二日後、宿毛湾の沖合に海軍所属のおおすみ型輸送艦が到着をする。
「予定通りだな」
時計を見て少し安堵する山郷。船内には新たに帰国を希望した米軍関係者と、作戦に参加する艦娘や指揮官を乗せており、宿毛湾泊地所属の艦娘達も乗り込んでいく。
「よし、我々も乗り込むぞ」
「了解」
水深もあるが、あのおおすみ型輸送艦は作戦開始地点である北海道まで、清水港と大洗港を経由して向かう為、ほぼノンストップで航行を続けていた。こうしたウェルドックを備えた艦艇は、艦娘達が簡易的な後方基地として役割を果たす為、重宝されていた。
「提督」
「ああ、頼む」
泊地に係留されている徴用されたプレジャーボートに乗り込んで山郷と黒岩は輸送艦に向かう。今は改おおすみ型輸送艦の建造が行われており、すでに二隻が就役している。
「コンテナは?」
「連絡はしました。後は貨物列車が苫小牧まで運んでくれる予定です」
黒岩が操舵を担当しながら答える。大抵、出撃をした際に何かしらを壊して帰ってくる宿毛湾の艦娘達。今回は大規模な作戦で、最悪全ての兵装が破壊されてしまうことを考慮して大量の予備パーツを工廠から持ち出していた。
「了解だ。まあ、あのおおすみ型には載せられんか…」
山郷は視線を移すと、航行中のおおすみ型の甲板に載せられたコンテナハウスを見る。沖縄から護衛付きで太平洋沿いを航行していたこのおおすみ型は、沖縄や岩国と言った米軍が駐留していた場所を中心に寄港しており、最後の帰国志願者を回収していた。ただ、船内は事前に艦娘や日本海軍関係者が使う予定であったので、甲板に急遽仮住宅が設置されていた。
「しかし、怖いです。作戦が数ヶ月も繰り上げられるなんて…」
「まあ、長いこと準備はしていた。向こう側でも、数ヶ月の繰り上げにも問題なく対応できているらしい」
おおすみ型の後部のウェルドックに進入しながら山郷は言うと、他の艦娘達も同様にウェルドックに進入する。
「とーちゃーく!」
阿賀野は初めて乗り込む艦内に少し浮き足立って艤装を外すと、ウェルドックから船内に上がる。
「わぁ、これが揚陸艦ですか」
「姉さん…」
矢矧はやや呆れたため息をついて艦内を歩く阿賀野を追いかける。
「大分乗り込んでいるな」
「途中で乗り込むことも多いとかで」
すでにウェルドックには複数の艤装が格納されており、本来であればLCAC二機が格納されていた場所は多数の艦娘達が乗艦していた。
「では、私はこれから作業に入りますので」
「ああ、気を付けてくれ」
山郷は軽く黒岩に注意をすると船内に入っていく。
事前に彼女には『誰かの接触があるかもしれないから気を付けてくれ』と言っていた。もしかすれば軍艦派の軍人の接触を警戒しての話だが、彼女はそれに堂々と『大丈夫です!知らない人と話すことになったら多分倒れちゃいますので』と、良いのか悪いのかわからない返事をした。…多分、悪い方だと思う。そうだと信じたい。
「さて、と…」
現在、ウェルドックは作戦に参加する為に常に水浸しになっており、乗って来たプレジャーボートも係留されていた。
「やあ、久しぶりだな」
「お久しぶりであります。山郷少将」
船内の休憩室で篠海に挨拶をすると、彼女は敬礼で返した。
今回の作戦には佐伯湾泊地も加わることとなっており、篠海もこの船に乗艦していた。
「何度も世話になって悪いな」
「いえ、小官といたしましては山郷少将にはご迷惑ばかりおかけしていると」
「ははは、それほど気にしちゃあいないさ」
艦内の食堂で二人は椅子に座って互いに見合う。
「準備の方は?」
「はっ、万全な準備はいつでも」
「うむ、何かあったら言ってくれ。今日は艤装技師も連れて来ている」
「…黒岩大尉ですね」
すぐに彼女は脳裏に常に恐れられるような視線を向けていた小心者の女性士官が脳裏をよぎる。正直、あそこまで怯えられると思わず、少し心に傷を負った彼女は思わず『私はそんなに怖い顔をしているだろうか?』と扶桑達に聞いてしまった。なおその時の彼女達はほぼ同じように口を揃えてこう答えた。
『いや、どっちもどっちだと思う』と…。
「苦手か?」
「いえ…ただ、怖がられているようですので」
「ふはははっ!まあ、大尉は元々人が苦手なんだ。…悪いな」
「…いえ」
その時、山郷の言葉にやや含みが感じられ、篠海はそれが深い問題であることを察した。彼女の事を詳しくは知らないが、自分と挨拶をした時の反応や、いちいち人の様子を伺うところなどから人間不信を行ったり来たりしているのかもしれないと察した。
正直、どうしてそんな人が軍属なんでやっているのだろうかと疑問に思ったが、あの艤装整備の腕前を見たら納得である。多少の対人関係に難があっても、目を瞑れるほどの範疇なのだ。少なくとも自分のネットワークでは自前で装備品の分解と改造を行う艤装技師というのは聞いたことがない。
「(人材は揃っているのよね。宿毛湾泊地は)」
かつて東シナ海の奪還を担った佐世保の虎と呼ばれた指揮官。
日々の激務から叩き上げで鍛え上げられた熟練の艦娘。
エースの腕を完璧に引き出す艤装を仕上げられる艤装技師。
