり、一部は陸上に拠点を構えた。まだ沿岸部で止まっているが、いつか本格的に陸上侵攻もあり得るかもしれないと思っているんだろう」
「…国が滅びるかどうかの瀬戸際、と言うことですか?」
「ああ、一部アンドロイド兵の投入をアメリカが考えているとか言うそうだが、上手く動くのかどうか…」
今回の作戦は、海外に駐在する米軍の回収任務である。この作戦が成功した暁には、欧州や中東といった海外に展開している駐留米軍の撤収も始まると言う。
「全ての米軍基地を引き上げるんですね」
「向こうは本土部隊が壊滅的な被害だ。残留希望者以外は全員が帰国する」
現在、帰国予定の在日・在韓米軍関係者は一〇万人を超える。
十五つのグループに分けられた部隊には軍人の家族や大使館員も含まれていた。
「とにかく詰め込んでいる上に距離が距離だ。上の連中は新型深海棲艦によほど焦っているらしい」
戦争序盤の数年で、世界人口は二割減ったと言われていた。
海沿いから人は消え、安全な内陸に逃げる。アメリカではロッキー山脈とアパラチア山脈に挟まれた
「明後日までに準備を整えてくれ。大尉から一応航行中でも艤装の調整はできると聞いている」
「分かりました」
明後日に太平洋沿岸を航行する揚陸艦との合流を予定している宿毛湾泊地所属の艦隊。
急遽、繰り上げで行われる作戦を前に一抹の不安を覚えつつも、着々と準備は進められる。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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全部書け。