完璧なバックアップを行うための妖精さん達。
正直、艦娘の数。以外では完璧とも言える布陣を敷いているのが今の宿毛湾泊地である。
まあその分、深海棲艦みたいな見た目をした艦娘が居たり、コミュニケーションが重要だというのにそれが壊滅的で、裏で色々と変な研究をやる偏屈艤装技師が居たりと、割と表に出せないような秘密も抱えているのが問題だが…。
「面白い泊地だなと…」
「はははっ、毎日が飽きない生活だよ」
山郷はそう言ってケラケラと笑うと、篠海はそんな軽い雰囲気の山郷にため息をつきたくなった。
その頃、ウェルドックでは。
「うーん…もうちょっとピッチ落とした方がいいかな?」
阿賀野の艤装を前に悩める百合。今回は艤装技師として乗艦しており、担当している。
「そもそも加賀さんの艦載機もこの前の改修で組み直した方が良さそうだし…どうしようかなぁ…」
彼女はそこで手元にノートパソコンを取り出すと、そこには所属している艦娘の艤装の破損箇所や修理記録を記したデータを見る。
「阿賀野さんは右の舵をよく曲げているだよなぁ…」
そんなこんなで十分以上はウンウンと悩ませていると、ふと後ろから話しかけられる。
「うはっ、すげぇ細かいデータ」
「っ!?」
その声に猫のような驚き方をして、思わず悲鳴が上がりそうになったところで口をバッと抑える。するとパソコンから手を離したことでまだ海水の溜まるウェルドックに落としかけた。
「おっと、気を付けて」
するとそのパソコンを後ろから伸びた腕が支えてドボンを防いだ。
「悪いね。いきなり話しかけて」
「あ、貴方は…?」
振り返ると、立っていたのは暗く焼けた肌を持つ若い男だった。来ているのは作業服装。階級は少尉。見覚えのない顔に百合は首を傾げると、男は苦笑する。
「酷いな〜、去年同じ釜の飯を食ったじゃないか」
「…?」
その男はそう言うが、本気で百合は身に覚えがなかった。去年というと、大学を卒業した直後に入った装備庁で後場局長ではない前任の局長から『取り敢えずここに入ったら任官されることになるから』と言われて叩き込まれた特別ゼミを思い出す。確かにあの時、他にも多くの生徒が通っていたが、こんな人いたっけと首を傾げる。
「えぇ〜、もしかして本気で覚えてない感じ?」
「あ…す、すみません!何せ人の顔がなかなか覚えられなくて…。それに上司から任官されるからって放り込まれただけですし…」
「ああ、良いよ良いよ。俺も話しかけたことってなかったし」
慌てて謝ると、その男は軽く気にしていない様子で答える。肌が焼けており金髪で、どちらかというと茅ヶ崎や湘南にいそうな雰囲気の、少しチャラい感じがする男性。百合は(基本誰でもそうだが)苦手なタイプの人であった。
「改めて、艤装技師の宇野寛治少尉。会うのは『明石学校』以来だね」
「お、お久しぶりです…?黒岩百合大尉です」
「おお、任官して一年で?凄いね特進かい?」
「ああいえ、大尉というのは一時的に上官だった人が『君みたい腕前が少尉は釣り合わない』って言ったので…」
人には言えないくらい事情があったので、百合はうまくはぐらさせるかななどと不安に思いながら宇野を見る。
「なるほどね…まあ最近は良くも悪くも二階級特進って良くあるからね」
「そ、そうですね…」
宇野に少し苦笑気味に百合も答える。
「まあでも君なら特進されるに値する腕前だと思うよ?」
「え?何処がですか?」
真顔で聞き返され、宇野は『嘘だろ?』という顔を浮かべた。
「そ、そっか…自覚ないのか…」
「え?そんな私、優秀に見えますか?」
「えぇ…」
素の反応にドン引きする宇野。
「そ、そっか…」
そして彼女の雰囲気に諦めた様子で生返事で返してから彼は聞いた。
「今、どこにいるの?」
「あっ、えっと…今は宿毛湾泊地で艤装技師をしています」
「そうなんだ。なるほどね…」
彼は彼女の隣にある阿賀野の艤装を見る。
「これとか見たことない装備だね。改造したの?」
「あっ、そうなんです!これ結構自信作なんです!」
すると彼女は目を軽く光らせて阿賀野に装備した15.5cm三連装砲を見せる。大淀と同じ装備をしており、純粋な火力面では大淀よりも強力であった。
「へ、へぇ…」
それを見た宇野は苦笑気味に改造された砲塔を見る。
「(阿賀野型の艤装に三連装砲?しれっと改造したとか言ってるけど、他の箇所も改造しまくりじゃないか…)」
少なくとも資料で見聞きした阿賀野型の艤装とはまるで別、無事なのはどこだろうかとぱっと見でわからなかった。
「ここのほら、煙突部分とか…あとブーツにも改造していますね。この作戦が終わったらトランサムスターン型の艦尾とかも試してみようとか思ってたりしてて…」
彼は嬉々として説明をする百合の話に妙に納得が出来つつも『何食ったらそんなことを思いつくんだ?』と思った。
「(てかそんなことベラベラと同業者に話すものでもないだろう…)」
宇野は彼女の技術一辺倒な頭に面白くなって話を聞き続けた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。